《オーバーロード:前編》真祖-5

シャルティアは飛び上がる。闇夜に舞い上がる鳥のような跳躍を持って、り口でバリケードを作っていた丸太の上に片足で降り立つ。他の3のヴァンパイアはゆっくりとり口を上がってくる。

シャルティアは笑みを浮かべたまま、標的を睥睨する。

そこにいたのはしっかりとした隊列を整えた一行だ。

前衛として3人の男の戦士が並ぶ。それぞれ裝備品は違うが、最低でも何枚もの鱗が重なったような作りのスケイルアーマー――中裝鎧を著用し、抜きの武を片手、背中にはラージシールドを背負っている。

そしてその後ろに赤の髪のバンデッドメイルを著たの戦士。

その後方に守られるように歩くのが軽裝に杖を持った男、おそらくは魔法使いだろう。その橫に並ぶようにして神著を鎧の上から羽織り、炎のような形をした聖印を首から下げた男が続く。

全員、窟から飛び出てきたシャルティアに驚愕しつつも、混せずに警戒を緩めない。それは経験が語った立ち舞いだ。

「いいねぇぇぇぇえええええ」

豆腐のような脆さの人間を殺すのも良いが、多は歯ごたえがあった方がやはり面白い。

そんな楽しみを両の真紅の瞳に宿しながら、にたにたと笑いかける。シャルティアに何を気づいたのか、魔法使い風の男が驚愕をその顔に浮かべる。しかしながらその驚きは一瞬。直ぐに表を引き締める。

「推定、ヴァンパイア! 銀武か魔法武のみ有効。勝てない! 撤退戦! 眼を見るな!」

この窪地全に聞こえるのではというだけの大きな聲で魔法使いがぶ。

そんな重要な點のみを出して発した指令に対し、迅速に他の者たちは反応をみせる。一斉に前にいた戦士達は背中に背負っていたラージシールドを前に突き出し、防姿勢をとる。視線は逸れ、シャルティアの腹部や部をにらみつけている。

その間に後ろにいた戦士が前の戦士達の武け取り、何かを塗布しはじめる。

微かにシャルティアの鼻に漂う不快なにおい。

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それは錬金銀。

アルケミストたちが作れる特殊な塗布剤だ。武れると油を張るように、銀と同じ効果を持つ特殊な魔法薬で刀を覆う。

通常、銀で作った武は高額な割には鉄の武よりも刀らかく、長期の使用に関しては不向きだ。そのために冒険者の多くは、銀の武の1/10というそこそこの値段は張るが、この塗布剤を買い込む。そして必要に応じて使用して、一時的に銀の効果を得るという手段をとるのだ。有効時間こそ5分も持たない程度だが、全力での殺し合い時はそれほど時間が掛からないものだから。

け取った一時的な銀の輝きを宿した武をチラつかせ、シャルティアを牽制しつつ一行は後退を開始。その後退も見事なものだ。全員がまるで1つの生きのように整ったきで下がっていく。

「わが神、炎神――」

「無駄はするな! 防魔法にれ」

聖印を掲げようとした神を止め、魔法使いが魔法を前衛にかけ始める。それにあわせ神も魔法をかけ始める。

の大半はクラスにもよるがアンデッドや悪魔、天使といった存在を神の力を行使することで退散、従屬、消滅と行うことができる。ただ、それは自らの力量よりも格段に下位の存在のみに有効な手段だ。つまりは神がシャルティアにかけようとしたが、魔法使いは神では力量的に不可能と判斷して、行為自を無駄と見なし、そんなことに力を割く余力があるなら別の手段にしろと指示したのだろう。

《アンチイービル・プロテクション/対悪防

《マインド・プロテクション/下位神防

魔法を順次、前の戦士達にかけていく。

シャルティアの興しきった頭にしばかり心したようなが生まれた。使っている魔法は最低レベル――第1位階魔法だが、敵にあった魔法をかけている。先ほどのむやみやたらに適當な攻撃を繰り返す野盜や、1人で出てくる愚かな戦士とは違う。

とはいえ――無駄は無駄である。

歴然とした実力差の前には何の意味も持たない。

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シャルティアは踏み込む。

本當に軽く。

ステップを踏むような軽やかさ。だが、それを見ているものからすれば疾風を超えたきだ。

そのまま抜き手を1つ。

盾を貫通し、鎧を砕き、魔法の防を無視し、を切り裂き、先ほどまで脈を打ってきた心臓をその手に握り締め、そして一気に――引き抜く。崩れ落ちる戦士の前で、シャルティアは一行に手の中でブニャブニャと形を変える赤黒い塊を見せ付ける。が小さな悲鳴を上げ、神が憎憎しげに顔をゆがめた。

