《オーバーロード:前編》戦-5
そこは木で作られた一室だった。
飾りの一切無い、木がそのままむき出しの、ログハウスのような素樸な作りである。ただその部屋は、天井までの高さは5メートルはあるだろうし、広さ的にも15メートル四方は軽くある。
そんな広い部屋には調度品は殆ど置かれていなかった。そのため、生活を主に考えて作られた部屋ではないのは、一目瞭然であった。いや、1つだけ巨大な鏡が壁にかけられてはいたが。
そんな非常にがらんとしたその部屋は、普段であれば寒々しい景が広がるばかりなのだが、この數日間だけはそうではなかった。
室には無數の人影があったのだ。
そんな室の――鏡の前に置かれたテーブル。
何処からか運んだのであろうそれは、重厚かつ頑丈なしっかりとした作りであり、ログハウスのような室の雰囲気とはまるでそぐわない。そんな違和だらけのテーブルの上には、丸められた無數の羊皮紙が並べられていた。
これ全てが魔法を込めたスクロールである。
「これが転移系のスクロールです」
そしてテーブルの上に、また1つスクロールが置かれた。
置いたのは人影の1つ、人間の――メイド服と呼ばれる裝束にを包んだだ。
非常に端正な顔立ちをした、大人しげなだが、その眼は堅く結ばれ、その下の瞳を見ることはできない。話すことも嫌だといわんばかりに、口もしっかりと閉じられていた。濡れたような――まるで別の生きであるかのように艶やかな沢を持つ黒い髪は、サイドアップでまとめられている。
のも黒。
それを包み込む服のも黒。ただそれは通常のメイド服とは大きく違う。
肘上までを覆う、ガントレット、クーター、ヴァンブレイス、そしてリアブレイスの中程までを合わせた様な、黒の材質に金で縁取りし、紫の文様が刻み込まれた腕部鎧。ハイヒールにも似たソルレット、リーブ、ポレインを融合させたような腳部鎧も腕部鎧と同じような作りだ。
メイド服のスカート部分も、布の上に魔法金屬を使用した黒の金屬板を使い防力を増している。それも魔化したメテル鋼、ミスラルとベリアットを混ぜこんだアダマス鋼、魔法金屬ガルヴォルンの三重合金板だ。部裝甲も同じ金屬を使っている。
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勿論、込められた魔法も一級品だ。ユグドラシルでも90レベル以上のプレイヤーしか手にらないようなデータクリスタルの中でもレアデータを使用している。
その防能力の高さを考えるなら、戦闘用メイド服というよりはフルプレートメイルを魔改造しましたという方が正しいだろう。
そんな彼の同僚と同様の、戦闘用のメイド服だ。
そしてほっそりとした肢を包む、魔改造メイド服の襟に當たる部分を立てて、元を完全に覆い隠している。腰には一本の剣を鞘にれて下げていた。
彼こそ、セバス直轄の戦闘メイドの1人であるエントマ・ヴァシリッサ・ゼータである。
「これぐらいでしょうか。あとは《メッセージ/伝言》のスクロールですが、あれはかなりの量になります。このテーブルの上を一旦片付けてからで良いでしょうか?」
エントマは集まった人影の1つに話しかける。その影はゆっくりと頭を縦に振った。
「ソウシヨウ」
非常に聞き取りづらい発音で、エントマに聲が掛かった。
その発音は例えるなら質な金屬をぶつけ合わせ、そこから生じる音を持って無理矢理に人の言葉としている――そんな人に在らざるもの以外、決して口にすることができないような音程からなっていた。
事実、それを発したのはまさに異形――。
2.5メートルほどの巨は二足歩行の昆蟲を思わせる。悪魔が歪めきった蟷螂と蟻の融合がいたとしたらこんなじだろうか。長の倍以上はあるたくましい尾には鋭いスパイクが無數に飛び出している。力強い下顎は人の腕すらも簡単に斷ち切れるだろう。
白銀に輝く質そうな外骨格をしたそんな存在――名をコキュートスといった。
そして同じようにテーブルを囲んで立つ者たち。
そのどれもが昆蟲に良く似た姿をした異形たちだった。蟷螂のような者、蟻のような者。巨大な脳みそのような、昆蟲という言葉に疑問を抱くような者もいた。
皆、外見は大きく異なる。
しかしながら、そのものはたった2つの共通點があった。それは皆、コキュートス配下のシモベであるということ。そしてナザリックという組織に仕えているということだ。
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「承りました」
エントマは深々と頭を下げる。それをけ、周囲にいた昆蟲にも似た者たちがメイドの手を煩わせまいとき出す。
自らの部下がくのが當たり前という顔をコキュートスも、そしてエントマもしている。
それはナザリックに所屬するものなら至極當然の景だ。至高の存在に直接作り出されたコキュートスやエントマと、シモベでは地位が格段に違うのだから。
