《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-38:終末

オーディンの使いであるは、戦場を見下ろし飛んでいた。

眼下の神殿は、黒い波に取り囲まれている。押し寄せているのは魔の一だが、互いに集し凄まじい勢いで攻め昇っているため、一塊の波に見えていた。

最初、神殿の東西南北に1000人ずつが、何層もの防衛陣を敷いていた。今では、城壁前に數層が殘る程度だ。

勢いを増す魔達に、それは薄皮程度の守りでしかない。

事実、すでに多くの場所で城壁に取りつかれていた。

特に攻勢が激しいのは、南と、東だ。

東方でヘイムダルと戦っていたユミールは、神を押しのけ、城壁へと迫っている。南方では、世界蛇(ヨルムンガンド)が城壁に突撃した。大蛇のルートが、そのまま魔の通り道となっている。トールも必死に妨害したらしく、今も地面で黒い焦げ跡がいくつも煙をあげていた。

――見覚えのある景だ。

は、主であるオーディンの聲を聞いた。

翼を傾けて、さらに飛ぶ。

二方向で陣が打ち破られたことで、殘る北方、西方でも魔が優位になっていた。シグリスとロキ、そしてウルが必死に戦線の崩壊を防いでいる。

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――均衡は崩れた。

オーディンはそう斷じた。

原因はいくつもある。

まずは兵力差。空にある裂け目と、王都にあった東西南北のダンジョンから、萬を超える魔が丘陵に現れていた。さらに、ユミールの咆哮でそれらが一斉に力を倍加させた。

敵の狙いもよかった。本能によるものだろうが、大勢の魔が神々を狙う。

ユミールや世界蛇(ヨルムンガンド)という、一手で戦線を崩壊させうる大を押さえつける役目は、神々が擔っていた。そして、すでにギリギリだった人間達は、魔の橫やりから神々を守りきれなかった。

結果、形勢の破壊は、神々の劣勢から起こった。

ユミールや世界蛇(ヨルムンガンド)が自由になる。

強大な魔が城壁を破壊し、拮抗狀態は失われた。

――しかし。

主神の聲が止まる。

――魔もまた後がない。

城壁の周りが、し白くなっていた。

灰だ。

力を使い果たした魔が、順番に白い灰になって消えていく。ユミールに力を絞られた魔達は、短時間で絶命する。その際には魔石さえ落とさない。

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人間の聲も、まだ止んでいなかった。

――みんな、城壁に集まれ!

――魔を喰い止めろ!

――神々が戻ってくるまで、持ちこたえるんだ!

ユミール側の攻勢は、長くは続くまい。

狼骨ハティらが押し返されて、ユミール側は『不利だ』とじたのだ。一気に攻め昇ったのは、長期戦はできないという裏返し。

短期決戦で神殿にり、ルイシアを奪うことに賭けたのだろう。『創造の力』さえ取り戻せば、ユミールはさらに強くなる。丘陵全を齧り取ってしまうことさえ可能だ。

は主神の命令をけ、オーディス神殿の方へ飛ぶ。

オーディンは地下で強まる魔力をじたようだ。

――スキル<神子>が、目覚めている。

ユミールらが城壁を攻めている間、オーディンは別のものを攻めていた。

ルイシアの心だ。

――決著がつく前に、正しい結論に辿りついてほしいものだ。

今、倒れてかない世界蛇(ヨルムンガンド)の頭に、雷鎚(ミョルニル)が打ち込まれた。大蛇が悲鳴をあげてかき消える。

一方、城壁にはすでにユミール、狼骨フェンリル、そしてフレイがり込んでいた。

大蛇を橋にしていた小型魔達は、電しながら堀へ落ちる。が、狼骨フェンリルが城壁を崩し、即席の足場を作った。魔達は、依然、続々と城壁へってくる。

――待っているぞ、『創造の力』よ!