そんな景にシャルティアはにたにた笑いながら魔法を発させる。

《アニメイト・デッド/死作》

ゆっくりと心臓を失った戦士が立ち上がる。

この狀態では最下級のアンデッドモンスター、ゾンビでしかない。シャルティアは心臓を無造作に投げ捨てると、頭上に浮かんだの塊に手をれる。そこから真紅の塊――脈するの塊を取り出す。それは心臓のカリカチュアだ。

それをゾンビに放った。

の塊は蟲か何かのように蠢きながら、形を歪め、ゆっくりとゾンビのの中にり込んでいく。そして幾度か全が痙攣しながら、ゾンビがゆっくりと変わっていく。

部の大がゆっくりと時間が巻き戻すように修復して行き、それと同時に全の水分が蒸発するように枯れ木のような皮となっていく。

「ありえん! 代償無しであれほど高度な魔法を使いこなせるヴァンパイアなぞ聞いたことがない!」

「実際目の前にいるんだ。落ち著け! 冷靜に対処しろ!」

「しかし!」

「――撤収は無理だ! 打ってる出る!」

「おう!」

が混を起こし、それをどのようにじたのか。戦士の1人がシャルティアに切りかかる。そしてもう1人はかつての仲間であり、現在レッサーヴァンパイアへと姿を変えつつある存在へだ。

「わが神、炎神よ。不浄なりし者を退散させたまえ!」

の持つ聖印から見えざる神聖な力が放狀に放される。無論、シャルティアには何の効果も無いつまらないものだ。

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「あぁはあああああぁぁぁぁぁはははっはははは!」

戦士の1人の剣がレッサーヴァンパイアに食い込んでいる。神の神聖なる力によって束縛をけ、きが不自由になった所為だろう。完全にレッサーヴァンパイアとりきっていない不安定なゾンビだからこそ効果があったのだろうが、自らの創造がつまらない神の力に負けるというのはシャルティアに不快を抱かせるには十分である。

振り下ろされた剣を小指で弾きながら、不快を持ってシャルティアは後ろにいる神を睨む。

「じゃぁあああままままぁあああああ!」

無造作に右手を一振りする。そんなつまらない作で、首を切り裂かれた戦士はを噴出しながらゆっくりと崩れ落ちる。

《レッサー・ストレングス/下級筋力増大》

最後に殘った戦士に強化魔法が飛ぶ。きが遅くなったレッサーヴァンパイアと強化魔法をふんだんにかけられた戦士。この二者の戦闘は若干戦士不利の狀況でしづつ経過している。

まぁ、楽しんでるようだし邪魔をしては悪い。それに獲はまだいるのだから。

に飢えきった思考でそんなことを考え、シャルティアは神に向き直る。

その斜線上に剣を持った戦士が立ちはだかる。それも単なる鉄の武で。

かわいいものだ。びくびくと怯えながらも懸命に剣を構え――まるでその姿は小の哀れな抵抗だ。シャルティアは下腹部が熱くなるようなそんな喜悅に苛まれる。

指を噛み千切ったらどんな聲を上げるのだろうか。

耳を切り落として、食べさせても良い。

いや、そんなことをする前にを啜るのがいいだろう。外に出て、初めてのの獲なのだから。

「でざぁぁああああとぉぉぉおぉおお、けってぃいいいいい」

跳躍。

を軽く飛び越え、魔法使いと神の前へ。

くよりも早く、聖印を握りしめた手を上から包み込むように握り、一気に握り潰す。

「ぐわぁああ!」

の悲鳴を聞き、満足そうに笑ったシャルティアは慈悲を與えることとする。手の一振りで苦痛を無くしてやったのだ。噴きあがるが頭上のの塊に吸収されていくことを頷き、喜ぶ。

そんなシャルティアの背中に誰かが渾の力を込めてぶつかってくる。だが巨木と同じように、その程度ではシャルティアはびくともしない。ただ、元から突き出した剣が々邪魔なだけだ。

