《オーバーロード:前編》真祖-3

《オール・アプレーザル・マジックアイテム/道上位鑑定》

シャルティアのブレインに対して発する魔法を、彼は無言で認める。

スペルキャスターを前に魔法行使を認めるというのは自殺行為である。戦士であれば剣を抜いて切りつけてくるという行為に値するのだから。魔法の発を妨害するのは戦士として當然だ。

特に戦士であるブレインには、シャルティアが現在発しようとする魔法の種類や効果はまるで見當も付かない。いや、有名な魔法は勉強し知ってはいるが、今発しようとしている魔法は未知のものだ。

しかしながら幾つかの要因により妨害手段には出なかった。

ダメージ魔法等でありがちな、にぴりぴりとした――敵意をじなかったのが1つ。そして避けてみせるという自信が1つ。そしてまだ相手は遊んでいる雰囲気である以上、致命的な魔法を使ってはこないと判斷したのが最後の1つである。

仮にダメージ魔法だとしても、致命的なものでないのなら食らってもかまわない。なぜならそうすることでより一層相手が油斷するだろうからだ。

シャルティアは微かに眉を寄せると、可哀想なものをみたという表で口を開く。

「神刀、屬神聖、低位魔法効果、理障害に対する斬撃効果20%向上、理ダメージ5%向上および一時的効果+10%、非実に対し30%のダメージ効果、クリティカル率5%向上。評価……微妙」

自らの刀を愚弄した発言に、一瞬にブレインの脳が赤熱化する。だが、怒りを飲み込み、深く深く沈める。

発するときは今では無いのだから。

「でも安心してくんなまし。神聖効果がありんすによりてわたしには一応ダメージりんす。ただ、連続でダメージをりんせんと回復してしまいんすよ」

「はん。ヴァンパイアの回復能力は今、目の前で知ったよ。だからよぉ、回復の時間なんか與えねぇよ」

「なら安心でありんすね 」

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――その余裕、引っぺがしてやる。

ブレインは歴戦の戦士ですら怯えるような鋭い視線を無言でシャルティアに向ける。正直、その余裕が気にらないのだ。だが、その反面、そうでなくては困るのだ。

強者の驕り。それこそが人間を遙に越える的能力を保有するモンスターに対する、劣る存在――人間の武の1つ。事実そこを突いてブレインは自らよりも強いモンスターを幾も屠ってきた。

それに何より――切り伏せた後で嘲笑えばよいのだ。余裕を見せてよい相手と不味い相手がいることを教えた後で。

「武技は使んせんでありんすか?」

武技。

戦士たちが鍛錬の中、自らの腕を極めていく中で學ぶ、特殊な能力。それは気ともオーラとも言われる、今だ説明の付かないものが起こす武での魔法と稱するもの。

ブレインの強さまで昇れば大抵の戦士であれば武技を7つほどは持っているだろうか。

対格差のある巨大な敵を前にしたとき、『フォートレス』があればその巨軀から繰り出される攻撃の衝撃を全て消せるためにかなり互角に戦えるようになるだろう。

に気を貯め強烈な斬撃を放つ『スラッシュ』であれば、力のある敵も一撃で倒せるだろう。

裝甲の固い敵には毆打武系の武技、『ヘヴィブロゥ』の出番だ。

を一時的に強化する『ブースト』があれば、基礎能力の差によって勝利もつかめるだろう。

このように様々な狀況を想定し、富な武技を學び我がとするのは、戦士であれば當然の備えである。特に様々な狀況に対応する必要が多い冒険者であれば。

では彼はどうか――。

「はん。おまえごときに使うわけ無いだろうが」

質問の答えを待ちむシャルティアにそう返答をする。無論、噓である。ただ、こういう発言をすることによって更にシャルティアに本気を出させる気を削ぐのが目的である。

ブレインはゆっくりと息を吐きながら腰を落とし、刀を鞘へと戻す。

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抜刀の構え。

息を細く長く。

意識の全てが一點に集中するように狹まっていき、その極限に達した瞬間、逆に莫大に膨れ上がる。周囲の音、空気、気配。全てを認識し知覚できる、そんな世界に達する。それこそ彼が持つ1つ目の武技――『領域』。

それは半徑3メートルとさほど広い範囲ではないが、その部での全ての存在の行の把握を可能とするものだ。この武技を使用している間は仮に1000本の矢が降り注いだとしても、自らに當たるものを切り払うことで無傷で生還する自信がある。そして離れたところにある小麥の粒ですら両斷するだけのな行為すらも可能とする。

