《オーバーロード:前編》検討-1
冒険者ギルドの4階まで階段を上り、その男は荒い息を繰り返す。
恰幅が良い。いや、満とも言って良いつきだ。腹部にはたっぷり過ぎるほど脂肪がつき、顎の下にもこれでもかといわんばかりにがついている。それだけがつくことによって、冴えない満型ブルドックというのがぴったりの顔つきになっていた。
を反するほど髪は薄くなっており、殘った髪も白くを変えていた。
だが、服裝は見事なものだ。恐らくは平民では著ることのできないようなベルベットのジャケットを著ている。指や服はどれも良い仕立てのものばかり。それは彼の財産狀況を赤々に映し出していた。
エ・ランテルは王直轄領の都市であるために、王から派遣された役人たちが都市の管理運営を行うこととなっている。そして都市長ともいうべき役人達の頭。それが彼――パナソレイ・グルーゼ・ヴァウナー・レッテンマイアである。
外見に反してと言って良いのか、彼は無能ではない。それどころか有能の部類にる人である。
というのもこの都市は帝國との戦いの最前線となるために、々な回しや様々な資の管理ということを行う必要が出てくる。確かに商人や役人たちに任せればことは足りるが、それでも最終的な決定を下すのは彼だ。それが正當なのか判斷する必要が出るために、細かく、様々な知識を持たなくてはならない職業でもある。
そんな彼は荒い息で呼吸を繰り返す。
「大丈夫でしょうか?」
そんなパナソレイに聲をかけたのはギルドの付嬢、イシュペン・ロンブルである。ちなみにここまで彼を押してきたために手が疲れているのは上手く隠しての質問だ。
「プヒー。プヒー。大丈夫じゃないよ、君ぃ。プヒー」
鼻が詰まっているのか、呼吸音が豚の鳴き聲のようにも聞こえる。
「なんというのかね。プヒー。もっと年寄りや私のように、プヒー、恰幅の良い者のために、プヒー1階で集まっても良いのではないかね。プヒー」
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鳴いているのか喋っているのか。そんな疑問が浮かぶようなパナソレイの発言にイシュペンは頭を下げた。
「申し訳ありません」
「プヒー。プヒー。まぁ仕方が無いがね。プヒー」
額に滲んだ汗を、取り出したハンカチでぬぐうとパナソレイは歩き始める。
「プヒー。ここからは私1人でも行ける。ご苦労、プヒー、だった」
「はい。失禮します」
階段を下りていくイシュペンにチラリと視線を送るとパナソレイは歩き出す。
もし仮にもう一度だけイシュペンを振り返っていたのなら、イシュペンが怪訝そうに頭を傾げながら階段を下りていく姿を見ることができただろう。
しかしながらパナソレイは振り返らなかった。
そのまま汗を拭きながら歩き、直ぐに目的のドアの前にパナソレイは立つ。開けようとして、一瞬だけ迷う。
冒険者ギルドの4階。そこはギルド長の部屋や重要書類の保管庫等ギルドの重要報が詰まった部屋が揃っている。そして今目の前にある部屋は會議室だ。使用目的は基本的にギルドや都市全に関わるような重要案件ばかり。
ここに呼ばれて聞かされた話で、得てして良かった件は殆ど無かった。
この扉を開けるのがしでも遅れれば、それだけ幸せでいられる。そんなことを考えたパナソレイを笑える者は、都市の管理運営という難関な仕事についてしでも知っていればいないだろう。
手に持ったハンカチで最後に顔全を拭うと、背筋をばす。たるんだ腹がブルンと揺れた。
ドアはノックなんかしない。この都市の最高権力者は王ではあるが、実質上はパナソレイだ。
「待たせた、プヒー」
扉を開けると同時に、全ての者に聲をかける。
一歩踏み込み、パナソレイは室を一瞥する。
さほど広くない部屋だ。およそ6メートル四方、もうしはあるだろうか。中央にテーブルが置かれ、椅子が6腳。窓は無いために若干の閉塞がある。
テーブルの上には何枚かの紙が雑に散らばっていた。羊皮紙でも厚紙でもないところに、ギルドの本気の報――重要が垣間見える。ただ、現在は回し読みして最後にテーブルの中央に投げたというほうりっぱなしがあった。
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それと幾つかのコップ。そして飲みのった大き目の瓶が2つ。
椅子に座っているものは全部で4名。見慣れた顔が2人と見慣れない顔が2人。
見慣れた顔の1人は悍な壯齢の男だ。
きやすそうなにちょうどあった長袖、長ズボンを履いている。服の裾や襟首に防魔法が込められたために微かな燐――魔法とも呼ぶべきものが燈っている。腰に下げた鞘には見事な裝飾。収まっているロングソードの柄も立派な作りだ。そしてこれにも魔法のきらめきがあった。
長はさほど高くないが、巨木を思わせるようなそんなの引き締まり方をしている。そして逞しいな筋が付いているのが、服の盛り上がり方から判斷できる。黒い髪に見事な黒い髭を蓄えている。
一角の戦士。そんな言葉が相応しく、実際に言葉通りの人だ。