「噓……効かないの! 銀武でしょ、これ!」

剣がを――それも心臓の位置を見事に貫いているが、それを無視してくシャルティアには悲鳴まじりのびをあげる。

は銀の武を持ってはいなかった。恐らくは殺された戦士の剣を持ってきたのだろう。

魔法使いの言ったことはあってはいる。だが、間違えてもいるのだ。シャルティアに有効な武は銀かつある程度の魔力のある剣か、ある特定屬の武のみだ。銀の単なる武ではダメージは負わない。

シャルティアはそのまま後ろのを無視して、驚く魔法使いを眺める。

《マジック・アロー/魔法の矢》

必死の形相での魔法の発にあわせ、2本のの矢がシャルティアに飛び、そして――容易く打ち消された。

それはシャルティアの特殊能力――中位魔法ダメージ軽減によるものだ。軽減とはいっても差がありすぎればダメージはらない。つまるところそれだけの歴然とした差が存在するのだ。

「つまぁぁぁぁああんんんなあぁぁぁぁぁぁあいぃぃぃいい!」

魔法使いの首が容易く転がり落ちる。

振り返ると、今だ良い勝負をしているレッサーヴァンパイアと戦士の2人。

シャルティアは転がった2つの頭髪を摑むと無造作に拾い上げる。そしてそれを退屈そうに両者に投げつけた。おおよそ6キロもの重さのものが桁外れな速度で飛來するのだ。その結果なぞ語るまでも無い。両者ともにゆっくりと崩れ落ちた。

そんな中も幾度も剣がを貫き、切り刻むが別に気にはしない。服だって魔法の一品。は直ぐに修復する。

シャルティアが正面から向いたことで最後の1人になったことをは気づき、怯えるように後ろに下がる。そして必死になってベルトポーチを漁り、何かを取り出そうとする。

シャルティアは真紅に染まった世界のそんな景をのんびりと眺める。何を行うのか、ちょっとした好奇心があったのだ。

やがては瓶を取り出し投げつけてくる。聖水だろうか、それとも著火型火炎瓶だろうか。何をしても無駄なのに。

が投げてくる瓶を軽く一瞥して、シャルティアはニタニタと笑う。

なんと哀れな抵抗だろう。

やはり最初は死なない程度にをゆっくり味わうとしよう。それから々とすれば良い。できるだけのの出ない方法で。

そう決定したシャルティアは、飛來した瓶を片手で無造作に跳ね除けた。その衝撃で、空いていた口から赤い溶が飛散し、シャルティアのを濡らす。

そして走る――微かな痛み。

シャルティアの頭が一瞬で真っ白になる。先ほどまでのに飢えたはどこかに吹き飛んでいた。

シャルティアは呆然と痛みは走って來た場所を眺める。それは払いのけた手だ。溶が付著したところから刺激臭と微かな煙が上がっている。

視線をかし、大地を見下ろす。そこにある転がった1つの瓶。口元は開いており、そこから微かに香しい匂いが漂っていた。そしてそれはシャルティアがよく見覚えのある容でもあった。

それは――ナザリック大地下墳墓で一般的に使われているポーション瓶だ。

は恐らくはマイナー・ヒーリング・ポ-ション。アンデッドは治癒系のアイテムによってダメージをける。シャルティアのが微かに溶けたのもそれが理由だ。

傷自は直ぐに再生した。白く綺麗な手に傷跡は當然殘らない。だが、シャルティアの驚愕はそれでも殘っている。

「馬鹿な!!」

空気が震えるような怒號。

「そのを無傷で捕まえろ!」

シャルティアの言葉に反応し、今まで後ろで眺めるだけだったヴァンパイアたちがき出す。シャルティアが呆然としている間に必死に逃げ出したとの間合いを一瞬で詰め、左右の手を摑み上げる。

は必死で抵抗するが、人間とヴァンパイアでは素の筋力が違う。いとも容易くシャルティアの前に突き出されることとなった。

「眼を見ろ!」

シャルティアはの下顎を摑み、無理矢理自らの魔眼を覗き込ませる。無論、力加減には十分注意してだ。下手に力をれて下顎を毟り取ってしまったりしたら目も當てられない。シャルティアは神系の魔法は使えるが、アンデッドのために通常の回復魔法は使用することができないためだ。

無理矢理覗きこませたの瞳に薄いのようなものがかかり、その敵意と恐怖に満ちていた顔に浮かぶのは、もはや友好的なものでしかない。魅了の魔眼による魅効果の発だ。十分に効果を発揮したとじたシャルティアは、から手を離す。

