《オーバーロード:前編》魔法

魔法職というのは人気がある分、非常にめんどくさい。そして將來設計をしっかり立てておかないと役立たずになる職業、とユグドラシルに詳しいプレイヤーは口にする。

まず、ユグドラシルの魔法はクリエイトツールで作れない代わりに膨大な數量がある。

數にして3000強。

もちろんそのすべてが使えるわけではない。魔法職は大きく分けて4系統存在する。

神の奇跡を行う聖職者や神に代表される――発能力値に信仰心が重要な系列、魔師や使いに代表される――発能力値に魔力が重要な系列、符撃や巫に代表される――発能力値に神力が重要な系列、最後に発能力値にその他の能力値が重要な系列に分かれている。

そして各クラスごとに、習得可能なスペルリストが存在する。

ウィザードであれば第1位階魔法になんとなんの魔法があって、第2位階魔法にはなんの魔法がある。だが、アーケイナーには第1位階魔法にはこれがあるが、ウィザードにはあったこれはって無いという合だ。

こうやってプレイヤーはレベルアップ時に選んだ職業の、スペルリストに記載されている魔法の中から、1レベルごとに3つづつ新しい魔法を選択して習得ができる。こうして100レベルにもなれば300個の魔法を選択し、使うことが可能となるのだ。

ただ、この系列は別系統と見なされており、積み上げたクラスとは別に魔法の行使レベルが計算されている。そのため下手なクラスの取り方をすれば、100レベルに到達したのに信仰心系列は第4位階まで、魔力系列は第6位階までということにもなりかねない。

適當な説明だがウィザードを60レベル取って、クレリックを40レベル取ったからといって、信仰心系列の魔法を最高レベルの第10位階まで使えるという事では無いということだ。

そして最大レベル――100レベルで習得できている魔法の數、300。

これが多いかないかは、魔法職に就いているプレイヤーなら斷言するだろう。圧倒的にないと。習得魔法可能數と比べてではない。

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まず魔法の習得には前提條件がある場合がある。これは前提條件を満たしておかないと、その魔法を習得できないというものだ。特定職業、特定イベント、特定アイテム等によって。そして特定魔法――前提魔法という分類だ。

読んで字のごとく、前提となる魔法を習得しておかなければ得ることのできない魔法があるのだ。

そのため前提魔法に習得できる魔法の1/3を費やされたとか、しいと思っていた魔法を得るための前提魔法がクリアできなくて諦めてしまったというプレイヤーの話はありがちなものなのだ。

さらには職業ごとにスペルリストが違うため、何を選択していくのかという問題もある。しい魔法がスペルリストに無かったりする場合は非常に多く、わざと死んでクラスを取り直すということだって珍しくは無い。更には取ったは良いが能力値的に微妙になってしまう場合だってあるのだ。

例えば《ファイヤーボール/火球》の魔法である。これは基本的に使う能力値は魔力である。これによって魔力が高く、レベルが高い者ほどダメージ量や距離等が高くなるわけだ。

そして仮に信仰心系列の職業の何かのスペルリストに《ファイヤーボール/火球》があったとしよう。信仰心系列の魔法を使うクラスの魔力の上昇率はさほど高くない。

ではそのクラスが《ファイヤーボール/火球》を使った場合はどうなるか。

ダメージ量や距離等において魔力系列の者に比べればはるかに劣るだろう。

ユグドラシルの魔法職が頭を悩ます魔法の選択は、こうやってなっているのだ。

確かに特定目的のみを追求する魔法職なら300は充分余る數だろう。

有名なところではモンスターと戦うことのみを目的とする戦闘系魔法職――一般的なDMMORPGのプレイヤーに多い魔法職の選択魔法はバフと攻撃の特化型だ。

相手にダメージを與えることのみを追求するというのは実に正しい姿だ。魔法職に求められるのは局面を変化させることのできる能力なのだから。強いモンスターを簡単に撃破してくれるならそれに越したことは無いだろう。

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ただ、ユグドラシルにおいて通常のDMMORPGに比べて魔法の習得數が圧倒的に多い理由は、魔法が戦闘行為しかできない一般的なDMMORPGと違い、様々な用途に使えるからだ。