そしてもう1人の見慣れた顔。それは非常にやせぎすで神経質そうな線の細い男だ。
年にして30歳後半にはり込んでいるだろう。
深い緑のローブを纏っている。そしていつも持ち歩いている、部に魔法の力を宿す水晶を先端に埋め込んだ、背の高い黒檀のスタッフを後ろの壁に立てかけている。指には3つの指をしている。そして腕を守る腕甲<ブレイザー>。どれも一級の魔法の守りの込められたものだ。
薄ぼんやりとした金の髪に深い青の鋭い瞳。もうすこしが付けば形といっても良いだろうが、今は飢えた猛禽類を思わせた。
見知らぬ顔であり、この部屋唯一の。いやだったというべきか。
それは非常に高齢の老婆だ。しわくちゃな顔、しわくちゃな手。肩の辺りでバッサリと切られた髪は真っ白。鉤鼻がまるで語に出る魔のようだった。
著ている服は平民が著そうな作業著だ。元は白かったのだろう所々に緑の染みを作り、微かに草の香りを漂わせている。ここに呼び出されたのにそんな格好をしていること自が、彼の重要がわかる。
そして最後の1人。
短く刈り上げた金髪。四角い顔。溫和そうな中に鋼の意志をじ取れる男だ。
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やはり30歳後半にり込んだような雰囲気をじ取れる。
服はやはり平民風の上下だが、素材自は良いものを使っているのが見て取れた。首からは4大神の一柱、地神の聖印を下げている。質素だが、貧しい雰囲気は漂ってない。神に相応しい清貧という言葉が似合いそうだ。
そしてつきは良いが、戦士というほどの鍛え方ではない。ただ、長はこの中で一番あるのか、全的に全てが大きい。テーブルの上で組んだ手の大きさは人の顔を容易く覆えるのではないというほどだ。
パナソレイはそのまま何も言わずに歩くと、空いていた上座にどっかりと座り込む。そして今だ止まらぬ汗をハンカチで拭う。そして誰も使っていないコップを1つ取ると、瓶から水を注ぐ。
そして一息で飲み干す。
水に柑橘系の果の絞りをすこし混ぜたのだろう。冷たい越しに僅かな甘みが、まるでに吸収されていくのが分かるような清涼をじさせる。
再び、水を注いだところで、見慣れた男の1人が口を開いた。
「お呼び立てして申し訳ありません。お待ちしておりました、パナソレイ様」
「プヒー。ああ。また厄介ごとか? ギルド長」
皮じりの返答にギルド長と呼ばれた戦士風の男――プルトン・アインザックは苦笑を浮かべた。
「全くその通りです」
「だろうな。プヒー……それでこの者たちは?」
「はい。今回の件で、知恵を借りけるために特別に招かせていただいた知恵者達です。まずこの人が――」
パナソレイは手を上げ、プルトンの紹介を遮る。
「ふむ。初めましてだな、薬剤師どの。確か名前はリィジー……リィジー・バレアレ殿だったか」
やはりという顔をしたのがパナソレイと面識のある2人。そして驚きの表を浮かべたのが面識の無い2人だ。
パナソレイは面識の無かったはずの2人の顔に最初に浮かんでいた、パナソレイを低く評価するようなが薄れたの鋭敏にじ取る。
この雰囲気の変化が好きなのだ。
パナソレイはハンカチで汗を拭いながら、笑みを隠す。
パナソレイの外見は非常に冴えない。異には好かれるよりも相手にされないことの方が多く、若い頃出席した舞踏會でも、殆どが壁にこびりついてようなものだった。
それはまぁ仕方が無いことであるし、彼自、ほぼ諦めきっていた。だがそんな外見が役に立つこともままあるのだ。それは初対面の渉の際だ。頭の中まで外見と同じと思ってもらえるのは、相手の思を外し、渉ごとを有利に進めるための良いカードに使えるのだ。
事実、面識の無い2人がパナソレイの評価を一気に持ち上げているのが、手に取るようにじ取れる。
「やはりご存知でしたか」
「當たり前だろうが、プルトン。この都市のポーション市場の6割を握り、生産であれば隨一の薬師にして魔法使いたる彼を知らんわけが無いだろう」
「ほぉ。わしのような一介の職人の名前までご存知とは。服いたしました」
老婆が丁寧に頭を下げる。それに対しパナソレイは悠然と手を振った。
「いや、あなたの作るポーションによって助かったわが國の兵は多い。また數ヶ月もすれば帝國がちょっかいをかけてくることは自明の理。そのときはまたお願いしたいのだが?」
「承りました。そのときはわしの弟子を全員員してでも、必要な量のポーションを準備させてもらいますぞ」
「それは嬉しい言葉ですな。ならばまた後日、詳しい話をつめたいものですな」
「畏まりました、そのときをお待ちしておりますぞ」
「では宜しく頼みますぞ、バレアレ殿」
「了解じゃ。都市長殿。それとわしはリィジーでかまいませんぞ」
「そうですか、謝します」
來たかいがあったというものだ。
いずれやらなくてはならない問題の下準備が上手くいったことに心ほっとするパナソレイ。そして顔を見慣れぬ神の下にかす。
