《無職転生 - 蛇足編 -》12 「人形の歩いた日 後編」
その時間、シルフィは四クリスティーナの面倒を見ていた。
「いいよクリス、そのまま、手を離して、ママの所まできて」
「んー! ママー、こっちきてぇ……!」
よちよち歩きが早かったリリに比べて、クリスはまだ摑まり歩きがせいぜいといった所だ。
なので最近はこうしてママたちに訓練を施されている。
もっとも、クリスは訓練が嫌なようで、半泣きになりながら首を振っているが。
「クリスが來るんだよ、ほら、よちよちって、よちよちって」
「んー! んーぅ……ママァ……きてぇ……」
「ダーメ。ほら、すぐここだよ」
ぐずり、泣き出すクリス。
とはいえ、クリスは出來ない子ではない。
甘えているだけなのだ。
「んーんー……んっ!」
最終的には目を瞑り、トテテっと走ってシルフィのへと飛び込んだ。
「よしよし、よく出來たね。偉いよクリス」
「んー……」
シルフィはいつものようにクリスを抱いて、その頭をでた。
クリスはグスグス鼻を鳴らしながら、シルフィに力強く抱きついた。
好奇心旺盛で活発なリリに対して、クリスは臆病で甘えんぼだ。
さらに言うとインドア派で、あまり外には出たがらない。
時にエリスが外に連れ出すが、外ではエリスにベタッとくっついて離れず、何かあるとビービー泣いてしまうので、すぐに帰ってくることも多い。
なので散歩にも付いていかず、お留守番をしていることが多い。
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「もう、クリスは甘えんぼさんだね。誰に似たんだか……」
シルフィはそう言ったが、まぁ、間違いなくルーデウスに似たのであろう。
「ママァ……パパ、おかえりなさいまだ?」
「うん、まだおかえりなさいじゃないよ」
そんなクリスは、いわゆるパパッ子だった。
生まれてから泣いてばかりの子だったが、ルーデウスに抱かれるとすぐに泣き止む子だった。
アルスとまったく逆だ。
最近では、ルーデウスの膝の上がクリスの指定席となりつつある。
「あ!」
「……ん?」
と、そこでり口の方から音がした。
誰か帰ってきたのだろうか。
「パパ?」
「どうかなぁ……パパじゃないと思うけど」
ルーデウスは昨日から出かけている。
帰ってくる正確な日を聞いていなかったが、2~3日はかかると言っていた。
なら、まだだろう。
「お姉ちゃん?」
「お姉ちゃんにしては、ちょっと早いね」
しかし、學校に行ってるロキシーやルーシー、傭兵団に出向いているアイシャが帰ってくるにはまだ早い。
散歩に出たエリス達か。
いや、今日は遊びたがりのジークが一緒だから、もうし遅くなるだろう。
なら、買いに出ているリーリャとアルスか。
いいや、二人は先ほど出て行ったばかりだ。流石に早すぎる。
忘れをとりに戻った、という可能ももちろんあるが……。
もしかすると、ゼニスだろうか。
彼は自室で寢ているはずだが、いつの間にか庭の方に出ていたのかもしれない。
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などと考えつつ、シルフィはクリスをクッションの上に乗せた。
「クリス、そこにいてね」
シルフィはし不可解な気分で玄関へと向かった。
リビングを抜けて、廊下に出ると、ギィという音を聞こえた。
玄関が半開きになっていた。
だが、シルフィの目にとまったのは、扉ではなかった。
「……」
そいつは、扉の側に立っていた。
半開きになった玄関の隙間から差し込む西日が逆行となり、彼を照らしていた。
黒髪の。
見る者が見れば、彼のことをナナホシと呼んだだろう。
あるいは、親しげに聲を掛けたかもしれない。
しかし、シルフィは彼の見た瞬間、眉をひそめた。
「……君は、ナナホシじゃないね?」
その言葉をけてか、彼は笑った。
口元を歪め、ニィと。
逆が顔に影を作り、口元が不気味な形に裂けて見えた。
「はい。違います。なぜお分かりになられたのですか?」
