《オーバーロード:前編》冒険者

羊皮紙に必要な事項を書き、イシュペンはその上で手を振って風を送る。インクが乾くのを待つ間、暇なので目の前にいる男――モモンに話しかけることにする。無論イシュペンも話しかけるならもっと良い男の方が嬉しいが、目の前の男も顔立ちが殘念なことを除けば然程悪い男ではない。

「講習はこれからで良いんですか?」

「講習?」

不思議そうに鸚鵡返しをするモモン。

あー、その辺のことも説明しないと不味いのかー。と、イシュペンは頭を抱えるが、今日は幸運にもこれといった仕事も無い日だ。ぱっぱと説明を終わらせてしまえば良いだろう。

「講習。一応、冒険者は危険な仕事なんです。だからちゃんと説明して、命を失っても文句をどこからも言われない形にしなくてはならないわけなんです」

その辺のことが理解できていない人間というのは驚くべきことにいたりするのだ。そのためにギルドは責任回避のために相手の意思をけ取りつつ、最低限の説明を行うことで死傷率を下げようというのだ。ちなみに、講習の段階で冒険者を辭めても書類代とかは當然返ってこないシステムになっている。

「そういうものなんだ」

「そういうものなんです」

「それで講習というのはどういうことをするの?」

イシュペンは口調に違和じるが、どこにそれをじたか分からなかったためそのまま流す。

「基本的な冒険者の知識ですね」

「なんだ、剣を見るんじゃないんだ」

「いえ、剣の腕は見ませんよ。剣の腕が劣っていたなら責任を取るのはご自なわけですから」

「確かに」

モモンが頷くのを見てイシュペンは苦笑した。

冒険者と言う職業は自己責任だ。

モモンは勘違いしていないようだが、よく勘違いする甘い者がいるのだ。ギルドで剣の修行をしたり指導をしてくれると思い込む者が。確かに裏手に修練所はあるし、金を払えば指導してくれる教もいる。だが、無償ということはしない。

ギルドは初期の冒険者に重要な仕事は任せたりはしない。そのため登録を終えたばかりの冒険者が死んだところで損失はないのだ。

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それに最初期の冒険者を育てるという考え方もあまり持っていない。逆にそんな中から上がってくる冒険者を大切にしたほうが良いという考え方だ。

つまりはモモンのような登録したばかりの冒険者は大きな篩いにかけられているのだ。

「講習というのは簡単なギルドの知識です。例えば依頼の難度に関するものだったり、報酬のことだったりです」

「へー、そうなんだ」

冒険者の常識は最初に教えておかなければならない事項だ。

イシュペンは羊皮紙に書かれたインクが乾いているのを指でって確認すると、モモンの報が書かれたそれを近くの箱にれる。これを後で他の職員が回収する手はずになっている。

「えっとどうしましょう。講習自はさほど時間の掛かるものではないですけど、別室で椅子に座ってやりますか?」

イシュペンの視線が隣の部屋に向う扉にく。

ギルドは4階建ての建であり、1階奧には重要な客人のための応接室や依頼人のための部屋がある。そして奧にある階段を昇って2、3階には様々な書類のある部屋や警備員の詰め所。職員のための部屋などがある。4階にはギルド長の部屋や重要書類の保管庫等ギルドの重要報が詰まった部屋が揃っている。

隣の部屋にあるのは待ち合わせている冒険者のための部屋や、冒険者達の會議室、閲覧しても良い様々な資料を置いた部屋等だ。幸運なことに現在會議室なり待ち合わせ場所なりを、使用している冒険者は誰もいない。

ならば會議室なんか使ってやっても良いだろう。資料片手なんか、久々にやっても良い。

別にこのカウンターでは講習ができないというわけではない。というより大抵がこのカウンターで講習を行っている。冒険者を目指す人間がほんのしの時間も立ってられないなんてことは無いだろう。

単純にイシュペンの気分転換という度合いが大きいだけだ。

そしてイシュペンの期待は簡単に裏切られることとなる。

「このままで構いませんよ」

「そうですか」

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心が分かっていない。-5……いや-10だ。

イシュペンは席を離れられないことを殘念に思うが、講習をとっとと終わらせようと口を開く。

「では始めます。まずは報酬の件です」

一呼吸、息を吸い込む。

「報酬はまずギルドが2割を徴収します。これはギルドが依頼を既に調べているためです。モンスター退治という仕事でしたら、出現しているモンスターの種類、數をギルドの斥候が既に調べてます」