例えば金屬探知の魔法も低位から高位まであるし、金屬を製する魔法だってある。地中を見る魔法や、土を低位の金屬等に変化させる魔法だってある。

転移魔法だって無數だ。ミスがある長距離転移、ミスの無い長距離転移、派手な何の意味も無いエフェクトを起こす転移、二者の場所を換する転移、パーティーメンバーを集結させる転移。最寄の街への転移、短距離転移を時間であれば無數に繰り返せる転移。このほかにも多くある。

知魔法だって、周辺にいる敵の知や、姿を消している対象の発見、相手の魔法発知、特定品の知、対抗知魔法、特定條件知等無數にある。

頭を使うことで攻撃魔法を発するより、特定狀況下で戦況を打破しやすい魔法というのは無數にあるのだ。

そのため習得できる300個という魔法の數は、危険な狀況について考えられる頭を持つ側からすると、それほど多くはじられない。それどころかないぐらいなのだ。

そして1度選んだ魔法は通常は換することができないため、レベルアップ時の魔法習得の際、選択するのに1日とかけるのはそれほど珍しいことではない。ユグドラシル攻略wikiでもっともデータ量が多いページが魔法の項目だといえば理解しやすいだろうか。

ではモモンガはというと、課金アイテムを保有しているため、さらに追加で100個の魔法を収めている。さらにはPK<Player Killer>を繰り返し、特殊な儀式イベントをこなしたことにより、318個。総數718個の魔法を習得している。

その習得容は単純な破壊系魔法よりは絡め手の魔法や死霊系魔法に特化している。それにあわせ職業もそういう系統を選んで、よりそっち系の魔法を強化してきた。

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そのため、ダメージ力という面では戦闘特化系の魔法職には負けるものの、局面打破力においてはほぼ並ぶものがいないだろうと、自負している。逆に探査、捜索系の魔法は重要なもののみで、習得數はないためにかなり劣るだろうということも認識していた。

モモンガは闘技場の隅に立てられた藁人形にゆっくりと指をばす。

モモンガが多く修めている死霊系魔法は無生には効き目が悪い。単純な破壊系魔法の方がこのような場合は優れている。

チラリと橫目でアウラを伺う。

きらきらと輝きという名の好奇心が瞳からもれ出ている。

その両橫に巨大なモンスター。

3メートルの巨は逆三角形。

人間とドラゴンを融合させたような骨格を覆う筋は隆々と盛り上がっていた。その筋を覆うのは鋼鉄以上の度を持つ鱗。そしてドラゴンを思わせる顔。大木を思わせる尾。翼こそは無いが、直立したドラゴンに良く似ていた。

ドラゴンキン――『ドラゴンの近親者』の名を持つモンスターだ。

太さが男以上の上腕で、長さが自らの長の半分ほどのぶ厚い――剣なのか盾なのか良く分からない武を持っていた。

アウラは本人の戦闘能力を犠牲に、ビーストテイマー〈魔獣使い〉として最高位の能力を得ている。自らのしもべなら戦闘能力を最大1.25倍まで上げることを可能とする。しもべの數は総數100

そのうちの2があれで、この闘技場の片付け係だ。

「ふぅ」

モモンガは小さく息を吐く。

アレほどまでの期待に満ちた目で見られても正直困るのだが。

今回の目的は魔法が本當に発するかどうかの実証である。

アウラに魔法の発実験の參加を許可した理由は、他の守護者が來る前に自らの力を見せ、敵対することの愚を教えるためである。即座に裏切るようなじは無いが、モモンガの魔法の力が仮に失われていた場合でも忠誠を盡くすかどうかに関しては不明というより、信じ切れない。

アウラはそうではないようだが、モモンガからすれば始めて會ったに等しい相手だ。確かにキャラクターの設定等はギルド皆のアイデアが詰まっている。だが、それが1つの知として存在した場合、設定以外の面が必ず出てくるはずだ。その設定以外の面に弱い相手にも忠義を盡くす、というものが無かった場合はどうなるというのか。無いならまだ良い。かりに上に立つものが弱かった場合は打ち倒すとあったら。

必要以上に疑って掛かる必要は無いが、信頼しきってくのは馬鹿のすることだ。

石橋を叩いて渡る。それは現狀ではモモンガにとって當たり前の考え方だ。

それでは本當に発するか、1人で魔法の実験を行った方が正解かというと大はずれだ。もし魔法が発しなかった場合、さりげなく聞く相手は必要だ。そうしなくては本當に魔法が使えないのか、それとも使い方が悪いのか分からない可能がある。