と人間が爭う中、主神の企みだけが順調だった。

ユミールは城壁を蹴りあがった。

見渡す限りの丘陵に、魔びが満ちている。

歓喜というより、悲鳴に近い。それでも魔達はユミールの命令通り、魔力を限界まで引き出し、城壁へ踏み込んでいる。

ユミールは首をめぐらし、ふと、懐かしい気持ちを覚えた。

赤く染まった丘陵。

地面を魔の影が覆い盡くし、煙る先に人間の街並みが見えた。確か、『王都』と呼ばれている場所である。今、王城が立っている中央が、神話時代でも人間と神々の中心だった。

以前と違うのは、かつてそこには天界へ向かうための橋――虹の橋(ビフレスト)がかかっていたこと。

今は何もなく、城の尖塔が空を突いているだけだ。

それでもオーディンは、メッセージを告げるという神ノルンらと共に天界へ殘っているに違いない。

同じ場所に戻ってきた、とユミールは思った。1000年経って、同じことを繰り返している。

真っ赤なを浴びて、神殿は赤く染まっていた。

いこう、と原初の巨人は思う。

もっと早く終わるはずだった世界を、終わらせるのだ。

思考を塗りつぶす空腹に、ユミールはをなめる。

「フレイ!」

ユミールは吠えた。

金髪の男が傍にやってきて、冒険者を切り捨てる。

「ここを守れ。おれは下だ」

フレイは頷いた。

ではないため、この男は恐慌してはいない。人間のに宿っている分、空を舞うなどの神としての力を失っているが。

剣を構えながら、フレイが問う。

「時間はないぞ」

神殿には神々が続々とやってくるだろう。魔を退けたトールとヘイムダルが、空を向かってくるのが見えた。

「急ぐか」

ユミールは鼻を鳴らした。

臭いでじる。あの一際高い塔――大塔の中に、封印の冷気と、己の心臓の気配がある。

鋭い聲がユミールを呼び止めた。

「ユミール!」

角笛の年――リオンが城壁でんでいた。

の娘と共にこちらを睨んでいる。

「くはは!」

ユミールが腕を振る。

年に、狼骨フェンリルの額がぶつかった。反対側の壁にリオンは弾き飛ばされる。

遠吠え。大狼が配下の狼達と共に、年と神への妨害に向かう。

「さて――」

城壁を降り、大塔へ。

悲鳴が満ちる聖堂の脇を抜け、花壇を踏みつけ、大塔のり口に立つ。魔法文字(ルーン)が施された防壁を右腕の一振りで打ち砕き、立ちふさがった戦士団はぼろきれのように裂いてやった。前菜とばかりにスキルを喰らう。

「<剣豪>か。うまくない、外れだな」

舌なめずりをしてユミールは階段を降りていく。

「ユミール!」

ソラーナのびが空しく響く。

地下に降りた。

左右へ首を巡らせる。

足音。數は一人で、明らかに恐れ、焦っていた。

どうやら中にってこられたことを察し、別の出口を目指すらしい。

こうした建に出口が二つあることくらいは、ユミールとて心得ていた。

息が白い。ここに封印の冷気の発生源――『霜の寶珠』がある。

左手に、ひときわ強い寒さをじた。あの、ルイシアにはめられた手枷が、抵抗するように輝いている。

「面倒だな」

両腕に炎をまとう。もともとは炎骨スルトの力だ。

フローシアで同型の寶珠を喰らったことから、封印に耐ができてもいる。

――後で、あそこの寶珠も喰らおう。

大きな手で口を拭い足を進める。

押し殺した息遣いと、隠しきれない足音。獲が恐怖で逃げていく。

かつてない嗜心が巨人を満足させた。

通路を半周したところで、ユミールは足を止める。黴臭い匂いがする部屋だ。

「……書か」

どうやら図書室であるようだった。

人間はわからない。言葉で何かを殘すなど、喰うだけのユミールには理解の及ばない話だった。

書架の隙間から神殿裝束の足が見えた。ユミールは直進する。

腕を振って書架をどんどん崩し、砕け燃えた木や紙は魔力のとなってユミールに食われた。

ちらりと見えたページを踏みつける。そこには主神オーディスが杖を掲げ、魔を封じ、勝利を歌い上げる場面の挿絵が見えた。

ユミールはさらに進む。

奧は階段。

は恐怖と運で息を切らせて、転んだらしい。距離が詰まっている。

狹い螺旋階段は手をばせば屆きそうだ。

ユミールが手をばすと、かすかに裝束の端が掠めて、は上へと逃げた。

追いかけていく。

赤いが満ちる外で、が――狼と巨人兵の群れに囲まれていた。

「ルゥ!」

リオンが戦っている城壁の、すぐ下だった。

神もこちらに気づくが、もう間に合わない。

ユミールの巨腕がを摑み上げた。

「創造の力を――おれの心臓を、返してもらうぞ」

お読みいただきありがとうございます。

次回更新は10月12日(水)の予定です。

(1日、間が空きます)

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