「逆にギルドの報にミスがあった場合は報告していただければ、20%のうちいくらかは返金されます。ただし、ギルドが調べた後別のモンスターが來たとかになると難しい場合がありますので、ご注意ください」

「そして早急に解決してしい等、ギルドが報を収集できなかった場合は報酬の5%を取ります。このギルドの徴収金は依頼人との報酬金額の保証の調査、渉に當てられるものです」

「ですのでもしギルドを通さず仕事請けた場合は後日ギルドに仕事を報告してくださるだけで結構ですが、仕事の依頼料に関する仲介や渉、仕事の調査は一切ギルドは関與しません」

「以上が報酬の件になります。なにかご質問は?」

何かを読み上げるようにイシュペンの口から流れ出た言葉の濁流をけ、モモンは目を白黒させていた。

イシュペンからすれば數え切れないほど行った説明だ。詰まることや言い間違えることなんか考えられない。

昔は羊皮紙を読みながらだったし、質問されれば詰まって答えられなかった。だが、今のイシュペンは無敵だ。あるとあらゆる角度からの攻撃を打ち返せる自信がある。

それどころか、相手が目を白黒させるのを楽しんでるほどだ。同僚には趣味が悪いといわれるが、それでもなんというかこの快は止められない。

「……無いようですね」

「あ、ええ。ようするにギルドが報酬をし抜いてる。でもちゃんと調べるから我慢しなさい。ギルドを通さないときは自分達で依頼容等をちゃんと調べなさいよ、ですね?」

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イシュペンの形を綺麗に整えてある眉がピクリといた。そして微笑を浮かべる。

「その通りです。モモン様」

ならもっと早くても良いな? 表にはこれっぽちも出さずに、勝ち負け的な判斷をし始めるイシュペン。それに対しモモンは平靜そのままだ。

「では次に依頼失敗における罰金発生事態の件です」

「仕事を失敗した場合は前金が発生していた場合は前金の1.5倍の返金を要求されます。発生して無い場合はギルドが調査する前の報酬全額の20%。つまりはギルドの調査費と同額を依頼者に返金する必要があります

「これはその依頼の失敗に掛かった時間の損失を出したとみなされるためです。基本的にこの発生した罰金は、次のより優秀な冒険者を雇うための追加報酬になります」

「まぁ、そういう依頼は最初のはされないことをオススメします。発生する依頼と発生しない依頼がありますので、後日カウンターにいるギルドの者に仕事の詳しい容を聞いていただければと思います」

「ちなみに依頼者が無理難題を巧妙に冒険者に押し付けるという事例は、今のところありません。というのもギルドが依頼をある程度調査しておりますので安心していただければと思います。ですが、先ほどあったようにギルドを介して無い場合はご注意ください」

「時折、依頼主のダブルブッキングや手違い等で依頼を遂行できないということがありますが、そのような場合はもちろん罰金発生の例外です。他にもいくつか特例がございますので、何かあった際にギルドまでご報告いただければ、場合によっては罰金がなくなる場合もあります。ですがあまり期待されないことをオススメしますが」

「以上が罰金発生の件になります。なにかご質問は?」

「いや、無いです」

イシュペンはモモンの表を伺う。理解しているのか、理解してないのかを読み取るためだ。しかし――

読めない……。

思わずぎりっと歯軋りの音がイシュペンからこぼれた。

普通の村人とは違うとしか言いようが無い。強敵だ。

何が強敵なのか、イシュペンぐらいにしか分からない理屈を持って、そう認定する。

この田舎ものは近年まれに見る強敵だ。

「では次に冒険者としてのレベル――クラスに関する説明です」

「基本、モモンさんのような方はノービスという形になります。この狀態で依頼を5回けた段階で昇格試験というものをける権利を得られます。この昇格試験は大がギルドの隊商護衛であり、多危険な場所に行くという試験です。つまりモンスターと遭遇する可能が高くなります。勿論出會わない可能もあります。試験の大2/5は會いませんから――」