幾つも聞きたい質問はある。だが、何より最初に聞くべきものはたった一つだけだ。

シャルティアは落ちていたポーション瓶を拾い上げ、それをの目の前に突きつける。

「このポーションはどうした! 誰から、何処で手にれたものだ!」

「宿屋でモモンという人からもらいました」

「モ、モモン? ……まさか……いや、そんな訳が……でも……」

それがどうしたの、と言わんばかりのの軽い答え。

シャルティアは世界がぐらりと揺れるような驚きをじていた。モモン――その名前はシャルティアを混させるのには充分な名前だ。

モモン、そしてシャルティアの見慣れた容。そこから浮かぶ人像はたった1人しかいない。いや、1人しか浮かばない。至高の41人であり、その長、最後まで殘った――かつての名をモモンガと名乗った者しか。

名前が酷似していると言うことはあるのだろうか。確かに無いとは言い切れない。この世界で一般的に使われるポーションの瓶がたまたまナザリックで使われるものと同じだったという奇跡もまたあるだろう。

そこまで考えシャルティアは頭を振る。無理矢理すぎるこじ付けだと。

同一人が偽名で名乗ったと言う方が常識的に考えて、十分納得できる。

それよりも問題は、何故このがポーションを持っているかだ。このがどうしてポーションを貰ったのか。何の理由も無く渡したのだろうか?

「まさか……」

このにも何らかの指令を與えた? もしくは報酬として渡した等も考えられる。

アインズが一時的に何処に行ったかまでは知らないが、1人でナザリック大地下墳墓を出ていたことはシャルティアも知っている。しかも名前を変えたのはその後だ。もし、その時に出會って渡したとするなら、辻褄は合う。いや合ってしまう。

「何でここに來た?! 目的はなんだ?!」

「はい。私達の主の仕事は街道の警備だったんですが、この周辺に野盜が塒を構えているという報を數日前に手にれたので、この森を鋭意捜索中でした。その結果この森に仕掛けられた罠を解除しつつ、塒を発見したので時折様子を伺っていたら、何か異変が起こったということが分かりましたのでチームを二分して、私たちが強行偵察任務ということでここに來ました」

「チームを二分?」

「はい。最初は野盜の數がどれだけいるか不明でしたので、私たちがちょっかいをかけて、もう1つのチームが現在作っている罠のエリアまでき寄せる計畫でした」

「もう1チームねぇ」

シャルティアはまた厄介ごとが、と舌打ちを1つ。

「それで全員でここに來たのは何人だ?」

「ここに來たのが私を含めて7人。それで――」

「待て。7人? 6人じゃなくて?」

シャルティアの視線が周囲に転がった死に向けられる。戦士が3人、神が1人、魔法使いが1人――そしてこの。人數が合わない。

その疑問に満ちた視線にはさらっと答えを返す。

「はい。あと非常事態時にエ・ランテルまで救援を求めるためのレンジャーが1人」

「何だと……?」

先ほどの魔法使いの聲は非常に大きかった。そう、この窪地全に聞こえるような――そんな大きさ。

「くっ!」

目を大きく見開いたシャルティアは、疾風をはるかに超える速度で一気にこの窪地を駆け上がる。一気に上まで躍り出、周囲を見渡すが、闇夜を見通すシャルティアの目をもってしても木々の奧まで見通せるわけではない。耳をそばだてるが、風が起こす草木の揺れる音以上は摑みきれない。

知覚系の能力や捜索系魔法をシャルティアは持っていない。この狀況下でこの森の中から人間を1人探すのは恐らく困難だ。

「ちくしょうが!」

逃げられた。正直、侮りすぎていた。

ギリギリと歯が軋む。

「眷屬よ!」

シャルティアの足元の影が蠢き、あふれ出すように複數のオオカミが姿を見せた。無論、普通のオオカミとは違う。漆黒の並みは夜闇を纏ったようだし、赤いを放っているような真紅の瞳は邪悪な叡智を宿しているのが分かる。