アウラは習得魔法の數は多くは無いが、それでも最高位までの魔法の行使を可能としている。もし何かが間違っているなら聞くことができる。

仮に魔法が発しなくても問題はない。

なぜならアウラはスタッフの力を確かめに來たと思い込んでるからだ。マジックアイテムの力が発するのは実証済みなのだから、いくらでも言い訳は立つだろう。

モモンガは暗記している718の魔法を検索する。

今に最も適した魔法は何か。

まずはフレンドリィ・ファイアについて知らなければならないので範囲魔法。なら――。

ユグドラシルの魔法の使い方は浮かび上がるアイコンをクリックするだけで良い。それが出ない今、別の手段で行う必要がある。恐らくやり方の一端はすでに摑んでいる。

己の中に埋沒している能力。

負の接を遮斷したときと同じように、意識を向ける。アイコンがまるで空中にあるかのように――。

そしてモモンガはうっすらと笑った。

《――ファイヤーボール/火球》

突きつけた指の先で炎の玉が膨れ上がり、打ち出される。

狙いは誤らずに藁人形に著弾。火球を形していた炎は著弾の衝撃で弾け飛び、部に溜め込んだ炎を一気に撒き散らす。

膨れ上がった炎が周辺の大地を嘗め盡くした。

それもすべて一瞬のこと。

すでに何も殘っていない。殘滓として焦げ付いた藁人形を殘して。

「ふふふふ」

「?」

含み笑いをもらすモモンガに不思議そうな視線を送るアウラ。

「――アウラ。別の藁人形を」

「あ、はい、ただいま! 持っていって」

ドラゴンキンの1が藁人形をすえる。それと同時に魔法が効果を発揮する。

《エクスプロード/破裂》

上半が中から吹き飛び、周囲に藁の切れ端が舞う。半分以上弾けとんだ頭部を形していた藁が、直ぐ側にいたドラゴンキンのに當たって落ちる。

ドラゴンキンがかすかな唸り聲を上げながら、モモンガに鋭い視線を送る。

魔法が発する今、大して恐ろしい相手でもない。ドラゴンキン程度瞬殺できる自信がある。とはいえ、飼い主に謝る必要はあるだろう。そう考えたモモンガはアウラに顔をむけた。

「……すまん。もうし離れてから使うべきだったな」

「――え? 藁をかぶっても気にしませんです、はい」

ドラゴンキンの直ぐ側で魔法が発したにもかかわらず、アウラに驚く様子も心配している様子も無い。手をパタパタ振って、モモンガが謝罪してきたことに驚きを示している。

これは目標が1対象の魔法は目標を逸らさないのか。それともこちらを信頼しているのか。はたまたはドラゴンキンが死んだとしても気にしないためか。

とりあえずは魔法の発は確認できた。ユグドラシルでのすべての能力は使えると斷定しても良いだろう。

では次に期待はできないがGMと連絡をつけるように魔法を使う番だ。

モモンガは魔法を発させる。

《メッセージ/伝言》

連絡する相手はまずはGM。

ユグドラシルであればゲームにってきている場合は攜帯電話のコール音のようなものが聞こえ、ってない場合はコール音すらしないで直ぐに切れる。

今回はその中間とも言うべきものか。言葉にするには非常に難しいが、糸のようなものがび、何かを探っているような覚がする。だが、そのままつながる気配無く、魔法は効果時間を終わらせる。

やはりという思いと失。どちらも同じぐらい強い。

モモンガはそのまま同じ魔法を繰り返す。対象はGMではない。アインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーだ。

しかしながらやはりというべきか、當然というべきか。誰からも返事は無かった。

モモンガ軽くため息をつきたい気持ちを押し殺しながら、次の手を考える。

セバスと連絡を取るというのも悪くは無いが、とりあえずは――。

スタッフに集中し、力を引き出す。

《サモン・プライマル・ファイヤーエレメンタル/源の火霊召喚》

スタッフを突きつけた先に、巨大な球が生じ、それを中心に桁外れな炎の渦が巻き起こった。巻き起こった渦は加速度的に大きくなり、直徑10メートル、高さ15メートルまで膨らむ。

吹き荒れる紅蓮の煉獄が周囲に熱風を巻き起こす。視界の隅で2のドラゴンキンが巨を持って、その熱風からアウラをかばおうとしている。バタバタとモモンガのローブが熱波に煽られはためく。火傷ぐらいしても可笑しくは無い熱量だが、炎への絶対耐を有しているモモンガに影響は無い。

