《オーバーロード:前編》王都-1
リ・エスティーゼ王國、王都リ・エスティーゼ。
人口900萬ともなる王國の首都でもあるそこを一言で表現するなら、古き都市という言葉が最も相応しいだろう。これは歴史あるという意味でもあり、淡々と続く日常の延長でもあり、古めかしいだけのしょぼくれた都市――そんなの違った様々な意味合いを持った言葉でもあった。
それは1つの通りを歩けば直ぐに理解できるだろう。
左右に立ち並ぶ家々は古く無骨なが多く、新鮮さや華やかさというものがまるっきり欠けている。ただ、それをどのように見るかは人によって違う。
そう、歴史ある落ち著いた佇まいと見る者だっているだろう。
そんな都市でもある王都は、舗裝されていない道路が多く、雨に濡れれば直ぐに泥まみれとなってしまう。いや、別に王國が劣っているわけではない。ただ、帝國や法國と比べる方が悪いのだ。
そんな通りは道幅もそれほど大きいものは無い。
流石に馬車の前――通りのど真ん中を歩く者はいないが、通りをごちゃごちゃと歩いているその姿には、ごみごみとした猥雑さがあった。
そんな通りを、王都の住人は慣れたものですり抜けるように歩いていく。互いに正面から歩いていっても、ギリギリのところで用に回避するのだ。
そんな都市の一角をセバスは歩いていた。
王都では珍しいとも言って良い、石畳でしっかりと舗裝された大きな道幅を持った通りである。
というのもその通りの左右に立ち並ぶ家屋は大きく立派なものが多い。言うなら王都のメインストーリーである。確かに人は多いし、活気に満ちている。
そんな人々が幾人も振り返る中、セバスは意に介さずにぴんと背筋をばし、もくもくと歩く。
目的地をしっかりと定めた、迷いの無い足取りは、幾度と無く通っている者の歩運びだ。そう、セバスが向かっている場所は、王都に來て以來、幾度と無く通ったところである。
やがて、その目的地が僅かに見えてくる。
長い壁が続く。壁の高さは6メートルほどであり、一辺150メートルほどはあるだろうか。その壁の向こうに、角度的にしばかり頭の部分を見せている塔がある。高さ的にはそれほどではない。せいぜい5階建て程度だろうか。しかしながら周囲にその塔ほどの建築が無いために、対比的に非常に高くじる。
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そしてその塔に隣接するように複數の建があった。
これら全てを含めて、王國の魔師の多くが所屬する団の本部であり、新たな魔法の開発を行う研究機関、そして魔法使いの育を行う教育機関の一端を擔っている――王國魔師ギルド本部である。
セバスはその壁に沿って歩き、やがてしっかりとした門の前に立つ。金網狀の扉は大きく開かれ、門の左右には武裝した戦士の姿が見える。
戦士に止められることなく――一瞥されるだけで――、セバスは門を潛る。
その先、しばかりの白い昇り階段があり、3階建てほどの荘厳さをじさせる古き白亜の建に繋がる扉があった。無論、その扉も來訪者を歓迎するように開かれている。
セバスは扉を潛る。
そこにはエントランスホールが広がった。3階ほどの吹きぬけて作ったような高い天井からは、魔法の明かりを燈したシャンデリアが幾つも垂れ下がっている。
右手の方にはソファー等が置かれ、客を迎えて話せるようになっていた。
左手にはボードが置かれている。そこに張り出された羊皮紙を幾人かの魔法使いや、冒険者のような者達が真剣に眺めていた。
奧にはカウンターが置かれ、幾人かの年若い男が座している。皆一様に、建にる際に掲げられていたエンブレムを、元に刺繍されているローブを著用していた。
カウンター橫手の左右にはデッサンの人形を思わせる、目も鼻もない等大のほっそりとした人形――ウッドゴーレムが立っていた。警備兵ということだろうし、人間を置かないのは魔師ギルドとしての見栄だろう。
セバスは左右に置かれたものには目もくれずに、コツコツと規則正しい足音を立てつつ、カウンターに向かう。
カウンターに座していた青年が、セバスを確認し、僅かに目で挨拶を送ってくる。セバスはそれに答えるように軽く頭を下げた。間を置かずに數度來ている――そしてその青年が管理者の1人なのか大抵いるために、もはや顔見知りの領域だ。
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そして目の前に立ったセバスに青年はあるかなしかの微笑を浮かべ、いつもの挨拶を行う。
「ようこそ、いらっしゃいました、セバス様。當、魔師ギルドへ」數度の呼吸を置いて、青年は続ける。「ご用件をお伺いしても?」
「はい。魔法のスクロールを売って頂きたい、そう思ってまいりました」
「ご要のスクロールはございますか?」