一通り、テーブルの上が片付けられたのを確認し――
「では、最後にコキュートス様。お渡ししておきます」
――口もかさずにエントマは言うと、足元に置いていた鞄を取り上げる。そしてその中から何枚もの丸めた羊皮紙を取りだした。
「《メッセージ/伝言》のスクロールです。アインズ様からはデミウルゴス様の働きで、羊皮紙に対する不安はなくなったので、いくらでも使ってかまわないという指示をけております」
「ソウカ……デミウルゴスニハ謝シナイトナ」
コキュートスは差し出されたスクロールの、數枚を4本の腕の1本で取り上げた。
「コレデマタ、デミウルゴスト差ヲ引キ離サレタナ」
周囲のシモベたちへ苦笑いを向けつつのコキュートスの言葉。それをけ、追従の微かな笑いがれた。
羊皮紙を手に、コキュートスは思いにふける。
コキュートスもナザリックで低位の魔法を込めるための羊皮紙の在庫量がなくなってきたという話は聞いていた。しかしながら、それはナザリックの守備を任命されたコキュートスには、如何することもできない問題だった。當たり前だ。守護を命じられているのに、外に探しに行けるかというのだ。
そしてその問題を解決したのはデミウルゴスだ。彼が問題なく使える羊皮紙の発見に功したのだ。
自らの同輩の任務の功。
それはまさに喜ぶべきことである。事実、コキュートスも喜んだ。しかしながら、心の奧底で上がる嫉妬の炎を完全に押し殺すことができなかったのだ。自らの同僚が、至高の存在であるアインズの役に立つ行い――羊皮紙の発見――をしたというのが、羨ましくて羨ましくて堪らないのだ。
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無論、コキュートスだってそれぐらい理解できる。外に出ないコキュートスと、外で任務に當たっているデミウルゴスとの自由の幅ぐらい。
自らの仕事はナザリックを守備すること。
恐らくは他の守護者の誰に下されたどんな命令よりも、それは大役である。當たり前だ。下賎なやからを、至高の存在である方々が座します場所に踏みれて良いわけが無い。
しかし、侵者がいなければコキュートスがしっかり働いているという証明も、またできないではないか。
守護者にとって、自らの主人の役に立つというのは信じられない歓喜を生み出す。その歓喜をコキュートスも味わいたいと常日頃から思っていたのだ。
そのチャンスが今、この場にある。
コキュートスは首をかし、鏡に映った景を見ながらスクロールを握り締める。
鏡には室の映像が映るのではなく、どこかの地のような景が浮かんでいた。これこそ遠隔視の鏡<ミラー・オブ・リモート・ビューイング>の予備だ。
そこに映る景こそ、コキュートスがこのアウラが建てたログハウスに2日ほど詰めていた理由だ。
今回の戦爭――いや実験においてアインズよりけている指令は、決してコキュートスが表に出ないことである。勿論、自らのシモベもそれに同じだ。
ならば、現狀、湖に展開している兵力だけで勝利を収める必要がある。
しかしそれに功させれば、アインズに自らの忠誠心捧げることができるのだ。
「ゴ苦労ダッタ。アインズ様ニハ謝ノ言葉ヲ述ベテオイテシイ」
エントマは再び優雅なお辭儀をしてみせる。
「デハ……帰ルノカ?」
「いえ、この戦いの結果を、この場で見屆けるようにとご指示を頂いております」
お目付け役か。
コキュートスはそう判斷し、自らに課せられた大役に対する高揚をじる。ならばそろそろ始めるとしよう。
コキュートスは《メッセージ/伝言》を発させ、アンデッドたちの指揮に命令を下す。
――進軍と。
■
一段高くなった壇の左右に篝火が立てられ、周囲に揺らめくような明かりを放っていた。
時間的には明かりを焚くにはまだまだ早い。しかしながら空に掛かった厚い雲のおで、火を焚いたとしてもおかしいものはなかった。
そんな壇上には幾人ものリザードマンたち。各部族の長、各部族の頭。そんな重要な人達がいる。そしてその前の広場には、無數のリザードマン。
リザードマンたちからはざわめきが広がっていた。不安や焦り、恐怖。そういったものを必死に隠そうとして、それでいて隠し切れない揺のざわめきだ。
それも當然だろう。
これから行われるのは戦爭。命を懸けたものだ。隣にいる親しい友人が次の瞬間は死になるかもしれない。大地に転げ倒れるのは自分かもしれない。
そんな戦場にこれから赴くのだ。今日という日を迎えるに當たって、當然覚悟は決めている。それでいてもその場に直面してしまえば、恐怖しない方が神的におかしい。
そんなざわめきを斷ち切るように、各部族の長の中から、1人のリザードマンが進み出る。
そのリザードマンを知らないものは誰もいない。今回の5部族同盟のまとめ役でもある、シャースーリュー・シャシャを。
「聞け! すべてのリザードマンたちよ!」