「質問」

遮るように手を軽く上げたモモンに、イシュペンは機関銃の発口を閉ざす。ここで止められるとは思わなかったという気持ちを込めて。

「権利を得られると言うことは別にけなくてもかまわないということ?」

「はい」

必ず最後にいうセリフを先に取られ、イシュペンはモモンを強敵からもう1つ上の存在へとレベルアップさせる。

「ただ、けない場合は何時までもノービスという形になり、依頼の容でけれないものが數多くあることになります。つまりは高額の依頼は無理だと言うことですね」

「モンスターと遭遇するからと言うと大抵の人がその前にモンスターに慣れようと、モンスターとの戦闘行為を行う依頼を希しますが、やめたほうが絶対に良いです」

言い切るイシュペン。

「別に脅すわけじゃないですが、単なる村人が冒険者になった場合、50%がノービスで死亡。25%が途中で引退を決意。潛り抜けても15%が一年以に死亡します」

「昇格試験で死ぬ可能が高いと?」

「それもあります。50%の30%はそうです。それ以外は先ほどのモンスターの出る依頼を無理にけてや、1人で冒険してたまたまモンスターと遭遇してしまって、ですね」

イシュペンが冒険者から聞くモンスターとの殺し合いというのは、村で一番の怪力の持ち主とかいう者が生き殘れるものではない。もっと別の何かが必要とされるのだ。

村人からなった冒険者はそれが足りないと、評価されていることを聞いたこともある。

この前にいるモモンという人はそれを持っているのだろうか。殘念ながら単なる事務員であるイシュペンには不明だ。

「先ほどの説明に戻ります。これから先はノービスを卒業した際に拘ってくる話ですが――」

「冒険者にはクラスという考え方があります。これは依頼をけた際、つけられる難易度に対応したものです。このクラス以上の難易度の仕事はよほどの例外を除いてけられないと思ってください」

「難度1~10がFクラス。難度11~20がEクラス。難度21~30がDクラス。難度31~40がCクラス。難度41~50がBクラス。難度51~60がAクラス。難度61~70がA+クラス。これ以上は基本ありませんがギルドによってはA++とか言う場合があります」

「このクラスを挙げるためには昇格試験をけてもらうこととなります。この昇格試験はノービスの際とは違い、失敗してもさほどギルドに影響の無い上位クラスの仕事を請けてもらうということするわけです。そして昇格試験に失敗した場合は半年間けることが出來なくなります」

「無論。上のクラスになればなるほど、報酬と危険は跳ね上がります」

「以上がクラスの件になります。なにかご質問は?」

どうだ、とイシュペンがモモンの返答を待つ。

「……バハルス帝國の騎士、彼らはどの程度のクラスですか?」

「え?」

イシュペンから思わず素っ頓狂な聲がれた。あまりに想像したことも、されたことも無い質問だったからだ。一瞬、困らせるために質問したのか、などという疑問が浮かぶがモモンを伺い、それはないと判斷する。

「それは……難しいですね。冒険者はチームでの強さを誇ります。例えば騎士と個人戦で戦った場合は全員が負けたとしても、チーム戦なら勝利を得ると思います。えっと魔法使いとかご存知ですか?」

「はい」

なら話は早い。

「冒険者は基本4人組――パーティーを作ります。5人のときも6人の時もありますが、人數が増えるほど意思の決定に難しくなるので、よほどリーダーになる人が優秀でない限りは4人が基本です。又聞きですが、戦闘時この意思の決定が早い遅いが命を分けるそうですよ」

一瞬、一瞬の選択が命を分ける戦闘時に、意志の決定や判斷の伝達に遅れが出ればそれは場合によっては致命傷になりかねない。パーティーという、全員で1つの生きとなっているときは特にそうだ。

「そんな4人組の大抵が戦士、魔法使い、治癒師、前衛で構されます。雑多ですが、騎士4人で構されるよりも多彩な手段が取れる。これが冒険者には何より重要なんです。戦士と前衛の方が騎士達をブロックし、傷を負ったなら治癒魔法、魔法使いが戦場を大きく左右する魔法を使う。1人の力が何倍にもなるのが冒険者であり、目指してしいものです。モモンさん1人の力なんてそれほど大したものではありません。でも仲間と協力することでそれが何倍にもなるのです」

役割分擔をはっきりさせる。それによって様々な狀況に応じた手段が取れるようになるのだ。逆に同じ役割しかできない人間を集めたら、ある手段は完璧にこなせるが、それ以外が全然できなくなる。冒険者に求められるのは一點集中ではなく幅広い対処方法なのだ。

