《オーバーロード:前編》戦-8

ザリュースは漆黒の世界からが持ち上がるような覚に襲われる。それは不快な覚ではない、心地よい覚だった。

目を開く。寢起きのぼんやりとした世界が映し出された。

ここは何処なのか。

、どうした自分はこんな場所に寢ているのか。

幾つもの疑問が浮かび、自らのにのしかかるように重みがあることに気づく。

――白い。

今だ寢起きのはっきりとしないザリュースの頭に、最初に浮かんだ言葉はそれだ。そして目覚めるにつれ、それが何か理解できる。

それはクルシュだ。クルシュが自らに圧し掛かるように寢ているのだ。

「ぁ……」

クルシュが生きていた。

強い安堵に思わず聲を出しそうになり、それをギリギリのところでザリュースは抑える。寢ている彼を起こすのも忍びないと思ったのだ。思わずってしまいそうになる心を必死に抑える。鱗が綺麗だからといって、流石に眠るメスので回すのは不味い。

ザリュースはクルシュのことを頭から必死に追い出し、別のことを考えようとする。

考えるべきことは々とある。

まずは何故、自分がここにいるのか。

記憶を探り、何があったのか思い出そうとする。最後の記憶はリッチが滅びていく姿だ。あれからぷっつりと記憶が途切れている。しかしながら、自分がここで橫になっているということは、部族側が勝利を収めたということだろう。

自らに圧し掛かるように寢るクルシュを起こさないように、注意を払いつつ安堵のため息を1つ付いた。この數日間の間にあった重荷がしばかりなくなったようだった。確かに冷靜に考えればまだまだ重荷はある。例えば、今回の戦爭が終わったとしても、今だ敵の正は不明だし、目的もつかめてはいない。もしかすると再び、攻めてくる可能は十分すぎるほどある。いや、予測が正しければ再び來るだろう。

しかし、今だけは心を緩ませてしいものだ。ザリュースは伝わってくるクルシュの溫をじながら、再び軽くため息をついた。

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それからザリュースは自らのに軽く力をれる。全問題なくく。どこかは失うかもしれないとも思っていたが、運がよかったということなのだろう。

自らの幸運に安堵を得つつ、ザリュースは周囲を見渡す。壁際に積まれている自らの見慣れた荷を発見し、ここが數日間滯在している家だと気づく。

にクルシュ以外のリザードマンはいない。この家はこの部屋しかない小さなものだ。他にいる場所は無い。ではゼンベルは如何したのか。不安が過ぎる反面、ゼンベルほどのオスが、という気持ちも湧き上がる。

そんな僅かなザリュースのきに反応したのか、クルシュのく。らかったに一本、芯がったような覚。それは目覚めようとしているのだろう。

「うんぅ」

クルシュの可らしい鳴き聲が上がる。それからボンヤリとした瞳をくるくるとかし、周囲を伺っている。そして下にひいたザリュースを確認すると、相貌を崩す。

「むぅうう」

寢ぼけているクルシュはザリュースのに手を巻きつけると、自らのをザリュースにり付けるようにく。それはまるで自らの匂いをつけるの仕草だ。

ザリュースは直し、クルシュのされるがまま。

白く艶やかな鱗が冷たく心地よい。さらには漂ってくる薬草の匂いが芳しく、まるで思考がまとまらなかった。自分も手を回しても良いのだろうか。そんなことをザリュースは考えてしまう。

そんな風に悶々としていると、徐々にクルシュの瞳にピントが合い始める。そして自らの下にいるザリュースと視線がわった。

――直。

手回したままかなくなったクルシュに、何を言うべきか。そう考えたザリュースは一番當たり障りの無いことと言うこととする。

「――俺も手を回してよいか?」

いや、一番當たり障りが無いということは噓だったようだ。その結果、クルシュは威嚇音を上げ、尾をバタンバタンとめちゃくちゃにき出す。そしてザリュースのから、橫になったままゴロンゴロンと転がっていき、壁にぶつかった辺りできを止める。

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うつ伏せのクルシュから微かに聞こえてくるうめき聲。そして、ばかばかわたしのばか、なんて聲も聞こえてきた。

「とりあえずはクルシュも無事のようで何よりだ」

その言葉でやっと冷靜さを取り戻したのだろう、クルシュは顔を上げ、ザリュースに笑いかける。

「あなたも無事で良かった。部族の祭司たちが治癒魔法をかけたから大丈夫だとは思っていたけど、やっぱりし心配だったから」

その言葉の中に、自らが知らない報の匂いをかぎつけ、ザリュースは質問する。

「あれから一如何したか知ってるか?」

「ええ、多は。リッチをあなたが倒したおで、敵は引いていったみたい。あと、お兄さんの方も無事にモンスターは倒したらしいわ。それで私達3人は助けられて……っていう話」

「ならばここにいないゼンベルは……」

「ええ、無事よ。あなたよりも回復力があったんでしょうね。治癒魔法をかけられてすぐに意識を取り戻したらしくて、戦後処理で今いてるはずよ。私は疲労が強すぎたんで、それだけ聞いたらまた意識が飛んでしまったみたいで……」

