《【書籍化】厳つい顔で兇悪騎士団長と恐れられる公爵様の最後の婚活相手は社界の幻の花でした》【番外編】結婚式前夜

南の庭園に面した大きなバルコニーのついた部屋。

橫になることもできそうなほどゆったりとした大きな布張りのソファ。

らかそうなクッションのカバーは花柄でらしいデザイン。

一枚板の天板に優な曲線を描く腳のついたテーブル。

バルコニーに出られる窓とは別の窓の前には、文機と椅子。

機の上には最新のオイルランプが置かれ、真鍮が輝いている。

壁際にはコンソール。

奧には寢室に繋がる扉がある。

明日からここは、リラと俺の、夫婦の部屋になる。

コンソールの上には、まだ何も置かれていない。

リラは花が好きだと言うので、毎日花を生けて飾る予定だ。

花が引き立つように、シンプルなデザインのコンソールを選んだ。

花瓶も大小様々買い足した。

明日、結婚式から戻ったときには、部屋に彩りを添えるように花が飾られているはずだ。

以前、リラに裝の好みを聞いてみると、茶を基調にした落ち著く雰囲気が好きだと言っていた。

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だから、こちらの居室も奧にある寢室も、茶、生、緑でコーディネートされている。

この部屋を気にってくれるだろうか。

リラの言っていた好み通りになっているように思うが、違うようならしずつリラ好みに変えていけばいい。

そんなことを考えながら、明日から使うことになる部屋にいると、フィリオがやってきた。

「ヴァレリオ様。こちらでしたか」

「どうした?」

「いよいよ明日ですね」

顔合わせの申し込みをフィリオに丸投げしなければ、リラと出會うこともなかった可能が高い。

あのまま連敗が続けば、いつかはサランジェ伯爵家に顔合わせの打診をするときが來たとは思う。

だが、タイミングとはわからないものだ。

リラの年齢的なこともあるし、し遅ければサランジェ伯爵がリラに別の誰かとの結婚を勧めていた可能もある。

そうなれば、顔合わせさえできなかっただろう。

フィリオに悪気なく連敗の理由は顔だろうと改めて言われ、傷付いたあの日。

フィリオに選定を丸投げして本當に良かった。

「お前には謝している」

「え?」

「この結婚はフィリオのおかげだ」

「ヴァレリオ様に幸せになっていただくのも、俺の使命だと思っていますから」

改まって結婚について禮を言うのがし照れくさかった。

だからつい、夕闇が迫りつつある窓の外に目を向けながら言ってしまった。

「とんでもない」程度の返答がくると思ったのに、隨分と大層なことを言われたので、思わずフィリオの顔を見てしまう。

いつも無表な男が、珍しく口元をほころばせていた。

「……それで、どうした。何かあったから來たんだろ?」

「あ。新婚旅行はどうなったか聞くのを忘れていましたので、確認に」

他國からの影響で、一昔前に新婚旅行というのがこの國で流行った。

今では、結婚したら新婚旅行に行くのが定番になった。

貴族の場合はゆったりと時間をかけて遠方へと出かけ、平民は経済狀況により日帰りから數日の旅行へと行くらしい。

フィリオから結婚式の打ち合わせの報告をけているときに『そういえば新婚旅行はどうされますか?春は、ヴァレリオ様はあまり休めない時期ですよね』と言われた。

そのとき、ようやく新婚旅行について考えた。

だが、フィリオの言う通り、初春は騎士団も忙しくなる時期。

採用試験や予算會議、 新人研修に男合同訓練。

その他諸々、數日おきに何かしら重要な予定がっている。

結婚休暇は最大で三週間取れるが、総騎士団長という立場で、これらを欠席するわけにいかない。

もちろん新婚旅行には必ず行きたいが、他の人たちと同じように結婚式後すぐは難しい。

リラなら、きっと新婚旅行を楽しみにしているよな……――――

「そのことか。この時期に三週間も休めないから、落ち著いてからと考えていた。一応、リラにもそう伝えて了承を得ている」

フィリオから新婚旅行に聞かれた後、リラには結婚式後すぐに新婚旅行に行けないと伝えた。

すると、意外にもあっさりとれられた。

拍子抜けするほど、『うん、大丈夫』とあっさりと。

その後、すぐにリラは話を変えて來たし、本當に気にしていないらしい。

すぐに行きたいと言われても困るのに、正直なところ、あっさりしすぎて足りなくじたほどだ。

「やっぱりこの時期に長く休むのは無理でしたか。了解です」

「だいたい二カ月後くらいか。そのくらいの時期になれば、俺が三週間いなくても問題ないだろう。騎士団のほうは副たちがしっかりしてるしな。この屋敷も、お前がいれば安心して留守を任せられる」

「……ちなみに、新婚旅行中のお伴は誰を連れて行くおつもりで?」

お伴か……。まだそこまで考えていなかった。

普段から一人で行しているし、新婚旅行だからといって俺に従者は必要ない。

だが、長距離の馬車旅になると者は一人だと厳しいか?

行先によっては従者がいないと格好が付かない場合もあるしな。かといって、わざわざ従者を連れていくのも……。

者兼護衛は必須として、従者役もできるやつだといいな。

一人三役は任せすぎか。

まだ時間があるから、じっくり考えられるだろう。

「俺の従者については決めていない。だが、長期間家を空けることができる者がいいだろう」

「長期間家を空けることができる者というなら、獨の者になると思います。俺がお伴しましょうか」

「お前はこの屋敷の執事だから、留守を預かってくれ。あ、そうだ。ダリアに新婚旅行もリラの侍として付いてこられるか確認しておいてくれないか。確か、下の娘はまだ十歳くらいだったはずだからな。三週間ともなると家を空けるのが難しい場合もある」

「……了解です」

このとき、俺は誰を新婚旅行中の従者にするのがいいか考えていた。

だから、珍しくフィリオが殘念そうな顔をしていることに、俺は気づかなかった。

そして、結婚式後。

この部屋を見たリラは「わぁ!素敵!落ち著く雰囲気だし、お庭も見える!」と喜んでくれた様子で安心した。

「気にってくれた?直したいところがあれば、何でも言ってくれ」

「気にった!直したいところなんてないよ」

「生活してみたら不便なところも出てくるだろう。そのときは遠慮なく言ってくれて構わないから」

「ありがとう。あっ!コンソールの上のお花、これって挙式のときに私が持っていたブーケじゃない?わぁ、素敵!あのの時を共にしたブーケを、あのときだけしか使わないのは寂しいと思っていたんだ。こんなふうに飾ってくれるなんて嬉しい。あのときのにまだもうし浸れるね!」

メイドが気を利かせてくれたのだろう。

狙い通り、コンソールの上の花が、この部屋を華やかに格上げしていた。

穏やかな笑みを湛えブーケを見ているリラに癒される。

だが、それぞれが就寢の支度をした後、思いもよらぬを告げられるとは、このときは想像すらしていなかった――――

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