「いえ、とりあえず、いつものリストを見せていただけますか?」
「畏まりました」
ここまでという、し長い何時もの挨拶を終え、青年はカウンターの上に大きめの書を置く。
中は紙を使い、表紙には皮を張って作った立派なものだ。表紙に金糸を使った文字をいこんである部分も考えれば、これだけでそこそこの値が付くだろうというものだ。
セバスはそれを自らの手元に引き寄せると、ページを開く。
そこに書かれた文字は殘念ながらセバスの読める文字ではない。いや、ユグドラシルの存在では読むことが出來ないというべきか。言葉はこの世界の奇怪な法則によって理解できても、文字は別だ。
しかし、そんな問題を解決するためのマジック・アイテムをセバスはアインズより預かっている。
セバスは懐から眼鏡ケースを取り出し、開く。
中には1つの眼鏡がっていた。ほっそりとしたフレームの部分に使われているのは銀のような金屬。そして良く見れば細かな文字――紋様にも思えるものが掘り込まれている。レンズの部分は蒼氷水晶を非常に薄くまで磨きかけたもの。
それを取ると目にかける。
僅かに青い視界の中、読めなかった文字がセバスにも読めるようになっていた。
「ふむ……」
呟き、丁寧だが、すばやくページを捲る。
そのまま止まることが無いと思われたセバスの手が急に止まった。そして僅かに視線をかす。
「何かございましたか?」
カウンターにいたの1人に、セバスは優しく聲をかける。
「あ、いえ……」
顔を赤くし、うつむく。
「綺麗な姿勢だな……と思いまして」
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「そうでしたか?」
セバスは僅かに微笑む。その微笑をけ、は僅かに顔を赤らめる。
白髪の紳士という言葉が相応しいセバスは、漂わせる雰囲気や姿勢が綺麗であり、見ているだけで惚れ惚れしてしまうような存在だ。確かに顔立ちも整っているが、それ以上にその他の部分が目を集めてしまう。街中を歩けばの9割は年齢に関わらず振り返らせる、そんな人なのだ。そんなわけでカウンターに座るがセバスを凝視しても、仕方がないことだし、良くあることだ。
がセバスに視線を送っていた理由に納得したセバスは、再び視線を本に落とす。
しばらくの時間が経過し、セバスは顔を上げる。
「申し訳ないのですが、この魔法――《フローティング・ボード/浮遊板》の詳しい容を聞かせてもらえますか?」
「畏まりました」青年は詳しい容を話す。「《フローティング・ボード/浮遊板》は第1位階魔法であり、半明の浮遊する板を作り出すものです。板の大きさや最大搭載重量は者の魔力によって左右されますが、スクロールからの発の場合は1メートル四方、搭載重量50キロが限界です。作り出した板は者から最大5メートルまで離した上で後ろを付いてこさせることが出來ます。これは後ろを付いてこさせるだけなので、前にかしたり等の行は取れなく、もし者がその場で180度回転した場合は、その場で止まったまま者が接近するまで待っています。基本的には運搬用の魔法であり、土木工事関係で見られる場合があります」
「なるほど」セバスは1つ頷く。「ではこの魔法のスクロールを売ってもらえますか?」
「畏まりました」
打てば響くように青年は答える。人気の無い魔法をセバスが選んだことに対し、青年に驚きのは無い。なぜならセバスが買い求める魔法のスクロールは大抵の場合がこういったあんまり人気の無い魔法だ。それに余剰在庫が捌けるというのは魔師ギルドにとっても良いことなのだから。
「スクロールを一枚でよろしいですね?」
「はい、お願いします」
青年が隣に座った男に対し軽く頭をかす。
今までの話を聞いていた男は即座に立ち上がると、カウンターの後ろの壁、奧へと続く扉を開けて中にっていく。スクロールは高額の商品でもある。流石に警備しているからといって、カウンターにドンと置くわけにはいかないのも當然だ。
「直ぐにご用意いたしますので、しお待ちください」
「ええ」
了解したとセバスは頭を軽く下げると、カウンターを離れ、その橫手に立つ。カウンターで仕事をしている人數は決まっているのだから、その邪魔にならないようにということだ。
5分ほどして先ほど出て行った男が戻ってくる。その手には丸めた一枚の羊皮紙が握られていた。
「セバス様」
セバスは懐から小さな皮袋を取り出しながら、カウンターに再び近寄る。
「こちらになります」
カウンターに置かれた羊皮紙に、セバスは目をやる。丸められた羊皮紙には、しっかりとしたもので、その辺で簡単に手にるものとは外見から違う。黒いインクで魔法の名前が記載されており、その名前と自らの求めた魔法名が一致することをセバスは確認した。それからやっと眼鏡を外した。
「確かにそうですね。これを頂きます」