「さて、そしてあなたが地神に仕える高位の神、ギグナル・エルシャイ殿ですな」
「左様です。お初にお目にかかる、都市長殿。私のこともギグナルとおよびください」
「これはありがとうございます」
互いに軽く頭を下げ、挨拶をわす。
「あなたの治癒の技によってやはり多くの兵士の命が救われました。王に代わり謝の言葉を述べさせていただきたい」
「お気にされず。かの戦爭の後にしかといただいております」
「左様でしたか」
そう口にしながらも、當然パナソレイは知っている。報奨金だって支払ったのだから當たり前だ。
「それにいただいた報奨金で神殿の設備もより一層整いました。謝しなくてはならないのはこちらの方です」
「いや、いや、働きに対する正當な対価でしょう」
「我々、地神に仕える者の社は広く開いていると覚えていただければと思います」
「了解しました。その言葉を聞くだけで不安が解消されるようです」
パナソレイは最後の見知った顔に視線を向ける。
「そして……久しぶりかな? 魔師ギルド長――テオ・ラケシル殿」
「一月振りではないですかな? 都市長。それと殿は必要ないですな」
「そうか? なら、そうするとしよう。……さてこれほどのエ・ランテルの最高の力を持つものたちが集まって、何の會議をするのかそれそろ教えてはくれないかね? 私は厄介ごとが起こったので、急いで來てしいぐらいしか聞かされてないのだがね?」
おそらくその辺に関與した報はテーブルに放り出された紙に記載されていると判斷し、パナソレイはテーブルの上に投げ出された紙を手にすると読み進める。
それはバニアラという1人の冒険者が自らの、そして仲間達に起こった出來事を述べたものだ。
要約してしまえばモンスターに襲い掛かられ、パーティーが壊滅したという、冒険者としてならさほど珍しくない報告書だ。
ただ、問題はモンスターの正がヴァンパイアであるということか。そのため冒険者からの調書に付屬するように様々な質問への返答も記載されている。
例えば、その窟を塒にしていた野盜の慘殺景。圧倒的な能力を垣間見れる破壊痕。読めば読むほどヴァンパイアの戦闘能力の高さを思い知らされる結果となった。
幾度か繰り返し読み直し、パナソレイは頭の中に完全に叩き込む。
見知らぬリィジーとギグナルが呼ばれた理由についても、漠然とながら納得のいく答えを得られたパナソレイは深く頷く。
「なるほど……さて、私はあまりこういったことは詳しくないのだ。無知な人間に1から教えるように丁寧に説明してくれないか?」
冒険者ギルド長――プルトンと、魔師ギルド長――テオは同じ冒険者パーティーで長く組んできた仲である。そのために互いの顔を見合わせるだけで、漠然としたニュアンスを摑み取るという優れた共を持っている。
そんな彼らが互いを見合い、プルトンが口を開く。
「パナソレイ様。ヴァンパイアがエ・ランテル近郊で目撃されました」
「ふむ……」
確かに近い。だが、それほど騒ぐことか。そう思いながらも、都市長としてパナソレイはそんな言葉は口には出さない。
モンスターとは人の世界は近いが、それでも境界線が引かれている。ゴブリンやオーガ、オークといった異種族の侵攻やグリフォンやマンティコア、コカトリス等の魔獣が餌を求めて姿を現すことはある。だが、それ以外のモンスターが人の前に姿を見せる時は大抵が追いやられたり、移住の最中だったりと例外はあるものの一時的な場合が多い。
しかしながらアンデッドは違う。
アンデッドは生者が死を迎えた、その場所その時に不浄なる生を持って生まれてくる場合の多いモンスターである。そう戦場や跡等で。そしてそれは生のある場所――人の世界の最も近に存在するモンスターだということでもある。
都市の中にアンデッドモンスターが生まれる場合だって當然ある。いや、無い方が珍しい。そのために死が最も多く集まる墓地は、中からの攻撃に対して防されており、アンデッドが出現しやすい夜には誰もれないようにしっかりとした施錠がかけられるのだ。
そういう意味ではアンデッドは見慣れたとも、よく聞くとも言っても良いモンスターたちだ。
確かに、ヴァンパイアはアンデッドの中でも強大な力を持つ。
冒険者ではないパナソレイは流石に詳しくは知らないまでも、ヴァンパイアがアンデッドの中でも5本の指に數えられるほど強い存在だというのは認知している。
しかしながら、倒せないわけではないはずだ。
「それは大変だな。冒険者を雇わねばならん、いくらほど予算を考えねばならんのかな?」
そんな軽口をパナソレイは叩くが、片方の眉を上げるだけの結果に終わる。
それは互いの顔を見合わせるようにしながら、渋い表を浮かべる者達が眼前にいたからだ。それはどう評価しても、良くないことの表れである。
「…………どうしたのか聞かせてもらえるか?」
その質問に対し、互いに顔を見合わせ代表者が決められる。それは魔師ギルド長であるテオだ。
「問題はそのヴァンパイアが《アニメイト・デッド/死作》の魔法を使ったことです」
その言葉によって室に沈黙が落ちる。
