《無職転生 - 蛇足編 -》29 「末路」
「え?」
ヴィオラは、狀況を理解できないようだった。
周囲の生徒たちが、なぜ自分を指差しているのか。
ヴィオラだけではない。その場にいた誰もが、理解できていなかった。
と、そんな混を打ち破るかのように、エリザベートが一歩、前に出てきた。
彼は目を細め、口の端を持ち上げ、蛇のような笑みを浮かべて、言い放った。
「ヴィオラ様のおっしゃった悪行は全て、こちらにおわすヴィオラ・イエロースネーク様のやったことですわ!」
エリザベートは勝ち誇ったように宣言する。
ヴィオラだけではなく、その場にいる全員に聞こえるように。
「わたくし達、全員が証人ですわ」
その言葉に、立ち並ぶ生徒たちが、全員、力強く頷き、口々に同意しはじめた。
「そうだ! 俺はこいつに奴隷のように扱われてきた!」
「僕も証言します! ヴィオラ様に鷹のモッチを縊り殺されました」
「私も……私は、ヴィオラ様に教科書をズタズタに引き裂かれました!」
ヴィオラは、何が起きたのか理解していなかった。
「え? え?」
ただ、ただ狼狽し、驚愕の顔でから絞り出すような聲を上げるのせ一杯だった。
「どうして?」
その言葉に、エリザベートがキレた。
「どうして? このわたくしを2年間も召使いのように扱っておいて、どうして!?」
彼は今にもヴィオラのぐらを摑みかかりそうな勢いで、んだ。
「わたくしはこの瞬間を、ずっと待っていましたの! あなたの悪事を、公の場で暴く、この瞬間を! わたくしだけじゃない! ここにいる全員が! あなたに、復讐する機會を!」
「う、裏切ったのね!」
ヴィオラの脳が事態に追いついた。それと同時に表が豹変した。
それまでの平然かつ泰然とし、余裕と自信に満ち溢れた表から、悪鬼羅剎のごとき顔へと。
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ヴィオラを、そして自分を指さした者たちを一人ずつ指差し、睨みつけ、んだ。
「あなた、あなた、あなた、あなたたち! 全員! こんな真似をして! どうなるか、わかっているのでしょうね!」
激高とはまさにこの事であった。
本來あってはならないことが行われた。絶対に許されないことが行われた。
そう言わんばかりの剣幕に、しかし、エリザベートは余裕をたっぷりの笑みを返した。
「あらあら、どうなるのでしょうか?」
「説明しなければわかりませんの? トップコート家は、イエロースネーク家に多額の借金を抱えていますのよ。つまりわたくしがその気になれば、あなたたちを召使いどころか、奴隷にまで落とせるということよ!」
ヴィオラはエリザベートに対してそうんだ。
借金。
それはエリザベートだけではない。ヴィオラが呼びつけ、"証拠"にしようとしていた者たち、全てに存在しているようだった。
あるいは借金のみならず、他の弱みもあるだろうが。
とにかくヴィオラは持っていた。
彼らを自分の手駒として気楽に扱えるだけの、何かを。
しかし、エリザベートは引かない。
それどころか、その言葉を待っていたとばかりに、言い返した。
「借金?」
その言葉は、どこまでも平然としていて、平坦だった。
しかし、エリザベートの表は、とてつもなく悪かった。
悪役令嬢という名にふさわしい、悪魔のような顔で言い切った。
「それなら、昨日の時點ですでに返済を終えていますわ」
「え?」
ヴィオラが呆気にとられた。
エリザベートは、一応の証拠だと言わんばかりに、懐から一枚の紙を取り出した。
「こちらが、完済の領収証になりますわ。あなたの家の家紋。見えますわよね?」
「そ、そんな、どうやって……? 返済に十年は掛かるだけの額だったはず!」
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エリザベートはそこで表を戻した。
し悔しそうな、しかし嬉しそうな表で、一人のの方を見た。
「……クリスが力を貸してくれましたの」
「クリスが? あなたがアレだけ嫌っていた、あのクリスが?」
「そう、あの子は、あれだけ嫌がらせをしたわたくしにも、その慈の手を差しべてくれたんですわ」
エリザベートはうっとりとした視線で虛空を見た。まるでそこに神でもいるかのように。
ヴィオラはその様子を見て、ハッと笑った。
