《【書籍化・コミカライズ】さないといわれましても~元魔王の伯爵令嬢は生真面目軍人に餌付けをされて幸せになる》30 おねだりのまえはくちづけをするといいってメイドがおしえてくれました

菓子を三個と二口食べて、アビゲイルは満足気だ。すっかり全てをやりきった顔をしている。まあ、俺たちを呼び出したチェルシー妃殿下はもうとっくに退席してるからな。

味かったか」

「はい!」

「ではそろそろ」

「待って待って待って!カフェじゃないんだからね!?」

暇を告げようとするとやはりドミニク殿下に引き留められた。それはそうなんだけどな。だめかやっぱり。舌打ちをすんでで耐える。

「一応さー、騎士たちを向かわせているけど、安全が確認されれば僕も視察には行こうと思ってるんだよね」

どっちにしろ僕に與えられる予定だしと続ける殿下に、イラっとするのは仕方ないだろう。あんな土地は要らないが、それでも本來アビゲイルが治めてしかるべきだったはずなのだから。要らないが。

だけどあそこには魔王の森がある。魔王であった時の森での出來事や魔の話をする時のアビゲイルは、ただ淡々と起きた出來事を語る。いや魔の話をするときはがはいりはするけれど、大において懐かしむわけでもしがるわけでもなく、郷の念はあまりじられない。というか、昨日のことのように話している。

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多くの者は故郷を大事に思うものだ。俺にしてもそうだし、だからこそアビゲイルはそういったくくりの中に住んでいないのはわかっていても、それでも、と思うのだ。

要らないけどな!俺の傷とアビゲイルが領主としてあそこに縛られることは全く別の話だからな!

「そうですか。殿下が赴くのであれば警備も萬全でしょうがくれぐれもお気をつけて」

「で、君も同行してくれないかな」

「王族の警護は騎士団の管轄ですから」

「つれないなあ!もう!」

殿下の同行の言葉にアビゲイルが俺を見上げ、それからあらぬ方向を見つめだした。いやな予に背中がすっと冷たくなる。……これ以上食べさせたら腹痛が起こるかもしれん。

「旦那様、お店に並ぶのは」

「大丈夫だぞ。同行はしないから次の休みにちゃんと並べる」

「わあ、いい笑顔だな先輩」

「はい!よかったです!」

そっちの心配だったかー!よかった!可いなほんとに!

「――ねえ、夫人、ロングハーストの領都でおすすめの食事処はある?」

「おすすめ……行ったことないからわかりません」

俺にしてみたら胡散臭いことこの上ない笑顔をつくりあげたドミニク殿下が話を切り替えたけれど、アビゲイルの答えに眉をひそめた。

「行ったことないって、領主館は領都のど真ん中にあるよね?」

「地図でみたことありますから、真ん中にあるのは知ってます。でも屋敷の外に出たことなかったので」

「あー……うん、そうか。そうだったね」

「……殿下」

「悪かったよ!ごめんって!あ、そうだ。じゃあ一番稅を納めていた店とかは?」

だまり亭です」

考える素振りもなく即答したアビゲイルに、殿下は胡散臭い笑みをさらに深めやがった。……これだからこいつは嫌いなんだ。

「そっかー。やっぱりちゃんと話してみないとわからないもんだね。稅をたくさん納めてるってことは人気店ってことだ。味しいと思うよ?どうだろうレディ、そこで一緒に食事をしてみないかい?」

「おいしいごはんをくれるって言われても、ついていってはいけないと旦那様と約束してるのです」

「……そうだね大事なことだ」

「はい!」

口元をまたきゅっとさせて【褒められました!】と見上げてくる顔は可いことこのうえない。ちょっと手の力は抜けてくるけれどしっかり髪をでてやる。そうだな、君は言ってはいけないと約束したことをちゃんと守っているんだ。

「ごめんね先輩。やっぱりご夫婦で、いやノエル子爵夫人に同行お願いしたいな――ロングハースト元経営陣の一人としてって、怖っ!顔怖いって!ごめんなさい!」

でも仕方ないよねと眉を下げて首を傾げられたところで、こいつが王(・)族(・)の(・)お(・)願(・)い(・)を振りかざしたことに変わりはない。俺の聲が低くなるのも仕方ないことだ。

「妻を向こうに連れていくことは最初にお斷りしたはずですが」

「まあまあ、夫人の意思をまず確認するべきじゃないの?ねえ、夫人はジェラルド先輩と一緒にロングハーストへ旅行するのは嫌かな?もちろん菓子店に並ぶための休暇を出発前にとれるように采配するよ」

「旦那様と一緒は當たり前なのです。妻ですので!」

きりりと宣言したアビゲイルに意表を突かれたようで、ドミニク殿下は目を瞬かせた。

「わあ……先輩が激変した理由、わかった気がしたよ。本當に可いんだね」

「俺の妻です」

「だから威嚇やめてってば!――王族の僕が一緒なんだから警護は萬全だし、安全は保障する。それに王族が直々に協力を依頼するほどノエル子爵夫人は有能で、王家との関係が良好だと示すのは悪い話じゃないはず。社は貴族夫人の義務だって風の中で、それをせずとも侯爵家の庇護をけていられるのは、他の能力で貢獻してるからなんだって――そう見せたいんでしょ?」

「……別に俺の異常な獨占のせいだってことで構いませんが?」

「んんーーー!!間違ってないじがするからなんともな!」

そう見せたいのだろう?との言葉は、アビゲイルの能力を低く見積もっているからこそ出てくる言葉だ。所詮有能な補佐たちに囲まれてるからできたことでしかないと思っているのだろう。それでも協力を要請するのは、部の報を知っている人材がしいからに過ぎない。

だったらその程度の認識のうちに最低限の協力姿勢だけでも見せて、後は関わらないと言質をとっておくのが落としどころだ。それくらいで引くしかない――くそったれが!あの口車を公私満遍なくいつでも活用してるんだあいつは!

「旦那様」

「うん」

屋敷へと帰る馬車の中、俺に抱え込まれたアビゲイルはもぞもぞとじろぎをする。俺の膝に橫座りして顔を見合わせれば鼻がれ合うほどに近いから、そのまま軽い口づけをひとつわした。

「ロングハーストでお仕事が終わったら、魔王の森に寄れますか」

「うん?まあ、用が済めば現地解散できるだろうから寄れないこともないが――あの森は広いだろう。どのあたりとかあるのか」

真っ直ぐに俺の目をとらえる金が、きらきらと期待に輝いていて見とれる。

「地図で見ると!確かちょっと遠回りだけでいいはずで!」

「うんうん」

「森の中に泉があって!それが旦那様のなので!旦那様と並べるのです!」

あー、そこは俺に見せたいとかじゃないんだなーそっかー可っいなぁ!

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