それはパナソレイにとっては理解できない靜寂だ。ヴァンパイアが魔法を使ったからなんだというのか。元々ヴァンパイアは様々な特殊能力を保有するというアンデッドモンスターではないか。そこまで厄介ごとだというのだろうか。
パナソレイは先ほど読んだ書類に目を落とす。確かにその辺りはしっかりと、まるで重要であるかのように書かれていた。しかしながらその真意までは読み解くことができなかったのだが。
そんなパナソレイの困が、集められた皆には理解できたのだろう。
「魔法を知っているものからすると、非常に厄介な問題を孕んでいるのです」
「つまり?」
「《アニメイト・デッド/死作》は第3位階に屬する魔法です」
「それが?」
「第1位階から伝説とされる第10位階まで魔法は存在するとされてます。まぁ、この上に神々すら到達できない領域の魔法があるという一説もありますが、それは何も拠の無い話。この際は置いておきましょう」
テオは軽く首を振り、パナソレイを正面から見據え、言葉を続ける。
「さて、現存するこの世界で最高の魔法使いというのは誰かご存知ですか?」
どういう意味だと目線で問いかけるが返事は無い。ならば神話とか伽噺を用いずに、真面目に返答をするなら浮かぶ名前はたった1つだ。
「帝國主席魔法使い。フールーダ・パラダイン」
パナソレイの答えに、テオは正解ですと言うように頷く。
「それではかの大魔法使い、フールーダ殿が使いこなせる位階はどの領域かご存知ですか?」
「そこまでは知らんが……」
「第6位階です。そう聞くと大したことが無いように思われるかもしれませんが、第6位階の魔法を使いこなせた存在は最も近年で200年前。かの伽噺の13英雄と呼ばれる方々です。……お分かりになりますか? 本當に10段階あるのかは不明ですが、あるとされる中で人間最高の魔法使いが第6段階なのです。まぁ13英雄に封じられた、魔神たちは第7位階まで使ったという伝説もありますが……」
「ふむ……」
漠然とだが言いたいことが理解でき始めたパナソレイは、再び流れ出した汗を拭う。
「つまりは第3位階を、下から數えた方が早い程度の魔法の位階だという考えをまずはお捨てください」
「わかった。その程度の位階でもかなりの使い手だということだな?」
「はい、左様です。そして本題にります」
教え子に指導する教師のような口調でテオは続けた。
「基本的なヴァンパイアの難度はおよそ60。これはAといわれるクラスの冒険者パーティーが、相手にしてちょうど良い程度の強さです。パーティー構によってはBでも何とか相手にできるでしょうが、準備しだいでしょうが勝算は低くなります。そしてこれに加えられるのが第3位階魔法を使える者は、昇格試験をけてなかったとしても潛在的に最低でもBクラスの能力を持つ冒険者と見なされるという考えです」
言いたいことがほぼ理解できたパナソレイは眉をひそめる。
「つまりはお前はこう言いたい訳だな。Aクラスパーティーに匹敵するモンスターがBクラスの技を持っていると」
「はい」
「ふむー」
「テオに続けさせていただきますが――」プルトンがテオのバトンを引き継ぐように話し始める。「Aクラスがどれほどのものかというと、Aクラスの冒険者の割合というものは、その國の冒険者のおおよそ2%程度と考えられています。王國の冒険者は2000人ほどだとされていますので、Aクラスは王國全土の中で40人しかいない計算になります。お分かりでしょうか? Aクラスというのはそれほどのレア度の高い存在だというのが」
「なるほど」
パナソレイは深いため息にも似たものを吐き出す。
「なんとなくかもしれんが、理解はした。それを踏まえたうえで聞きたい。かなりの厄介ごとか?」
「非常にです」
「間違いなく」
「違いないのぉ」
「大変な厄介ごとです」
「ふむ……それでどうするば良いと諸君達は思う?」
「答えは1つです」プルトンは引き締まった顔で言葉を続ける。「最低でもA+クラス數パーティー合同での討伐こそ最善の手だと判斷します」
「そ、それは無理だ! 不可能すぎる! 大そんなクラスの冒険者パーティーはどこにいるというのだ!」
「王國に2パーティー、帝國に2パーティーいますので1パーティー借りけます。これで3パーティー。そしてアーグランド評議國に4パーティー、このうち――」
驚き、大きく眼を見開くパナソレイ。遮るように口を挾んだ。
「本気か? プルトン。アーグランド評議國のパーティーを王國でかすのか? それは本當に本気で言っているのか?」
「はい」
はっきりと頷くプルトンを見て、パナソレイの眼は更に大きく見開かれ、まるでこぼれ落ちそうな領域まで達する。それから力が抜けきったようにぐったりと椅子の背に重をかける。そして力なく首を振る。
「不可能だ。この地が王の直轄領であり、王の許可を貰ったとしてもかの國の冒険者をかすことは……々な問題を生じさせる結果になりかねない」
「スレイン法國を刺激しかねないという奴ですな」