「ありがとうございます」青年は丁寧に頭を下げる。「こちらのスクロールは第1位階魔法ですので金貨10枚を頂戴します」
ポーションに比べれば安い値段だが、これはスクロールが同系統の魔法を使える者にしか通常は使えないということに起因する。つまりは誰にでも使えるポーションの方が高くなるのは自明の理ということだ。
勿論、安いといっても金貨10枚は非常に高額ともいえる。しかしセバス――いやセバスの仕える人からすれば大した金額ではない。
セバスは懐から皮袋を取り出す。その口を緩めると中から一枚の貨を取り出す。
白金貨だ。
金貨の10倍の価値のあるそれを青年の手の上に乗せる。
「確かに」
青年は貨をセバスの目の前で確認するようなことをしたりはしない。それぐらいの信頼は勝ち得る程度は取引を行っているのだから。
「あのおじいさん。カッコイイよねー」
「うん!」
セバスが魔師ギルドを出て行くと、カウンターに座っていたものたちが口々に騒ぎ立てる。
そこにいたのは叡智を宿したではなく、まるで憧れの王子様に出會ったのようだった。カウンターに座る男の1人が僅かに顔を顰め嫉妬の表を浮かべるが、決して口には出そうとはしない。
他の男は逆にの発言を肯定するような意見を口に出す。
「ありゃ、かなりの大貴族に仕えていたことのある人だよな」
「うん、立ち振る舞いが凄い綺麗だものな」
うんうんとカウンターに座る一同は頷く。
セバスの姿勢や顔立ち、服裝。そしてかもし出す雰囲気。それはまさに気品に満ち満ちたものだ。大貴族本人だと言っても納得がしてしまう、そんなレベルのものだ。
「お茶とかわれたら、絶対行っちゃうよね」
「うん、行く行く!」
「凄い知識も持ってそうだしなぁ。というか、魔法の知識を持ってるけど、あの人も魔法使いなのかな?」
「かもしれないなぁ」
幾つもの魔法の名前が載った書を読むことが出來る。そしてその中からセバスが選ぶ魔法は、的確につい最近開発された魔法ばかりだ。つまりは魔法に関する充分な知識も持っているということが推測として立つ。もし命令をされて買いに來たのならば、書を開かないで即座にカウンターでその名前を出せば良いはず。それをしないで書から選ぶということはセバスが買う魔法を選んでいるということだ。
単なる老人では決して出來ない、つまりは専門的な教育をけた者――魔法使いと考えるのも當然だろう。
「それにあの眼鏡……すごく高そうだしな」
「マジック・アイテムかね?」
「いや、単なる高級品眼鏡じゃないかな? ドワーフ製とか」
「うん、あんな綺麗な眼鏡持ってるんだから凄いよね」
「俺はあの時一緒に來た人さんにまた會いたいなぁ」
ポツリと思い出したように呟いた男に、反対の聲が上がる。
「え、あの人はちょっと煩すぎるよね」
「うん、セバスさんがかわいそうだったもの」
「まぁ、絶世っていってもいい人だけど、あんな騒がしいのはなぁ……」
「さ、おしゃべりはそれぐらいにしよう」
カウンターに向かって歩いてくる冒険者の格好をした人を目にし、青年は口にした。
◆
魔師ギルドから外に出、軽く空を見上げてから、セバスは次に行くべき場所に思いをはせる。
第一として自らの主人より與えられた命令は、國家が保有するであろう兵。これについての報収集である。無論、兵に関する報を手せよといわれて簡単に行えることではない。例えば王家蔵の兵とかになれば報を集めるのは、調査系ではないセバスには困難極まりない。
そのため予測される兵に関する報収集に著手した。これは警備についている兵士の様子や、冒険者を相手にしている酒場の主人の話等から得る手段だ。
これで全的な王國の兵レベルの予測をしようというのだ。
次に科學技レベルと魔法技レベルが一どの程度なのか。何ができて何ができないのか、特に最優先は報収集系の技である。
魔法というものが存在するこの世界にあって、科學技はさほど発展していない。確かに魔法使いという一部の技者しか使えない技よりは、多くの者が使える技を研究するものは多いるが、畫期的なものは見つかってはいないのが現狀だ。
そのため魔法技さえ手にれれば、アインズからの指令はこなしたも同然だ。
現在セバスが行っているのは、そのための準備である。まずは顔を売ろうとしているのだ。
最後が強者の存在の確認だが、これに関してはセバスは置いておいても良いと判斷している。それは強者の存在が一切確認できないからだ。一応、王都でも最強とされる冒険者の姿は遠目から確認したが、大した強者のようにも思えなかった。
「いや、彼だけは別ですか……」
セバスはたった一人だけ、強者と思われる存在を思い出す。セバスと比べればはるかに弱いが、直轄のメイドと比較するなら、敗北の可能が極僅かだがある存在。
要注意という人を。
セバスは彼の顔――いや姿を思い出し、軽く首を振った。