凜とした聲が広がった。広場が水をうったように靜まり返る。
もはやその場にいる全てのリザードマンからは音は立たない。靜まり返ったその広場に、シャースーリューの聲がやけに響く。
「認めよう、敵は多いと」
聲は立たない。しかしながら広場の空気に揺というが付いたのが、誰の目からも明らかだった。
シャースーリューはしの時間を置いてから、再び聲を張り上げる。
「しかし恐れることはない! 我ら5つの部族は歴史上初めて同盟を組む。この同盟によって、このひと時のみ、我らは1つの部族となるのだ」
それが如何したのか。
疑問に満ち満ちた視線をけ、その真意をシャースーリューは明かす。
「5つの部族の祖霊が我らを――違う部族の祖霊すらも我らを守ってくれる」
祖霊は自らの部族の者を守護してくれる霊だ。それが他の部族の者まで守るなんていう話は聞いたことがない。その場にいた多くのリザードマンがありえないものを見るような、そんな視線をシャースーリューに向ける。
自らに集められた疑の視線を無視し、シャースーリューは聲を張り上げる。
「各祭司頭よ!」
その聲に反応し、後ろに5人の――各部族の祭司頭を引き連れたクルシュが歩み出る。自らの著ていた服をぎ捨て、その白い鱗が表に出す。
アルビノの白い鱗を見、無數の嫌悪の表がクルシュの視界の中に映った。しかしながら平然としたまま、クルシュは微笑む。
「各祭司頭の代表たるクルシュ・ルールーよ!」
シャースーリューのその聲に反応し、さらに一歩踏み出る。
「祖霊を降ろせ!」
「――聞きなさい。この1つの部族の子供達よ!」
この新たに生まれる部族がなんなのか。
毅然とした態度で、その話を滔滔と語るクルシュ。聲は時に高く、低く、唸りを上げるような、歌うような口調で。
最初は殆どの者がアルビノの姿を嫌悪していた。だが、しづつそんなは薄れていった。それは神的な景だったのだ。
クルシュは語るのと同時に、僅かにをくねらせる。それによって白い鱗が篝火の炎によって無數の輝き――照り返しをみせ、まさに祖霊がクルシュのに降りてきたようにすら映えたのだ。
崇拝しきった表。
その表を目の前の広場の殆どのリザードマンが浮かべていることを確認し、クルシュは儀式を進める。
「5つの部族がこの度たった1つの部族となる。それは5つの部族の祖霊があなた方全てを守るということ! 見なさい! 全てのリザードマンたちよ! 今ここに無數の――他の部族の祖霊たちがあなた方の元に降りてくる姿を!」
ばっ、とクルシュはその手を広く上げ、天空を指す。無數の視線が釣られてくが、無論、そこには曇天が広がるばかりだ。何かの魔法的存在が姿を見せているようには思われない。しかしながら、そんな集まったリザードマンの一人が呟いた。
小さなだ――と。
最初は小さかった聲がしづつ大きくなる。その場に集まったリザードマンの幾人からか、見えるといった聲が上がり始めたのだ。小さなという者、同じリザードマンだとぶ者、巨大な魚だと呟く者、子供だと驚く者、あれは卵だと目を疑う者。
そんな聲に引っ張られるように、その場にいる殆どのリザードマンが様々なものを己が目にする。
それはまさに祖霊の降臨だった。それ以外にリザードマンたちには考え付かない。
祖霊が俺達を守りに來たんだ!
そんなび聲が上がったのも當然の流れだろう。
「じなさい! その力があなたたちに流れ込むことを!」
どこか遠くから、それでいて非常に近くから心の間にり込むように聞こえるクルシュの聲。
その聲に導されるように、何か力のようなものが自らのに降りてくるのを多くのリザードマンたちがじ取れた。
「じなさい! あなた方の元に5部族の祖霊が降りてきた力を!」
その場に集まった全てのリザードマンたちが確かにじていた。
沸々と湧き上がってくる力。先ほどまでの不安がどこかに飛んでいくような高揚。酒を飲んだようにから熱が吹き上がってくる。
それはまさに無數の祖霊が降りてきた証だ。
自らの前に広がった、その恍惚とした表からクルシュは視線をそらすとシャースーリューに頷く。
「さぁ、すべてのリザードマンたちよ。祖霊は我らの上に降りた。確かに數では負けていよう。だが、我らに敗北はあるか?!」
『無い!』
シャースーリューの言葉に反応し、今だ恍惚としながらも、多くのリザードマンたちの唱和が響き、ぐわんと空気がうねる。
「そうだ! 祖霊の降りた我らに敗北は無い! 敵を倒し、勝利を祖霊に捧げるぞ!」
『おお!』
歓喜のうねりが戦意の上昇へと変わる。もはやそこに不安を抱くリザードマンはいない。來る戦いに向け、戦士となったリザードマンだけだ。
これは魔法の効果によるものではない。この戦闘前の儀式が行われる前に全てのリザードマンにはある飲みが振舞われている。この飲み薬は短い時間ではあるが酩酊、多幸、幻覚などをもたらす特殊な薬を煎じて作ったものである。