事実を容易く言葉にするテオに、パナソレイは恨みがましい視線を送る。しかしながらそ知らぬ顔だ。舌打ちしたい気持ちを殺し、プルトンを睨みつける。
「……他國にはいないのか? アーグランド評議國以外……カルサナス都市國家とかローブル王國なんてどうだ?」
「カルサナス都市國家のギルドには最高でAクラスですし、ローブル王國のギルドには1パーティーしかいません。手放すとは思えませんので恨まれるとは思いますが、パーティーと直接渉するしかないでしょう。ですのでなかなか結果は厳しいと予測されます」
「では3パーティー合同ならどうだ?」
「無理じゃろう、都市長」
初めて発言するリィジーに視線を送る。
「ヴァンパイアで第3位階魔法を行使する相手ならば、A+クラス2パーティーなら互角よりは優勢な勝負ができよう。じゃが、都市長。それはあくまでも、そのヴァンパイアが使えるのが、最高で第3位階ならばじゃ」
言いたいこと。そしてここにいる誰もが警戒していること。それがようやく理解できたパナソレイは顔を青くする。
「最高でも……つまりは……」
「そうじゃよ。最高でもじゃ。もし仮に、最悪の中の最悪の事態。第3位階より高い位階の魔法を行使できる場合は、厄介ごとという言葉ではすまんじゃろう」
「……私達はこう考えます。もし第4位階を行使できるならA+クラス4パーティー、第5位階を行使できるならA+クラス10パーティーは最低でも必要だと」
「したがって相手の能力を判斷できてない狀況では、3パーティーでは無駄に命を奪われる結果に終わりかねない」
「馬鹿な……」
A+クラス冒険者パーティーの強さを単純に評価すると、千人以上の兵士に勝利すると言われている。これはかつて、2000人からなる兵士達を壊滅させたパーティーがいることに起因するものだ。このときは兵士側に1000名弱の、そして冒険者側には死傷者なしという終わり方を迎えた。
では、だ。
そんな冒険者3パーティーではないと言わしめるヴァンパイアは一何者なのか。
そのあまりの危険を完全に認識したパナソレイはコップを摑むと、一息に煽る。そして叩きつけるようにコップをテーブルに下ろす。
「ではガゼフ殿に協力を仰ぐのはどうだ?」
ガゼフ・ストロノーフ――王國最強の戦士。A+冒険者パーティーの戦士を超えるとされる人。王國の切り札とも言うべき存在だ。
「確かにガゼフ殿に勝てる戦士はいないでしょう。ですが、冒険者パーティー四人とガゼフ殿が戦った場合、勝つのは恐らく冒険者側です。例えるならガゼフ殿は素晴らしい剣を持った戦士、冒険者はちょっとぼろいけど剣、盾、鎧、癒しの薬を數本と裝備した戦士という違いでしょう。冒険者パーティーであれば、多種多様の手段――ガゼフ殿を例に取るならガゼフ殿の4倍は何らかの手を用いることができる。この差は特殊能力を保有するモンスターを相手にした場合、はっきり言って大きいです」
「うむ……」
「都市長。現在は近郊で目撃されただけですが、仮にエ・ランテルまで乗り込んできたなら、撃退するのはほぼ困難です」
「ぐむぅ」
プルトンの言葉をけ、パナソレイは痛々しいうめき聲を上げる。
言いたいことは理解できる。エ・ランテルにA+クラスの冒険者がいない以上、人海戦でぶつかるしかないだろうが、アンデッドには疲労や睡眠といったものが無い。ならば太が昇るまでとにかく兵をぶつけ続けるしかないという、最悪な展開が予測されるということだ。
しかもそこまでやって滅ぼすのではなく、撃退というのはあまりにもあれだ。
「A+クラスのパーティーを集められないとするなら、手段は他には無いと思われます。おそらくは我が魔師ギルドの寶庫を探しても、それほどのヴァンパイアに有効なマジックアイテムの発見は不可能でしょう」
「大災害と同じじゃ。頭を低くして通り過ぎるのを待つしかないの」
「神としては不快な思いを隠しきれませんが、無駄に命を捨てるのは愚かな行為です。ただ、無辜の犠牲が出るぐらいなら我ら神がせめてもの盾にはなるつもりですが」
「都市まで侵されれば、推定される犠牲者の數は想像を絶するじゃろうからな」
集められないなら、怯えてすごすしかない。それがこの場に集まった全員の総意なのだろう。だが、それを黙認していては都市長という地位にいる意味が無い。
集められないなら何らかの手段を模索し、しでも良い結果を殘すように行すべきだ。
ならばまずは報だ。そう、口を開こうとしたパナソレイに、橫手から水をかけられる。
「そんな生易しい問題ではない。リィジー殿」
プルトンが諦めきった顔に苦いものを走らせながら、笑う。
「もし第4位階を行使できるなら都市の存続規模、第5位階を行使できるなら王國の存続規模、それ以上なら周辺各國の存続規模の問題なんですよ。これはね」
テオとプルトンは苦笑いを。まさかそこまでという顔するのはリィジーとギグナル。
「そこまで問題ですか? 確かに強敵なのは間違いがありません、ですが!」