クルシュは立ち上がるとザリュースの元に戻る。すぐ橫に座ったクルシュに対し、ザリュースも起き上がろうとするが、それはクルシュが優しく留める。

「無理をしないで、私達の中で一番酷い傷だったんだから」

そのときの姿を思い出したのか、クルシュの口調が一気に暗いものへと変化する。

「無事でよかった。本當に良かった……」

目を伏せたクルシュをめるように、ザリュースはさする。

「答えを聞くまでは死んだりしない。俺からすればクルシュが死んだんじゃないかと、不安だったぞ」

答え――それが何に対する答えなのか、それを思い出したクルシュは真剣な顔でザリュースを見つめる。それは自らの心と対話する1人のメスの姿だった。

そして、互いに何も言わない、靜かな時間が生まれる。

ゆっくりとクルシュの尾がき、ザリュースの尾に絡みついた。白と黒の2本の尾が絡み合う様は、蛇の尾を思わせた。

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ザリュースは言葉無くクルシュを見つめる。クルシュもまた、ただ黙ったザリュースを見つめる。互いの瞳の中に、自らの像が寫るのが見えた。

ザリュースは微かな聲を上げる。いや、それは聲ではない。鳴き聲だ。クルシュと初めて會ったとき上げてしまったもの。

――求の鳴き聲。

ザリュースは鳴き聲を上げた後、何もしない。いや、できなかった。ただ、ひたすら、心臓が激しく脈打つばかりだ。

そしてクルシュの口から同じような聲――鳴き聲が流れる。同じように高く、語尾を震わせる鳴き聲。それは――求れた鳴き聲だ。

クルシュの面には何とも言えない、蠱的な表が浮かんでいた。もはや完全にザリュースはクルシュから目が離せなくなっていた。クルシュがザリュースに覆いかぶさる。それはまるで寢ていたときと同じような勢だ。

互いの顔に距離は殆ど無い。熱い吐息がじり合い、れ合ったを通して心臓の音が同調するように脈打つ。そして2人は1つに――

「おう! やってるか!」

バンと扉が勢いよく開き、ゼンベルが乗り込んできた。

クルシュもザリュースも、互いにけない。両者ともまるで氷の彫像にでもなったようだった。

ザリュースをしてみればゼンベルほどのオスが近くに來たというのに、全然知覚出來なかったことの驚きもある。だが、何よりもあまりにも想像しない展開だったのというのがあった。

そんな2人――上にクルシュを乗せたままのザリュースを不思議そうに見、ゼンベルは首を傾げつつ尋ねる。

「なんだ、まだはじめてなかったのか?」

何を言われているのか、ようやく理解し、2人は黙ったまま離れた。そしてゆっくりと立ち上がる。その際の2人の顔は俯きがちだった所為でゼンベルからは見えない。いや、見えなかったことを喜ぶべきだろう。そう、嫌な事は後に回すべきだろうから。

2人が黙って、ゼンベルの前に立つ。

不思議そうに2人を見下ろすゼンベルが、をくの字に曲げた。

「――がはぁ」

腹筋に叩き込まれた2人分の拳をけて、息を吐き出す。そしてゼンベルの巨が床に沈んだ。

「うごぉ……いいもんもってんじゃねぇか……とくにくるしゅぅ」

ザリュースはともかく、メスリザードマンの憤怒の一撃は、ゼンベルすらも倒しかねないものだということだ。

無論、一撃でこの気持ちが収まるわけがない。しかしながら、毆打を繰り返してもどこかにぶっ飛んでいった雰囲気は戻ってこない。それが理解できる賢い2人は早々に諦める。

軽く互いの手を握りつつ、ゼンベルに質問をすることとした。

々と聞きたいことがあるが、現在の狀況を教えてくれるか?」

ザリュースとクルシュが手を繋いでいるのだが、それに対してはもはや何もれない。ふーん、程度の関心すらゼンベルは見せない。當たり前のことが當たり前に落ち著いた、彼にとってはその程度のなのだ。

「うん? 今は部族を挙げて帰還の祝いをしてるぞ?」

それはに降ろした祖霊を元の地に戻ってもらう儀式だ。それを行っているということは戦爭の終了だと判斷したということだろう。ザリュースはしばかりの安堵を息を吐く。

「では兄が先頭に立っているそれを行っているわけか」

「まぁな。とりあえずは敵を狩猟班が探しにいったんだが、発見できず。そのためによぉ、まぁ、一応警戒はするが、おめぇの兄が勝利宣言出したってところだ。俺がここに來たのもおめぇの兄に言われてな」

「兄が?」

「おう、おめぇの兄は――『ガハハハハ、あいつらは2人で休ませておけばよかろう。もしかしたらやってるかもな、ガハハハ。邪魔しちゃ悪いが、気になるな。ガハハハハ』って言ってたぞ?」