それはヴァンパイア・ウルフ。7レベルという低位のモンスターだ。

シャルティアの保有する能力の1つ――眷屬招來で呼び出せるモンスターは複數あるが、その中で追跡できそうなものはこいつらしかいない。

「追え。この森にいる人間を食い殺せ!」

怒號とも言っても良いび聲の命令に、10のヴァンパイア・ウルフは一斉に森に駆け込んでいく。

その後姿を見送りながら、シャルティア自としては逃げている者を殺せる可能は低いと判斷している。レンジャーであれば追跡を回避するすべを知っているからだ。

つまりは逃げ切られたと判斷した上で、次の手を考えるべきだ。

シャルティアは急ぎ戻ると、摑みかかるようにに質問する。

「聞かせなさい。そのレンジャーは別チームに戻る可能はあるの?」

「無いです。彼は私たちのチームが壊滅するような狀況にあった場合は、そのチームを捨てて都市に戻る手はずとなっています。それが最も私たちが生存する可能が高い選択肢だからです」

都市に直ぐに戻り援軍を要請する。それに答えてくれる準備を整えているのだとしたら、壊滅した1チームをない人數で無理に救援を行うよりは確かに助かる可能は高い。まぁ、投降して直ぐに殺されないこと前提だが。

賢い。

負けた際の準備、用心の仕方、そういったものをしっかりと考えた上で行している。そのためシャルティアは追い詰められたといっても良い。

ヴァンパイアがいるという報はほぼ確実に都市に持ち帰られたというとことだ。シャルティアの外見まで見定められたかは不明だが、人間の視力で夜間の窪地の中央付近にいたシャルティアを観察できたとは思えない。

「糞!」

シャルティアは吐き捨て、自らの考えに沒頭する。

アインズからもらった命令は――

今回、狙う獲は犯罪者だ。消えても誰も文句を言わなさそうな。

そんな犯罪者、例えば野盜とかの中に武技や魔法を使える者がいたら、吸い盡くして奴隷にしても構わないから絶対に捕まえろ。犯罪者の中で世界勢や戦のこととかに詳しい奴がいたらそいつも逃がすな。そして騒ぎは起こすな。我々――ナザリックがいていると知られるのはおいおい厄介ごとを引き起こしかねない。

――以上だ。

ならば現狀は指令のギリギリ許容範囲だろう。

ヴァンパイアがいたという報は持って帰られるが、自らの名前やナザリックに関する報をらしては無い。つまりはナザリックとここを襲撃したヴァンパイアを結びつけられる線は無いわけだ。それを踏まえて推測するなら、現狀の報で都市にいる者たちが考えで一般的なのは、ここの野盜どもが野良ヴァンパイアに皆殺しにあったというところだろう。

無論、々とあるが、それ以上は報を手にれなければ行きつけないだろう。

シャルティアは安堵のため息をつく。それから更に思考の渦に飲み込まれる。

次なる問題は、それを踏まえた上でこのをどうするかである。

魅了狀態でも完全に記憶が失われているわけではない。安全策をとるなら殺した方が良い。だが、そこで問題になるのはモモンという人、そしてポーションの件だ。

もし仮にこのポーションを何らかの目的や理由があって渡したとするなら、このをここで殺すということはアインズの目的を阻害する行になりかねない。それは甚だ不味い行為だ。

生かして返した場合、雇った人間たちになんでこののみが助かったという疑問を抱かせることとなる。そして様々な報――特にシャルティアの外見を知られることとなる。現狀ではさほど問題にはならないが、將來的にどのような結果になるかは想像できない。

では殺した場合はどうなる? もし計畫があった場合はそれの完全な放棄だ。

一番良いのはアインズと連絡を取ることだが、シャルティアには《メッセージ/伝言》の魔法を使うことはできない。

ではを連れたまま転移して直接會いに行ったらどうだ。

これもまた微妙だ。なぜならナザリック大地下墳墓は転移系での侵を阻害する防魔法が張り巡らされている。その中を自在に転移できるのはリング・オブ・アインズ・ウール・ゴウンを所持する者のみだ。殘念ながらシャルティアは持ってはいない。そうなると様々な設置された転移門等を使用して移することとなるが、かなりの時間が掛かる。時間的には3時間あれば大丈夫だと思われるが、現在ナザリック大地下墳墓は守護者ではコキュートスしか殘っていないために警備狀態をより強固にしている関係上、転移門発も自在というわけには行かないはずだ。無論、闘技場に出現したように自らの魔法を使ってもいいが、飛べる距離はかなり抑制される。