これによって一種のメディテーションの効果をもたらされているのだ。
クルシュの話はこの効果が出るまでの時間稼ぎである。
種を明かしてしまえばつまらないものである。しかしながらその効果を目の辺りにした――祖霊が降りてくる姿を見たリザードマンたちにとってすれば、それはまさに勇気の湧き上がる儀式だ。
「では、を包む塗料をまわす。本來であれば各部族一だが、今、皆のには各部族の祖霊が降りている。5使い、そのを飾れ!」
シャースーリューの言葉に反応し、幾人もの祭司達が、集まったリザードマンの中に陶の壷を持ってっていく。
リザードマンたちは陶の壷より塗料を取り、に思い思いの文様を描き始める。特別な規則は當然無い。これはそのリザードマンのに降りた祖霊が、勝手に描いているとされているからだ。そのため、皆、なんとなく指が走るままに、自らのに文様を描いている。
今回は5つの祖霊が降りているということもあり、全を殆ど覆う者が多い中にあって、グリーン・クロー族の者は殆ど文様を描かない。これはザリュースとシャースーリューという部族でも指折りの者がさほど描かないことに起因する。
つまりは2人に近い祖霊が降りてきている。そう考えるものが多いために、同じようにほんのししか描かないのだ。いうならアイドルを真似るファンというところなんだろうか。
一通り見渡し、皆が書き終わったことを確認したシャースーリューは、自らの大剣を抜き放ち、門へと指し示す。
「出陣!」
『おおおおぉぉぉ!!』
無數の咆哮が合わさり、耳が張り裂けんばかりのものとなって周囲に響く。
◆
ナザリックの軍勢は、2つの軍隊に分かれている配置されている。
リザードマンたちの向かって左側にゾンビを配置し、右側にスケルトンという合だ。スケルトンアーチャーとスケルトンライダーたちはスケルトンの後ろに配置されている。
アンデッド・ビーストは本陣なのか、後方に配置される形式だ。
それに対して寡兵のはずのリザードマンたちも部隊を2つに分けている。ゾンビの側にメスのリザードマンと狩猟班。スケルトンの側に戦士、オスのリザードマン。祭司たちは壁に囲まれた村の中だ。
外にリザードマンが出てきているのは當然、篭城戦の有利がまるでないのが分かっているからだ。何処からも援軍が來ない狀況。さらに頑丈という言葉からは遠い壁。それに対し、アンデッドたる敵軍は食料も睡眠も不要な軍勢。
簡単にこれだけ不利な狀況なのだ。篭城は愚策中の愚策と言えよう。
しかしながら外で隊列を組むと、酷く実するのが彼我の兵力差だ。
1人に対して5。10人に対して50。比率は変わらない。しかしながら1000人に対して5000は圧倒的な差にもじられる。それは5000ものアンデッドが隊列を組めば、それだけで異様な圧迫を生み出すからだ。
數の差は、戦う前から戦意を失う可能を充分に有している。しかし、そんな狀況下にあって、リザードマンたちにもはや恐れのはない。祖霊が降りてきている彼らの前に數は問題ではないのだ。
やがて、アンデッドたちがゆっくりとき出した。いたのはゾンビとスケルトンだ。溫存する気なのか、スケルトンアーチャーとスケルトンライダーがく気配はない。
それに答えるようにリザードマンたちもき出す。
「おおおおおぉぉぉお!!!」
割れんばかりの鬨の聲が地に響き渡った。
それにあわせ、無數の水音。水が跳ね、泥が散る。
ゾンビとスケルトン。最初は一直線に並んで進軍を開始したにも関わらず、両者の距離はしづつ開く。それはゾンビが作がのろく、スケルトンは機敏だということ。そして何よりも地という足をとられる場所だということだ。
ゾンビのような鈍いモンスターでは非常にきが遅くなるが、スケルトンのように軽いのモンスターはそれほどきが遅くならないということだ。
そのため、最初の激突はスケルトンと戦士階級のリザードマンたちで行われた。
リザードマンたちに陣形なんて殆ど無い。とにかく走って毆るという暴なものだ。
先頭に立ったのは、各部族の戦士頭5人だ。本來であれば指揮たる人が前に飛び出る。場合によっては愚かな行為だろう。しかし、思い出してしいのはリザードマンたちの部族で最も高い地位に著く人、それは最も強い者だということを。そして強くなければ命令を聞かせられないということを。彼らが前を走らなければ、リザードマンの士気も低下するのだ。
続いて突撃してきたのは、レイザー・テール部族の重裝甲戦士89名だ。彼らは皆、皮製の鎧でしっかりとを包み、皮の盾まで所持した全部族最高の防力の持ち主達である。
そんな彼らが盾を構え、まるで1つの壁になってスケルトンの軍勢に突き當たる。
激突――スケルトンの先頭集団とリザードマンの先頭集団がぶつかり合う。
そして――無數の骨が飛散し、リザードマンたちが食い込むようにスケルトンの軍団の陣形にり込んだ。
怒號が響き、骨の砕ける音が無數に起こる。時折、うめき聲も聞こえるが、圧倒的に骨の砕ける音のほうが大きい。
