（人が死ぬって、何があったのかな）

アインヴェイル王國がどこかの國と紛爭でもしたんだろうか？

そんな話は耳にしたことがない。

お飾り聖でも、多はそういう報は得られるのだ。

特に國家間のことは特に耳にる。遊びに來たサリアン殿下が、々話してくれたりもしたから。

何か異変があったのだとしたら……。

（聖のことぐらいしか）

アインヴェイル王國で今年一番の異変と言えば、霊にされたアリアを聖にしたことだ。

アリアがどういうわけか霊にされるようになり、アインヴェイル王國の神殿が聖として認定した。

その後ラーフェン王國に來るまではこの國にいたので、多大な影響をけたはず。

それにしても、以前の彼は普通の子だったのに、なぜ霊にされるようになったのかしら？

心で首をかしげつつ、私はじっと黙る。

下手にしゃべって、公爵様に「不快だ」と言って殺されては困るから。

そして公爵様は、子供であっても私を警戒しているとわかった。

「し質問に答えてもらおう」

淡々と、ラーフェン王國の神殿のことについて聞かれた。

神殿の構造。毎日何をして暮らしていたのか、とか。

たぶん、私の元が確かに神見習いだと確認するためだと思う。

神殿の構造なんて、他國でもだいたい同じようなものになるはず。見習いの仕事だって國が違っても大幅には変わらない。

だから正直に話しているのか、判斷できる材料になると思ったんじゃないかな。

そして聖シェリーのことも聞かれた。

「ラーフェンの聖の、追放理由は？」

「王族をわせて聖の座を得て國を傾かせた、というものでした。でも、ラーフェンの聖はお飾りの役職なんです。貴族令嬢からくじで選ばれるようなでして……。役職についている間は結婚できないからと、誰もが逃げたがっている、と聞いています」

なにより……と私は付け加える。

「シェリー様は本當は選ばれたわけではなかったそうです。異母妹が聖は嫌だと駆け落ちしたので、家として代わりの娘を出すしかない狀況だったため……と聞きました」

決してなりたくてなったわけではない。

すると年騎士が首をかしげた。

「でもラーフェン王國の聖は貴族令嬢なのに、どうしてそんなにあっさりと斷罪できたんっすか？」

年騎士を、思わず見上げてしまう。

不思議そうな表から、私のような狀況は想像もつかない、ということだろうか。それともアインヴェイル王國の貴族令嬢は、みんな大切に保護されているのかしら？

アガサさんも同じようにじたのだろう。

「ラーフェン王國の貴族の力は、王家よりもかなり弱いのですか？　それとも立場の弱い貴族令嬢だけが聖になるのかしら？」

アガサさんの問いに答える。

「立場が弱い家の令嬢がなるというのは、當たっています。それに加えて、シェリー様は実父を失くされた上、継母に嫌われていることもあって、家から助けがあるわけもなく……」

「それでも、好き勝手に切り捨てては、他の貴族達が王家に不信を持つ。ゆくゆくはそれが王家の力を弱めることにもなるだろうに」

冷靜な公爵様の言葉に、私は続きを口にした。

もっと大きな問題がそこにはあったから。

「でも家の強さは、聖を切り捨てない理由にはならなかったでしょう。聖アリアが、ラーフェンの聖シェリー様の異母妹で、シェリー様を嫌っていたので……。回避は無理だったかと」

「……私怨ってことっすか」

年騎士に私はうなずく。

「そのようです」

答えながら、奧歯をかみしめる。

駆け落ちして嫌な役目を私に押し付けたのに、さらにはその役目からも引きずり下ろし、罪人に仕立て上げたのだ。

思い出すたびに、心の奧が暗くなる。

「ありうる話っすね。あの聖は、この國の食事が気にらない、召使いの態度が気にらない、騎士を全て自分好みの人間で揃えろと我がままばかり言ってたっす。あげくに、故郷に戻るからこんな國滅びてしまえばいいといって、霊にアインヴェイルから出ていくように仕向けたっすよ」

私は目を丸くした。

聖に認定されて良い待遇をけたはずなのに、どうしてアリアがアインヴェイルを気にらなかったのかと不思議だったけど……謎が解けた。

（無茶な要求を繰り返しては、拒否されて逆ギレしたのね！？）

そしてアインヴェイル王國はアリアを聖にしたものの、わりと常識的な対応をしていたということだ。

霊にされているからと、何もかも葉えてしまうような……例えば異母姉を陥れることにも同意するような真似はしなかった。

おかげで、異母姉が嫌いだから追放させたという話も、納得してくれたみたい。

「カイ」

しゃべりすぎたのか、年騎士が公爵様に名前を呼ばれた。

てへっと舌を出して、カイという騎士は黙る。

「聖本人はどうなった？」

「私を逃がしてくれた聖様は、馬車の近くで兵士達に捕まっていました。剣を抜いていたので、たぶん……亡くなられたのではないか、と」

自分が死んだと言うのは、なんとも不思議な気持ちになる。

噓なのに、なんだか嫌な気分だ。

その後は、誰もがしばらく無言だった。

私は噓がバレることが怖くて、じっとうつむいたまま口を引き結んでいた。