『噓だ!』

ザリュースとクルシュ。2人の怒號にも似た咆哮をけ、ゼンベルはあとずさる。

「お、おう。確かにガハハハとは言ってなかった気がするが……」

「兄がそんなことを言うはずが無かろう。まったく……」

「いや、そんなニュアンスのことを……」

「――最低」

『氷結散<アイシー・バースト>』に匹敵しかねない極寒の冷気を伴った聲が、クルシュの口から流れ出る。ザリュースですらぞっとするような恐ろしい聲だ。それを向けられたゼンベルは、震いをすると一瞬で直する。

「で、何しに來たんだ?」

「おう、じゃ……」

「邪魔にしにとか言ったら、考えられるだけの魔法を叩き込みます」

クルシュの発言は冗談ではない。それはザリュースにもゼンベルにも理解できた。

「あーっと。まぁ、なんだ。お前達をいに來たってわけよ。一応、俺達は立役者だろ。出ないわけにもな、これからも考えると……」

「そうか……」

ゼンベルの濁したような言葉に真意を理解し、ザリュースは苦笑いを浮かべる。次の戦いの可能も考え、強さのアピールをするのは良いタイミングだということか。我々にはこんな強い者達がいるんだという。

「了解だ。クルシュも構わないよな」

しばかり不満そうにぷくっと頬を膨らませるクルシュの姿は、地に住むデルメスカエルに似ていた。しかしながら可さが全然違う。そんなことをザリュースは考える。

「なら、いかねぇか?」

互いを見つめあいだしたザリュースとクルシュに、ゼンベルは暇そうに話しかける。

「あ、ああ。そうだな、行こうか」

「ええ」

「おっしゃ!」

3人で揃って外に出る。家の階段を降りきり、地に足をつけた段階で、クルシュとゼンベルの視界から一瞬でザリュースが掻き消える。突如、飛び込んできた巨大なものがザリュースを弾き飛ばしたのだ。

――ドンゴロゴロゴロバシャシャン。音で例えるならそんなじだろうか。

そしてザリュースの代わりに、2人の視界にはロロロがいた。4つの首は元気そうにくねり、地に転がったザリュースに嬉しそうに鼻を向けている。

「ロロロ! お前も無事か!」

泥まみれになりながらザリュースが立ち上がり、ロロロの近くに戻る。そしてを優しくでながら様子を伺う。やはり傷はない。あの火傷が噓だったように癒えている。魔法の力がどれだけ偉大か分かるものだ。

ロロロは鳴き聲を上げながら、甘えるように全部の首をザリュースに巻きつける。ザリュースの全がロロロで隠れて見えなくなるほど、執拗な絡みつき方だ。

「こらこら、ロロロ、止めなさい」

笑い聲を上げながらザリュースはロロロに止めるように言うが、ロロロは嬉しそうな鳴き聲を上げたまま、ザリュースから離れない。

バシャン。バシャン。バシャン。

突如、ザリュースの耳に飛び込んでくる、一定のリズムで繰り返される水音。それの発生源を探したザリュースは困する。

水音の発生源はクルシュだ。非常に溫和な微笑を浮かべ、ザリュースとロロロを見つめている。しかしながらその尾はある一定を刻みつつ、地面に叩きつけられていた。

クルシュの橫にいたはずのゼンベルが、引きつった顔でしづつ離れていく。

ロロロのきが止まる。ロロロも何かの違和じているのだろう。

「どうしたの?」

「い、いや……」

不思議そうに問い返すクルシュを前に、ザリュースは困する。クルシュはどう見ても微笑んでいる。それはロロロとザリュースの再會を祝っているものしか思えない。それなのに何故、これほどの怖気が全を走るというのか。

「変なの――」

再び微笑むクルシュ。

そして離れるロロロの首。自由になるザリュース。びくびくするゼンベル。あまりにも異様な空気がそこに漂っていた。そんなものに耐えられなくなったように、ゼンベルは口を開く。

「おし、ロロロ。おれと先に行っておこうぜ」

無論、ロロロにリザードマンの言葉を解する能力はない。しかしながら空気を読んだかのように、ロロロはゼンベルを乗せると意外な速さでバシャバシャと走り出す。

2人が走っていく中、殘されたザリュースとクルシュの間に奇妙な沈黙が落ちる。

クルシュが手で頭を抱えながら、左右に振った。

「あー、もう。……何してるのかしら。なんだか自分の心が自分のものでないみたい。あまりにも理知的でないって分かるのに、自分でそれを止めることができないなんて。うん、呪いとかと一緒だわ」

その気持ちはザリュースにも理解できる。そう、クルシュと始めてあった時の彼がそうだったのだから。

「クルシュ。正直に言う。――嬉しいぞ」

「――な!」

バシャンと一回、桁外れなまでに大きく水音が上がった。そしてザリュースはクルシュの橫に並ぶ。

「ほら、聞こえるか?」

「え?」

「俺達が守ったもの。そしてこれからも守らなければならないものだ」

風に乗って聞こえてくる騒ぐ聲。酒盛りをしているのだろう。それは祖霊を返すためであり、戦勝を祝うものであり、死者を追悼するものだ。

本來であれば酒は貴重品なので、こういったときでなければ行われないのだが、ここ數日間で頻繁に行われているのは、ゼンベルたちが持ち込んだ4至寶の1つのおだ。その無限の酒の量の所為でもあり、全ての部族がいるという數の多さもあり、信じられないような騒ぎとなっていた。