彼に関しては主人より、調査の凍結指令が下っている。面倒ごとになりかねない問題は一先ずおいておけという旨でだ。
そのため取り急ぎ、セバスがしなくてはならない懸案事項は無い。
「さて、どうしますか」
セバスは呟き、己の髭をで付けると、ふらりと歩を進める。
特別、目的地を定めたものではない。
この頃のセバスの趣味である、都市の散策。それを行おうと思っただけだ。片手に持っていたスクロールをくるりと回し、歩き出すその姿は、機嫌の良い子供のようでもあった。
王都の中でも中央とされる治安の良い部分から外へ外へと遠ざかるように、足を進める。
やがて幾つも通りを曲がり続ける中、路地は薄汚れた雰囲気を纏い出し、わずかな悪臭が漂う。生ゴミや汚の臭いだ。服に染み込んでくるようなそんな空気の中をセバスは黙々と歩く。
そしてふと立ち止まると、周囲を見渡す。完全な裏道にったのか、狹い路地は人がすれ違うのが限界なほどの細さだ。
「ふむ……」
無造作に歩いたのだが、目印が無いこんな路地にいても、自分が今どのあたりにいるのかセバスは直的な意味合いで大の場所を摑んでいる。そのためかなり自分が歩いたということが即座に理解できた。
セバスの能力を持ってすれば大した距離ではないが、普通に歩いて帰るとなるとそこそこの時間が予測される。あまり遅くなるのも家で待っている者に悪い。
「……帰りますか」
もうし散策を続けたのも事実ではあるが、自らの趣味に時間を割きすぎるのは仕えるものとして良い行とは言えない。
セバスは踵を返すと、細い路地を歩き出す。
もくもくと歩くセバスの前――20メートル先にあった鉄の重そうな扉が、軋みを上げながらゆっくりと開いていく。セバスは立ち止まると、何が起こるのかと只黙って見ていた。
重い扉が完全に開かれ、どさりとかなり大きい袋が外に放り出される。中に詰まっていただろうらかいものがぐにゃりと形を変えるのが見て取れた。
扉がセバスの方に開くため、扉の影に隠れてほうり捨てた人の確認は出來ない。しかしながら扉は開いてはいるものの、ゴミでも捨てるように放った人は一旦中にったのだろうか、続いての行を起こさない。
セバスは一瞬だけ眉を顰め、そのまま歩を進めるべきか、それとも別の方向に足を進めるか迷う。わずかな逡巡の後、靜まり返ったその細く薄暗い路地へとそのまま歩を進める。
やがて大き目の袋との距離が迫る。口は開いているが、セバスはそれから視線をそらす。そしてその袋の口から漂ってくる臭いからも意識をそらす。同じように僅かに開いている扉からもだ。
好奇心、貓をも殺す。
厄介ごとの雰囲気が漂う袋や家の中に、興味を持っても良い事は無いだろう。セバスはそう判斷したのだ。
セバスは袋を避けるように路地の反対側の壁により、すれ違う。
そして――コツコツという規則正しい足音が止まった。
セバスのズボン、そこに何かが引っかかったような軽いがあったのだ。セバスは視線を下げることを迷い、目を前に向けたままきを止める。セバスは揺し、困していたのだ。
それは非常に珍しい景だ。もしこの場にナザリックに屬する者がいれば驚きの表を浮かべただろう。それほどの狀況にセバスは今立たされていたのだ。
そして覚悟を決めて視線を下にかした。そこで予測されていたものを見つける。
セバスのズボンを摑むその細い枝のような手を。
そして袋から姿をみせている半のを――。
袋の口が今では大きく開き、そのの上半が大きく外に出ていた。
元は活発だったのだろう青い目は今ではどんよりと濁りきっている。ぼさぼさにびたさほど長くない金髪の髪は乏しい栄養環境によるものか、非常にボロボロになっていた。顔立ちからは醜は判別が付かない。當たり前だ。毆打によってボールのように膨らんだその顔で、判斷が付くはずが無いだろう。
そしてがりがりに痩せきったには、生気といえるようなものがほんの一滴も殘っていなかった。そのため年齢を判斷することはまるで出來ない。老婆のようにも、まだいのようにも思えるほどだ。
枯れ木のような皮には爪くらいの大きさで、淡紅をした斑點が無數に出來ていた。
それはもはや人間の死だ。いや勿論、死んでいるわけではない。そのセバスのズボンを摑む手が雄弁に語っている。だが、息をするだけの存在を生きているとはっきり言い切れるだろうか。
彼はそんな存在なのだ。
「……手を離してはくださいませんか?」
セバスの言葉に反応は無い。聞こえていて無視をしているのではないのは一目瞭然だ。瞼が膨らんでいるために僅かに線のように開かれた、中空を見るように投じられた濁った瞳には何も寫っていないのだから。
「手を離してはくださいませんか?」
セバスは重ねて問う。
セバスが足をかせば、その枯れ枝以下の指を払うことは用意である。もはや力のってないその指がセバスのズボンを摑んだのは幸運程度の何かでしかないのだから。
そう、幸運は2度も起こる訳はない。
