《【書籍化】外れスキル『目覚まし』、実は封印解除の能力でした。落ちこぼれの年は、眠りからさめた神達と優しい最強を目指す。【コミカライズ企畫進行中】》4-40:天界へ
僕はソラーナに手を引かれ、黃昏の空を駆け上がる。
追うのは、ルゥを攫って飛翔する巨大な鷲。片翼が數メートルもある大鷲は、もう豆粒くらいの大きさだった。でも、絶対に逃がせない。
ごうごうと耳で風が鳴る。僕は負けないように、口を引き締めた。
ソラーナが繋いだ手に力をこめる。
「平気か?」
「ああ……!」
視線が下に向いた時、僕は聲がれた。
「……すごい」
赤く染まった大地。魔に取り囲まれた神殿は、まるで黒い波に浮かぶ島だ。
「ルゥを連れて、帰るから」
大鷲が虹の円環を通過する。そして雲に穿たれたに吸い込まれた。
僕らも同じり口を目指そう。
かつてソラーナに教えてもらった言葉がを過ぎった。
天界と地上とを結ぶ、虹の橋があったって。名前は、確か――
「虹の橋(ビフレスト)!」
雲のに突っ込んだ瞬間、七のが視界を覆った。
風も重力も何もかもが消える。ソラーナとだけは決して離れ離れにならないように、僕は神様の手を握りしめた。
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「そ、ソラーナ!」
「天界のり口にった! 耐えろ、リオン!」
天地がぐるりとれ替わる。
何度目かの回転の末、僕はらかい地面に背中から落ちた。
溫かいが瞼を押す。さぁ、と風が穏やかに渡る音。
そろそろと目を開ける。
青空の下、僕は緑の丘に仰向けになっていた。ソラーナとは右手で繋がったままだ。
手を放して、起き上がる。掌をついた地面は草でらかい。息を吸うと、緑の匂いがした。
「……ここは」
座ったまま辺りを見回す。ソラーナがふわりと浮き上がって、僕を覗き込んだ。
「気づいたか?」
「う、うん……!」
立ち上がる。
丘の周りには、さっきの戦いが噓のような、しすぎる景が広がっていた。
白亜の街。
真っ白い街並みがに洗われ、延々と続いている。壁の一つ一つ、彫刻の一つ一つが、地上ではありえない材質と造形を誇らしげに照り輝かせていた。
遠くに大きなトネリコの木と、尖塔を備えたお城が見える。街を流れる運河が、明な水をきらめかせていた。
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「ここが、天界――」
「うむ。わたし達は、1000年前はここにいた。アスガルド王國とは、今は君たちの國の名前だが、もともとはこの天界を指す言葉だった」
耳を澄ませても、風が渡っていく音だけ。きっとこの街は――今は無人なのだろう。
きれいだけど、活気がない。
だからこんなに現実離れしたしさなんだ。
「地上で人間と暮らす神も多かったが、オーディンやトール、ヘイムダルといった主だった神の拠點はここにあった。地上を見渡す水鏡、狙いを外さぬ槍、トールの鎚――そうした神と共にね」
「ここ、空の上なの?」
丘を踏みしめる。ソラーナは首を振った。
「地上より高い位置にあるのは確かだろう。だが、し説明が難しい」
神様が言い淀んだところで、誰かが草を踏む音が近づいてきた。
僕から見て左側の斜面を、が登ってくる。
影のようなローブを羽織って、髪も黒。はどことなくを思わせる。
灰の目が細められた。
「ここは、あなた方にとって異なる次元です」
低めで落ち著いた聲音は、なぜか聞き覚えがある。
忘れたくても忘れられないくらい、何度も耳にしたような。
「単に高く昇っていけば辿り著けるものではありません。特別なり口を通らなければ到達できない異空間――そのように思って頂ければよいでしょう」
は微笑した。わかったような、わからないような……。
戸う僕に、一禮してくる。
「冒険者よ。よく來られました」
そう呼びかけられて、僕ははっとした。
『聲』に聞き覚えがあるはずだ。