一撃目はリザードマンのほうに、圧倒的優勢で進んだ。
もしこれが人間の軍隊であったら、この結果は逆転していただろう。
スケルトンは骨のを持つため、刺突武によるダメージを殆ど無効にし、斬撃武による攻撃にも耐を持つ。そのため刃を一般的に使う人間の軍勢では、有効的なダメージを與えるのは難しいからだ。
ならばスケルトンは強いのか? それは違う。なぜなら刺突、斬撃に強い反面、スケルトンは毆打武に弱いという弱點も兼ね備えているからだ。
リザードマンたちの主武は石で作ったメイスのような無骨な武だ。それはスケルトンを相手にするにはこの上無い武となる。リザードマンの武が振り下ろされるたびに、スケルトンの骨のが脆くも崩れた。一撃を耐えたとしても、続く一撃で完全に破壊される。逆にスケルトンの持つ錆び付いた剣の一撃は、リザードマンの厚い鱗の皮で弾かれる。時折怪我を負うものも當然いるが、致命傷になるほどの深いものではない。
最初の突撃。
それだけで600近いスケルトンが地に沈んだのだ――。
■
鏡に映る景を目にし、コキュートスは瞠目する。
まだ最初のぶつかり合いでしかないが、リザードマンは戦闘能力は予測以上。おそらくはスケルトン・アーチャーとスケルトンライダーぐらいだろうか、五分以上の勝負が出來るのは。
見ている間にもスケルトンが一気に崩されていく。スケルトンとゾンビでは相手を疲労させる程度しか役に立たないのではないだろうか。
そう推測すると、有効的な兵力はアンデッド・ビースト400、スケルトン・アーチャー200、スケルトンライダー120の720。數の上では逆転してしまう。いや、それでも時間を掛けてゆっくりと潰していけば問題はないだろうか。
コキュートスは頭の中で計算する。
アンデッドは強い。特に持久戦において勝てる存在はそうはいないだろう。アンデッドは恐怖も痛みも何もじない存在なのだ。さらに疲労も睡眠も無縁だ。
これがどれだけ戦爭では有利に働くかは、説明するまでも無いだろう。
さらに、石で出來たメイスを頭部に全力で叩きつけたとしよう。生であれば下手すれば即死、運が良くてもすさまじい激痛と出が襲うだろう。毆られた相手は急激に戦意を喪失するのは自明の理だ。勿論、戦士等のように苦痛に対する制訓練を行い、それでも戦意を喪失しない者は當然いる。しかし普通のものであればそれ以上の戦意は當然なくなるだろう。
それは生として當然だ。
ではアンデッドはどうか。
簡単だ。――その程度大したことがないと襲い掛かってくるのだ。
頭を割られた? ならば中を撒き散らしながら襲ってくるだろう。
腕をへし折った? ならば折れた手で痛みもじずに襲い掛かってくるだろう。
足を切り飛ばした? ならば這いずりながら襲い掛かってくるだろう。
そう、アンデッドは偽りの生命力を全て失うまでき続けるのだ。人間のように戦意を失うことなく。即ち、アンデッドとは最良の兵士でもあるのだ。
個としての強さは現在リザードマンが勝っている。ただ、それがいつまでも続くとは限らない。
コキュートスはリザードマンたちの評価を一段上げ、一息に潰せる存在ではないと判斷する。ならば、ここでしなくてはならないのは、持久戦に持ち込むことだろう。
「一端引カセテ、様子ヲ伺ウカ?」
「それが良いと思われます」
「それよりアーチャーをライダーかすべきかと」
「いや、いや、それよりもこのままぶつけ続けて、敵の疲弊を待つべきかと」
「疲弊させてどうする? 敵の本拠地を落とさねば回復されて終わりだろう?」
「確かに。防備を固めているようですが、脆い壁です。あの村を落として、それから包囲殲滅すればよいのでは?」
幾人かのシモベの返答をけ取り、コキュートスは《メッセージ/伝言》のスクロールを手に持つ。ちらっとエントマの様子を伺う。
エントマはやはり目を閉じたまま、鏡の方に顔を向けていた。その表にのは一切浮かんでいない。仮面を被っているような変化の無さだ。コキュートスは彼の正を思い出し、表を伺った己の愚を悟る。
――あれは飾りでしかない。
そうだ、彼の顔に表が浮かぶわけが無いのだ。
コキュートスは彼の顔から、後ろにいるであろう自らの主人のを摑み取ることを諦めると、スクロールを発し、軍勢の指揮にメッセージを飛ばす。
■
「――舐めてんのか?」
ゼンベルが呟く。その呟きは小さいながらも、泥壁の上で様子を伺う、その場にいた全員に聞こえるだけの大きさを持っていた。
「ふむ……スケルトンとゾンビしかかない現狀がか?」
「ああ、そうだ。弓兵も騎兵もこうとしねぇ。こっちをバカにしてるとしか思えねぇ」
「ですね。一気にこっちを落としに來ると思ったんですが……予測が外れましたな」
「ぞんびのほううまくいってる」