「ナナホシは何度この家に來てるからね。玄関を開ける時の癖もあるんだ。コンコンって二回ノックして、返事がなかったらちょっと迷ってから、しだけ扉を開けて小聲で「ごめんください」って言うんだ」
シルフィはそう言いつつ、右手に魔力を込めていた。
得の知れない存在が、知人に化けていつの間にか家に侵していた。
家を守ると心に決めているシルフィにとって、當然の行であった。
今のところ 目の前のから敵意はじない。
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口調にしてもはこもっていないが、丁寧なものだ。
だが、味方であると楽観するほど、シルフィは甘くはなかった。
「君は、誰なのかな? もし君がヒトガミの手先だっていうなら、ボクが相手になるよ」
相手になるといいつつ、シルフィは脳なフル回転していた。
いかにして目の前のの目を晦まし、リビングにいるクリスと二階にいるゼニスを連れて、この場から逃げるか。
敵がこの家に侵してくる可能は覚悟し、シミュレートしていたが、自分にはやれるのだろうか。
戦闘の音は聞こえなかったが、門柱に巻き付いていたビートはすでにやられたのだろうか。
今しがた指に魔力を送ってエリスとロキシーに合図を送ったが、二人は気付くだろうか。
事務所にいるオルステッドやアレクは、この事態を把握しているのだろうか。
逃げるべきか。
それとも、時間稼ぎをすべきか。
様々な思いを無表に押し込めて、シルフィは目の前の相手を睨む。
「私には、まだ名前がありません」
「……?」
「あなたのお名前を聞いてもよろしいでしょうか」
「シルフィエット・グレイラット」
唐突に聞かれ、シルフィは反的に答えた。
「では、あなたがルーデウス様の奧方のシルフィ様ですね」
「そう……だよ」
名前の確認。
反的に答えたが、答えなかった方がよかったかもしれないと思いつつ、シルフィは油斷なく彼を見た。
見た所、武は持っていない。
隙だらけにも見える。
でも油斷はならない。徒手空拳で自分を圧倒できる者など、いくらでもいるのだから。
「シルフィ様は、私がいるとルーデウス様をお怒りになるのでしょうか?」
「……?」
「シルフィ様は、なぜ私に納得していただけないのでしょうか?」
「言ってる意味がわからない、何を言ってるの……」
わされている。聞いてはいけない。
もしかすると、これは幻か何かかもしれない。
一瞬そう思って、シルフィは警戒しつつ、一歩後ろへと下がった。
「危険です」
瞬間、がび、手をばした。
その速度はシルフィを凌駕していた。
明らかに自分より素早い相手。だが、シルフィとてそれは想定していた。
見えないほどでも、対応できないほどでもない。
下がろうとした一歩で床を踏みしめ、半になりつつ相手の攻撃をけ流し、カウンターで魔力を叩きつける。
シルフィは瞬時にそう判斷し……。
「っ!」
自分の足元に、クリスがいるのが気づいた。
いつの間にか。
そう、いつの間にか、クリスはハイハイで玄関まで移してきていたのだ。
シルフィの「待っていて」という言葉に従わず。
何の因果か、シルフィが今まさに踏もうとしている位置に。
気づいた時にはもう遅い。
シルフィはクリスを踏み潰しそうになるのを、なんとかをひねって回避した。
しかし、バランスは崩れた。
上をふらつかせ、回避もおぼつかなくなる。
そんなシルフィの瞳に、凄まじい速度でばされるの手が映った。
---
ルーデウスが到著した時、家は不気味なほどに靜かだった。
ビートの巻き付いた門。
アイシャの家庭菜園。
レオの犬小屋。
誰もいない。
鍵のかかっていない玄関を開けると、よく掃除された廊下と、半開きのリビングへの扉が見える。
靜かだった。
いや、音が無いわけではない。
ただ家中に泣き聲だけが響いていた。
聞き慣れた聲。
クリスの泣く聲だ。
それは悲痛な泣き聲だ。
まるで何か、大切なものを失ってしまったかのような、大きな悲しみに満ちた泣き聲。
ルーデウスにとっては聞き慣れた泣き聲。
自分が近づくと、すぐに止まる泣き聲。
それが聞こえているというのに、なぜか、靜かに思えた。
「……傭兵団は、外で待機していてくれ」