「ああ、なるほど、そういうことですの。わたくしに借りた借金を、今度はクリスに借りた金で返して、それで裏切ったというわけですのね。結局は主人が変わっただけだというのに、愚かなこと」
「いいえ、わたくしにはもう借金はありませんわ! だってクリスが新しい商売を教えてくださったんですもの!」
エリザベートはそう言うと、クリスが提案してくれたという金策について話しだした。
金策といっても、バイトではない。
なにせ貴族が貴族から借りるような金額なのだから、大金だ。
その大金を作り出すために、商売を開始したのだ。
主な商売容は、商人相手の法律相談所。
法務を司っていたトップコート家には、法律に強い家臣が大勢いた。
彼らに仕事を與えると同時に、金を持っている商人に、稅金対策的なアドバイスを授けたのだ。
商人は、アスラ王國での儲け率が上がり、その儲け率のいくらかをトップコート家が取得。
アスラ王國自は損をすることになるが、まぁ貴族が各町で商人へと掛けている稅金の大半は、くだらないことで消えるものである。
それと商人が利益を得たことで、國に落とすようになる金。
差し引いて考えれば、國への打撃は、ほとんど無いといっても過言ではない。
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そうして、トップコート家は商人を相手に商売をして、なんとか借金返済に功したというわけだ。
「わたくしだけじゃありませんわ。この場にいる全員、あなたへの弱みは、もうありませんの」
ヴィオラが周囲を見ると、生徒たちは「そうだ」と言わんばかりに強く頷いた。
口汚くヴィオラを罵らないのは、ここがアリエルの前だからだろう。
「あなたは解決できるはずがないとタカをくくっていて、大して気にも止めていなかったのでしょうけど、全部、クリスが解決してくれましたわ。一つ一つ、丁寧に、蟻を一匹一匹潰すように」
……ここで、周囲の人々にも話が見えてきた。
要するに、ヴィオラはこの場において、自分が弱みを握っている者たちを使い、クリスを陥れようとしていたのだ。
しかし、クリスはそれを読んでいた。
ゆえに、卒業式までにそれらの証拠を全て潰し、逆に己の手駒にすることで、カウンターを実現させたのだ。
「ひ、卑怯な……!」
「あらあらあら、卑怯なのはどちらでしょう! クリスはあなたの、その馬鹿みたいに高いプライドを尊重して、卒業前は事を荒らげず、主席まで譲ったというのに! 裏でこそこそと用意までして!」
主席を譲ったという言葉に、クリスは「え?」という顔をしたが、誰も見ていなかった。
その表を見るに、おそらく普通に頑張ったけど無理だったのだろう。
ともあれ、それ以外の部分に関しては真実であったようだ。
周囲の生徒たちもその通りだと頷いた。
周囲の貴族たちの反応もそういうことかと変化し、ヴィオラに対する視線が厳しくなる。
そして、その中にはエドワードの姿もあった。
彼は噓をついたヴィオラと、そしてその噓に言い返せなかった自分への怒りを込めて、彼を睨みつけた。
「君は……君はこんな、こんな卑劣な真似をして恥ずかしくないのか……!?」
エドワードにそう言われ。ヴィオラは一瞬うろたえたような表をしたが、しかしぐっと奧歯を噛みしめると、開き直ったかのように言い返した。
「は、恥ずかしくなどありません!」
もはや、言い繕うこともしなかった。
ヴィオラは赤々に自分の本音をぶつけた。
「あんなラノアの田舎娘なんかに負け、あなたを奪われるほうが、アスラ王國貴族の恥ですわ!」
彼の言葉に、エドワードは瞠目する。
「ラノアの田舎娘……!? 無禮な、彼の父上は陛下の盟友、確かにアスラ王國の貴族位こそ與えられていないものの、國に置いては王族と同程度の扱いをけている、それを……」
「どれだけ偉大でも、田舎は田舎! ただの田舎者ですわ! 大、私は最初からクリスのことが嫌いだったんですの!」
ヴィオラは、學當初からクリスの事が嫌いだった。
エリザベートという優秀な人の友人として(周囲からは腰巾著と思われていたが)、學し、ずっと昔から憧れていたエドワードとも同級生、上級貴族にふさわしい、輝かしい學園生活を送れると思っていた。
なのに、クリスが全てを臺無しにした。
田舎からきた、泥臭くて、頭の中がお花畑の小娘が。