ゾンビと敵対しているのはたった45名しかいない、數ない狩猟班だ。投石しては後退し、投石しては後退しを繰り返している。そしてしづつだが、スケルトンと距離をあけるように導していた。メスのリザードマンたちはスケルトンの橫っ腹に食いつくように移しつつある。
「変なきじゃねぇか」
「……全くですね」
導というよりも完全にそちらに意識を取られたようなゾンビのき。あんな行を認める指揮がいるだろうか。いやいるはずがない。しかし現実にそういている。ならば、そこに敵の狙いがあるのだろうか。
「何だか、理解できないな」
「ああ……」
どれだけ頭を悩ませても、ゾンビの行に意味があるようには思えない。
「もしかして指揮になる存在はいないんじゃないか?」
「ん? ざりゅーすはなにをいう?」
「……つまりアンデッドは最初に指令されたとおりのきしかしてないってこと?」
「ああ、そうだ」
アンデッドの中でもゾンビやスケルトンという最下級の存在は知が無いに等しい。通常、支配者が命令を細かく下すのだが、その支配者がいない場合は最後に與えられた命令を愚直なまでに遂行する。
つまりはゾンビには支配者がいなく、近くのリザードマンを殺すようにという命令をけているだけなのではないかという考えだ。
「つまりよぉ。今回の戦爭は指揮がいないでどれだけ戦えるかの実験ということか?」
「かもしれないな」
「ふざけやがって」
シャースーリューが吐き捨てるように言う。流石のシャースーリューも腹に據えかねるものがあるのだろう。こちらは命を賭けているのに、向こうにしてみれば実験程度だとしたら我慢できないものがある。
「落ち著いてくれないかね、シャースーリュー。まだそうだと決まったわけではないのだから」
「ああ、すまん。……順調なのは良いことなのだからな」
「ああ、兄者。その通りだ。今のうちに出來るだけ數を減らさないといけないからな」
戦闘における疲労というものは馬鹿にならないものだ。しかも戦にもなれば、その神の磨り減り方は半端じゃないものとなる。戦になれば前後左右、どこから襲われるか分からないのだ。數回武を振るうだけでも、普通に振るう倍の疲労をじさせる。
しかしアンデッドにはそれがない。いつまでも同じスタミナを保ったまま襲い掛かってくるのだ。
時間が経てば経つほど、生と死者のそういった差は明白となっていく。
時間はすなわちリザードマンの敵なのだ。
「ちっ。おれも行けりゃぁよぉ」
「がーまん。ぜんーべる」
確かにゼンベルの豪腕を持ってすれば、スケルトンは一気に片付いていくだろう。ただ、それはゼンベルという人を敵に紹介する行為でもある。ザリュースたち6人は特別に選抜された隊として、切り札として存在しなくてはならない。どうしようもなくなれば當然出るべきだろうが、そうでないなら敵の本命が出るまでカードを表に返すことはしてはならない。
「しかし、こちらに來ないということは我々にとっては好都合じゃないか」ザリュースは皆に話しかけ、賛同を意志をけ取りつつ、自分の橫にいるクルシュに問いかける。「あっちの方は順調か?」
「……ええ、儀式の方も順調ね」
村の中を見ているクルシュがザリュースの質問に答える。いま、村の中で祭司たちが行っている行為は、リザードマンのもう1つの切り札になる可能を備えた儀式だ。本來であれば非常に時間の掛かる行いのはずだが、全ての部族の力が纏まることによって、今回の戦闘中に使えるまでの速さで儀式は進んでいる。
「……協力し合うってこんなに凄いことなのね」
「ふむ……そうだな。かの戦いの後も細々とは報を換していたんだが……この戦いが終わった後、々としたいことが増えてきたな」
シャースーリューの発言に、他の族長達も大きく頷く。この戦いをして、始めて発展という可能をまざまざと見せ付けられたのだ。そんな5人を眺め、ザリュースは笑った。
「? 何が可笑しいの?」
そんなザリュースを目ざとくクルシュは見つけ、不審そうに問いかける。
「いや、なんかこんな時だが、嬉しくてな」
一瞬、言いたいことの意味を考えたクルシュだが、そのザリュースの思いを瞬時に読み取る。
「――そうね。ザリュース」
微笑むクルシュを目にし、ザリュースは眩しそうに目を細める。2人とも憧憬と自に満ちた眼差しであった。
2人のは離れている。當たり前だ。こうしてる間にも死んでいくリザードマンがいるのだ。それを理解してなお、己の心に正直なそういった行為が取れるはずが無い。しかしながら、ザリュースとクルシュの尾のみが別の生きのようにき、突っついたり離れたりをしている。
「ふむ……」
「どうですかねぇ、おにいさま?」
「完全に私達は部外者ですね」
「あつーい」
「結論……若いということは良いことだな。未來がある」
可い後輩の姿を目にした、先輩リザードマンの4人がうんうんと頷く。
無論、そんな聲が聞こえないはずが無い。ザリュースとクルシュは互いに何をしているのか、それを思い出し、ばたばたと尾を揺らしながらきりっとした顔を作った。