ルーデウスは玄関でそう言うと、出來る限り音を殺しつつ、玄関から中にった。
ここも、靜かだ。
よく掃除された廊下。
ちらりと橫を見れば、玄関に設置した鏡に青い顔をした自分の顔が映っていた。
だが、なんだろう。
この鼻にツンとくるような臭いは。
決して、心地良いとはいえない臭いは。
長時間かぎ続ければ、えづいてしまうような臭いは。
放置しておけばハエが集るような臭いは。
ルーデウスはその臭いにわれるように廊下を歩いた。
行き先はリビングであった。
泣き聲はそこから聞こえており、同時に臭いの元があると確信していた。
しっかりと閉じられたリビングの扉。
ルーデウスは、その扉を、意を決して開いた。
信じられない景が広がっていた。
まず、目にったのはテーブルの上。
仰向け寢転がされ、泣きぶクリスだ。
そして、そのクリスに覆いかぶさるような姿勢でいる、黒髪の人形。
人形の手は、汚れていた。
乾いたのような茶で汚れていた。
その茶はいまだり気を帯びており、強い匂いを放っていた。
むせ返るような匂い。
その臭いはまさか……。
「あーもう、ウンチが手に付いちゃったじゃないか」
「問題ありません。この程度の汚れであれば行に支障ありません」
「ダメ、ちゃんと拭くの、ほら。それから、汚れたオムツはこうやって丸めて、こっちの籠に、後で洗濯するから」
「汚れに対する洗浄は早急に、ということですね。學習しました」
そして、シルフィは人形の手についたものを拭いていた。
人形の手についているもの。
そして廊下にまで漂う臭いを発しているもの、
それは、クリスのウンチであった。
クリスはテーブルの上で仰向けに寢かされ、汚れたオムツをがされてビービー泣いていた。
「パパ! パパだ!」
が、ルーデウスの姿を見つけるとすぐに泣き止み、花のような笑顔を向けた。
「……あれ?」
ルーデウスとて、ある程度、想像はしていた。
戦うシルフィ。
傷だらけになった家族……あるいは、倒れて、かない家族。
が、人形が不用な手つきでオムツ換をしている景は、想定の範囲外であった。
「あ、おかえりなさい、ルディ」
「シルフィ……怪我は……なさそうだね……?」
「うん。あるわけないでしょ」
頷くシルフィの後ろには、人形が立っていた。
無表である。
無機質な顔で佇むその姿は、いきなりシルフィの元から短剣が生えそうなほどに不気味であった。
だが、人形はルーデウスの視線をけると、ほんのしだけ、シルフィの影へと隠れた。
さながら、シルフィを盾にでもするかのように。
だが、ルーデウスの目には、し異質に映った。
まるで人形が、ルーデウスから見られることを恐れているかのようにも見えたのだ。
「シルフィ、そいつから離れてくれないか」
「……なんで?」
そして、シルフィもまた、人形をかばうかのような立ち位置を取った。
「その人形、俺とザノバで作ったんだけど、暴走したんだ。
多分だけど、俺たちの話を聞いて、シルフィを排除するか、れ替わろうと考えたんだと思う」
ルーデウスもそう説明しながら、それにしてはおかしいなと思っていた。
「まあ、ちょっと違ってたみたいだけど」
とはいえ、人形の意図がわからないのは、依然として同じであった。
ルーデウスは警戒を解くこと無く、人形を睨みつけた。
「ふうん、ボクの聞いた話と、ちょっと違うけどな」
「話?」
首をかしげるルーデウスに、シルフィは微笑んだ。
「うん。そのことで話があるから、座ってよ」
「ああ……」
ルーデウスは言われるがまま、その場にあぐらをかいて座った。
するとシルフィは「あれ?」と首をかしげた。
「ルディ。座り方が違うんじゃないかな?」
「え!? あ、はい」
ルーデウスは、シルフィの口調からあるものをじ取り、座り方を変えた。
シルフィの口調に含まれるもの、すなわち怒り。
となればルーデウスがする座り方は正座の他ない。
「じゃあ、どうぞ」
それを確認したシルフィはをれ替え、人形を前へとおしやった。
人形はルーデウスの前へと押しやられ、無機質な表で彼を見下ろした。
「マスター・ルーデウス、私を破壊するのですか?」
「ああ、破壊する」
即答したルーデウスに、人形はじろぎ一つしなかった。