「結論は分からない、ですか?」

イシュペンの表が変化しそうになって、それを押さえ込む。

こいつ……上手くかわしたと思ったのに。蒸し返してくるとは。

「恐らくはDクラス。ただバハルス帝國の騎士なら武裝も良いでしょうから、場合によってはC……に行かないぐらいじゃないでしょうか?」

「では王國戦士長では?」

「……A+じゃないですか?」

王國最高と言われる戦士だ。A+ぐらいにしておかないと逆に々とまずいだろう。しかしバハルス帝國の騎士となんで王國戦士長が強さの評価対象なんだろうか。

まぁ、近といえば近か。この城塞都市に來たからには。

しかもつい最近この周辺をバハルス帝國の騎士が暴れているという話を聞く。もしかすると何かあったのかもしれない。ならばこれ以上聞くことは不味いものを引き出しかねない。

そう考えながらモモンを見てみると、平然とした顔の下にマグマのごとき憎悪を宿しているようにも思える。

イシュペンはそう納得し、自分の想像を打ち切る。そして話を戻すために、どこまで進んだかを思い出そうとする。確かクラスの説明が終わったところだ。

「他にクラスについて何か質問はありますか」

変な質問が來ても逃げたりはしない。それがイシュペンの自らに定めた規則だ。そう、例え相手が圧倒的な強敵でも。

「いえ、ありません」

安堵のため息が思わずれた。そしてイシュペンは愕然とする。

講習で質問が來なくて安堵を覚えたことなど、どれだけ前のことか。忘れたような昔、自らがまだギルドの付としてりたての頃、それほど前の話だ。

ああ、そうか。

イシュペンは春風の微笑を浮かべた。

「貴方が強敵と書いてライバルと呼ぶ人なんですね」

「?」

親しげな友人にかけるような聲にモモンは目を軽く見開く。そんな表の変化をイシュペンはまさに神のごとき微笑でれる。

「――では、次に依頼の難度に関する話です」

「當然のごとく依頼の難度は様々です。そしてこの依頼の難度はギルドが集めた報を元につけられるので、かなり度が高いと思っていただいて結構です。これは収集等であれば捜索する場所や探すもののレア度によって変しますし、調査等であればかかる時間や対象によって変化します」

「ですが基本的にモンスター退治の場合は、ギルドが定めたモンスターの討伐難度がそのまま使われているかと思います。複數の場合はモンスターの最大難度に+αというじでしょうか」

「そして討伐難度に関して重要なことは、討伐難度は平均値でしかないということを決して忘れないでください」

「例えば全長80センチのウルフがいたとします。全長110センチのウルフでも難度は同じでしょうか? あくまでもこの難度は平均値だと覚えておいてください。上下に4ぐらいは変する可能があります。つまりぎりぎりの難度のモンスター退治の仕事請けた場合、平均より大型だった場合は手に余る自になることが予測されます。仮に難度28のモンスター退治の場合、下手をすると32かも知れないということです」

「以上が依頼の難度の件になります。なにかご質問は?」

「いえ、無いです」

「――ですよね」

予測してましたよ、あなたならこの程度大丈夫だと思ってました。

口にはしないがイシュペンの聖人ごとき顔は充分にそれを語っている。それに対し、異様なものを直視したとモモンの顔は語っていた。

ごくりとモモンのがなった。

「最後に依頼のけ方ですが、まずはカウンターに來て、明日発行するメンバーカードを提出してください。そのメンバーカードに記載されたクラスでけられる仕事の一覧を書いた用紙を閲覧していただきます。字が読めない場合は相談もけたまってますが、その場合は多金額が発生することをお忘れなく。基本的に10分1銅貨です」

「ギルドメンバーである証たるメンバーカードは、明日以降適當な日に來ていただければ差し上げます。それは離さず持っておくようにしてください。再発行にはかなりの時間がかかります。基本的にこの冒険者板がなければ仕事は請けられませんので」