「兄者、き出したぞ?」
あまりの違いようにシャースーリューたちは苦笑いを浮かべながら、視線を敵陣地に移す。スケルトンライダー達が大きく回るようにき出したのだ。
「おいおい、こっちを狙ってくる気かぁ?」
「騎兵で? こっちを攻撃することで揺をうつもりか?」
「いやいや、戦士やオス達の後背を取って、包囲殲滅じゃないですか?」
不味い。
皆、何も言わずに同じ結論に達する。スケルトンライダーの機は非常に厄介だ。
初手からスケルトンライダーがいてくれれば最初に潰せた。しかしながら戦狀態にっている戦士やオス、ゾンビを導している狩猟班、スケルトンの橫っ腹から投石を始めたメス。現狀では、スケルトンライダーを抑えられる手が無いのだ。
「流石に私達がいた方が良いでしょうね」
スモール・ファングの族長の発言をけ、シャースーリューも頷く。
「問題は誰がくかだ」
「こちらに來たら皆でやるしかないのでは?」
「そうだな。あとは上手く嵌ってくれることか」
「戦中のリザードマンはかせませんし、メスのリザードマンにいてもらいますか?」
「それしかないだろう。しかし、もし嵌ったら……」
「そのときは私の出番でしょうから、私たちが力を見せて、ザリュースたちが溫存というところですか?」
「それが良いだろう。弟よ、それで構わないな?」
「ああ、こっちはそれで問題ない」
「ではこちらもカードの一枚を切ろう」
◆
スケルトンライダー。
それは骨の馬に乗ったスケルトンであり、持つ武は長槍だ。機に長ける以上の特別な力を持たない存在だが、この地において、その移力の高さは郡を抜いている。骨ののために泥にさほど潛り込むことなく、馬並みの速度で駆けるが可能だからだ。
120の全スケルトンライダーは迂回をしつつ、リザードマンの後ろに出るように移する。目的は後背からのリザードマンの殲滅である。
進行方向左手――村の方向から3人のリザードマンの姿を確認するが、それをスケルトンライダーは無視する。そう、命令に無いのだから攻撃されるまでは相手にしない。知の無いアンデッドとはそういうものなのだ。
駆け抜け、もうしで後ろに回る。そんなとき、先頭を走るスケルトンライダーの視界がくるんと一回転した。ぽんと投げ出されたスケルトンライダーは、大きく中空を跳び、勢い良く地に大きく転がることとなった。
人であれば混し、即座の行が取れないだろう。しかし、知の無いアンデッドたるスケルトンライダーは冷靜に狀況を把握。
自らが落馬したということを認識し、即座に立ち上がろうとする。結構の距離を吹き飛ばされたが、下がらかい地ということもあり、問題なく立ち上がることに功する。しかし、やはりスピードが早かったため、生じた多のダメージによろめく。
そこにもう一騎のスケルトンライダーの転倒がぶち當たった。
砕け散った2のスケルトンライダーの骨が、地に飛散した。
そんな景があちらこちらで起こる。
――それはトラップだ。
木を使って地の中に、が掘ってあったのだ。それにスケルトンライダーの馬が足を突っ込み、それの勢いで転倒しているのだ。
そんな景が広がりながらも、スケルトンライダーは次から次へと転倒をし続ける。
本來であれば、速度を落とすなり対処を取るだろう。しかしながらスケルトンライダーはそんな行為はとらない。なぜなら命令されてないのだから。
そのままの速度を維持したまま、突撃していく様は集団自殺のようにも見える。そして予測どおり転倒していく。
しかし、そんなトラップだが、所詮は足止めでしかない。確かに多のダメージを與えはするが、スケルトンライダーを倒すまでのものではない。
そう。
そのトラップは足止めでしかないのだ。
ビュンという空気にを開けるような音がした。そして地に転がる、スケルトンライダーの一の頭部が弾け飛んだ。
敵対的行。
それを認識した、転倒しているスケルトンライダーたちは周囲を見渡す。
そんな中、再びもう1のスケルトンライダーの頭部が、ガラスが砕けるように弾け飛んだ。
そして認識する。
距離にして80メートルぐらいだろうか。そこにいる3人のリザードマンのうち、1人が持っていたスリングを振り回していることを。そしてそこから放たれた石つぶてが、スケルトンライダーの頭を砕いたことを――。
スケルトンライダーが戦闘を開始するのと同時に、スケルトンとの戦局も転換の時期を迎えていた。
數多くの弓なり音の後、飛來する矢が雨音の様な音を一瞬だけ立てる。
200のスケルトン・アーチャーがスケルトン諸共、リザードマンたちに矢を降り注いだのだ。1では終わらない。2、3……。
この攻撃はリザードマンたちにとっても不意打ちだった。
幾人ものリザードマンが矢をそのにけ、崩れ落ちていく。スケルトンと戦闘をしながら、その矢までは防ぐことはできない。當然、スケルトンにも矢は突き刺さる。しかし、ダメージはらない。當たり前だ。刺突攻撃に対する耐を持つ、スケルトンとぶつかり合ってるからこその攻撃なのだから。