「……私に何か言いたいことでも?」
セバスがこうとした時――
「おい」
どすの効いた低い聲がセバスにかかる。
扉から男が姿を見せていた。盛り上がった板に太い両腕。顔には古傷を作った、暴力を生業にするもの特有の雰囲気を多分に匂わせた男だ。
「おい、爺。こんなところで何を見てんだ?」
男は目を細くし、セバスを睨みつける。それからこれ見よがしな大きな舌打ちを1つ打つと、顎をしゃくる。
「失せな、爺。今なら無事に帰してやるよ」
セバスがかないのを見ると、男は一歩踏み出す。男の後ろで扉が重い音を立てて閉まる。
「おう。爺、耳が遠くて聞こえねぇのか?」
肩を軽く回し、次に太い首を回す。右手をゆっくりと持ち上げ、握り締める。暴力の使用を決して迷わないタイプだというのが明確な態度だ。
「ふむ……」
セバスが微笑む。老年の紳士とも言うべきセバスの深い微笑みは、安堵と優しさを強くじさせるものだ。だが何故か、男は強大な食獣が突如目の前に現れたような気分に襲われた。
「おぉ、おう、なん――」
セバスの微笑みに押され、言葉にならない言葉が男の口かられる。呼吸が荒いものに変わっている事さえ気付かず、男は後ろに僅かに下がろうとする。
セバスは今まで片手に持っていた魔師ギルドの印のったスクロールをベルトに挾む。それから一歩だけ、開いた分の距離を詰めるように正確に男の方に足を進め、手をばした。そのきに男は反応することさえ出來ない。音にならない音を立て、セバスのズボンを摘んでいたの指が路地に落ちる。
まるでそれが合図だったかのように、セバスのばした手が男の倉を摑み、そして――男のがいとも容易く持ち上がった。
それは第三者がもしこの場にいれば、まるで冗談のような景のようにじられただろう。
外見的な特長であれば、セバスと男を比べるならセバスに勝ち目は無い。若さ、板、腕の太さ、長、重、そして漂わす暴力の匂い。どれを取ってもだ。
そんな紳士然とした老人が、その腕で屈強で十分な重があると思われる男を片手で持ち上げているのだから。これが逆だったのならまだ信じることができたという景だ。
――いや、違う。その場でもしその景を見る者がいたら、その二者の間にある『差』というものを鋭敏にじ取ったかもしれない。人間は生が持つ勘――生存本能というものが鈍いといわれるが、これだけはっきりしたものを突きつけられれば即座に悟っただろうから。
セバスと男の間にある『差』。
それは――
――絶対的強者と絶対的弱者という差。
完全に地面から両足を持ち上げられた男は、両足をばたつかせ、をくねらせる。そして両腕でセバスの腕を摑み掛かろうとして、何かに悟ったように、恐怖のが目の中に宿った。
遅いながらも、ようやく男は気付いたのだ。目の前にいるセバスが、外見とはまるで違う存在だということに。無駄な抵抗が、目の前の化けをより苛立てる行為に繋がると。
「彼は『何』ですか?」
靜かな聲が恐怖で直しつつあった男の耳に飛び込む。
のまったくじさせない、いや清流のごとき靜けさを湛えた聲。それは男を平然と片手で持ち上げるという狀況にまるで似合わないものだ。だからこそ恐ろしい。
「う、うちの従業員だ」
僅かに緩んでいるために聲は出せる。男は必死に、恐怖によって裏返る聲を上げた。そんな男の返答に、セバスは即座に返す。
「私は『何』ですかと尋ねました。それに対するあなたの答えは『従業員』ですか」
何か言うべき言葉を間違えたかと男は考える。しかしこの場合、最も正解に使い筈の答えのはずだ。男は大きく見開いた目を怯える小のようにキョトキョトとかす。
「いえ。私の仲間にも人という存在をのように扱う者たちがいます。あなたがその認識ならば、このような扱いは當然だろうと思ったのです。ですが従業員という答えから推測すると、同族であると認識し、このような行為を行っていたと理解していたわけですね。それでは重ねて質問をさせていただきましょう。彼をどうするので?」
男はし考える。だが――
ミシリと音が鳴ったようだった。
セバスの腕により力がり、男の呼吸が一気に苦しくなる。
「――ぐぅう!」
セバスが摑む手に力をれたことによって、男は呼吸が難しくなりにより奇怪な悲鳴を上げた。そこにある意志は『考える時間は與えないから、とっとと話せ』である。それが理解できただろう男は、即座に口を開いた。
「び、病気だから神殿につれて――」
「――噓をあまり好きませんね」
「きひぃっ!」
セバスの腕に込められた力が強くなり、より一層呼吸が苦しくなった男は、顔を真っ赤に染め上げながら奇怪な悲鳴をらす。袋にれて運搬するという行為を百歩譲って認めたとしても、袋を路地に投じたその姿に、病気だから神殿に連れて行くというは一切じられなかった。
あれがゴミを捨てる行為だというのならば認められるが。
「やめ……かぁ」