そして――

が急所を叩き斬れば生は死ぬ。ならばそれだけを追求すればよい。

汎用よりも一點特化。

相手より一瞬でも早く、致命的な一撃を正確に叩き込む。

その過程で生まれたのは、それは今だ誰もが學んだこと無い、彼のみの武技。

武技の1つ――瞬閃。

高速の一撃を回避するのは不可能だが、彼はそこで鍛えることを止めなかった。

その鍛錬は並みのものではなかった。數十萬、いや數百萬にも及ぶだろうかという瞬閃の繰り返し。刀を握る手がそれだけに特化したタコを作り、握りの部分が持つ手の形に磨り減るほど。

それを極限までも追求した上で生まれた武技。

振り切った後、その速度のあまりすらもその刀に殘らない。まさに神の領域に昇るとじ、彼が名づけた『神閃』。それは一度放たれれば知覚することすら不能。

この2つの武技の併用による一撃は、回避不能かつ一撃必殺。

その斬撃で狙うは対象の急所。

特に頸部。

これをもって剣――虎落笛。

頸部を両斷することによって、吹き上がる飛沫の吹き上がる音から名づけた技である。

ヴァンパイアが相手ならは吹き上がらないまでも、首を両斷すれば行は不能。それはすなわち勝利である。

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「そろそろ準備もできんしたかぇ?」

無言を貫き、鋭い呼吸を繰り返すブレインにシャルティアはつまらなそうに肩をすくめる。

「準備ができたと思って攻めんす。もし問題があるなら今のうちにどうぞおっしゃってくんなまし――」

しばしの時が流れ――

「――躙を開始しんす」

楽しげにシャルティアは宣言すると歩を進める。

ほざけ。その余裕、首が落とされた後でも続けていろ。

言葉には出さずに心でブレインは呟く。言葉にするとこの溜め込んだ一撃が抜けるような気がするのだ。

無造作にシャルティアは足を進める。警戒もまるで無い、歩運び。ピクニックでも行こうかというほど軽いもの。

戦士のものではないそれに、ブレインは苦笑を押し殺す。

愚かとしか思えない。

だが、チャンスはやらない。

ブレインは自らの『領域』、それも一太刀の間合いにり込む瞬間を待ちむ。絶対的強者を気取る愚かなモンスターは大抵こうだ。人間は確かに脆弱な生きだ。的機能は劣るし、特殊能力だって持っていない。

だが、人間を一段下に置くという行為がどれほど危険なものか教えてやる。武というのは人間をはるかに超えた生き達を相手にするために生み出されたのだ――

――一撃で屠る。

それに得てして高慢なモンスターほど見苦しい行をする。一撃で殺さなければ確実にヴァンパイアに救援を求めるだろう。そうなると二対一。それはさすがのブレインも苦戦は免れない。

ゆえに一撃必殺。

ブレインは無表に嘲る。

その無造作に詰め寄る行為。それが斷頭臺への階段だと理解していないのだろうな、と。

あと3歩、2歩

……1歩。

そして――

――その首、貰った!

心の中で吐き捨て、ブレインは全てを叩きつける。

「しぃっ!」

吐く息は鋭く短く。

鞘から刀が抜かれ、空気すらも切り裂きながらシャルティアの首にびる。

その速度を例えるなら――雲耀。ったと認識したときには首が落ちる――それほどの速度。

取った。

ブレインは確信し、

その一撃を――ブレインは思わず瞠目した。

斬撃が空をきった。それならばまだ我慢できただろう。自らの渾の一撃が避けられる。それは想像もできないような強敵がついに現れたのだと納得がいっただろう。

だが――

シャルティアは摘んだのだ。

――その一撃を。雲耀の速度での一撃を。

それも蝶の羽を摘むような優しさを持って――。

空気が凍った。

必死にブレインは呼吸を繰り返す。

「……ば、ばかな」

消えゆくような聲でぎをれた。

ブレインはガクガクと震えそうなを懸命に堪える。今、目にしたものが信じられない。だが、びた刀の先にある、シャルティアの白魚のごとき2本の指――親指と人差し指。

刃紋を前から摘むのではなく、後ろから鎬地を手首を90度曲げる形で摘んでいる。

まるで力をれずに軽く摘んでいるように見える一方、ブレインが全力を出して、押し切ろうとしても引き戻そうとしてもびくともかない。自らの數百倍の巨石に繋がれた鎖を引っ張っているようだった。