「相手は一國の軍に匹敵する存在です。しかもそれが個人として行してるのですよ? 知を兼ね備えている以上、様々な魔法を行使することによってこちらのきの裏をかいてくることも考えられます」
「膨大な兵力に匹敵する力が様々な場所に突如と出現する恐怖。……想像もしたく無い」
數萬規模の軍勢であれば、行軍の形跡から何処にいるか発見することはまだ容易だ。さらには維持するためには、それに見合うだけの膨大な食料を必要とする以上、長期の作戦行は難しい。
ではそれが個人だった場合はどうか。さらには不可視化等の魔法を使いこなし、隠行に長けた個人だった場合は。
それは飛行の魔法を使って上空から都市に侵することも可能だろうし、城門前まで旅人に化けて接近することもできるだろう。食料だってさほど必要とはしない。しかも生きている者を憎む、そんなモンスターが周辺にいるというのだ。
強大なモンスターという理解から、危険すぎるモンスターへと認識が変化したリィジーとギグナルは沈痛に顔を歪める。
室を重い空気が漂い、靜寂が完全に支配する。誰かのつばを飲み込む音すら聞こえるほどだ。
「はぁ……最悪だな」
パナソレイのポツリと呟いた聲に、皆が賛同の意志を見せる。
「ヴァンパイアの弱點は日のと神の浄化と聞くが、それを駆使してどうにかできないのか?」
「まず不可能でしょう。それほどの魔法まで使える存在が日の遮斷関係――仮に言うなら闇系の魔法を1つも収めていないという、都合の良い考えは難しいでしょう」
パナソレイの視線は救いを求めるようにギグナルに向かう。
「申し訳ありませんが、恐らくはアンデッドを一瞬で消滅させる浄化はほぼ効かないでしょう。かのスレイン法國の6大神長や最高神長、3局院長、それに6の巫姫たちの力を持ってしても不可能だと思います」
近隣國家の中、A+を越えるとされる最高の神の力を持っても浄化することが出來ない。それは強大という言葉ではすまないアンデッドの存在をじさせるものだ。パナソレイは汗を拭こうとし、既に流れていないことに気づく。
「……テオ、そんな化けが何故この辺りに現れた? 一どんな伝説に出ていた化けだ? 何か報は無いのか」
「いえ、そのような伝説はございません」
「そんなことがありえるのか? では今までこの世のどこかにこっそり隠れていたというのか、生者を憎むアンデッドが? 私は知らんが、第3位階魔法というのは個人で容易く學べるものなのか? テオ、魔師ギルドのお前なら知っているだろう。獨學で修められるものなのか?」
「……不可能です」
靜まり返った室を切り裂くような、鋭さを持った聲がテオより聞こえる。
獨學でその領域まで上り詰める。それは有り得ない。ならば、それは教師たりうる存在がいるということの証明だ。それは下手すればその教師に値する人も調べなくては危険かもしれない。
そんな不安が皆の頭を過ぎった。
「……どこかの國が後ろにいるというのはどうだ? 後ろにそれを教育、もしくは支配している者がいるというのは?」
いるならその者と渉すればよい。生者を憎むアンデッドよりはまともな渉ができるだろう。しかしながらパナソレイのアイデアはすぐさま破棄される。
「國がいるのはありえないでしょう。それほどのヴァンパイアを使役するようなスペルキャスターがどこかの國にいるという報は、今だ流れたことがありません。それにヴァンパイアの格からも、生きてる存在と友好的に協力関係を生み出せるとは思えません」
「を吸われ、眷屬になった魔法使いがいるというのはどうかの?」
「魔師ギルドに集められた基本的なヴァンパイアの報からすると、ヴァンパイアが生み出せるのは最高でもレッサーヴァンパイア。教師としては失格です」
「とすると、人間を裏切ったものがいる……そう考えるのが一番神的には落ち著けるな。邪教というものはいつの世もある。冒険していれば遭遇する邪教の中で、死者を稱える一派という奴はそう珍しくは無い」
「もしくは……」ギグナルが神としての知識から、最も適切なアンデッドの名を上げる「最悪な想像をするなら、教師役がかの……國墮し」
再び沈黙が室を支配する。
國墮しこそ最強とされるヴァンパイアであり王族<ロード>の名を名乗った存在である。その力を持って1つの國を死都とし、死者の國を作り上げたという。
しかしながら最後は13英雄によって滅ぼされた伝説の存在だ。200年近くたった今でも、時折、國墮しの持っていたマジックアイテムを発見したとか、財寶の場所を書いた地図等のデマ報が流れる場合もある。
アンデッドの教師がそんなアンデッド。
もはやため息しか出ない。
「國墮しの弟子? 最悪という言葉が相応しい想像ですな」
「ちなみに國墮しは第5位階の魔法まで使用したとされてます。もしそのヴァンパイアがそれだけの力を持っていたら13英雄の力に縋らなければならないということですな」
「最後の冒険で殆ど亡くなったとされるが、生きている方もいらっしゃるかもしれん」
「エルフの王は生きているのでは?」
「そういう噂は聞くが本當かどうかは不明じゃな。その辺りはスレイン法國が五月蝿かろう」
