《オーバーロード:前編》プロローグ-1
D M M O R P G<Dive Massively Multiplayer Online Role Playing Game>『ユグドラシル<Yggdrasil>』。
2126年に日本のメーカーが満を持して発売した型MMOだ。
型というのは専用コンソールを利用して、外裝に五を投し、仮想の世界で現実にいるかのように遊べるゲーム一般を指す言葉である。
このシステムが生まれたのが2079年。
最初は軍事、醫療の分野での使用を目指して開発されたのものであり、基本的なコストが高額だったが、10年後には非常に簡素化し、一般家庭でも所有することができるまでになった。
とはいえシステムの開発費が非常に掛かるために、ネット商店や観地という分野から発展していった技によって、最初のDMMORPGが生まれるまでに15年の歳月が流れることとなるのだが。
DMMORPGの1つ、『ユグドラシル』がなにより凄いのはそのデータ量だ。
なれる人種も人間やエルフ、ドワーフに代表される基本的な人間種。ゴブリンやオークといった外見は醜悪だが能は人間種よりも優遇される亜人種。モンスター能力を持つがかなり々な面でペナルティをける異形種。と420種類。
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さらに職業の數は基本や上級職業等を合わせて880。無論、前提等ではじかれてしまうためなれる職業はその半分程度にもなるが、それでも膨大な量だ。
そしてこの職業は前提條件さえ満たしていれば、つまみ食いだって可能。職業は最大で15レベルまでしかないため、限界レベルの100まで長したならどんな人間でも7つ以上は職業を重ねていることとなる。
やろうとするなら不可能かもしれないが100個の職業を重ねることだってできるのだ。弱いだろうけど。
つまり意図的を除いて、同じキャラクターはほぼ作れないだけのデータ量があるのだ。
また作りこみ要素だって半端じゃないレベルである。別販売となっているクリエイターツールを使うことで、武・防の外見、自分の外裝から、自らが保有する住居の詳細な設定を変化させることができるのだ。
例えばドラゴンを倒したとしよう。お金と経験値、あとはアイテムが落ちるのが通常のDMMO。だが、これは違う。経験値とお金が落ちるのは普通のと変わらない。だが、アイテムの代わりにデータが詰まったクリスタルが落ちるのだ。
こんなデータだ。
長さ:+1、重量:40、理ダメージ5%向上、効果:追加ダメージ/炎+10、効果:『武技』ラッシュ+1、
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実際のデータはもっと々な詳細があるが、漠然と述べてしまえばこんなじだ。
このデータをクリエイトツールでいじって作った外裝にくっつけ、オリジナルの武を作るのもよし。MMOで売られている外裝をもらってくっつけても良い。
こうすることでオリジナルアイテムが無限に作される。
さらにネクロマンサーという職業であればドラゴンの死からアンデッドモンスターを作ることもできるし、ベルセルクという戦士系職業なら死のを浴び、ボーナスを得ることもできる。ドラゴンの骨からゴーレムを作るクラスだってあるし、薬を作る職業だってある。
通常のDMMOなら直ぐに消えてしまうだろう死にも、職業によって様々な利點があるのだ。
ドラゴンの骨から作り出したゴーレムもある意味、データだ。これをある程度ならクリエイトツールを使って外裝をいじり、自分だけのゴーレムを作ることもできる。さらに基本AIをある程度改変し、門番や運搬用等にも使うこともできる。
日本人のクリエイター魂にガソリンかニトロをぶち込んだようなこの要素こそが、外裝人気ともよべる現象を起こした。
2チャンネルや公式ホームページ上での競っての自作データの配布。神職人とも呼ばれる存在の出現。イラストレイターとの提攜によるスペシャル外裝のプレゼント等。
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戦闘AIを強化したものや、貓AIという可い系ペットAIを公表する者。
『ユグドラシル』は今まで戦闘が主になっていたDMMOとは一風変わった遊び方、懐の深さを持っていたのだ。
そしてクリスタルのようにき通った刀を持つ非常に細な剣と、単なる鉄の剣では、外裝に必要とされるデータ量が全然違う。その外裝のデータ量は鉱等の資源によって決まっているのだ。
そのためモンスターを倒すのではなく、資源を探したり、新しい発見を求めたまさに冒険者とも呼べるような楽しみ方を求めたプレイヤーが続出。
そんな境や未知を求めて旅立ったプレイヤーを待ち構えていたのは広大なマップ。
アースガルズ、アルフヘイム、ヴァナヘイム、ニダヴェリール、ミズガルズ、ヨトゥンヘイム、ニヴルヘイム、ヘルヘイム、ムスペルヘイム。9つのそろぞれ特徴のある世界は1つ1つが現実世界の東京2つ3つほどの大きさだろうか。