息が苦しくなりだし、命の危険に曬されはじめた男は、後のことを一切考えずに暴れだす。顔面を狙って飛んでくる拳は、容易く片手で迎撃する。バタつかせた足がセバスのに當たり、服を汚す。しかしながらセバスのは一切かない。
――當然だ。
數百キロを思わせる鋼鉄の塊を、単なる人間の足でかせるはずがない。太い足で蹴られながらも、平然と、まるで痛みをじないようにセバスは続ける。
「正直に話されることをオススメしますが?」
「がぁ――」
完全に呼吸が出來なくなった男の真っ赤に染まった顔を見上げ、セバスは目を細める。完全に意識を失うギリギリの瞬間を狙って、手を離す。
聞く者が痛そうに顔をゆがめてしまうほどのガツンという大きな音を立て、男が路地に転がった。
「げぎゃぁあああ」
肺の中に最後に殘った空気を悲鳴として吐き出し、それからカヒューカヒューとむさぼるように酸素を取りれる男をセバスは靜かに見下ろす。それから再び手を元にばす。
「ちょっっ、ま、まってくれ!」
セバスのばした手がどのような意味を持つものか。それが理解できるほど、そのに恐怖として焼き付けられた男は痛みに耐えながら、セバスの手から転がるように離れる。
「ま、まってくれ。本當だ。神殿に連れて行くつもりだったんだ!」
意外に心が強い。それとも別の恐怖を與えられているからか。
セバスはそう判斷し攻撃の手を変えることを検討する。ここはある意味敵の陣地だ。男が扉の奧に助けを求めないということは、即座に援軍は來ないだろうが、それでも長時間ここにいることは面倒になるだけだ。
「神殿に連れて行くといいましたね。ならば私が連れて行っても問題は無いかと思いますので、私が預かりましょう」
驚き、男の目が左右にく。それから必死に言葉を紡いだ。
「……あんたが本當に連れて行くっていう証拠がねぇだろ」
「ならば一緒に行けばよろしいのでは?」
「今は用事が會っていけねぇ。だから後で連れて行くんだよ」セバスの顔に何かをじた男は、早口で言葉を続けた。「それは法律上、おれたちのものだ。あんたが何かをするのなら、それはあんたがこの國の法律を破ったってことになるぜ!」
ぴたりときを止め、セバスは初めて眉を寄せる。
最もセバスにとって痛いところを突かれた。
アインズはある程度は目立つ行をとってもかまわないと言ってはいたが、それは金持ち娘というダミーを演じるための行為としてだ。出來る限り騒ぎを起こさずに、靜かに報収集を行う。それが主人の本當の意志だ。
法律を破るというのは下手すると司法の手がび、調査された場合は被っているアンダーカバーが破られる可能まで繋がりかねない。
つまりは大きな騒ぎに直結しかねない問題だということだ。
ならばこのを見捨てるのが正しい行為か。
男には法律知識を収めた雰囲気はまるで無い。それに関わらず、その言葉には自信に満ち溢れていた。とするとそういった法律に関してのれ知恵をしている者がいるということ。ならばその法律関係の話は適當に言っているのではなく、理論武裝した結果の真実である可能が高い。
セバスが腕力にを言わせて押し通すことは容易だ。しかしこうなってしまうと、その行為は當然セバスの首を絞める。
勿論、法律なんか糞食らえと行なうことも出來る。ただ、それは最後の手段であり、自らの主人の目的に関わるときのみの最終手段だ。この見知らぬのために行って良いものではない。
男の下卑た笑いが、迷うセバスを苛立てる。
「主人に緒で厄介ごとを抱え込んで良いのかぁ?」
にたにたと笑う男に、初めてセバスははっきりと分かるように眉を顰めた。そんな態度に男は弱みをじ取ったのだろう。
「どこぞの貴族に仕える方か知らないけどなぁ。法律を破るのはご主人様に迷がかかるんじゃねぇか? あん?」
「……私の主人がその程度どうにかできないとでも? 法律は強者にとっては破るためのものですよ?」
一瞬だけ男は怯んだような雰囲気を見せるが、すぐに自信満々な姿を見せつけた。
「……ならやってみるか? うん?」
「…………ふむ」
セバスのはったりに、男が怯んだ様子は無い。実際にこの男――そして後ろ盾が実際にいるなら、なんらかの権力者との強いコネがあり、それだけでは司法はかないという自信があるのか。
この方面からの攻撃は効果が無いと判斷し、セバスは別の角度からの攻撃に移る。
「……ですが、彼が助けを求めた場合、例えどのような形態の従業員であろうと、彼の意志を尊重するべきだと思われますが?」
「む……いや……それは……」
男が困ったようにブツブツと呟く。
化けの皮がはがれた。
セバスは男の演技力の無さ、そして頭の回転の遅さに安堵する。もし男がそれも法律上と噓でも言い出したら、この國の法律関係の知識に乏しいセバスには、どうすることも出來なかっただろう。結局、法律関係の知識を己のとせずに聞きかじっただけだからこのざまなのだ。セバスにとっては有利なことに。