そんな騒ぎの聲に耳を傾けながら、ザリュースは橫にいるクルシュに笑いかける。

「まだ何も終わってないかもしれない。また偉大なる方とか言う奴が攻めてくるかもしれない。それでも……今日だけは安らごうじゃないか」

そしてザリュースはクルシュの腰に手を回す。

クルシュはザリュースに引き寄せられるまま近寄ると、その肩に頭を預ける。

「行こうか?」

「ええ……」しだけ躊躇った後、クルシュはこう続けた。「……あなた」

2人のリザードマンは共に連れ添いながら、騒ぎの中に消えていく――。

その地ではザリュース達、リザードマンに絶を教えるための鐘が鳴ろうとしていた。

扉がゆっくりと閉まっていく。今までこの部屋にいた人が出て行ったのだ。

アインズは手にしていた羊皮紙から、今閉まった扉へと目をかす。それから人差し指のみを立て、天井に突きつけた。

「エイトエッジアサシン――」

天井にく気配が複數。

今まで気配無く天井に張り付いていた蜘蛛型の忍者のようなモンスター――エイトエッジアサシン達が、最上位者の言葉をけ、きをしたのだ。扉に目を向けたまま、アインズはエイトエッジアサシンに命令を下す。

「任務を與える。降りて來い」

「畏まりました」

その言葉と共に不可視の存在が音も無く、床に降り立つ。ここで初めてアインズはエイトエッジアサシンに視線を向ける。

エイトエッジアサシンが不可視といえども、アインズのような不可視看破能力を常化している者からすれば、容易く認識できる。そしてシャルティアとアウラ。そしてメイド長――ペストーニャ、司書長――ティトゥスといったこの部屋にいる上位者たちも、空気のき、振知、不可視知等の能力によってエイトエッジアサシンの認識には功している。

「4名でナーベラルを尾行しろ」

今扉から出て行ったナーベラル。

そのアインズの自らの部下を尾行しろという言葉に、特別な反応を示す者はこの部屋にはいない。なぜなら自らの主の決めたことは絶対なのだから。エイトエッジアサシンは深く頭に當たる部分を下げるだけだ。

「……何か異様な行を取っていたら、捕縛せよ。殺害等は慎むこと。何を持って異様とするかの判斷はお前達に任せる。ただ、判斷が付かない場合は私の元まで誰が戻ってこい。監視期間はナザリックを出るまでだ」

「――畏まりました」

「なら、行け」

「はっ」

るようなきで4の蜘蛛にも似たモンスターがき出す。殘った3は再び天井へと戻っていく。音も無く扉が閉まっていく中、アインズの言葉を待つように室の全員の視線が集まる。

しかしながらアインズは口を開かない。

ナーベラルが、そしてエイトエッジアサシンが出て行った扉を、考え込むように睨むだけだ。

「ところでアインズ様、まことにわたしの能力をお忘れになっていたんでありんすかぇ?」

シャルティアが思い出したようにアインズに尋ねる。それに対し、アインズはしだけ寂しさと懐かしさをえたを浮かべて答える。

シャルティアの能力――カース・ナイトのクラス能力である『カースによる低位アイテムの破壊』。

呪いの騎士<カース・ナイト>はボーナスを得る代わりに、同程度のペナルティも得るクラスである。ぶっちゃけ不人気職でもあった。そんなクラスをわざわざシャルティアに組み込んだことをアインズ――いやモモンガは、製作者であるペロロンチーノに疑問に思って尋ねたものだ。

その時どれだけ自慢げに説明をけたか。

製作會社の裏を突いたぜ、と言いたげでかつ自慢げなペロロンチーノの聲。

それを――かつての黃金に輝いて頃の記憶を、アインズが忘れているわけが無い。

「……な、わけがなかろう? 逆にシャルティアがアレを貰ってしまったらどうしようかと不安だったぞ?」

その答えにシャルティアは頤に白魚のごとき指を1本だけ當て、小首を傾げた。外見的に14歳ほどのだからこそ、絵になる景だ。中がどうであろうとも。

そんなシャルティアの態度にアインズは力を抜いたのか、苦笑いを浮かべながら思うところを口にした。

「……アレの忠誠をお前達は信用したのか?」

「あれって死の寶珠のことですか?」

不思議そうに尋ねたのはアウラだ。アインズとの會話という2人だけの世界に、ハイハイ私もいましたといわんばかりに、突然橫から口を出されたシャルティアは、非常に不満げな表を浮かべる。いや、目のが充するように真紅に染まりだしているのはかなり怒っている証拠だろうか。

しかし、そんなシャルティアの変化を完全に無視して、アウラはそのまま続ける。

「えっと、あたしは信用しましたけど……」

偉大なるアインズ様を前にすれば忠誠を誓うのは當たり前だよね。

偉大にして至高なる死の王でしょ……ガキがもう忘れたの?