だが、ルーデウスは知っている。
魔導鎧と同じ材質で作られた骨格と、特製の人口によって作られたは、聖級剣士並の能を持っている。
そんな危険な代がいうことを聞かないとなれば、破壊する他ない。
魔導鎧を著込み、魔眼を使っている今、遅れを取ることはない。
とはいえ、まだ油斷は出來ない。
「…………私は、破壊されたくありません」
と、そこでルーデウスは気づいた。
「……」
人形が怯えているのだ。
見た目は、ただ立っているだけだ。
表だって無表だ。
口調だって単調だ。
しかし、怯えているのがわかった。
そんな人形の視線が、シルフィを向いた。
無機質な瞳だが、なぜかシルフィには、それが助けを求める視線に見えた。
「ルディ、わかっていないみたいだから、ちゃんと最初から話してあげて」
シルフィがそう言うと、人形はルーデウスと、いつしか家の中にってきていたザノバを見た。
そして、淡々と語りだした。
「ルーデウス様とザノバ様はおっしゃいました。
私がいると、ルーデウス様の奧方様が怒ると。
エリナリーゼ様はおっしゃいました。
ルーデウス様の奧方は、シルフィ様とエリス様とロキシー様だと。
エリス様はおっしゃいました。
シルフィ様は、ナナホシは納得できない……と以前に話していたと。
エリナリーゼ様は、私をナナホシと呼稱しました。
私は考えました。
きっと、私はナナホシ様に酷似しており、それが原因で廃棄されるのだと。
しかし、私はナナホシ様ではありません。
ならば、何か方法はあると考えました」
口調は変わらず単調だ、しかし、必死さをじ取れた。
人形は必死で何かを模索していたのだ。
「私は廃棄されたくありません。
ルーデウス様とザノバ様は、私の誕生に喜んでくださいました。
私は、もっとお二方の役に立ちたいのです。
破棄されては、それは葉いません」
召喚魔は、時にその力が大きすぎると、者に災いをもたらすこともある。
だが、基本的には者に逆らわない。
召喚魔で呼び出された魔獣は、主人に対して忠誠をつくすなのだ。
災いをもたらすのは、者のために起こした行の結果なのだ。
そして、この人形にも、そうした式を組み込まれている。
なにせ、ペルギウスの召喚魔を元に作られているのだ。
組み込まれていないわけがない。
とはいえ、ペルギウスの霊は自我を持つ。
召喚されたその瞬間から、自我を持って行するのだ。
主のために。
より長く生き、より長く役立つために。
「ゆえに、それまでの報から、最も私の存在を忌避するであろうと予測されるシルフィ様に教えていただこうと思ったのです」
彼のロボット三原則は、壊れてなどいなかった。
ただ原則に、召喚霊としてのが勝ったのだ。
「どうすれば、あなたは納得していただけますか、と」
唐突に現れ、家に勝手にってきた人形。
それに対し、シルフィは必要以上に警戒した。
だが、人形には最初から敵意などなかった。
敵意を丸出しにするシルフィに対し、ヘタクソな笑顔で笑いかけ、対話をんだ。
娘を踏みそうになり、倒れそうになったシルフィのを支え、お怪我はありませんかと気遣った。
唐突に踏み潰されそうになり、ビビっておしっことウンチを同時にらしたクリスを気遣い、オムツの換を申し出た。
そんな彼は、シルフィに訴えたのだ。
死にたくない、悪いところを直します、お役に立ちたいのです、だから殺さないでください、お願いします、と。
そのことが、シルフィのを強く打った。
「ルディ、ボクは怒ったりするつもりはないよ。
ルディがこういうのを作っていたってのは知ってたしね。
思ったより、人間臭かったけど……。
でも、いい子だし、ちょっと欠陥があっても、使って上げてしいな」
シルフィの言葉で、人形の説明は終わった。
あとは、ルーデウスの言葉を待つのみである。
いつしかルーデウスは口をへの字に曲げて、腕を組み、顔を伏せていた。
その肩はふるふると震えている。
「ううぅ」
見ると、後ろに立つザノバがプルプルとを震わせていた。
何事か、とシルフィが思った瞬間、
「うおおおおぉぉん!」
ザノバが、雄びを上げながらに突進した。
「そんな風に考えていたとは!