エドワードの興味を引き、エリザベートを失腳させ、おかげでヴィオラも地位も落ちに落ちた。
そこからは地獄だった。ほとんど誰にも尊重されない日々が続いた。家柄的にゴミにり下がったが、相変わらず優秀だったエリザベートをうまく使って、なんとか主席卒業にこぎつけたが、クリスだけは許すわけにはいかなかった。
エドワードを取られたままで、終わるわけにはいかなかった。
でっち上げでもいいからクリスを追い込み、エドワードに幻滅させたかった。
あわよくばアスラ王立學校を退學させ、歴史から消してやりたかった。
「君が……これほど、愚かだったとは……」
ヴィオラの言葉に、エドワードは拳を握りしめ……。
しかし、ふっと力を抜いた。
その表には、すでに怒りは無い。
怒りを通り越し、呆れと諦念が浮かんでいた。
エドワードの我慢は限界を超えてしまった。
「もういい」
正直な所、エドワードはヴィオラというには興味がなかった。
取り柄もなく、何かに秀でているわけでもなく、口から出てくるのは、どこかで聞いたような言葉ばかり。アスラ王立學校に學しても、エリザベートという優秀な生徒に近づいて上位グループに仲間り。上位グループにっているのだから、自分も當然優秀だと考えるような人間。
エドワードから見ると、アスラ貴族の令嬢が百人いたら九十九人はこんなじだな、と思えるような、そんなつまらない人だった。
だが、それでも、許嫁だ。
親が決めたとはいえ、そこには王族としての義務がある。
相応の対応はしてきたつもりだった。特別扱いもしてきたつもりだった。
だが、今日。今、この瞬間。エドワードは彼への認識を改めた。
彼はどこにでもいるではなかった。自分の目的のために他者を蹴落とし、人を人とも思わぬ、愚か者だった。
彼はヴィオラを嫌いになった。
そして彼は、王子として、王族の義務を果たすべく、顔を上げた。
そして、周囲に聞こえるように言い放つ。
「僕は將來、國の外に攜わるだ。公の場で他國の要人を田舎者と罵るような者とは、結婚できない! 婚約を解消させてもらう!」
「え…………」
いきなり告げられた言葉に、ヴィオラの顔から、サッとの気が引いた。
婚約解消。
まさか、それはしないだろうと、心のどこかで思っていた。
できないだろうとタカをくくっていた。
しかしここは公の場。
そう、公の場なのだ。
あらゆる人がいて、 完なきまでにクリスを叩きのめしてアスラ王國から追い出すための、絶好の場なのだ。
自分が、この場を選択したのだ。
そしてこの場こそが、ヴィオラの今は逃げ道を塞いでいた。
「あ、う……そ、その話は……」
それでもヴィオラは逃げ道に向かって足をばした。
もしそう言われたら、こっちに逃げようと思っていた方向へと。
「と、當人同士では決められない話ですのよ……だから……」
そう、本來なら、婚約の話は、當人同士で決められるものではない。
なぜならば、この結婚は親……すなわち當主が決めた結婚だからだ。
當主が、將來を見據え、雙方の家にとってより良い未來を招かんとして、決めたことだからだ。
當主を通し、議論をし、正當な理由を突きつけて納得させなければ、解消することは出來ない。
その上、當主の片方は國王。
國王は常に多忙で、例え財政を司る上級貴族であっても、おいそれと會うことは出來ない。
締結にも解消にも、時間が掛かる。
ヴィオラは悪知恵の働くだ。
その時間さえあれば、うまく狀況をかし、解消をなかったことにする手立てを打てる。
その自信があった。
今でなければ。
ここでなければ。
自分がしくじった直後でさえなければ。
「なるほど、君の言い分はもっともだ」
今、この場には、全ての人が揃っている。
婚約の當事者であるエドワードとヴィオラ。
イエロースネーク家の當主である、カーター・イエロースネーク。
そして、
「いいですね、母上!」
アスラ王國國王アリエル・アネモイ・アスラ。
「……」
アリエルは、普段は滅多に見せない、冷徹な目で、周囲を睥睨した。
彼の一挙手一投足がその場を威圧し、ざわめきを消し去った。
「ヴィオラ」
その聲が聞こえた瞬間、白熱した會場の空気が、シンと冷えた。
「何か、申し開きはありますか?」
アリエルだった。
アスラ王國國王アリエル・アネモイ・アスラの言葉だった。
い頃から、人を魅了しつづけてきた、力ある聲音だった。