「……雑談にずれ込んでいるようだ」
疲れたようなパナソレイの言葉が、會話の熱を奪う。瞬時に靜まり返った部屋に靜かな聲が広がった。
「では結論を聞かしてしい。まず、そのヴァンパイアはかなりの強敵である」
「まさにその通りです」
「A+クラスの冒険者パーティーを集めることができない場合は、頭を抑えられた亀のようにしているしかないということだな?」
「悔しいですが、それしかないかと」
「では近隣の村にはなんと連絡する?」
「せいぜい、見回りを行い、アンデッドの城になった場合をいち早く発見することだけかと」
「ふむ……発見しても恐ろしくて手は出せないか。笑ってしまうな」
ため息混じりの皮に返答する聲は無い。誰もが同じ思いを持ち、やるせなさを抱いているのだから。ポツリとプルトンが呟く。
「……ただ、その前にそのヴァンパイアの所在を確認し、報収集に勵むべきでしょう」
ピクリとパナソレイの眉がいた。
「1つ聞かせてくれ、そのヴァンパイアの存在は確定したことなのか? 誰かの見間違えということは無いのか?」
「いえ、それは無いでしょう。その辺りは念りに調べました」
「なるほど……では聞きたいのだが……何故、このは生き殘った? 生かして帰す理由が無い」
パナソレイは報告書を數度、指で叩きながら質問をする。
「それは我々でも疑問に思いました。それで考えられたのが、1つは遊びという答えです」
アンデッドは生きている者に激しい憎悪を持つ場合が大半である。ただ、賢い存在になればなるほど、容易く殺すのではなく、いたぶったり、自滅するように差し向けるという邪悪な行いをするモノも中にはいる。例えば兄弟で殺し合わせる。見知らぬ第三者を殺させるといった。
そんな歪んだ嗜心を満足させるために、自らの姿をアピールし、恐怖に陥れようという計畫なのではないかという可能だ。
そしてもう1つは――
「あとはポーションのけたことによるダメージが、想像以上に大きかったということです。ただ、これは多違和があります。それほどのダメージをけたなら、殺して報が流出しないようにすべきだと思います」
室にいた皆が腕を組み、考え込む。だが、既に話し合っていたことなのだろう。誰も納得のいく答えを出すものはいない。
そんな中、ふと、パナソレイは1つの考えが浮かんだ。
「ポーションを渡した人が近くにいるかもしれないと考えたという線はどうだ?」
ざわりと室の空気が揺らいだような気がした。互いに顔を見合わせ、パナソレイの予想を否定する材料となるものを探そうとする。だが、浮かんではこない。
あるとしたらA+クラスのパーティーと五分の勝負をするであろうヴァンパイアが、その何者かを恐れたという點のみ。
しばしの時間が流れ、プルトンが口を開く。
「可能は低いまでも、絶対に無いとはいえませんな」
「……リィジー殿。ヴァンパイアを撃退しうるほどのポーションは作れるのかな?」
パナソレイに問われた薬師はしわくちゃな顔をより一層しわくちゃにする。
「確かに治癒のポーションはアンデッドにダメージを與えるもの。それを踏まえて考えても、難しいとしか言えませんのぉ。なぜなら、それほどのヴァンパイアを撤退まで追い詰めるほどのポーションは、私や弟子――ひいては私の知っている者では作れないと思いますな」
「それほどの治癒の薬は魔師ギルドでも聞いたことはありません」
「スレイン法國に伝わるアムリタと呼ばれる薬ではどうですかな? あれは神々の力を宿すと聞きますが」
「……ギグナル殿。流石にスレイン法國の最高機に屬するであろうポーションのことまでは、我々魔師ギルドでも知りえない報です。もしかしたら出來るのかもしれませんが、想像に想像を重ねた答え――推測とか予測の領域の答えになってしまいます」
そのポーションをくれた相手の名前もこの紙には記載されていた。
「モモンだったか? その人は呼び出したのか?」
「はい。本日來る予定になっています。まだあと1時間はありますが……」
「そうか……。なら一応軽く話を聞くとしよう。仮にポーションを浴びたことによって逃走を図ったのなら、どのようなポーションによって逃げ出したのか、見せてもらおうではないか。それにどんな人なのか楽しみだな」
パナソレイはコップに水を注ぎ、それを含む。話すことによって乾いたに、心地よい冷たさが流れ込む。
「……はぁ。それとこの窟で遭遇したようだが、その理由は分かるか」
「それは予測できます。先ほどおっしゃっていたとおり、ヴァンパイアは日に対し脆弱を持っています」
テオはそこで一旦區切ると、パナソレイの様子を伺う。パナソレイが何も言わないところを確認すると再び話し続けた。
「ですので基本、日の屆かない場所を塒とします。そしてヴァンパイアの大半は生者に歪んだ優越を持っているために、言葉は悪いですが餌の多い都市に居を構える場合は、下水道のような場所ではなく豪華な住居の地下に。野外ではそこそこ大きな窟を占拠する場合がほとんどです」
「つまりは塒を探していてたまたま……ということか」