時間が掛かるというのは不味いのだ。

なぜなら救出部隊が來たとき、がいないと知られるから。

確かに殺すなら後腐れが無く問題が解決する。だが、アインズに生かして返せといわれた場合、非常に厄介ごとになる。連れて行けば當然、今回の件にナザリック大地下墳墓がいている、という重要な報を握られるためにアインズが記憶を弄るしか無いだろう。

それから返した場合、それは雇い主に々と疑問を抱かせる筈だ。浚って記憶を消す。そこまでしなくてはならない何かがあったのかと。そうなるとこの一件に関する追及が、そのまま返すよりも厳しくなるだろう。

ならばたまたま間違えたということでこのも眷屬にしてしまうべきか。

シャルティアの眷屬は最大數10。現在ブレインしか眷族にしてないので、まだまだ余裕はある。だが、それはアインズの目的を阻害する行為を自らの判斷で行うということだ。それも知っていながら、故意的に。

ではどうすればよいのか――。

「アインズ様に叱られる……」

誰にも聞こえないほど小さな聲で呟き、シャルティアは頭を抱える。

たまたまが來たんですと言っても、何でそれより早く撤収しなかったんだ? と返されて終わりだろう。をどのように処分しようが――もはやどちらに転んでも叱咤は避けられない。だが、どちらの方がまだ許されるか。

worstよりはworse。

シャルティアは考え、考え、頭から煙が出るほど考え、結論を出す。

殺すよりは生かして返した方がまだ可能の幅が広がる。殺してしまっては取り返しが付かないときがあるが、生きていればなんとでも出來るはずだ。

シャルティアはそう判斷する。いや、自らを必死に騙しているといっても間違いではないが。

「おまえの名は?」

「バニアラです」

「わかった……よぉーく、覚えておくぞ、その変なお菓子みたいな名前をな! そこで待ってろ!」

――散れ、眷屬ども――

シャルティアは覚的に細い糸で繋がったヴァンパイア・ウルフに帰還の命令を下す。

運が良いのか悪いのかは不明だが、別働のチームにもレンジャーにも遭遇はしていなかったようだ。帰還が終了したのか、そのまま糸が切れる。

一つ仕事を終え、バニアラという名のを適當な場所に立たせておくと、し離れた所に自らのシモベである3のヴァンパイアを呼び集める。

「とりあえずここにあるものは全て回収。撤収する」

回収する時間があるのか不明だが、ここにあったものを全て持ち出せば、それを狙っての行だと勘違いしてくれる可能はある。最低でも適當に捜索したような形跡は殘すべきだろう。

「それじゃはどうします、ご主人様?」

ブレインの質問に対し、シャルティアの視線がちょっと離れたところで寂しそうに立っているバニアラに向かう。

「そのままにしておきなさい」

「いえ、他のです」

「……はぁ? 他の?」

「ええ、ご主人様。あいつらがを処理するために捕まえてるどもが奧にいるんですが、どうしますか?」

シャルティアは顔を引きつらせる。

なんだ、それは。

「……なんで、言わなかった?」

「申し訳ありません。なんどか話そうとはしたんですが」

脳裏に激しい炎が吹き上がり、ブレインに叩きつけたくなるが、それを必死に堪える。アインズに會わせ、報を聞き出すまでは殺してしまっては不味い。必死に激を鎮火させ、シャルティアは睨む。視線が理的に力を持ちかねない眼だ。それをけたブレインが數歩後退してしまうほどの。

シャルティアは再び頭を回転させる。

別に顔を見られていないならここに置き去りでも構わないだろう。だが、それは正解なんだろうか。だけ何で殺されなかったとか思わないだろうか。いや、それを考えたらバニアラのみ生存する方が変だろうか。

やがて、シャルティアは頭を抱えた。

「どうし――」

「ああ? そんなの知るかよ!」

なんでそんなこと教えるのよこいつ、という表を浮かべるシャルティア。知らなければ何をしようが自己弁護できる。だが、知ってしまった以上それを行うことは自らの主人に対する明確な反逆だ。

「もういい。知らない! 置いていく。そのどもの中にバニアラを突っ込んでおきなさい」

「よろしいのですか?」

「良いのか悪いのか、わかんねぇんだよ、糞が! ちょっとは黙れ!」

「申し訳ありません、シャルティア様」

「撤収するぞ! はやく取り掛かれ」

ヴァンパイアたちが頭を下げ、行を開始する中、ゆっくりとシャルティアは頭を抱え込みながらうずくまる。

「……叱られる……どうしよう……」

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