やがて周囲の空気を食らい充分に大きくなった炎の竜巻が、融解した鉄のような輝きを放ちながら揺らめき、人のような形を取る。

プライマル・ファイヤーエレメンタル――元素霊の限りなく最上位に近い存在。レベル80という高さを持つモンスターだ。

「うわー……」

アウラが嘆の聲をらしながら見上げている。

召喚魔法では決して呼び出すことのできない最上位クラスの霊を前に、んでいたおもちゃをもらった子供のような表を浮かべていた。

「……戦ってみるか?」

「え?」

一瞬ほうけてから、アウラは無邪気な子供の笑みを浮かべる。子供のものにしては々――いや、かなり歪んではいるが。

「良いんですか?」

「かまわんよ、別に倒されたところで問題は無いからな」

肩をすくめるモモンガ。スタッフの力で召喚したこれはまた明日になれば召喚できるはずの存在だ。別に倒されても問題は無い。

「それより大丈夫か? 単純な力押し系は苦手だろ?」

「んー。大丈夫です。炎ダメージは無効にできますし、何とかなると思います」

話を半分聞き流しながら、アウラは準備をし始めている。すでに頭の中ではどのように戦闘をしていくかを考えているのだろう。

「……無理はするなよ?」

「はい!」

威勢の良い返事だ。アウラは作戦が決まったのか、両脇にいたドラゴンキンに離れるように指示を出した。恐らくは1人で戦うつもりなのだろう。

「プライマル・ファイヤーエレメンタル――」揺らめき燃え上がる炎の塊がき出す。「アウラを倒せ。ただし倒れたらそこで終わりだ。帰還せよ」

炎の巨人は巨大な拳のような炎の塊を作り出し、炎が下生えを燃やしながら進むような速度でアウラに近づきだす。アウラは両手に鞭を取り出し、それを迎撃せんと待ち構える――。

アウラが戦闘を開始するのを橫目に、モモンガは思いにふけっていた。

これからどうするか、である。

問題は々調子に乗って魔法を使いすぎたことだ。まだまだMPに余裕はあるが、それでも何が起こるかわからない以上、溫存する必要がある。できれば回復させたいところだが……。

魔法には位階というものがあり、これが1~10。そして超位<オーバー>と呼ばれるものに分かれている。

魔法のMP消費はこの位階というのが重要となってくる。この位階の分だけMPを消費するのだ。

例としてMP100點持っている魔法使いがいたとしよう。その人は位階1の魔法なら100回唱えられるし、逆に位階10の魔法なら10回しか使えないということになる。

オーバーはまた別の計算になるので除外だ。

これに魔法強化――例にするなら魔法無詠唱化、魔法強化、魔法屬変化等――をれた場合はより大きいMPを使う。

MPの回復速度は全快するまでに実時間で6時間はかかる。つまり調子に乗って最高位の魔法ばっかり使っていればすぐにガス欠となってしまう。

ちなみにMPは基本的にはレベル×10。これに能力値ボーナス、特定特技、裝備修正、クラス修正等が點く。モモンガなら現在1980ポイントだ。これはスタッフ・アインズ・ウール・ゴウンの効果が大きく、ユグドラシルの魔法職でもトップクラスだ。基本的にレベル100で大1300ポイントぐらいだと知れば、その容量の大きさは理解できるだろう。

消費したMPを回復させようにも、MP回復ポーションなんて便利なものはない。唯一の回復方法は時間の経過ぐらいだ。

そのため魔法職でのソロでの狩りはMP回復がほとんどなのか――というと半分だけそうでもない。

それは巻、杖、短杖という存在だ。

これらは魔法が込められており、スクロールは一回っきり、スタッフ、ワンドは決められた――チャージ回數だけ魔法を発させることが可能なアイテムだ。

ただ、魔法の威力や効果時間が固定されている。

レベル10の魔法職の使う防魔法の効果時間が10分だとしたなら、スクロールから同じ魔法を発した場合、固定された時間――大使用できるようになったレベルの魔法職の発する時間の半分程度しか持たない。この場合なら5分か。

時間が短いのと同様に威力も弱い。

半分までは行かないがダメージ量は3/4ぐらいだろうか。

一応、他にも実時間で1日何回と決まった回數だけ、消費せずに魔法を発させることのできるアイテムの存在もある。

モモンガの召喚したムーンウルフもプライマル・ファイヤーエレメンタルもその系統のアイテムの効果だし、左腕につけたバンドも同じように特定の魔法を1日に複數回発できる。ただこれらのアイテムはかなり高額な商品であり、おいそれと手が出せるものではない。