「以上で講習は終了です。おめでとうございます、モモンさん。我々冒険者ギルドは貴方を冒険者と認め、共に歩んでいけるよう祈っています」

イシュペンは思わず立ち上がり、カウンター越しに手をばす。いままでそんなことをした記憶は無い。なんとなくじるものがありしたくなったのだ。

ったモモンは逡巡し、それから決心したのかその手を握った。幾度か互いに手を軽く振りあう。いや振っていたのはイシュペンだけかもしれないが。

そんなイシュペンは意外な想を抱いていた。

意外にらかく手だ。もっといかと思ったんだけど。

やがて、互いに手を離したところでモモンは質問を口にした。

「……ところで依頼は今から既に選んでおいて明日メンバーカードをもらった際にけられるんですか?」

「え?」

確かに既にモモンは冒険者だ。メンバーカードが無いため、依頼をけることはできないが、選んでおくことはできる。しかしその前に確認しなければならないことがある。

「……モモンさんはお1人で來られたのですか? 誰かご一緒に冒険をされる方はいらっしゃらないんですか?」

一応の確認だ。もしいるなら最初から1人でギルドには來ないだろう。

「いませんね」

「モモンさんは魔法を使えたり、追跡ができたりという特殊なスキルは修めて無いんでしたよね」

「……そうなっていましたね」

先ほどの羊皮紙に書き込む際に々聞いたが、そのうちの1つが、特殊なスキルを保有するかという要項だ。殘念なことにモモンは特殊な能力を保有して無いと返事をした。

「そうなると戦士職という扱いが基本なんですが、最初に仲間がいないと結構大変なんです。當てはめられる人數が多い分、なかなかパーティーに聲が掛からない。治癒師――神の方でもかまいませんが――や、魔師のように魔法を使えればかなり引く手あまたです。次に盜賊や野伏のように報収集や捜索探知に優れた能力を持つ人もそうですね。最後はやはり戦士なんです」

「ただですね」安心させるように言葉を続ける「もちろん、本當に優秀な戦士は引く手あまたですよ。敵を後ろに行かせないように防ぐ、敵と退治して時間を稼ぐなんかができる戦士は。はっきり言って戦士に必要なのは報分析能力等の頭の回転です。どこを押さえれば良いのか、どのタイミングで魔法の支援が飛ぶか。だから戦士がリーダーを張ることが多いんです。英雄に戦士が多い理由はそうなんですから」

しかしながらそうなると最初の依頼の選択幅はかなりなくなる。そのもっぱらギルドがオススメする仕事があるにはあるのだが……。モモンの外見をイシュペンは眺める。

中背。筋が標準以上に付いているとは思えない。正直難しいと思えるが、可能にはかけるべきだ。それに相手はイシュペンが認めるライバルだ。やってやれないことはないはずだ。

信頼と判斷されるを込めて、イシュペンは指をばした。

「あそこにある荷を持ち上げてくれませんか?」

イシュペンの指し示す方。壁際に大きな皮袋――中がパンパンに詰まった袋が無造作に置かれていた。背中に背負いやすいように肩ベルトが出ている。綺麗に整頓されているギルドの付というこの部屋の役割を考えれば、その袋は周囲から非常に浮いている。

モモンは頷くと、皮袋の直ぐ側まで近づき、ベルトを両手で握る。

「しょっと」

「えっ!」

人、1人がりかねない袋を、モモンはいとも容易く持ち上げた。

かなりの重みがモモンの手に掛かり、ベルトが手に食い込む。しかしながらモモンの表に苦痛のは無い。それどころか、余裕の雰囲気すら漂わせている。

イシュペンからすれば驚きだった。あの筋がしっかり付いてるとも思えない格でよくそこまで、と。もしかすると服の下は限界まで引き締められたなんだろうか。確かにそう思ってみてみると服のだぶつきが筋を隠しているように思えてくる。

ちょっとした調べごとだったのだが、これは幾つも仕事が見つかるだろう。特に駆け出しの冒険者にちょうど向いた仕事が。さすがはライバルか。

心しながら、イシュペンは頭の中で々と仕事を思い出していると――

「まだ持ってないと駄目ですか?」

しばかり困ったモモンの聲が聞こえる。その聲に我に返り、イシュペンは降ろすように指図した。

「申し訳ありません、ちょうど良い仕事が無いか思い出していたもので」

「かまいませんよ」

モモンが袋を下に降ろすと、ずしりという擬音を立てながら袋が床に置かれた。モモンがカウンターに戻って來るのを待ってからイシュペンはモモンに任せられる依頼を口に出した。

「モモンさん。ちょうど良いことに、ポーターという仕事があります」

聞いたことも無いと顔にはっきり表れているモモン。

當然だろう。普通に村で暮らしていたらそんな仕事は聴いたことが無いだろう。ただ、山や森林とかの近くなら時折あるとは思うが。

「馬という生きは意外に臆病でして、モンスターと遭遇したとき暴れて逃げ出したりということがあるんです。軍馬や魔法的に強化された馬はそんなことが無いのですが、買うとなるとかなりのお金がかかります。ですのでそこまでのお金を持っていない冒険者は荷運びを雇うんです。ポーターとは馬の代わりに冒険者のパーティーについて荷を持って歩く仕事です」