セバスは男を視界から追い出すと、の頭を抱き上げる。
「助けてしいですか?」
セバスは問いかける。それからのひび割れ、かさかさのにその耳を近づけた。
耳に掛かるのは微かな呼吸音。いや、これは呼吸音なのか、しぼんだ風船が最後に空気を抜けきるような音が。
答えは返ってこない。セバスは微かに頭を左右に振り、もう一度尋ねる。
「助けてしいですか?」
幸運は2度も起こるものではない。
當たり前だ。幸運とは運の良いこと。たまたまの出來事だ。それが何度も起こるほうが変だろう。意志の殆ど無いほど衰弱した彼がセバスのズボンを摑む。それ以上、幸運が起こるはずがない。
セバスの問いかけは無駄になる。
男はそう思い、微かに下卑た笑いを浮かべた。
そののおかれた環境、そしてその地獄のような狀況。それらを知るものからすれば當たり前のことだ。そうでなければ廃棄しようと、外に出したりはしなかっただろうから。
そう、先にセバスのズボンを摑んだのがそれが幸運だったらだ――。
――彼にとっての幸運はセバスがこの通りに足を踏みれた。そこで終わっていたのだ。それからの先は全て彼の生きたいという意志が起こした行為。
それは――決して幸運ではない。
――微かに。
――そう。
本當に微かにのはく。それは呼吸のような自的に行うものではない。はっきりとした意識をじさせるものだ。
「――――」
その言葉を聞き、セバスは一度だけ大きく頷く。
「……天から降り注ぐ雨を浴びる植のように、己の元に助けが來ることを祈るだけの者を助ける気はしません。ですが……己で生きようとあがく者であれば……」セバスの手がゆっくりとの目を覆うようにく。「恐怖を忘れ、おやすみなさい。あなたはこの私の庇護下にります」
その優しく暖かいにすがる様に、はその濁った目を閉じた。
信じられないのは男の方だ。だから當然の臺詞を口に出そうとする。
「噓――」
聲なんか聞こえなかった。そう吐き捨てようとした男は凍りつく。
「噓……ですか?」
いつの間にか立ち上がったセバスの眼が男を抜く。
それは兇眼。
心臓を握りつぶすような、理的圧力さえ兼ねたような眼が男の呼吸を止める。
「あなたが言いたいのは……この私が噓をあなたごときについたと言いたいのですか?」
「あ、い、あ……」
ごくりと男のが大きくき、溜まっていた唾を飲み込む。目がき、セバスの腕に釘付けになる。調子にのって忘れていたあのときの恐怖を再び思い出したのだ。
「では彼は連れて行きます」
「ま、待て!」
聲を張り上げた男にセバスは一瞥を向ける。
「今だ何かあるのですか? 時間を稼ぐつもりとでも?」
「ち、ちげぇ。信用できるものをもらいたいって……ことだ」
「信用できるもの? それは?」
「か、金だ。あんたが……本當に神殿に連れて行くとも信じられねぇ。どこかにドロンという可能だってあるはずだ」
「彼を連れて消えることに何か目的があるとは到底思えませんが? 何か彼に価値でもあるので?」
「そ、そんなわけは無ぇ。でもならあんたが何でそのに執著するんだよ。あんたならはいくらでも選べるだろうよ」
セバスは僅かに目を細める。このを助けようとした、心に生じた波紋がどこから生まれたものか。本當に理解できなかったためだ。他のナザリックの存在であれば、大抵が面倒ごとを避けるために無視しただろう。手を弾き、そのまま歩を進めたはずだ。
セバスは自分でも説明できない心の働きを、今は考えるべきではないと棚上げ、男に答える。
「……まぁそれはどうで良いでしょう。もしあなたが私が神殿に連れて行くかどうか、不安だというのならばあなたも一緒についてくればよろしいのでは?」
「お、おれは今はちょっと忙しい……」
一瞬だけ沈黙が降りる。セバスとしてはこれ以上腹を探って時間を無駄にする気はない。
「……保証金的な意味合いで金を預かりたいということですね? 了解しました。いくらほどですか?」
「……金貨100枚」
なるほどとセバスは納得する。これが男の最後の手か、と。
金貨100枚という大金を提示することで、何かを引き出そうとしているのだろう。狙いが時間か、はたまたは別のものかはセバスには読めない。ただ、単純な金銭的な狙いとは別に、何らかの理由があるはずだ。金貨100枚にもなれば重量1キロ。かなりの膨らみになる。それに金貨100枚を持ち歩いている人間はそうはいない。
そのため、セバスが持って無いと思って、無理難題として男は提示しているのだろう。
セバスはだからこそ即答する。
「承りました」
セバスは皮袋を取り出す。男の目に訝しげなが浮かんだ。當たり前だ。金貨100枚というのはそんな小さな皮袋にる金額ではない。
「寶石なら信じ……」