「あ……う……わ、私は……」
ヴィオラの顔は、今にも気絶しそうなほどに真っ青だった。
表は目まぐるしくかわった。
焦り、困、怒り、憤り、悲しみ、哀れみ、懇願、嫌悪、心配、畏怖、自責。
あるいは、彼がもっと冷靜で打たれ強い人間であれば、負けを認めるだけの度量があれば、追い詰められた時に裏目を狙う度があれば、違ったかもしれない。
ダメージをけつつも、しかし最小限に抑え、なんとか逃げ切ったかもしれない。
しかし、この場でそうくには、彼には経験が足りなすぎた。
上級貴族の娘として生まれ、何の才能もなくとも、何の努力もせずにちやほやされ、目にる人間の大半は自分より分が下で、窮地に陥ったとしても、ちょっとゴネれば最終的にはなんでも思い通りにいくと思っていた彼には……無理だった。
彼が口にした言葉は、酷いものだった。
「私は悪くありません! クリスティーナが罠にハメたのです! こんな場で、私に恥をかかせようと! 彼らの弱みを握って、噓の証言をさせたのです! 卑怯です! そんな卑怯なやり口は認められません! 悪いのはクリスティーナです! 私は悪くありません!」
そこから先は、支離滅裂だった。
彼はヒステリックに、こいつらの言ったことは全て噓だとんだ。
自分の言った言葉を完全になかったことにしたり、噓に噓を重ねたり、クリスの悪いところをあげつらい、それに比べれば自分はマシだ、悪くない、と金切り聲をあげて喚いた。
大、平民や下級貴族の分際で、上級貴族たる自分を罠にハメるのもおかしい。不敬罪を適用し、彼らを罰するべきだと、論點のすり替えまで始める始末だった。
その姿は、誰が見てもみっともなく、アスラ王國王立學校の卒業生には、ふさわしくなかった。
誰もが主席卒業者に相応しいと認めた堂々たる姿は、消え去っていた。
無論、アリエルの目にも、そう映った。
「はぁ……」
アリエルは、ヴィオラなど相手にしなかった。
話にならないとばかりに、頭を振ると、側にいるであろう二人の人を呼びつけた。
「校長とカーターをここに」
即座に二人の男が出てきた。
アスラ國立學校の校長と、イエロースネーク家の當主であるカーター・イエロースネークだ。
校長は冷や汗をダラダラとかき、カーターは目を見開き、ブルブルと震えている。
どちらの顔面も真っ青だった。
アリエルは冷ややかな目で二人を睥睨すると、まず校長の方を向いて、口を開いた。
「アスラ王立學校校長」
「ハッ!」
「このような者は、我がアスラ王國王立學校の卒業者として相応しくありません」
「そ、その通りでございます」
「アリエル・アネモイ・アスラの名において命じます。この者の卒業を取り消し、退學処分を」
「いやあああぁぁぁぁ!」
アリエルがそう宣言した瞬間、ヴィオラが言わせまいといったじの悲鳴を上げた。
王であるアリエルの命令を大聲で遮る。
學校で禮儀作法を真面目に學んだ者ならまずしない不敬行為である。
あまつさえ彼は、両手を振り上げて、アリエルへと走り寄ろうとした。
當然、即座にアリエルの護衛に取り押さえられた。
ヴィオラは一瞬で引き倒され、その後ろ手を組み敷かれた。
アリエルはそれに一瞥もせず、イエロースネーク家の當主へと目を向けた。
「カーター・イエロースネーク」
「ハッ!」
「私は、エドワードには卒業後、王家の者として外に攜わってもらうつもりでした。主に北方大地、魔法三大國方面への。そのような者の妻に、魔法三大國の一つ、ラノア王國を田舎と罵る者は相応しいでしょうか?」
「まったくもって、相応しくないかと」
「ならば、エドワードの希を通し、エドワード・アネモイ・アスラとヴィオラ・イエロースネークの婚約を解消致します。よろしいですね?」
「ハッ!」
カーターは頭を上げない。
彼は娘と違い、誠実で忠実な男である。
娘のしでかしたことは、當主である自分の責任。
栄えあるアスラ王國王立學校の卒業式を汚し、みっともなく取りして取り押さえられた娘。
恥である。屈辱である。
本當なら、赤の他人だと言いたいレベルである。
しかし、彼は誠実な男である。
娘のしでかした無禮を、己が被るつもりでいた。
今、この場でどんな沙汰がくだされても、それに従おうというのだ。
「……」
そして、アリエルはカーターがそうした人であると、よく知っていた。
だからこそ、息子と娘と婚約者としたのだ。