そしてワンドやスタッフもそこそこの値が張り、スクロールは低位のものが殆どだ。

結局そっちに金をつぎ込むとその他のアイテムに回せなくなる。

そのため魔法職は自分のMPだけでやりくりしようと努力する。スタッフやワンド、スクロールは切り札的存在にしようと溫存するのだ。

その結果、ログアウト中も時間の経過があるので、ソロの場合はMPが盡きたらログアウトし、次の日にまた始めるというのが魔法職の基本だ。

しかし今は時間が無い。モモンガは左手首のバンドに視線をやる。あと20分ぐらいで他の守護者が來ることになっている。それまでにあらかた調べておく必要がある。MPを回復させる時間は無い。

――あと調べなくてはならないこと。

魔法、アイテムの起は終わった。殘るは持ちだろうか。

モモンガもスクロールやワンド、スタッフはかなりの數を保有している。格上、消費アイテムは勿なくて使えない派だ。テレビゲームでも最高級品の回復剤とかはラスボス戦ですら使わない。慎重というより貧乏の類だろう。

そんなモモンガの保有するアイテム。ユグドラシルであればアイテムボックスにっているアイテムは現在どこにあるのだろうか。

モモンガは中空にその骨しかない手をばす。

アイテムボックスを開くときを思い出しながら――。

ばした手が湖面に沈むように何かの中にり込んだ。外からすればモモンガの腕が途中から消えたように見える。

そのまま窓を開けるときと同じように橫に大きくスライドさせる。

何本ものスタッフが綺麗に並んでいた。これこそまさにユグドラシルのアイテムボックスだ。

手をかし、アイテム畫面ともいうべきものをスクロールさせていく。スタッフ、ワンド、スクロール、武、防、裝飾品、寶石、ポーションに代表される消費アイテム……。膨大な數の魔法の道の數々。

モモンガは笑う。

安堵を持って。

これならこの大墳墓の大の存在が敵に回ったとしても、己の安全は守りきれると分かったのだから。

今だ激戦を繰り返すアウラを見ながら、モモンガは今まで得た報を纏め上げながら思いにふけっていた。

まず、今まで會ってきたNPCはプログラミングか?

否、意識を持った人間と変わらない存在だ。これだけの細かなを人間程度のプログラミングで表現することはできるわけが無い。何らかの事態でプログラムではなく人間と同等の存在になったと仮定すべきだ。

次にこの世界はなんだ?

不明だ。魔法が存在するということを考えると何らかのゲームと考えるのが妥當だが、前の疑問をあわせて考えるとゲームとはとうてい思えない。そうすると魔法が存在する世界……異世界と考えるのが妥當なんだろうか?

自らはこれからどのように構えるべきか?

ユグドラシルでの力を使えるということは確認できた。したがってこのナザリック大地下墳墓において強敵となる相手は、ユグドラシル上のデータを基本に考えればいない。問題はユグドラシルのデータ以外の何かがあった場合だが、そのときは開き直るしかないだろう。取り合えずは上位者として威厳をもって――威厳があるならだが――行するほか無い。

これからの行方針は?

報収集に努める。この世界がなんなのか不明だが、今現在は単なる無知の旅人にしか過ぎない。油斷無く、慎重に報を収集すべきだ。できればセバスが良い報を持ってくることに期待か。

仮に異世界だとして、元の世界に戻るよう努力すべきか?

疑問だ。元の世界に未練があるかといわれたなら、1/3ぐらいはあるといえる。

もし友達がいたなら帰る努力をしただろう。

もし両親が生きていたなら、死に狂いで探しただろう。

だが、そんなものは無い。

會社に行き、仕事して、帰って寢る。今までなら帰ってからユグドラシルにり、いつ仲間が來ても良い準備をしていたが、それももはや無い。今ですら1日、仕事のことを除いて話をしたりしないのだ。

そんな世界に帰る価値はあるのだろうか?

ただ、戻れるなら戻れる努力をした方が良い。選択肢は多いに越したことは無い。外が地獄のような世界である可能も充分にありえるのだから。

「さてどうするか……」

モモンガのさびしげな獨り言が空中に散っていた。

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