《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-37:神子の目覚め
『霜の寶珠』が安置された部屋に、パウリーネは立っていた。隣にはルイシアもいる。
オーディス神殿、その大塔の地下。
直徑2メートルほどの寶珠が、中央の掘り下げられた臺座から白いを放っている。寶珠の周りには霜がはり、2人の息は白かった。
ルイシアがぶるりとを震わせる。
「……何か、來ます」
魔のび聲が地下にまで響いてくる。
パウリーネにも、それが原初の巨人ユミールのものだとわかった。
ありとあらゆる生きを恐怖させる、創造主の怒り。
パウリーネは寶珠に手をかざし、魔力をこめる。
と寒さが強まって、パウリーネは外套をかき寄せた。
「平気ですか、ルイシアさん」
リオンの妹は、祈るように手を組み合わせる。
こくり、こくりと何度も頷いていた。
「……お兄ちゃん……!」
か細い聲が、パウリーネのを締め付ける。
外で戦っているのは、何千という冒険者と、王都を守る騎士だ。
そこにはルイシアの兄、リオンも含まれる。
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パウリーネは何度も迷宮調査を指揮した。
しかしそれは、パーティーとしての規模がせいぜい。世界の運命をかけて、數千人の命を背負うなど、気を失ってしまいたいほどの重圧だ。名前も知らない誰かが、この瞬間も神殿を守るために倒れている。
加えて、ルイシアにはさらなる恐怖があるはずだ。
父親を早くに亡くした12歳の。今もまた兄を亡くすかもしれないというのは、言葉にできない気持ちに違いない。
――オオオオォォォォオオオオオ!
もう一度、ユミールらの聲が壁から伝わってくる。
しかも先ほどより近づいて。
寶珠のが悲鳴を上げるように強くなる。地鳴りじみた足音が四方から伝わった。パウリーネには、魔が神殿に押し寄せる様子が鮮明に思い浮かんだ。
地上の冒険者はどうなっただろう。
外には死が積み重なって、そこを魔が歩いてきているのではないか――恐怖ばかりが先に立つ。
ロッドを握り、耐える。
ここで震えて、何が総長だ。
ルイシアがパウリーネの法をぎゅっと握ってきた。無理にでも笑みを返す。
「大丈夫です、神々が――」
そして、地面が揺れる。
寶珠のが點滅し、2人はバランスを崩して倒れた。
天井から埃が落ち、壁のレンガが床に転がる。上階から怒鳴り聲と悲鳴が連鎖していた。
部屋の扉が開き、側近の団員がってくる。
「城壁が破られました!」
パウリーネは自制心を総員して、靜かに頷いた。
「そうですか。正確な報告を」
「はっ! まだ、神殿にはっていません。しかし、魔が異様なほど力を増しています。ユミールが前線を破ったという報告もあり……」
魔の聲が聴覚を塗りつぶしていく。
パウリーネは首を振った。
「られましたね。しかし、ここは封印の冷気の発生源。神々や主力が無事なら、持ちこたえれば勝機はあります」
団員は首肯して、地上に戻っていった。
ルイシアが聲を震わせる。
「それじゃ……!」
膝を抱え、痛ましいほどに目を見開いて。
「お兄ちゃんは……?」
ぎゅっとの服を握るルイシア。その瞳に緑のが満ちていく。
私のせいで。
聲にはならなかったけれど、パウリーネにはルイシアのがそうくのが見えた。
「やっぱり、私も、強くならないと」
ルイシアはそう繰り返す。
に緑のが宿って、部屋中を照らしていった。
「私も……!」
パウリーネの意識に、穣神フレイヤの聲が聞こえた。
――ルイシアさん。
諦めたような、けれたような、落ち著いた聲音。
ルイシアには、今も膨大な魔力が眠っている。
フレイヤ神が天界から持って逃げた魔力がまだ殘っているためだ。
ただ、彼はそれを使いこなせていない。
魔力の作は水門に似ている。ルイシアの中には大きな泉があるが、一度に外へ出せる水量は、水門の小ささのために多くなかったということだ。
でも、水門が急に広がったら?
スキル<神子>は、本當に、神々と変わらなくなってしまう。
「……ルイシアさん!」
パウリーネは強くルイシアの名前を呼んだ。
空の瞳がどんどん緑に染まっていく。
神々の魔力をこんなにも多く引き出して、果たしてルイシアが元に戻れるのか、今更にパウリーネは自信がなかった。
不気味な考えが閃く。
主神オーディンは、これを待っていたのではないか?
創造の力を持ったが、魔の怖さを知って、力を強めながら、最後には主神と同じ結論に至ることを。
膝をついたまま、ルイシアは口を震わせる。
「私、お兄ちゃんに、ずっと助けてもらってきたから……もう、お兄ちゃんにひどい目にあってほしくない!」
ルイシアは絶した。
「英雄とか、角笛とか言ったって……お兄ちゃんが死んじゃったら意味ないよ……!」
涙は緑に照らされて、ルイシアの頬をり落ちた。
が強まり、パウリーネは弾き飛ばされる。
床の霜が砕けて、吹雪のように空中に舞っていた。
咳き込み、パウリーネは立ち上がる。
「……ルイシア?」
問いかけるパウリーネに、緑のをまとったは小さく顎を引いた。
息をのんでしまう。
目は見開かれているのに、口元や頬に張はない。緑の瞳が、パウリーネの方へ向いた。
「……ルイシア?」
聲を重ねても、ルイシアは反応を示さなかった。
外はまだ騒がしい。
天井から魔や人の聲が降ってくる。
ルイシアは眉一つかさずに、ゆっくりと周囲の壁に手をかざした。
は、つと指をばして、正面の壁を指さす。
「あそこに」
ルイシアは、パウリーネへ緑の目を向けた。
「使える『もの』がありそうです」
その方向は、同じく地下の、東側。
魔が――鼠骨のラタが囚われているところだ。
「敵も死力を盡くしたみたいです。なら、ここをしのげば、勝機はあります。それがだめでも――」
ルイシアは、その先を口にしなかった。
「いきましょう?」
両頬を引きつらせる微笑。
フレイヤにも似ていて、パウリーネは頼もしくも、恐ろしかった。
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次回更新は10月10日(月)の予定です。
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