「ふーん」

「そして何より他の冒険者の方と面識を持てるというのは、かなり將來に役立つかと思います。実際、多くの方がポーターから仕事を始めますし、ギルドも基本的にこの仕事を最初にお薦めます」

「荷の重さはどの程度なの?」

「大40キロぐらいです。先ほどの持っていただいた荷が大それと同じぐらいです」

「ならそれをお願いしようかな」

「直ぐにけられるポーターの仕事ならありますよ、確か」

イシュペンは立ち上がり、後ろの書棚から一冊の本を取り出す。貴重な紙を持って書かれたこの本に書かれているのは、様々な冒険者のデータだ。

何ページも捲っていき、目的の人の項を探す。やがて目的の人が見つかったのでそれを參照しながら、近くにおいてあった依頼の詳しい容が書いてある羊皮紙を読み上げる。

「そうですね。依頼人はペテル・モーク。登録パーティ名、旋風の斧のリーダーです。えっと旋風の斧のパーティーのクラスはEクラス。仕事の容は周辺モンスター討伐の際の荷運び。加重は40キロ。契約期間及び報酬は1日1銀貨で6日間。前金は當然無しですね。そして依頼の期間を過ぎる1日ごとに1.2銀貨です。食料、飲食等一切はパーティー側が用意」

そこまで読み上げ、モモンの顔をうかがう。

「基本的なポーターの仕事だと思います」イシュペンは本に書かれたパーティーの登録用紙をめくってみる「えっと罰則や死亡した人は無し。パーティーの信頼も問題ないと思います」

「なら、その仕事を請けます」

「分かりました。では明日依頼をけるということでよろしいですか? それなら明日の朝6:00に旋風の斧の方々を呼んでおきますので」

「はい。お願いします」

しばかり忙しくなって來た。イシュペンは先ほどの羊皮紙に書かれた旋風の斧の逗留先を思い出す。

話は終わったと見て取ったモモンは外に歩き出そうとして、途中で歩を止めた。そしてイシュペンを振り返ると、困った表で言葉を続ける。

「……まだ宿屋を取ってないんですが、オススメの宿屋を紹介してくれないでしょうか?」

モモンがちょうど今、閉めた扉がキシキシと音を微かに立てている。それとすれ違いに、イシュペンの後方の扉が靜かに開いた。奧や上の階に通じる扉から出てきたのは他の付嬢であり、イシュペンとも仲の良いだ。

は自らが出てきた扉を閉めると、無人の室を軽く見渡す。

「……今、誰か來てた?」

「ええ、私のライバルが」

「は?」

怪訝そうな聲が上がった。まぁ、このは戦いあった仲にしか理解できないだろうと、イシュペンは思う。冒険者が死闘を繰り広げたモンスターを相手に死を惜しむ、なんて話はよく聞く。殺しあった仲でなんで、と疑問にじていたが、イシュペンはその一端を捕らえた気がした。

これが――なのか、と。

「……こっちの話。で、そっちはなんだったの?」

「え? ああ、うん。冒険者を夜警として雇いたいって話よ」

「夜警? 衛兵だけじゃ手が足りないって言うの?」

「んー。ほら、つい最近の街の噂であるじゃない。化けを見たって」

「それって酔っ払いが見たって奴?」

「そう。影のような化けね」

「……街の中にってこれるとは思えないけど。泥棒が変な格好でもしてるんじゃないの」

「多分、そうだと私も思うけどね……」

不安をじている口調。

まぁ、モンスターが城砦都市部にいる可能があると聞いて、安心できるほどイシュペン達は腕に自信があるわけではない。ギルドの付嬢だからといっても、所詮は剣も振るったことのない一般人だ。

だが――

「大死傷者も無し。せいぜい財布をなくした程度でしょ?」

それはどう考えてもモンスターのやる行為ではない。財布以外に奪ったものが無いなら、それは財布の価値を知るものに他ならない。ならば人間と想定するのが一番近い答えのはずだ。

「まぁね」

言葉を濁すに安心させるために、わざとらしくイシュペンは笑いかける。

「ま、難度とかその辺は上の人間が決めることなんだから、私達はやるべきことをやりましょう」

「そうね」

と笑いあい、イシュペンは先ほど中斷した手をかしだす。まずは旋風の斧の逗留先発見だ。

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