娘が愚かでそれは解消となったが、父親に罪はない。
あるとすれば教育に失敗したことぐらいだが……。
アスラ王國貴族の、それも父親が娘の教育に口を出すことはない。
それに、どう育てても、ヴィオラのように家柄を傘に調子に乗り、周囲を思いのままにコントロールしようとする者は出てくる。必ずだ。
それはどれだけ教育を徹底しても、分の差がある以上、避けられないことなのだ。
そして避けられない事態を責めるのは、アリエルの矜持に反した。
忠義者には、罰より報いを與えなければならない。
日頃の忠義の報いを。
「今回の一件で、私がイエロースネーク家の評価を下げるつもりはありません」
とはいえ、この場にはもう一人。
謂れのない罪をなすりつけられ、全てを失いかけたがいる。
そのの父親は、アリエルもよく知る人だ。
彼はまだきょとんと、毒気を抜かれた顔をしているが、狀況を理解すれば、その表を憤怒に染めて、怒り心頭でアリエルに詰め寄り、座った目で愚癡を言い始めかねない。
愚癡ぐらい聞いてもいいが、せめて形だけでも罰を與えなければ、彼の顔が立たない。
とはいえ、
「しかしながら、今回の復讐劇(・・・)に加擔したものに逆恨み(・・・)することはじます。甘んじて、家名の侮辱をけれるように」
「寛大なご配慮、謝いたします!」
「それと、娘の教育のやり直しを命じます」
「……ハハッ!」
罰を與えるべきは當主ではなく娘であり、そして王たる自分が娘に罰を與えるほどではない。
アリエルはそう考え、娘に與えるべき罰を、當主に一任した。
王家に対して誠実な忠義者であるカーターなら、十分な罰を與えることだろう。
「以上です。下がりなさい」
「ハッ!」
カーターはアリエルに一禮すると、衛兵に拘束された娘を連れて、そそくさと會場を後にしていった。
流石に、その背中には同の視線が刺さった。
娘が主席で卒業するはずの卒業式。
誇らしい気持ちでいっぱいだっただろう。
実際、カーターは會場でも、自慢げに周囲に話していた。
ルーデウスに対しても「うちの娘は學前は鼻っぱしらばかりが高くてやる気のない子でしたが、この學校では頑張ったようでしてな、嬉しいことに主席を取ったのですよ」などと、はにかみながら話していたのだ。
それがいきなり娘の自を始め、大恥をかくことになったのだ。
心中は察してやるべきか。
「ふぅ……」
アリエルはカーターを見送ると、大げさに肩をすくめた。
「せっかくの晴れ舞臺だというのに、主席がいなくなるとは……前代未聞ですね?」
そしてややおどけた仕草で周囲を見渡した。
アクシデントはあったけど私は怒ってませんよ、パーティを続けましょう、というポーズだ。
らしくない態度であるが、彼がそうしたポーズを取らなければ、卒業式自が取りやめになってもおかしくない。
今日は卒業式なのだ。
アクシデントはあったが、大半の生徒にとっては無関係の出來事である。
卒業式をやめるわけにはいかなかった。
「主席がいなくなっては、一、誰が乾杯をするというのですか?」
すると、いつのまにか側に控えていたルークが、スッと前へ出て、一言進言した。
「次席の者かと」
「なるほど。次席の者は前へ」
すると、アリエルのすぐ目の前から、一歩前に出る者がいた。
エドワードだ。
「母上、私が次席です」
「なるほど、あなたでしたか、流石はアスラ王國の王子。褒めて差し上げましょう」
「ありがたき幸せ」
「では、主席(・・)卒業者エドワード、卒業生を代表して、挨拶を」
アリエルはやや芝居がかった口調だ。
若干楽しそうに見えるのは、最近、王宮であまりこういうアクシデントが無いからか、もしくは、數年前に諦めたはずの計畫が、ひょんなことからまた軌道に乗りそうだと直したからか。
「ハッ! しかしながら母上、私よりも代表に相応しい者がいます。その者は、大勢の生徒を救い、かつての敵すらも味方に変えた者……アスラ王立學校の理念を現したかのような人です」
「エドワード。そのあなたが言う、大勢の生徒を救った者というのは、一どなたなのですか?」
エドワードは當然と言わんばかりに、一人のを指し示した。
「無論、彼です」
「え?」
大勢の視線に曬された時、彼はきょとんとした顔をしていた。
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