辺境にいたら自分以外のプレイヤーに1週間會いませんでした、というのは珍しいことではない。
無限の楽しみを追求できるDMMO。
開発元のメーカーの有名な発言、『強さがすべてではない、DMMO』はまさにそれを現したものだろう。
そんなこんなが合わさり、DMMOといえばこのゲームを指すともいっても良いほどの人気を日本で打ち立てたのだ。
だが、それも一昔前だ。
ナザリック大地下墳墓。
8階層によって構される巨大な墳墓であり、兇悪を知られることで有名なダンジョンである。
かつて6ギルド連合および傭兵プレイヤーやNPC合わせて1500人という、サーバー始まって以來の大軍で最下層を目指し、そして全滅したという伝説を生み出した場所でもある。
それをなしえたのは別にモンスターの出現レベルが高いわけではない。
基本のルール通り最高で30レベル程度だ。『ユグドラシル』のカンストレベルは100であり、1500人の中の1/3がそうであったという事を考えれば、さほど強敵にはならない。それどころか紙のようになぎ払えるであろう。
ただ、そこに出現するアンデッドモンスターの特――負のダメージよって回復し、正のエネルギーでダメージをける。即死攻撃や神攻撃を無効とする、などなど――というものを生かした作りとなっているのが大きい。
幾層に渡って負のダメージを――1點程度だが――與え続けるエリアエフェクトと、回復魔法――正のエネルギーに関する魔法の効果を阻害するエリアエフェクトがかかっている。
さらにはパーティーを分斷するための転移系の罠を代表とする様々な罠が張りめぐらされ、視界の効かない空間や猛毒の空気が込められた部屋等が冒険の行く手をさえぎる。
またゾンビやスケルトンに代表される通常のアンデッドモンスターに加え、オリジナルのモンスターもそれなりに用意されているのも全滅の大きな要因の1つとなった。
膨れ上がったゾンビのような姿をし、死亡すると同時に発、負のダメージを與えると同時に周囲のアンデッドを回復させるplague bomber<プレイグ・ボンバー>。
壁をすり抜け、脆弱化の接によるヒット・アンド・ランによって能力値にダメージを與えてくるghost<ゴースト>。
即死や神攻撃の絶を上げるscreaming banshee<スクリーミング・バンシー>。
何十ものスケルトンが融合したような姿で複數回攻撃を行ってくるdeathborn totem<デスボーン・トーテム>。
これ以外にも何十種類という生理的嫌悪をかきたてるような様々なアンデッドが待ち構える。
もちろん敵はアンデッドだけ、なんていう対処の取りやすいようなことはしてくれない。
召喚陣より不意を撃つように現れるエレメンタルやデーモン、デビル等。召喚されるモンスターの選択は相手が嫌がるだろうということを前提にした険なものだ。一言でいえば致命的な特殊能力を持っているものが選ばれるということか。
そして當然のように下層にもなれば上位のモンスターも多數出現する。
どれだけの資源がつぎ込まれたか想像もできないほどの厚いモンスター層だ。
さて、ナザリック大地下墳墓は8階層で構されている、というのはあくまでも一般的な報である。侵者では最高で8階層まで降りた者しかいないためにそう思われているにしか過ぎない。
実のところ10階層で構されているのだ。
そして9階層にったところからこの墳墓の風景は一変する。まるで白亜の城を彷彿とさせるような景へと。
天井にはシャンデリアが無數にかけられを放ち、部屋の一つ一つにも王侯貴族が生活するような調度品が置かれている。磨き上げられたような床は、大理石のごとき輝きだ。
知らないものが見れば目を疑うであろうか?
それとも當たり前と考えるだろうか?
ここナザリック大地下墳墓こそ、DMMO『ユグドラシル』上、最高峰とも呼ばれるギルド『アインズ・ウール・ゴウン』の居城なのだから。
ナザリック大地下墳墓、第9階層――
汚れが一つも無い大理石でできたような通路を抜け、歩いていくとそこにマホガニーでできた巨大な両開きの扉がある。
その中には黒曜石でできた巨大な円卓があり、41人分の豪華な席が據え付けられている。
ただ空席が目立つ。
かつては全員が座っていた席に今ある影はたったの2つだけだ。
席の1つに座っているのは、金と紫で縁取りされた豪奢な漆黒のローブを纏った人だ。
とはいえ普通の人間ではない。ひからびた死を髣髴とさせる、骨にわずかばかりの皮がついたような姿。
空っぽな眼窟の中には赤黒いが揺らめいていた。
もう1つは黒のドロドロとした塊だ。コールタールを思わせるそれの表面はブルブルとき、1秒として同じ姿をとってないようにも思える。
前者は魔法使いが究極の魔法を求めアンデッドとなった存在――リッチの中でも最上位者、overlord<オーバーロード>であり、後者はelder black ooze<エルダー・ブラック・ウーズ>。兇悪なまでの酸能力を保有したスライム種ほぼ最強の存在だ。
最高難易度のダンジョンで時折姿をみせるそれは、冒険者の中でも嫌われ者として名高い。
そんな嫌われ者第一人者である、オーバーロードが聲を発する。口は當然いていない。