そこまで言った男は路地に転がった貨に目を釘付けにした。その銀にも似た貨の輝き。それは白金貨。金貨の10倍の価値のあるそれが、計10枚転がっていた。
「そうそう、白金貨10枚はこの狀態の彼にはつりあわないほどの高額だと思いますが。これで雙方あったことを忘れてはどうでしょうか?」
「あ、ああ……」
「それに、次回あったときは彼の治療に掛かった金額は請求させていただきます。無論、これはあなたが彼を引き取りに來た場合ですが……金銭には糸目をかけずに治療行為を行うつもりですので、高額になることを約束しますよ。それと保証金ですので彼を引き取りに來る場合は、全額の返済もお願いします」
セバスはそれだけ言うと、もはやこの場に用は無いとをの前に擔ぎ上げ、歩き出した。
じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出身の魔導士、通訳兼相棒の新米回復術士と一緒ずてツートな無詠唱魔術で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】
【2022年6月1日 本作が角川スニーカー文庫様より冬頃発売決定です!!】 「オーリン・ジョナゴールド君。悪いんだけど、今日づけでギルドを辭めてほしいの」 「わ――わのどごばまねんだすか!?」 巨大冒険者ギルド『イーストウィンド』の新米お茶汲み冒険者レジーナ・マイルズは、先輩であった中堅魔導士オーリン・ジョナゴールドがクビを言い渡される現場に遭遇する。 原因はオーリンの酷い訛り――何年経っても取れない訛り言葉では他の冒険者と意思疎通が取れず、パーティを危険に曬しかねないとのギルドマスター判斷だった。追放されることとなったオーリンは絶望し、意気消沈してイーストウィンドを出ていく。だがこの突然の追放劇の裏には、美貌のギルドマスター・マティルダの、なにか深い目論見があるようだった。 その後、ギルマス直々にオーリンへの隨行を命じられたレジーナは、クズスキルと言われていた【通訳】のスキルで、王都で唯一オーリンと意思疎通のできる人間となる。追放されたことを恨みに思い、腐って捨て鉢になるオーリンを必死になだめて勵ましているうちに、レジーナたちは同じイーストウィンドに所屬する評判の悪いS級冒険者・ヴァロンに絡まれてしまう。 小競り合いから激昂したヴァロンがレジーナを毆りつけようとした、その瞬間。 「【拒絶(マネ)】――」 オーリンの魔法が発動し、S級冒険者であるヴァロンを圧倒し始める。それは凄まじい研鑽を積んだ大魔導士でなければ扱うことの出來ない絶技・無詠唱魔法だった。何が起こっているの? この人は一體――!? 驚いているレジーナの前で、オーリンの非常識的かつ超人的な魔法が次々と炸裂し始めて――。 「アオモリの星コさなる」と心に決めて仮想世界アオモリから都會に出てきた、ズーズー弁丸出しで何言ってるかわからない田舎者青年魔導士と、クズスキル【通訳】で彼のパートナー兼通訳を務める都會系新米回復術士の、ギルドを追い出されてから始まるノレソレ痛快なみちのく冒険ファンタジー。
8 77【書籍化】俺は冒険者ギルドの悪徳ギルドマスター~無駄な人材を適材適所に追放してるだけなのに、なぜかめちゃくちゃ感謝されている件「なに?今更ギルドに戻ってきたいだと?まだ早い、君はそこで頑張れるはずだ」
※書籍版2巻でます! 10/15に、gaノベル様から発売! コミカライズもマンガup で決定! 主人公アクトには、人の持つ隠された才能を見抜き、育てる才能があった。 しかしそれに気づかない無知なギルドマスターによって追放されてしまう。 數年後、アクトは自分のギルド【天與の原石】を作り、ギルドマスターの地位についていた。 彼はギルド構成員たちを次から次へと追放していく。 「鍛冶スキルなど冒険者ギルドに不要だ。出ていけ。鍛冶師ギルドの副支部長のポストを用意しておいたから、そこでせいぜい頑張るんだな」 「ありがとうございます! この御恩は忘れません!」 「(なんでこいつ感謝してるんだ?)」 【天與の原石】は、自分の秘めた才能に気づかず、理不盡に追放されてしまった弱者たちを集めたギルドだった。 アクトは彼らを育成し、弱者でなくなった彼らにふさわしい職場を用意してから、追放していたのだ。 しかしやっぱり新しい職場よりも、アクトのギルドのほうが良いといって、出て行った者たちが次から次へと戻ってこようとする。 「今更帰ってきたいだと? まだ早い。おまえ達はまだそこで頑張れる」 アクトは元ギルドメンバーたちを時に勵まし、時に彼らの新生活を邪魔するくそ上司たちに制裁を與えて行く。 弱者を救済し、さらにアフターケアも抜群のアクトのギルドは、より大きく成長していくのだった。
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