突如、刀に掛かる力が増し、逆にブレインは勢を崩しかける。

「ふーむ。コキュートスが何本か所持していんしたが、使う者がこうも違うと警戒心も湧き上がりんせんものなんでありんすね」

摘んだ刀を自らの目の前まで持ち上げ、しげしげと眺めるシャルティア。

ブレインの頭の中が白く染まる。

自らの人生全てを否定されたような絶

有り得ない。

だが、認めるしかない。

神速の一撃をたやすく摘んだという事実を。

驚き慌てるブレインに、シャルティアは訝しげに眉を寄せる。それからがっかりしたというわざとらしいため息がシャルティアからもれた

「とりあえずはわかりんしたかぇ? わたしは武技を使わなくては勝たない相手。それが理解できたなら溫存していんす本気をいい加減、出してくれんすか?」

そんな殘酷な言葉が聞こえる。それに対し、ブレインの口から思わず言葉がれた。

「化け――」

それを聞いたシャルティアは純粋無垢な微笑をみせた。まるで花が満面に開くように。

「そうでありんす。やっと理解していただけんしたかぇ? わたしは殘酷で冷酷で非道で――そいで可憐な化けでありんす」

摘んだ手を離すと、大きく後ろに飛びのく。それはシャルティアが先ほどいた位置だ。恐らくはほんの1ミリも狂ってないだろう。

「そろそろ準備もできんしたかぇ?」

楽しそうに笑いかけてくるシャルティア。先ほどと同じ臺詞にブレインの脳裏がカッと熱を持つ。どこまで馬鹿にするのだと。その反面、ブレインを馬鹿にすることすら容易だということなのかと、恐怖が背筋を滲み上がる。

――逃げるか。

ブレインは生き殘るということを重要視する。勝てないなら逃げて再び戦えばよい。生き殘り、最後に勝てばよいのだ。なぜならブレインは自分はまだ強くなる空きがあると思っているから。

だが、逃げるにしても能力の差は如何ともしがたい。ならば手の屆く範囲を避け、足を切りつけきを鈍らす。そして逃げればよい。

そう決心したブレインは、視線は首元を睨んだまま刀を鞘に収める。『領域』発中であれば目を閉じていたとしても、狙った場所を切り裂ける。ならば目でフェイントをかけるのは自明の理。

「――躙を開始しんす」

再びわざとらしく歩き出す。

先ほどまでは『領域』にり込むことを待ちんでいたのに、今はその逆。できればってきてしくは無い。

どれほど弱気になっているのだ。そうブレインは必死に叱咤し、自らの心を起させようとしても燃え上がるものが無い。もはや燃料が切れた炎のようだった。舌打ちを1つ。そのままシャルティアの歩運びを観察する。

3歩、2歩、1歩――

――間合いにる。

首元を見據えたままのブレインの視界の中に、シャルティアの嘲笑気味の表が浮かぶ。

――狙うは一點。踏み出してきた右足首。

切り下ろすように刀を走らせ、自重でほんのしでも速度を増させる。

いける!

そのドレスの裾からしばかり見えた細い足首を切り飛ばそうとし――

――刀の柄からブレインの手がり抜けた。

『領域』の知覚能力。それが大地に転がった刀と、そしてその鎬地を上から押さえ込むようにあるハイヒールの踵を認識する。つまりはブレインの手からり落ちたのは、ハイヒールで上から踏みつけられた衝撃によるものだということだ。

手をばせば簡単に屆く。そんな距離で、見下すようにシャルティアの視線がブレインを冷たく眺める。頭上からすさまじい重圧が大気ごとブレインを押しつぶそうな気さえした。

荒い息でブレインは呼吸を繰り返す。

噴出した汗がブレインの全を流れ、気持ち悪さに襲われる。視界がぐらぐらとゆれる。鉄火場は幾つも潛った、死地なんてざらだ。だが、ブレインは本當の死地という奴を知らなかったのでは?

踏みつけていたハイヒールが刀から離れ、シャルティアは無言で大きく飛びのく。

「――そろそろ準備もできんしたかぇ?」

「っ!」

三度掛かる聲に何よりも絶を強くじる。次は躙を開始しんす、だがその前に別の言葉がブレインに投げかけられた。

「武技……使えないんでありんすか?」

何も言えない。

何を言えばいいのか。

今やったけど簡単に破られましたとおどければよいのか。下をかみ締めながらブレインは落ちている刀を拾い上げる。

「……もしかしてそんなに強くは無いんでありんすか? 先ほどのり口にいた者たちよりは強いと思ったんでありんすが、あなた……。申し訳ないでありんすぇ。わたしが測れる強さの差しは1メートル単位なんでありんすぇ。1ミリと3ミリの違いって分かりんせんんでありんすね」