「はい。それ以外はあまり考えられないでしょう。かなり荒らされていましたので、特別なマジックアイテムを求めてという可能も無いわけではないですが……」
「なるほど……」
このヴァンパイアに関し、聞きたいことは方聞いた。あとはそのモモンという人の話を聞きつつ、最終的な手段を模索するべきだろう。
ならば別の話をここでしておくのも時間的な意味合いで良いだろう。
「さて、モモンという人が來る前に聞きたいことがあるのだが……。特に冒険者ギルドの長であるプルトンと、魔師ギルドの長であるテオに思い出してしいことがあるのだ」
プルトン、テオ、リィジー、ギグナルの顔を見渡し、パナソレイは口を開く。
「この中で、アインズ・ウール・ゴウンという名に覚えのある者はいないか?」
その4人は互いの怪訝そうな顔を見合わせ、頭を左右に振る。そんな彼らを代表してプルトンが口を開いた。
「聞き覚えの無い名ですが、その人は何者ですか?」
「ふむ……実のところあまり知らぬ人でな。私もガゼフ殿から多聞いた程度に過ぎないのだが……」
何かを考え込むようにパナソレイは口ごもり、多の時間を置いてから話し続ける。
「恐らくは噂には聞いていると思うが、エ・ランテル近郊の村が帝國の騎士の格好をした、複數の者たちに襲撃をされるという事件が數件起こった。まぁ、その騎士達は既に殺されたのだが。その騎士の始末を行い、村人達を救った魔法使いの名だ」
「ほう」
誰かが嘆のため息をらした。
帝國の騎士は武裝、練度共にかなり優れている。それは王國の兵士とは段違いなほど。そんな帝國の騎士を複數人、たった1人で撃退したなら、それはかなり腕の立つ魔法使いであるという証明に繋がる。まぁ、偽裝の場合でも弱すぎる者は選んで無いだろう。最低でも帝國の騎士ぐらいの腕はあるはずだ。
「そしてそれは魔法使いが直接行ったのではなく、使役する騎士のようなモンスターが行ったという。そのモンスターの強さはガゼフ殿が軽く剣を合わせ確かめたが、向こうも本気ではなかっただろうが互角。もし仮に本気を出せば自分に匹敵するかもしくは凌ぐという話だ」
「……今回はこの部屋では有り得ない話ばかり聞きます」
テオがそう呟き、リィジーとギグナルがそれに同意するように縦に頭を振った。
「魔法使いが使役するモンスターというものは単純に言えば、自らよりも弱いものというのが基本です。確かに大儀式や複數の魔法使いを集中運用すること、特別なマジックアイテムの補佐をけること、強力なマジックアイテムを行使することによって例外を生むことはできます。ですが……基本は有り得ない話です」
「つまりは、その魔法使いは単純にそのガゼフ殿と戦った、騎士のようなモノより強いということのじゃな」
そうはっきり言い切ると、リィジーは苦笑いを浮かべる。
「それが本當ならじゃがね」
「まぁ、ガゼフ殿のお世辭とか、過大評価とかと考えた方が良いだろうな」
「ですな。流石にそれは……」
ガゼフより強いかもしれないモンスターを行使する。
もし仮にそれが本當だとすると最高の魔法使いフールーダと同格、もしくは超える者ということになってしまう。それは今までの常識からすると信じたくは無い。そこにはそんな気持ちがあった。
「それで本當に聞きたいのは、これなんだが……何かの関連があると思うか? すさまじい力を持つヴァンパイアの存在。そして村を救った謎の魔法使いの登場」
黙り、思考の渦に飲み込まれる。最初に口を開いたのはテオだ。
「……偶然というには々出來すぎていますね」
「ですが、片や村を救い、片や人を殺す。まるで正反対ですな」
「ならば――」
それを切っ掛けに、々な意見が飛び出す。だが、どれも矛盾があり、納得のいく答えにはならなかった。やがてギグナルがポツリと呟く。
「逆に考えてはどうでしょう。ヴァンパイアがいるからその魔法使いは姿を見せたというのは?」
「そうだったとしたならどれだけ救われるか」
寂しげな笑みでパナソレイは答える。
そうであればどれだけ素晴らしいか。しかしながら、そんなに上手くいくわけが無い。
期待すれば裏切られたときショックが大きいものだ。それよりは最悪を想定しているほうが救われる。そんなパナソレイの人間観が都合の良い話を一蹴する。
「報の足りない今では何処まで行っても、想像の域をでない。アインズ・ウール・ゴウンの件は、後の検討材料にしておこう」
「そうですな。我々冒険者ギルドのほうでも報収集に多力を割いておきます」
「頼むぞ、プルトン。金銭的負擔は余りかからないぐらいでな」
「かしこまりました」
「さて、ではモモンという人が來るまで休憩としよう。プルトン、悪いがそのモモンという人の報を聞かせてくれるか?」
「畏まりました。では私の部屋の方で行いましょう」
皆がバラバラに立ち上がり、室から出て行こうとき出す。そんな室から出て行く影の數は、総數で7つあった。
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