《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-39:黃昏

心臓が凍り付いたみたいだった。

僕の眼下、城壁の下で、妹がユミールに捕まっている。

ああ、とため息みたいなけない聲がかられた。

駆け出す。

大狼フェンリルが僕の前を阻み、無理やりな突撃を妨害する。ソラーナがをユミールに放とうとするけど、橫から飛び出したフレイがそれを切り払った。

「神様……!」

トールが放る雷鎚(ミョルニル)。神殿の中庭に、黒いローブのが立っていた。にたり、とが左右に引きばされる。

瞬間、世界蛇(ヨルムンガンド)が現れた。波打つ蛇腹で鎚を引きける。

正門付近では、おびただしいの數の魔が、捨ての勢いでヘイムダルを防いでいた。目覚ましの神様は剣を振るって巨人兵を両斷していくけれど、城壁のあちこちから、滝のように魔が神殿に流れ込んでくる。激流に一人で立ち向かっているようなものだ。

聲がこぼれる。

「誰か……!」

フェリクスさんやミアさん、それにサフィ。

小人のバリさんや、石鎚のロイドさんも、城壁に現れていた。でも、遠い。仲間は僕やルゥとは反対方向。

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ユミールがんだ。

「摑んだ! おれの、心臓……!」

飛び降りればすぐのところに妹がいるのに、誰よりもユミールがルゥに近い!

2メートル越えの巨が、片腕でルゥを高々と掲げた。神服の手足をばたつかせる妹に、頭が発しそうになる。

走れ、走れ。

この狼を超えて、走るんだ!

「はぁっ!」

狼の爪、そこをかいくぐり、ギリギリで城壁の下にり落ちる。

瞬間、頭に激痛。

僕は地面に叩き落とされていた。

フェンリルが前腳を振るった、と直的に理解する。

「リオン!」

ソラーナに、フレイの剣が迫る。僕の斜め頭上、神様は城壁の上に打ち付けられた。パラパラと瓦礫が落ちてくる。

これじゃ、連攜もできない……。

痛みでにじむ視界で、ルゥのが包むのが見えた。ユミールがぐばりと口を開ける。

スキル<神子>を、『創造の力』を、喰うつもりだ。

「だめ……!」

破れかぶれに放った風の霊(シルフ)の突風。

ユミールは微だにしない。まるで大木だった。

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けれども――変化が起きる。

ユミールが顔をしかめた。その表が恐ろしく歪む。目の中に火が燃え、びが空気を震わせた。

「貴様!」

僕は地面から立ち上がって、ユミールを見る。地面に降りたったフェンリルも、金の巨眼をぎょろりとさせた。

大狼がぼそりと言う。

「ネズミめ」

キキ、と笑い聲が聞こえた気がした。

ルゥの姿が冷気に包まれて、歪む。ユミールの手から小さな生きり落ちた。

それは――一匹のネズミ。

僕は呟いた。

「……ラタ?」

ネズミは――神殿に捕らえてあったはずの鼠骨のラタは、からからと笑う。

「ユミールよ! 創造主様よ! 鼠骨のラタ、かりそめにも仕返しを果たさせていただきましたぞっ」

ユミールの巨大な足が、鼠を踏み潰した。

ラタはになって消える。宙に浮かんだままのの粒を、ユミールは口に吸い込み、まずそうに咀嚼した。

――お兄ちゃん!

ルゥの聲がした。

神殿の大塔、ユミールとは反対側の出口から。

ルゥがパウリーネさんと一緒に立って、僕へ微笑んでいる。

何十メートルも距離が離れているはずだけど、妹の聲は、直接頭に響いてくるみたいに、はっきりと聞こえた。

『私は大丈夫』

「ルゥ、今のは、ラタ……?」

『そう。使えそうな力だってフレイヤ様が知っていたから、使ったの』

ルゥは微笑んだ。

口元を左右から引きつらせる、ひどく大人びた微笑。

なんだか変だ。

ルゥは魔を怖がってる。それに、何かを代わりにして――『使った』なんていう子じゃなかったはずだ。

『どうしたの?』

ルゥは笑ったままだった。

『お兄ちゃんも、神様も、パウリーネさん達も、私の大切な人はみんな無事。この戦いはどう転んでも――』

妹は首を傾けた。

『もう、大丈夫』

側が寒くなった。

さっきみたいに、瞬時に凍り付くような怖さじゃない。だんだんと熱を奪われていくような怖さ。

ルゥが……何か、変わってしまった気がする。

ずっと前から、妹が不安に思っているのはじていた。でも守り切れれば、何に替えても最後まで守り切れば、きっと大丈夫だって思えてた。

でも今、どうしてこんなにが震えて來るんだろう。

ユミールが巨から怒聲を迸(はし)らせた。

――オオオオォォォオオオ!

上等な裝束がはためき、あちこちで裂けて吹き飛んでいく。ユミールが、筋のうねる右腕を今度こそルゥへ向けた。

駆け出す。

繰り返さない。

何か、何かが――遅くなってしまった気がするけど!