スケルトンを前に押し出し、後ろからスケルトンアーチャーが矢を放つ。手としては完璧な手段だ。2500もいたスケルトンを倒しきるまでの時間を考えれば、それだけでリザードマンは全滅しただろう。
しかしこの攻撃を行うのも遅すぎる。もしこの攻撃を最初期に行っておけば、致命的な結果をもたらしただろう。ただ、既にこの一面においては大局は決しているのだ。
なくなったスケルトンを無視し、後ろにいるスケルトンアーチャーに向かってリザードマンは走り出す。戦士階級とオス、そしてメスのリザードマンによる挾撃をけ、壊滅しているスケルトンでは、もはや抑えることはできない。
200本の矢が降り注ぎ、幾人ものリザードマンが泥濘に倒れ伏していく。しかし、それはある意味運がない者だ。鎧を著ていないリザードマンの皮は、厚いが矢によって簡単に貫かれる。しかし盛り上がった筋が矢から命を守ってくれるのだ。
そしてスケルトンアーチャーの魔法的な筋の無さもまた1つの要因となる。それはリザードマンの命を奪うほどの強弓では無いということだ。
當たった數に対し、倒れるリザードマンがないのはそのためだ。
リザードマンたちは雄たけびを上げながら突き進む。両腕を差させ、頭を庇いながら。
再び矢が降り注ぎ、リザードマンが倒れていく。そんな中、矢にを貫かれながらも、ひた走りに突き進む。
3――
それがスケルトンアーチャーの限界だった。知があれば後退しただろう。一旦引いて、今だ殘るアンデッドの軍勢と共に戦えば、効果的な運用がなったはずだ。
しかしながらそんな複雑な命令を許容する脳は無い。そのため、単純な命令の諾したまま――距離が詰まってなお、リザードマンに向かって冷靜に矢を放ち続ける。
そしてスケルトンとの時と同じように、リザードマンという津波に飲み込まれた。もはやその距離で弓兵が活躍する出番は無い。一方的なリザードマンの攻撃をけて、次々地に倒れこんでいく。
今だゾンビの群れは殘るものの、殆どのスケルトンは地に沈んだのだ。
そしてようやくきだすものたちがいた。
それはアンデッドビーストである。ウルフ、スネーク、ボア――様々なの死によってなるそのアンデッドたちは、ゾンビの耐久との機敏さを兼ね備えるモンスターたちだ。
アンデッドビーストはリザードマンめがけ突き進む。早いものは早く、遅いものは遅いという隊列も何も一切考えない突撃を持って。
低い位置からの攻撃というのは意外に回避しずらい。アンデッドビースト達は足を噛み、きを鈍らせてから止めを刺すという獣の正しい攻撃を行ってくる。
疲労しつつあるリザードマンにとって、それは厄介な手段だ。きが鈍くなりつつあるリザードマンの幾人かがアンデッドビーストによって笛を噛み千切られていく。
戦士頭が先頭に立って戦うが、揺のの浮かびだしたリザードマンたちに援軍が來る。
突如、地が盛り上がった。そこに姿を見せたのは、盛り上がった泥のような存在だ。高さにして160センチ程度。リザードマンよりも低い。それは手も足も頭も何も無い、円推の形をした泥だ。
その姿は、シーツを被っておばけとかやっている子供を思い出すと分かりやすいだろうか。
それが突如、き出す。
足もないのに意外に俊敏なきで、アンデッドビーストに向かって進みだす。地だというのに水音が立たないのは足を使っての移を行っていないことの現われか。
突如、人であれば腕があるだろうかと思われる部分に、の丈よりも長い鞭のようなものがびだした。
それはリザードマンたちの切り札の2つ目。
祭司たちが全員で力を合わせ召喚した、地の霊<スワンプ・エレメンタル>だ。
本來であれば膨大な準備時間がいるはずのそれは、儀式に參加する人數の増大という要素を持って、この戦爭中に発を可能とする。勿論、この儀式が終わった段階で殆どの祭司が神的疲労から、意識をなくしているのだが。
スワンプ・エレメンタルはアンデッドビーストの群れの中に突撃していく。
そしてその鞭のような手でアンデッドビーストを叩き、摑み上げていく。無論敵対的行を取るスワンプ・エレメンタルにアンデッドビーストも立ち向かう。その爪で引き裂き、牙で噛み砕く。
恐怖を知らぬもの同士の戦いだ。しかしながら徐々にスワンプ・エレメンタルが有利になっていく。これ単純に戦闘能力の差だ。祭司26名の合同で行われた儀式によって召喚された霊の力の方が勝っているということの証明だ。
それに勇気を取り戻したのか。リザードマンたちが突撃を敢行する。
凄慘な殺し合いが始まる。今までのスケルトンを相手にしたものとは違う、リザードマン側にも負傷者が出る戦いだ。しかし、単純に人數的な意味で勝っているリザードマンがしづつ押し出す。
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