「神様の、メッセージの人……?」
世界に響き渡った、冒険者への全メッセージ。
あるいはスキルを使ったり、レベルアップをしたり。
僕ら冒険者は、々な場面で伝達や狀態(ステータス)を知るためにその聲を聞く。
「いかにも。賢い人よ」
神様は長い黒髪をなびかせて、もう一度腰を折った。
「ノルンといいます、英雄殿。あなた方に、才能(スキル)や、狀態(ステータス)を教えることが、神としての私の役割」
は僕とソラーナに背中を向けて、微笑した。
「主神の元に案しましょう」
ソラーナと顔を見合わせる。
「リオン、信用してみよう」
「――わかった」
オーディンのところに辿り著かなければ、何も始まらないもの。
僕らは白亜の街並みを進む。
地上でユミール達が暴れているから、急ぎたい気持ちはすごくある。けど、警戒するに越したことはない。
走りたいのをぐっとこらえて、ノルンのゆったりとした案に従った。
宙に浮かびながら、ソラーナが問いかける。
「よいのか、ノルン」
「何か? ――久しぶりですわね、太の娘」
「オーディンにとって、我々は侵者ではないのか?」
「確かに。ですが、私は長い年月冒険者に狀態(ステータス)やメッセージを伝えてまいりました。ほんのし、あなた方に味方する気持ちもあるのですよ」
主神がそうとは限りませんが。
そう言って、ノルンは僕らを案し続けた。
「かつては虹の橋(ビフレスト)を通って、神々や英雄が行き來したものです」
白亜の街並みを抜けていく。整然と整えられた草花があり、運河が流れている。清浄な流れは雪解け水よりもき通っていて、覗き込むと遙か下まで吸い込まれてしまいそうだった。
見事な彫刻が、アーチを描いて何回も僕らの頭上を過ぎる。
「こちらの城が、主神の居城です」
ノルンと一緒に高い門をくぐる。
その先は巨大なお城だった。尖塔は100メートル近いかもしれない。王城も見上げるほどだったけど、ここはさらに並外れて大きい。
門からは中庭が広がっている。遠く右奧で、湖のような水面が輝いた。
ソラーナが囁く。
「あれは、オーディンが地上を見るための水鏡だ」
水面のほとりに、祠のような建がある。僕は、石椅子に誰かが座っていることに気が付いた。
「……ルゥ!」
駆け出す。
けれど僕らの前を、素早く霜が橫切った。次の瞬間、氷の壁が立ちふさがる。
宮殿のり口から大きなリュックを背負ったおじいさんが歩いてきた。
「……古屋さん」
僕は、ポケットの金貨を握りしめた。
全ての始まり。
この人からもらった金貨からソラーナを『封印解除』した。そうして神様と出會えた。
あらゆる出來事が、あの寒い朝にき出している。
古屋さんは微笑んだ。
「ありがとう、リオン君」
コインをくれた時とまったく同じ表。
けれど、目だけが冷たく細められる。
「だが、ここまでだ。君の妹は、君のおかげで、しっかりと『目覚めた』。後は――任せてくれないかのう」
僕は首を振る。
短剣を抜いて、おじいさんに突きつけた。
「嫌です。あなたが、ルゥをさらって、あそこで何をしようとしているのか――想像はつくけど、今は聞きません」
おじいさんは黙っていた。
「僕は、大事にしたいだけなんです。角笛のことも、ルゥのことも!」
おじいさんのがに包まれた。
現れたのは、ローブを羽織り、槍をもった老年の神様。銀の髪をした、悍な顔つき。和な印象は消えうせて、星明かりみたいに深い眼差しが僕を見つめていた。
「すまないな」
お腹の底にまで響くような、威厳に満ちた聲音。
オーディンは言った。
「……ならば私にも、世界を創世した者としての責任がある」
神様は槍を掲げ、杖のように振るう。
猛烈な白が僕とソラーナを包み込んできた。
お読みいただきありがとうございます。
次回更新は10月17日(月)の予定です。
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