《【書籍化】誤解された『代わりの魔』は、國王から最初のと最後のを捧げられる》72 王妃の戸い 9

確かにフェリクス様の食事量の半分にも満たないけれど、それでも私なりに重くなっているからこそ、食後の歩行が許可してもらえないはずなのに、と考えながら彼を見上げる。

すると、フェリクス様はとても優しい目で私を見下ろしていた。

「ルピア、醫師の許可が出たので、明日からは食事の時間以外も、しずつベッドから降りて過ごすのはどうだろう? 何かあったらいけないから、私が一緒にいる時から始めてみようか」

フェリクス様の言葉を聞いた私は、戸って瞬きを繰り返す。

なぜなら醫師の許可が出たのは知っていたからだ―――2日も前に。

というのも、2日前、私を診た醫師から直接そう伝えられたからだ。

けれど、同じ日の夕方、再び診察に訪れた醫師は、申し訳なさそうに訂正してきた。

『王妃陛下、申し訳ありませんが、寢臺から降りられるのをもうしばらくお待ちいただいてもよろしいでしょうか。……國王陛下の許可が下りないのです』

その話を聞いた時、まあ、専門家である醫師と異なった判斷を、専門家でもないフェリクス様が下して大丈夫なのかしら驚いたのだ。

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けれど、同じように話を聞いていたバドは驚くでもなく、にやにやとした笑みを浮かべると、私をからかってきた。

『ルピアの表を見るに、納得いってないようだね。だったら、「専門家でもないのに」と文句を言ってみたらどうだい? フェリクスは間違いなく、「醫の専門家ではないが、ルピアの専門家だ!」と言い返してくると思うよ』

バドったら完全に面白がっているわね、と呆れたけれど、その時どういうわけか、ミレナも同意する様子で頷いていたのだ。

そんな一件があったため、フェリクス様に尋ねることが躊躇われていたのだけれど、ふとその會話を思い出して言葉を紡ぐ。

「ええ、醫師からはベッドから降りて過ごしてもいいと、2日前に伝えられていたわ。でも、あなたが王の見地から反対していると伺ったの」

よく考えたら、10年振りに人前に姿を現した王妃が王宮をふらふらと歩いていたら、『王は王妃を酷使している』といった悪い噂が立つかもしれない。

フェリクス様が慎重になるのは當然のことだわ。

そう納得していたのだけれど、フェリクス様は顔をしかめた。

「王の見地ではなく、夫としての見地だよ。醫師は病気の専門家ではあるが、君の専門家ではないからね。私ほどには君の狀態を把握できていないし、君はこれほど繊細なのだから、誰よりも何よりも大事に扱うのは當然のことだ」

「そ、……そうなのね」

バドのからかいの言葉が當たってしまったわ。

そのことに驚いていると、フェリクス様はためらいながら「いいかな?」と尋ねてきた。

主語がなかったので、何のことだか分からなかったけれど、「はい」と頷くと、彼は手をばしてきて、私のお腹の上に置いた。

えっ、と思ったけれど、フェリクス様はすごく張していたので、できるだけ平靜さを裝って、彼を刺激しないよう努める。

それから、今の彼にとって1番気になることは子どものことで、だからこそ主語がなくても通じるだろうと考えて主語を抜かしたのかしら、と嬉しくなった。

フェリクス様はゆっくりと私のお腹をさすると、に堪えないといった様子で、獨り言のように呟く。

「……君のお腹はこんなに薄いのに、子どもがっているなんてすごいことだね」

一國の王にとって跡継ぎは特別なものだけれど、フェリクス様の言葉は王としてではなく、彼個人として純粋にしていることの表れのようにじられた。

「ルピア、君のお腹に手を當てていてもいいかな? 私の溫は高いから、お腹を溫めると、その中にいる子も気持ちよくなるかもしれない……この子が暑がりでなければだが」

最後の一言は冗談めかしていたけれど、フェリクス様が真剣に私のお腹を溫めたがっている様子が伝わってきたため、こくりと頷く。

すると、フェリクス様はほっとした様子で私のお腹に片手を當てて、何度かさすっていた。

それから、しみじみとした聲でお禮を口にする。

「ルピア、ありがとう」

彼の口調に深い思いが籠っているようにじられて、溫かな気持ちになっていると、フェリクス様はし躊躇った後、言い難そうな様子で質問をしてきた。

「………ところで、その、1つだけ確認してもいいかな?」

「ええ」

何かしらと思って彼を見つめると、フェリクス様は私のお腹に視線を落としたまま口を開いた。

「漠然とした話に聞こえるかもしれないが……君の幸福についてだ」

「私の幸福?」

突然の話の転換に戸って彼を見つめたけれど、フェリクス様は視線を落としたままの狀態で言葉を続けた。

「君が眠っていた10年の間に、私は々なことを考えた。私の考え過ぎかもしれないし、勝手な思い込みかもしれないが……々と考えた結果、君は君自みを抱いたことがほとんどないのではないか、と心配になった」

「えっ?」

思ってもみないことを言われたため、驚いて瞬きを繰り返す。

『私自みを抱いたことがない』?

いいえ、いつだって私はやりたいことに溢れているわ。

そう思い、フェリクス様はどうしてそのようなことを考えたのかしら、と困して見つめると、彼は理解を求めるかのように片手を上げた。

「初めに言っておくが、君がやりたいことを手助けするために私はいる。だから、今、君に行(おこな)っている質問は、私に何ができるかを知るためのものだ」

こくりと頷くと、彼はとつとつと説明を始めた。

「この10年間、私は君のこれまでの言について、1つずつ思い返してみた。時間だけはあったから、何度も、何度も。だが、どれほど思い返してみても、君が君自みを口にした場面を、私は1度も思い出せないのだ。君が何かをやりたいとんでくれたことはあったが、……その行原理の背景には、いつだって私がいた」

「それは……そうかもしれないわね」

フェリクス様の話はその通りだったため、私は素直に肯定する。

それから、どうしてそんな當たり前のことをわざわざ確認するかしらと不思議に思った。

けれど、彼は私が簡単に肯定したことに、痛みを覚えたかのような表を浮かべる。

「ねえ、ルピア。そこは簡単に頷かずに、疑問を覚える場面じゃないだろうか。君の行原理の背景に、いつだって君以外の人間がかかわっているとしたら、それはあってはならないことだから」

「えっ?」

どういうことかしら、と思って問い返すと、フェリクス様は苦し気な表を浮かべた。

「ルピア、知っていてほしいのだが、君のおかげで私は幸せになれた。君と同じ時間を過ごせるように、君が私の命をつないでくれたから。そして、今、君が生きていてくれるから。……だから、私は幸せでいられるのだ」

フェリクス様の言葉は、魔として簡単に理解することができた。

『私自とお相手の方が生きているから幸せだ』というのは、魔の基本的な考え方だったからだ。

けれど、フェリクス様は難しい顔をすると、難しいことを言った。

「だから、今度は君の幸せを探したい。私が、聖獣が、君の家族が幸せになるから、それを見た君が幸せになる、という話ではなく、他の者のは一切関係がないところで、君自が幸せをじるものを探したいのだ」

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