そうだった、シャルティア、ごめん。

……まぁ、許してあげるんす。でも忘れちゃ駄目でありんすからぇ。

そんなことを言い合ってる2人を無視し、アインズは後ろに控えていたペストーニャに己の考えを述べる。

「私は信用していない。だからナザリックの外に出るナーベラルに與えたのだ」

「はい」

突然、話を振られても微だにしないペストーニャこそメイドの鑑か。しかしながら先ほどまで話を振られていたのに、気づくと無視されている2人の守護者は慌てて、アインズに話を振る。

「つまりは危険であることを考えて、このナザリックから故意的に遠ざけた?」

「……そうだ。アウラ」

「でありんすが、それでありんしたら壊してしまうのが」

「……シャルティア。それは早計過ぎる考えだ。お前の悪いところだ。破壊は簡単かもしれないが、それで失うものまで考えておくべきだろう」

アインズは1呼吸分――アンデッドであるアインズは呼吸の必要が無いが――間を開けると、自分の考えるところを言う。

「知あるアイテムというものは私の知らない分野のアイテムだし、さらには今のところアレ1つしか知らないのだ。破壊は勿ないだろう。ただ、知らないアイテムというのが不安でもあるわけだ。どんなが隠されているかもしれないし、あのアイテムを探知したりする技が無いとも限らん。さらには相手を支配する力とかな」

「だからですか……」

アインズがエイトエッジアサシンに、ナーベラルを監視するように命令を出した理由を悟り、室の全員が納得の意を示す。

危険なアイテムである可能も考慮したから、ナーベラルに持たせ、そして任務の一環としてナザリックから外に出す。ナーベラルに言わないのは向こうに、そう考えていると知られないため。

それに神支配系の能力を持っていた場合、アンデッドたる存在では効果は無いが、ナーベラルなら一応は効く。

そんな生贄たる存在には、本來であれば適當なシモベをチョイスして様子を見るのが、一番良いだろう。だが、あの狀況下ではナーベラル以上に適任はいない。

「しばらくナーベラルに持たせて何も無ければ良し。何かあったら……」

「了解しました。場合によってはナーベラルを救出するチームには私もれていただければ」

ある意味、ナザリック大地下墳墓において最も癒し系の技に長けた、ペストーニャの発言にアインズは重々しく頷く。

「當たり前だ。そのときは最高のメンバーで構する。當然、守護者には全員參加してもらうぞ?」

シャルティアとアウラを代表とする室の全員が、揃ったように共に頭を下げる。

アインズたち――至高の41人に創造された存在は、どんなものでもいわば強い絆で結ばれた、そして互いに敬すべき仲間だ。至高の41人のために犠牲になるのは仕方が無いことだが、それでもそれ以外の存在が利用して良い存在ではない。

もし仮にナーベラルがどこかの誰かに利用されるようなことがあるならば、標的の抹消のため、振るわれる力はとどまるところを知らないだろう。標的の発見が面倒だからという理由で、國単位で破壊の限りをし盡くしておかしく無いほど。

そんな思いでけ止めているとは気づかないアインズは、うんうんと軽く頷く。

自らの部下たちの団結力、そして友してだ。

そんなとき、扉をノックする音が小さく響く。

が大きいということもあり、鋭敏な知覚力を持たないものであれば聞こえないだろう大きさだ。しかしながら高位の存在は基本的な能力の數値的な面も高いため、幾人かの視線が扉に向かった。

し遅れて、扉の直ぐ側に控えていたメイドが扉を開け、來た人の確認作業を行っている。室にいた皆が、誰が來たのかの大の予測はしている。現在、この部屋に來るようにと呼ばれて、來てないのは1人しかいないのだから。

メイドは外の者の確認が終わると、扉を閉め、アインズの元に向かって歩き出す。そして直ぐ側まで來ると、お辭儀をし、口を開いた。

「アインズ様。コキュートス様とエントマ様がいらっしゃいました」

「そうか」

予測されていた通りの人の來訪をけ、アインズは頷く。

れろ」

「畏まりました」

メイドが再び扉を開けに戻っていく中、室には微妙なにも似た空気が漂いだした。それは失態を犯したコキュートスがどのよう目に會うのかと不安がっているのだろう。

そんな空気に対し、アインズは苦笑するだけだ。元々敗北は想定範囲の結果に過ぎないのだから。

「失禮イタシマス」

「失禮します」

部屋の中にコキュートスがってくる。その直ぐ後ろをエントマが続く。コキュートスはアインズの機の前まで歩いてくると、深く頭を下げた。エントマは途中でコキュートスの後ろを離れ、橫に並ぶアウラたちの隣に並ぶ。

アインズの前に跪くコキュートスのその姿は、己の罪を認識し、如何様な裁きもけるという、刑者の姿にも似ていた。

「コノ度ハ私ノ失態、誠ニ申シ訳アリマセン。コノ――」

アインズはまだ続きそうなコキュートスの言葉を、手を上げることで止める。

「……コキュートス。今回戦ってみてどうだった?」

「ハッ、兵ヲオ預カリシタニモ――」

「――そういうことが聞きたいのではない。どうすれば勝てた、と聞いているのだ」

コキュートスが僅かに――昆蟲にも似ているのでよくは不明だが――不思議そうな表を浮かべ、アインズの質問に対し、しばらく黙って考え込む。それから自らの思うところを口にした。