「目覚ましっ」

風の霊(シルフ)と炎の霊(サラマンダー)を組み合わせた炎。

ユミールは障壁で防ぐことさえせず、そのけとめた。

<狩神の加護>、『狩人の歩法』で気配を消し、僕はユミールの前にり込む。

次のスキルを起き上がらせた。

――――

<スキル:薬神の加護>を使用しました。

『シグリスの槍』……遠隔補助。魔法効果を槍にのせ、屆ける。

――――

――――

<雷神の加護>を使用します。

『ミョルニル』……雷神から、伝説の戦鎚を借りける。

――――

槍に、トールの雷鎚を宿らせる。

これならユミールが後ろに跳んでも、追撃だってできるから。長柄を思い切り振りかぶって、僕は巨に雷を叩きつける。

「はぁ!」

スキル二つ分の威力。

ユミールは障壁を張って防いだ。巨大な足が、半歩下がる。

ソラーナのぶ聲がした。

「リオン!」

ぞくっとなる。ユミールが腕を振りかぶっていた。

的に短剣を構えて、スキルを使う。

――――

<スキル:雷神の加護>を使用します。

『戦神の意思』……自分よりも強大な敵と戦う時、一撃の威力が強化。

――――

スキルを使ってもなお、がはじけ飛びそうな衝撃だった。

踏ん張ったブーツが地面に食い込む。骨がギシギシなって、口が勝手に悲鳴をあげた。

でも、それでも、ルゥだけは守らないと。

父さんにだって申し訳ない。

振り抜かれる大腕。地面に靴跡を殘して、3メートルずり下がる。それでも倒れない。

すぐ背後には、ルゥがいる。

「お兄ちゃん」

「大丈夫」

僕は振り返らずに言った。

「離れてて、僕、何に替えたって守るから」

僕がこの場で死んでしまっても、それでもいい。

『英雄』から逃げないって決めた時、もうその覚悟はしたもの。

手、震えるなよ。

僕は言った。

「いくよ――」

『太の娘の剣』。

それを叩きつけようとした時、ユミールがいた。

僕の手を、巨大な掌が押さえつける。

の目が僕を見下ろした。

ユミールは笑った。これから食べようとする相手を見る、心から震えて來る微笑だ。

「リオン! 離れろ! 君が――死んでしまう!」

フレイに阻まれながら、ソラーナが聲を張り上げる。

他の神様も、フェンリル、世界蛇(ヨルムンガンド)、それに神殿中の魔に阻まれてここにはこれない。

僕はユミールの手を押しのけて、んだ。

「目覚ましっ……」

瞬間、ユミールが後ろへ跳んだ。

え、と心が空白になる。

直後、僕は後ろに弾き飛ばされた。

ユミールがいた場所に、一本の槍が突き刺さっている。黒々とした長柄と、二つに分かれた矛先。びっしりと柄に描きこまれた魔法文字(ルーン)がうっすらとっていた。

槍はほどなく、ボロボロと崩壊していく。

後ろで、ルゥが言っていた。

「オーディン。私、決めました」

かぁ、かぁ、とが鳴いていた。

一頭のが神殿の上空を旋回している。

「ルゥ……?」

妹は、泣き笑いの顔。

「ごめんね」

巨大な鉤爪が、ルゥのを摑んだ。

――心得た。

頭に響くのは、どこか聞き覚えのある男の聲。

に懐かしい顔が――古屋さんの顔が過ぎる。

一瞬の景が目に焼き付いた。ルゥを足で抱えるのは、片翼が數メートルもある大鷲。

真っ白な神帽が、妹の頭から落ちる。

僕はんだ。

「オーディン……!?」

巨大な鷲がルゥを攫って、空へ舞い上がる。ぐんぐんと、ありえないほど速いスピードで、高度を上げた。

もう豆粒みたいだ。

「ルゥ……!」

頭にヘイムダルの聲が響く。

『追うんだ、リオン! ソラーナと共に!』

ユミールはじっと空を見上げてかない。

『もともと、王都は神々の國、天界と近しい場所にあった! 今なら、あの鷲を――オーディンの後を追って天界までいける!』

「でも、それだと地上が……!」

わぁ、と壁の外から快哉が起こる。城壁を飛び越えて、ロキとウルが神殿ってきた。

「ひどい有様だな!」

「……すまない、遅れた!」

口々に言う神様達。

ヘイムダルが巨人兵の囲いを打ち破って、やっと顔を見せる。

ユミールの前に立ちふさがった。

「俺ももうしばらく持たせるさ。信じろ」

傷だらけの顔で、笑う。

到著したシグリスが、何十度目かの回復を神殿中に振りまいていた。

金髪をなびかせて、近くにソラーナも降りて來る。

「ソラーナ!」

「うむ!」

僕は神様と手をつなぎ、鷲が逃げた空を睨む。

黃昏に染まる天蓋。

雲と同じ高さに、一點だけ七がある。遙か上空で、虹がになっているんだ。

側は夕焼けじゃなくて、青々とした空が見えている。まるで空に開いた虹の門。

僕はそこを指差した。

「あそこだ!」

空に開いた虹の門へ向けて、神様と一緒に飛んだ。

お読みいただきありがとうございます。

次回更新は10月15日(土)の予定です。

(2日、間が空きます)

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