「ほんと、ひさしぶりでしたね、ヘロヘロさん」
「いや、本當におひさーでした」
「えっと転職して以來でしたっけ?」
「それぐらいぶりですねー。実のところ今もデスマーチ中でして」
「うわー。大変だ。大丈夫なんですか?」
「ですか? ちょーボロボロですよ」
エルダー・ブラック・ウーズが腕をばし、奇妙な踴りにも似た行を見せる。
「といってもこのご時世休めないんですけどねー。におもいっきり鞭打って働いてます」
「うわー」
「まじ大変です」
やがて2人の會話は互いの仕事に対する愚癡へと変化していく。
『アインズ・ウール・ゴウン』に參加するには幾つかの決まりごとがある。その一つは社會人であること。もう一つは外裝の人種が異形種であることだ。
しばらく盛り上がってた會話も1段落し、2人の會話が途切れる。
お互いにこれからがどうなることか知っての沈黙だ。
「いやー、それなのに來てもらって悪かったです」
「何をおっしゃいます。こっちも久しぶりに皆に會えて嬉しかったですよ」
「そう言ってくれると助かります」
「まぁ、本當は最後までお付き合いしたいんですが、ちょっと眠すぎて」
「あー。ですよね。落ちていただいて結構ですよ」
「ギルド長はどうされるんですか?」
「私は一応最後まで殘ります。誰かが來るかもしれませんから」
「なるほど。……今までありがとうございました、モモンガさん。このゲームをこれだけ楽しめたのは貴方がギルド長だったからだと思います」
モモンガといわれたオーバーロードは大げさなジャスチャーでそれに答える。
「そんなことはありません。皆さんがいたからこそです。私なんか特に何かしたわけではないです」
「それこそ、そんなことがないとは思いますが……本當にありがとうございました。では私はこれで」
「ええ。お疲れ様でした」
そして來てくれたギルド員6人の最後の1人が消える。
モモンガはヘロヘロのいた席をほんのしだけ眺め、何かを振り払うようなしぐさをとりながらゆっくりと立ち上がる。
向った先には、1本のスタッフが飾られてあった。
ケーリュケイオンをモチーフにしたそれは、7匹の蛇が絡み合った姿をしており、口にそれぞれ違ったの寶石を加えている。握りの部分は青白いを放つ水晶のようなき通った材質で出來上がっていた。
誰が見ても一級品であるそれこそ、各ギルドに一つしか認められないギルド武であり、『アインズ・ウール・ゴウン』の象徴とも言えるである。
本來ならギルド長が持つべきそれが何故この部屋に飾られていたのか、それはこれがギルドを象徴するもので他ならないからだ。
このギルド武を作り上げるために皆で協力して冒険を繰り返した日々。
チーム分けして競うかのように材料を集め、外見を如何するかでめ、各員が持ち寄った意見を纏め上げ、すこしづつ作り上げていったあの時間。
それは『アインズ・ウール・ゴウン』の最盛期の――最も輝いていた頃の話だ。
彼はそれに手をばし、途中できを止める。
今この瞬間をおいてなお、皆で作り上げた――輝かしい記憶を地に落とす行為に躊躇いを覚えたのだ。
最後までここに置いておくべきでは無いだろうか。
仕事で疲れたに鞭を打って來てくれた人がいた。家族サービスを切り捨てて、奧さんと大喧嘩した人もいた。有給を取ったぜと笑っていた人がいた。
1日おしゃべりで時間が潰れたときがあった。馬鹿話で盛り上がった。冒険を計畫し、寶を漁りまくったときがあった。敵対ギルドの本拠地である城に奇襲を掛け、攻め落としたときがあった。最強クラスのボスモンスターに壊滅しかかったときがあった。未発見の資源をいくつも発見した。様々なモンスターを本拠地に配屬し、突してきたプレイヤーを掃討した。
今では誰もいない。
41人中、37人が辭めていった。殘りの3人だってここに來たのはどれだけ前だったかは覚えていない。
そんな殘骸のようになったギルドだが、輝いていた時代はあったのだ。
そんな輝いていた時代の結晶。だからこそ今の殘骸の時代に引きずり落としたくない。
だが、それに反比例した思いもまた彼のにあった。
『アインズ・ウール・ゴウン』は基本多數決を重んじてきた。ギルド長という立場にはいたものの、彼が行ってきた行為は基本的には雑務であり、連絡係だ。
だからだろうか。ギルド長という権力を使ってみたいと、今始めて思ったのは。
逡巡し――
彼は手をばし、杖――スタッフ・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを摑み取る。
手におさめた瞬間、スタッフから揺らめきながら立ち上がるどす黒い赤のオーラ。時折それは人の苦悶の表をかたちどり、崩れ消えていく。
「……作りこみ、こだわりすぎ」
作り上げられてから一度も持たれた事の無かった最高位のスタッフは、ついにこの時を迎えるに當たって本來の持ち手の手の中に納まったのだ。
彼は自らのステータスが劇的に上昇するのをじながら、寂しさもまたじていた。
「行こうか、ギルドの証よ。いや――我がギルドの証よ」
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