「マズハリザードマンヲ侮ッテイマシタ。モット慎重ニ行スベキダッタカト」

「ふむ! その通りだ。たとえ私達からすれば弱い存在でも侮るのはいけないことだ。理解してくれて嬉しいぞ」

チラリとアインズはシャルティアに視線を向ける。それに気づいたのか、シャルティアが僅かに目を伏せた。自らのかつての失態を思い出したのだろう。

「他には?」

「ハイ。マズハ報不足ダッタカト。相手ノ実力、地形。ソウイッタモノガ無イ狀態デハ勝算ハドウシテモ低クナルカト」

「ふむふむ」

満足そうに頷くアインズに、コキュートスはしばかり心が軽くなる。

「他には?」

「指揮ノ不足モ問題デシタ。低位ノアンデッドナノデスカラ、臨機応変ニ指令ヲ下セル存在ガイルベキデシタ。ソレニリザードマンノ武ヲ考エ、ゾンビヲ主ニブツケ疲労ヲウ。モシクハ個別ニカサズ全テヲ一度ニブツケルベキデシタ」

「それ以外には?」

「……申シ訳アリマセン。直グニ思イツクノハコノ辺リガ……」

「そうだな。その通りだ。素晴らしい。無論、いくつか他にも考え付くが、コキュートスは充分に學んでくれた。ところで何故最初っからそうしなかったのだ?」

「……考エ付キマセンデシタ。単純ニ力デ押セバヨイト思ッテオリマシタ」

「そうか、だが、アンデッドどもが死んで々と考えたわけだな?」

嬉しそうなアインズの雰囲気に、室の幾人かが怪訝そうに伺う。ナザリックから出した兵が壊滅し、敗北を喫した割にはアインズが満足しているのが不思議なのだ。実際それはコキュートスも同じだ。ここに來たときはそれなりに重い罰を與えられるだろうと予測していた。しかし、何だか方向が変というか、罰にしてもそれほど重いものが下されるような気配が無い。

「コキュートス。お前は謝罪したいみたいだが、何か問題があったのか?」

「――ハッ?」

「スケルトンやゾンビどもが壊滅した。それが私が支配する――そして『アインズ・ウール・ゴウン』が作り上げたナザリック大地下墳墓に何か影響を與えるのか? そう思ってるとするならそちらのほうが問題だな」

驚き、何も言えないコキュートスからアインズは視線をかし、シャルティアに向ける。

「あの程度の損耗でナザリックがどうにかなるのか? シャルティア、スケルトンたちの消耗はいつ回復する?」

「あの程度のアンデッドなら、復活にかかる時間は1時間ですので、もう既に新しいのが生まれてありんす頃かと」

「――ということだ」

「デスガ、私ガ敗北シタノハ事実――」

「気にするな、コキュートス。もとより勝てなくても問題ない話だ。つまるところ敗北もまた、私の計畫の一環だ」

「ヤハリ、アインズ様ハ勝利ヲ考エラレテナカッタノデスカ?」

「本當はデミウルゴスに言われるまでも無く、気づいてしかったぞ」

アインズの視線がエントマにき、それを理解したコキュートスが頭を下げようとするのを手で止める。

「構わん。ただ、別に勝っても問題はなかった。私の立てた計畫とは勝利や敗北はどうでも良く。コキュートス、お前が何を手にれてくるかが問題だったのだ」

「ソレハ?」

不思議そうなコキュートスを無視し、アインズはペストーニャの方を向く。

「アレを持て」

「はい。ただいま」

ペストーニャは歩いて部屋の隅まで行くと、それを持って戻ってくる。それとは蓋の付いた銀の盆だ。そしてテーブルの上にそれを靜かに置く。

「これを見るが良い」

コキュートスは立ち上がり、アインズの機の上に置かれた銀の盆を眺める。ペストーニャが蓋を外し、持ち上げた中にあるモノ。それが何か、コキュートスは一瞬分からなかった。周囲に漂いだした炭特有の焦げたような匂いが無ければ、いまだコキュートスは考え込んでいただろう。

「……コレハ……ナンデショウ。マサカ、単ナル消シ炭……デスカ?」

「5日練習したメイドの作ったステーキだ」

単なる黒い塊。それがステーキだという。コキュートスはあまりに信じられずに言葉をなくす。

「料理は専用のスキルが必要だな?」

「ハイ」

ユグドラシルにおいて料理は専用のスキルが必要となる。まぁ、一時的な能力向上等のボーナスがあるのだから、當たり前の事だといえよう。

「メイドは料理をするスキルを持っていなかった。そして3日たってもやはり料理は功しない」

アインズは黒焦げのを添えられたナイフで切り裂く。中まで完全に炭素化していた。

「つまりはスキルが無いことをしようとしても失敗に終わるということだ。……実際、私もやったがを焼くということすら満足にできなかった」

調理場でアインズが料理をしようとしただけで騒ぎになったものだ。それだけの騒ぎを引き起こしながら、アインズが料理してみるとやはり出來上がったのは黒焦げを焼き始めてからの記憶すら漠然としているのだ。それはぞっとする験だった。確かにを焼くというのも好みの焼き加減を狙うと難しくなる。しかし、単に焼くだけが出來ないのだ。

