魔力石のことだったら、納得できるのだ。

（魔法がうまく使えないって聞いたし、それは霊がいなくて魔力が足りないからで……。それなら補填のためにしがるかなって、作っている時にちょっと想像してたんだけど）

薬については想定外だった。

「薬で……いいんですか？」

驚きすぎて、つい正直に聞いてしまう。

公爵様は、むしろ不思議そうに首をかしげた。無表のまま。

「魔力石を……という話もあったが、作ると倒れてしまうんだろう？　子供のうちからそんなにバタバタ倒れていれば、大人になる前に死んでしまうかもしれない。だから薬の方で良い」

私はぽかんと口を開けてしまう。

え、私のことを心配して、魔力石を買いたいと言わなかっただけなの？

公爵様の口ぶりからすると、おそらく私の作った魔力石について、何人かで話し合いをしたんだと思う。

その結果、錬金師なんだろうという推測をして、だけど魔力石は私が死んでしまう可能があるから辭めよう、という結論を出したらしい。

そしてこの話し合いに、アガサさんやカイのような人が參加したのだろうなと推測できた。二人とも、私が子供の姿をしているから、とても気の毒がってくれていた……申し訳ないほどに。

でも三人だけで話して決めたわけじゃないだろう。

だとしたら、他にも同意してくれる人が多かった、というわけで。

（なんか、こう、アインヴェイル王國の人っていい人ばかりでは？）

ラーフェン王國で同じように魔法がうまく使えなくなったとして、私のように魔力石が作れる錬金師と會った時に、こんな配慮をしてくれる貴族がいる気がしない。

限界までこき使った上で、死んだ後で誰も作れなくなったことに気付いて、大慌てしそう。

……完璧に後継まで手配されて、無理やり教えさせられて、用無しになったら殺されるのも嫌だけど。

アリアの要に対して、私を見捨てて生贄にした一件でラーフェン王國の人間を恨んでいるせいか、そんな想像しかできない。

だからこそ公爵様の話はとても意外で、思わず正直に言ってしまった。

「あれは急時だったからで、普通の作り方をすれば、私が死ぬような狀態にはならないです」

「何！？」

公爵様の表が変わった。

眉と目がつり上り、一見怒っているのかと思うような顔で、バンとテーブルに手をついて私の方に迫ってくる。

「安全に作れるというのか！？」

「ははははい、もちろんそんなに沢山は作れないかもしれないですけど」

思わずを引き、驚きすぎてどもってしまったけれど、私はうなずいた。

「そして私達に譲ってくれると？」

「もちろんです」

私は即答した。

本當なら、値段の渉とかしてからうなずくべきなんだろうって思う。

でも私、公爵様達がむのなら協力したいと思ってしまっている。

殺されそうになったところを助けてくれたし、その後も食住の面倒を見てくれている。何より平民の子供なんて……というじで、利用して使い潰そうと言う気持ちが全くないことが分かるから。

子供に対して、真摯に買取の渉をしてくれる公爵閣下だ。

こんなにいい人って、そういない。

なにより自分のことを考えて、生産量をなめに言ったとしても、公爵閣下はその通りにしてくれるだろう。私の言ったことを信じて。

（取引相手が信頼できる人で、貴族だというのも、◎だよね）

今後もアインヴェイル王國で暮らしていくとしても、後ろ盾としてこの上なく素晴らしい相手だ。

「そうか……魔力石も、ある程度は作れるのか……」

公爵様はしばらく考え込む。

もしかして、私にどれくらいの量が作れるのか、どれくらい作らせようとか考えているのかな？

立場が上の人にあれこれこちらから質問することもできないので、私は食後のお茶を飲みながら、公爵様の考えがまとまるのを待った。

その時間は、約10分ほどだっただろうか。

「まず聞きたい。現狀では、安全にあの魔力石を作ることができるのか？」

「それは無理です。材料がないので……。あれはとっさに悪な代用品と私のと魔力を使って作ったものなのです」

超急的措置だったのだ。

「なるほどな。自分の魔力を使ったのだったら、そうなってもおかしくはない」

公爵様は納得したようにうなずいた。

「薬の方はどうなのだ？」

「そちらも、必要な薬草や鉱石が手にればいいのですが……」

「材料が多そうだな？」

私が言葉を濁したので、調達すべき材料が多すぎて、遠慮していると思ったのだろう。

「材も々特殊で。材料があれば揃えられますが、この町ですぐというのは無理だと思います」

安易に何でもできると言うのは、避けた方が良いと考えて、私は正直に話した。そうしても、この公爵様が起こらないと確信できたからでもある。

公爵様は真面目に聞いてくれて、容を味して答えを返してくれた。

「私としては、今回のようなことがある場合に備えて、お前が魔力石をある程度作ってくれるようになるとありがたいと思っている。他でこのような技を持っている者を私が知らないので、お前に頼みたい」

おおおお、と心の中で私は嘆の聲を上げていた。

公爵様から『お前に頼みたい』と言われる日が來るだなんて。

錬金師が蔑まれる職業だと思っていたので、なおさらびっくりした。