「――あああああああ!」

怒號を吐き、ブレインはシャルティアに切りかかる。不思議そうな表でブレインを観察するシャルティアめがけ刀を全力で――全重を込めて振り下ろす。

避けようともせずに振り下ろされる白を眺めるシャルティアに、殺ったという思いが沸き立つ。

だが、その反面。その思いを今までの目にしたありえないような景が否定する。

そしてその予測こそ正しかったと証明される。

質な音が響き、再びブレインは信じられないものを目にした。

高速でいたシャルティアの左手、その小指の爪――2センチ程度の爪が弾き返したのだ。それもシャルティアの手には力すらって無いように見える。握りこぶしには隙間があり、小指は軽く曲げられている。

それがブレインの全力の一撃を弾き返したのだ。

フルプレートメイルを斷ち切り、剣を打ち砕き、盾を貫いてきた一撃を――。

砕け掛かった自らの意志を総員し、弾かれびりびり震える手を引き、を突く――。

そして――シャルティアに無造作に弾かれる。

「ふぁー」

シャルティアのわざとらしい欠。空いている右手で口元は當然覆い隠している。視線もわざとらしく天井を向けられていた。もはやブレインを相手にしている気配はこれっぽちも無い。

それでもだ。

それでも――ブレインの刀は弾かれ続ける。

左手の小指一本で――。

「うぉおおおおお!」

ブレインのから咆哮があがる。いや、咆哮ではない。それは悲鳴だ。

橫払――弾かれる。

斜払――弾かれる。

真向斬り――弾かれる。

斜刀――弾かれる。

縦刀――弾かれる。

橫刀――弾かれる。

ありとあらゆる攻撃が全て弾かれる。それもまるで爪のある場所に吸い込まれていくかのようだった。ブレインはこの瞬間、完全に理解した。世界の広さ。

そして――本當に強い存在というものを――。

「あれ? 疲れちゃいんしたかぇ?」

刀を振るう手が止まる。

山を刀で削りきることができるだろうか。そんなことは不可能である。どんな子供でも想像がつく當たり前のことである。ではシャルティアに勝てるだろうか。それもまたどんな戦士でも相対すれば理解できることである。

勝てるわけが無い。

人間の常識を超えた強さを持つ相手に、人間が勝てるわけが無い。もし仮に良い勝負をするとしたならそれは人間を超えた存在のみだ。殘念ながらブレインは人間としての最高域に達した戦士でしかない。

を浸しながら、ブレインは肩で呼吸を繰り返す。は意外に涼しいはずなのに、額の汗が頬を伝って流れ、顎から地面へ落ちる。まるで重石をはめられたように手足は重い。

荒い息を整えつつ、ブレインはシャルティアに聲をかける。

「取引をしたい……」

「え?」

シャルティアの驚いたという聲を無視し、ブレインはそのまま続ける。

しいものはやる。だから見逃してくれ」

眼をぱちくりとさせたシャルティアは楽しそうに微笑む。その変化に一握りの希を抱き、ブレインは黙って返答を待つ。渉はキャッチボールだ。相手に振ったなら、余計な報を與えないためにも黙っておくことが正解である。

「……1つ。あなたよりも強い奴は奧にいるんでありんすか?」

いない。

事実を答えることは容易い。だが、その返答は彼んだ答えかと考えるなら、恐らくはNOではないだろうか。では、もしいると答えた場合のデメリットは? それはシャルティアが興味を無くしたことによるブレインの価値の低下だ。

「いる。そして、誰かを教えることはできる」

シャルティアは誰が強いのか分からないと言った。ならばその報は価値を持つはずだ。騙されてくれ。ブレインはそう願い、容易く裏切られることとなる。

「……噓でありんすね。もしそうならもつとも時間を稼いでその人が來るのを待ったはずでありんすぇ。そうではないとしてもその人は何で來ないんでありんすか?」

「……番人として警備に當たっているんだ」

「それも噓でありんすね。ならなんで返答に時間が掛かったんでありんすか?」

「裏切るかどうか迷ったからだ」

シャルティアは微笑んだ。ブレインをして、アレだけの力を見せ付けられた上で、しいとしか思えない明な微笑だ。

「まぁ、ではしいものをいただけんすか? それなら別に見逃してもかまいんせんよ? ……ただ、約束でありんす。嫌だなんていったら殺しんすがらね」

「わかった。約束しよう」

しいのはねぇ……あなた方野盜でもっとも強い奴なんです。あはっははっはぁぁぁああははは!」

シャルティアは耳元まで裂けたような笑いを浮かべると、音程の外れた鐘が何十も鳴り響くような哄笑を奏でる。そのとき初めて、ブレインは最も間違っていたことに気づいた。

――

――モンスター?