「……私は知りたかったのだよ、コキュートス。スキルとして存在しないものは得ることが出來るのかと」

つまりはコキュートスの一件は、既に出來上がった存在であるアインズたちが、新たなものを得ることが出來るのかという実験でもあったのだ。戦や戦略といったものを得られたなら、アインズたちにも長の可能はあるということの証明に繋がるのだ。コキュートスが負けやすいように準備をしておいたのは、負ける方が得るものが多いのではないだろうかという、単なるアインズの勝手な考えだ。

実験の結果はアインズにとって満足のいくものだった。コキュートスは長の可能を見せてくれたのだ。

無論、手に技をつけるのと、知識の一環として學ぶのでは大きく違う。

アインズが將來的に狙っているのは――もしあるならだが――この世界特有の魔法系の習である。魔法というものは技なのか、知識なのかという問題は、今なおアインズの中で殘ってはいる。ただ、今回はその知識的な面での長実験だったということだ。

もっと単純で簡単な知識面での長実験は、アインズの頭の中にもあった。しかし、今後のことも考えるなら、戦や戦略といったものの習は重要な要點だ。ならば、経験をつませるという意味でも一石二鳥だったのだ。

「お前は長の可能を私に教えてくれた。充分な働きだ」

つまりは格もまた変わりかねない危険な可能も有しているのが、それでもひとまずは満足だ。

アインズは思う。

長しようと考えない最強は、単なる停滯だ。いつかは追い抜かれるだけだ。

100年先の軍事技を持っていたとして、それは確かに最強かもしれない。だが、そこで止まっていればいつかは最強の地位から落ちることとなる。今は周辺國家の中では強いかもしれない。だが、その強さがいつまでも保たれる。そう考えて行するものは単なる愚か者だ、と。

「……そう。全て私の計畫通りだ。コキュートスご苦労だった」

「ハッ」

釈然とはしていないが、コキュートスは再び跪き、アインズに頭を下げる。

「アインズ様。リザードマンはどうするんですか?」

「実験は終わったし、どうでもよい存在だな。掃討して報がれないようにするか?」

リザードマン以外の種族が戦闘に參加している気配は無かった。ならばリザードマンの世界はさほど大きく無いだろうと予測が出來る。別にあの小さな世界で報が止まるなら放置でもまるで問題は無いだろう。しかし、アインズの最大の不安の解決のために、放置は出來ない。場合によっては全力で潰す必要がある問題だ。アインズの保有する切り札を使ってでも。

アインズにはそうアウラに話しかけ、僅かにコキュートスがきするのを視界の端で捉える。

「どうした、コキュートス?」

「アインズ様、ヨロシイデショウカ」

「かまわないが……」

「アレハ殺シツクスニハ勿ナイカト」

「ふむ……そうだな」

アインズは考える。確かにリザードマンを支配下にするという考えも元々あった。

アインズはコキュートスを眺める。それからコキュートスの格を思い出し、気にったのかと納得する。コキュートスは強い者には敬意を払うタイプだ。その強さとは単純な力の強さばかりではない。もっとも敬意を払うのは心という目には見えないものだ。

しかし今の狀態では簡単には支配できないだろう。

「……滅ぼしても構わないし、無視しても構わない。……と思っていたのだがな、1つ知りたいのだ。私たちが弱いと思われるのは癪ではないか?」

アインズは守護者達を見渡す。誰も何も言わないが、その瞳に宿したもののは充分に理解できる。

「――アウラ」

「はい。すっごくむかつきます」

「――シャルティア」

「『アインズ・ウール・ゴウン』に敗北は似合いんせん」

「――コキュートス」

「……強者トイウ言葉ト存在ヲ教エルベキカト」

アインズは楽しげに微笑む。

「では――しばかり本気を出そうではないか。ガルガンチュアを除く全ての守護者に命令を下す。出撃だ」

「はっ」

その場にいた3人の守護者の聲が同調する。

「シャルティア。私も出る。兵の準備を整えろ」

「畏まりんした。ではナザリック全軍10萬の準備を整えんす」

「じゅ……それで移までにどの程度の時間がかかる?」

かかる時間を計算しだすシャルティアに、アインズは駄目出しをする。

「私はリザードマンたちがナザリックを大した敵ではないと思ってる時間が不快なのだ。すぐさま出撃で來る數で構わん。……そうだな。ナザリック・オールド・ガーダーを出せ」