全て我らの為だったとは!
すまぬ! 暴走などと言って、余が間違っていた! すまぬぅ!」
滂沱の涙を流しつつ、人形にすがりつくザノバ。
そんなザノバを見ながら、ルーデウスもまたズビっと鼻を鳴らした。
彼もまた、目元をうるませていた。
ルーデウスは懐から取り出したハンカチで鼻をビーッと鳴らすと、立ち上がり、人形の手を取った。
「ザノバの言うとおりだ。目の前で廃棄なんて言われたら、そりゃ逃げるよな。
どうにかしようと思うよな……。
わかったよ。シルフィが怒ってもいい、俺とザノバが、お前を最後まできちんと完させて、きちんと使ってやるよ」
「余も、ジュリの怒りをけ止めようではないか!」
人形にすがりついて、泣きだした二人。
シルフィの目には、人形がきょとんとした顔をしているように見えた。
問題が解決していないのに、なぜか許された、という顔だ。
まあ、なんにせよ一件落著だ。
シルフィは微笑ましい気持ちでほっとをなでおろし、ルーデウスにかまってもらえずグズり出したクリスをでた。
と、そこで彼はあることに思い至った。
「ルディ、最後に一つ質問があるんだけどさ。今の流れで、どうしてボクが怒ると思うの?」
そう聞くと、ルーデウスがビクリとを震わせた。
彼は振り返り、正座をした。
そして、こほんと咳払いを一つ。
説明を開始した。
「実はその人形、あっちの方も巧に――」
シルフィは怒った。
ともあれ、一連の騒はこれにて一件落著となった。
その晩、ルーデウスが妻と寢ることが出來たのかどうかは、また別の話である。
---
この事件の結果、人形の廃棄は取りやめ、
製造した自人形は出來る限り保持していく方針となった。
それに伴い、今回の一件の中心となった彼は正規ナンバーとなった。
自人形1號機である。
今後は研究所や魔法都市シャリーアで実験に従事しつつ、ルーデウスの様々な計畫に使用されていくことだろう。
また、後日。
人形のがナナホシにも知られることとなった。
彼は自分の顔をした人形が行為可能であると知ると、骨に気持ち悪そうな顔をした。
だが、ルーデウスの低頭平の姿勢と、そういう目的では使わないとシルフィと約束したという言葉で、ひとまずは溜飲を下げた。
「まあいいわ。それでこの子、名前はなんて言うの?」
「名前……は、まだ付けてない」
「そう、じゃあ私が付けていい?」
ナナホシの命名により、
自人形第一號機には『アン』と名付けられた。
さらに、もし後世にナナホシの知り合いが現れた時に、日本っぽい名前でナナホシの存在を知ってもらうため『七星 一(はじめ)』という呼稱も用意された。
もし彼がナナホシの知り合いと出會い、その名前を聞いた時にはそう名乗り、ナナホシとの関連を説明するだろう。
正式名稱は『自人形 SS-01 アン』。
2號機にドゥー、3號機にトロワという名前をつけるかどうかはわからないが、それはそれだ。
ちなみにSSとはセブンスターの略である。
こうして、セブンスターシリーズの記念すべき第一作目『アン』は作られた。
彼の兄弟姉妹は、長い年月を掛けてゆっくりと増えていくことになる。
だが、首がついていたのは彼だけであった、と明記しておこう。
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