――化け

どれも違う。

アレは恐怖というものを現化した存在――。

すら付きそうなほど濃厚なの臭いがブレインの顔を叩く。

虹彩からにじみ出たによって、眼球が完全にに染まっている。

先ほどまで白く綺麗な歯が並んでいた口は、注を思わせる細く白いものが、サメのように無數に何列にも渡って生えていた。ピンクに靡に輝く口腔はぬらぬらと輝き、明の涎が口の端からこぼれだしている。

「あはっはっはあああははは。なにいいいその顔、こわいのぉおおおお! あははっははっはぁあはは! だいたいここにくるまでに誰が強いか聞いてるっていうのおおおおぉお。あはははっはっはああああぁああ」

もはや絶世のなんていうものはかけらも無い。そこにいるのはに飢えた悪夢の王だ。

ブレインは意志が完全に砕け散るのを、生まれてより初めてじた。

「ひっしにえんぎしてばかみたいいい! もうだぁああああめえええ。あなたはこれからおいしくいただくのよおおおおぉおおお、あはははっはぁああはは」

腰に隠してある武――ダガーに手をばす。そしてそれを抜き払いつつ、一気に自らのめがけ走らせる。

死ぬのは嫌だ。だが、死ななければそれ以上に酷いことが待っているような気がする。ブレインはに走るだろう痛みを待ちかね――

《――/――》

――目の前に巨大な口。今まで嗅いだ事も無いようなの塊を思わせる臭気。

「あはははっははあああ、楽しいぃいいいいい。死ねるとおもっちゃいまちたかぁああぁぁあ。べろべろばああぁぁぁ」

天を仰ぎ、けたたましい哄笑を上げるシャルティア。いつの間にか、ブレインの手の中に有ったはずのダガーは無くなっていた。いや、シャルティアの手の中でもてあそばれている。ダガーがパキと音を立てて、へし折られた。

ダガーを奪われた記憶は無い。

『領域』を展開してないとはいえ、いくらなんでも武を取り上げられたら知覚できたはずだ。まるで時間が吹き飛んだように、過程が無い。

何をしたのか。

こんな化けは知らない。

もはやブレインの矜持は完全に砕け散った。

「た、助けてくれ、なんでもするし、なんでもやる――いや、違う。差し上げる! だから――」

「だぁああああめぇええええ、ひさしぶりにすううぅううんだからぁあああああぁあ」

くぱっと口が耳上まで裂け、人の頭を丸呑みに出來るのでは思うほど大きく広がる。

この場にいる誰も知らない。

ユグドラシルというDMMORPGにおいてモンスターとして出現するトゥルーヴァンパイアは禍々しい化けだということを。耳の上まで裂けた口が大きな半円を作り、突き出した2本の犬歯は顎下まで屆く。爛々とる真紅の眼はの輝き、そして枯れ木のような手足の先には數十センチはある鋭い爪がびている。く姿は貓背気味で、飛び掛るように襲い掛かってくる。

そんな姿なのだ。

ヴァンパイアは蝙蝠と人間の會いの子のような化けだし、上位種たる始祖<オリジン・ヴァンパイア>はより一層化けとした外見をしている。せいぜいしいといえそうなヴァンパイア系統のモンスターはシャルティアの妾である吸鬼の花嫁<ヴァンパイア・ブライド>ぐらいだ。

そしてシャルティアがしいのは単純にシャルティアをデザインした、アインズ・ウール・ゴウンのメンバーの1人のイラストが上手く、なおかつ立化が上手くいったからに過ぎない。

現在のシャルティアの姿は、トゥルーヴァンパイアとしての本を見せているだけ。つまるところ普段の方が偽りの姿なのだ。

「ひっ」

ブレインのに広がる灼熱。耳に聞こえる、何十本のストローで殘った飲みを無理に吸い上げるような音。ブレインの視界が暗く染まり、意志が遠くなっていく。薄れいく思考の中に死という文字が浮かび消えていく。

「あ、あ、ああ……ぁぁぁぁ……」

「あああぁぁぁおいいいいいっししいいいいいよおおおぉお」

に噛み付いているために不明瞭な聲が歓喜の歌を奏でる。それを最後にふつりとブレインの意識は消えた。

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