オールド・ガーダーというアンデッドの警備兵がいる。

ナザリック・オールド・ガーダーはナザリック大地下墳墓にしか存在しない、オールド・ガーダーの上位アンデッドといえる存在である。様々な効果を付與された魔法の武を持ち、魔法の鎧と盾にを包み、戦技の幾つかを習するそのアンデッドは、優秀な警備兵として存在する。

レベル的には18。ちなみにスケルトン・ウォリアーは16である。

「數はいかほどで」

「全部だ」

「では、6000でよろしいでありんしょうか」

一瞬だけアインズのきが止まる。そんなにいたのかという驚きによるものだ。しかし、すぐに隠し――

「聞こえなかったか? 全部だ」

「はい。申し訳ありんせんであ――申し訳ありませんでした」

頭をたれるシャルティアにアインズは鷹揚に手を振った。

「ではシャルティア。《ゲート/異界門》を使い、兵力を一気に移させよ」

「わたし1人の魔力では限界が」

シャルティアの質問に予期しているアインズは、ペストーニャの方を向く。

「ペストーニャ。お前が支援しろ。お前の魔力をシャルティアに渡してやれ」

「畏まりました」

「ついでにルプスレギナにも働かせろ。――アウラ」

「はい」

「お前のシモベで最も強いものを選伐し、私の親衛としろ」

「畏まりました」

「コキュートス。お前が次回は先陣だ。その働きを私に指し示せ」

「ハッ。先ノ敗北ノ借リヲ返サセテモライマス」

アインズはにやりと笑うと、両手を広がる。

「よし。ならば行を開始せよ。それとデミウルゴスにもいったん戻るように伝えろ」

誰もいなくなった部屋にアインズの小さな呟きが吸い込まれていった。

「しかし……失態だな。リッチより強いアンデッドを指揮にするべきだったか」

今回の指揮であるリッチは、アインズが下位アンデッド作で作り出したものだ。この世界に來てから、毎日のように様々なアンデッドを、限界まで作り出して8階層に溜め込んでいるのだが、その1である。

下位アンデッド作

それは10レベルから24レベルまでのアンデッドを作する能力だ。ちなみに上位アンデッド作は25レベルから40レベルである。

その下位アンデッド作では最強のリッチが負けたというのは、々リザードマンを甘く見すぎていたという思いは隠しきれない。

「……困ったものだ」

メッセンジャーにナザリックの名前を出さないよう指示したのは、ユグドラシルプレイヤーを警戒してだ。ユグドラシルの種族の中にもリザードマンはいる。もしあの部族の中に紛れていたら、という可能を考えて出させなかったのだ。

時間を與えたのはもしプレイヤーがいた場合、ギルドや仲間を呼ぶかもしれないからという、様子見のつもりでいたのだ。しかしながらリザードマンしか集まらなかった以上、他のプレイヤーはいない可能が強いと判斷して攻めさせた。

そしてプレイヤーを引きずり出すつもりだったのが、指揮に據えたリッチの存在だ。リッチという――リザードマンでは勝てないような強者の存在が表に出れば、プレイヤーが相手をするために出てくると思っていたのだが、単なるリザードマンに負けてしまった。

結果として、いない可能は非常に高いが、完全に保障は出來ないというところか。それこそが最大の問題だ。

もし仮にプレイヤーがいた場合、既に敵対行為を行ってしまったのだ。下手に見逃すことは出來ない。

「だからこそ行くんだけどな」

個人的には嫌だが、確認をしなくてはならないだろう。

守護者に任せないのはどのような結果に終わるか予測が出來ないからだ。守護者の幾人かには、相手を侮る部分が時折じられる。今回のナザリックの敗北でその考えが変われば良いが、今まで積み上げたものが変わるにはそれなりの時間が掛かるだろう。

侮りを捨てきれない狀態で行ったのなら、相手がプレイヤーだった場合、レベルや人數にもよるだろうが、守護者の全滅に終わる可能だってある。それは避けなくてはならない。

「だが……戦闘になった場合、勝てるか?」

アインズは天井に張り付くエイトエッジアサシンの事も考え、口の中でその不安の言葉はかみ殺す。

ユグドラシルプレイヤーとしてのアインズの強さは微妙だ。確かに非常に面倒な対策さえ取られなければ、どのような相手をも瞬殺するだけの隠し玉は持っている。しかしながら既にwikiに載っている隠し玉だ。

『アインズ・ウール・ゴウン』というギルドは最強クラスであるがゆえに、wikiにギルドメンバーのある程度の報は記載されてしまっているのだ。知らない相手なら敗北はありえないが、知っている相手ならめんどくさい事になる。

「……出すか? あれを……」

アインズは第8階層のアインズが保有する最大規模の切り札について思いをはせる。

あれは多くのプレイヤーたちがチートだとんだ、かのワールドチャンピオンに匹敵する存在だ。そしてかつての1500人からなる討伐隊を全滅させ、第2次討伐隊が編されなかった理由。それをかすときが來たのだろうか。

「しかしなぁ……ほんと困ったものだ……」

アインズは頭を抱え込みたくなるのを自重し、深く考え込む。

なんでこんなに々と考えなくてはならないんだろうと思いながら。

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