《オーバーロード:前編》王都-7

王都の大通りをクライムは歩く。人ごみに混じると、外見的な特徴では、さほど目を引くところが無いクライムは、完全に溶け込んでしまう。

街中に出るに當たって、流石に白のプレートメイルは目立つということのため、いでいる。特殊な錬金アイテムを使えば鎧のを変えられるとはいえ、流石にそこまでして著用しようとは思わない。大、街中を歩くのにフルプレートメイルで武裝してというのは行き過ぎだろう。

そんなクライムは裝備を軽いものとしている。そのため多目を引くものといえば、服の下のチェインシャツと腰に下げた単なるロングソードぐらいか。

これぐらいの武裝なら通りを歩く人間でも、時折見かけるもの。歩いている人ごみが割れたりするほどの重武裝ではない。

現在のクライムの格好は正しい反面、間違ってもいる。

兵士であるなら兵士らしい格好があるし、ラナー直下の兵士としての行なら與えられた純白のフルプレートメイルを著るべきだろう。勿論、クライムにも言い分はある。今回は兵士としての仕事でもないし、ラナーより與えられた大切なフルプレートメイルをラナーを守るという任務の以外に使いたくないという考えだ。そして何より、目立ち過ぎたくないというちょっとばかりの恥心もあった。

ただ、そんな風に考えるのもクライムが兵士であり、冒険者では無いからだ。

冒険者であれば目立つ格好をするというのは、さほど変な行為ではない。無論、隠を取る必要があるときなどの例外は除いてだ。冒険者にとって目立つ格好というのは、ある意味自分達の宣伝に繋がる。そのため奇抜な格好を取ることで、強い印象を殘し、噂を高めていくことで名を売って行くという者もいる。

これを恥ずかしい行為だと思うような冒険者は、逆に愚かと判斷されるだろう。しかし例外というものはどこにでもいるもので、クライムが今から會いに行く『蒼の薔薇』の一行ほどのレベルであれば、その必要なんかはまるで無い。

Advertisement

彼らクラスになれば、歩いた後がそのまま噂の対象であり、敬服の道が出來るからだ。

やがて道の橫手に1つの冒険者の宿が見えてきた。敷地全を使って建を建てるのでは無く、宿屋である建、馬小屋、そして剣を振るえるだろう庭というふうに、広い敷地を贅沢に使った宿屋だ。

宿屋部分も外からも分かるぐらい綺麗な建であり、部屋だろう場所の窓にはき通ったガラスがはめ込まれていた。

最高級の宿屋であり、腕に自信があり、かなり高額の滯在費を払える冒険者が集まる場所だ。

クライムはその宿屋の扉を開ける。

1階部分を使った広い酒場兼食堂には、その広さからするとなすぎる冒険者達がいた。つまりはそれだけ上位の冒険者というものはないものなのだ。

店で上がっていたわずかなざわめきが一瞬だけ収まり、店にってきた人間に対する好奇の目が集まる。クライムはそんな視線を一に浴びながらも、意に介さず、見渡す。

屈強な冒険者ばかりだ、その場にいる殆どの冒険者がクライムを倒すことが出來るだろう。その中でもクライムを瞬時に倒せる者もちらほら見える。

だが、彼が探す人はそんなレベルではない。

即座に店のある一點で視線が止まった。當たり前だ。あれほどの存在を見落とすわけがない。

クライムの視線の向かった先――そこは店の一番奧。天井から吊り下げられた明かりの外れ。若干薄暗くなった辺り。そこにある丸テーブルに座った2人の人へ。

1人は小さい。漆黒のローブで全をすっぽりと覆っている。

長い漆黒の髪が流れ、わずかな明かりを綺麗に反している。顔は見えない。それはの加減ではなく、額の部分に朱の寶石を埋め込んだ、異様な仮面でその顔を完全に覆い隠しているためだ。目の部分にわずかな亀裂がっているだけで、その奧にあるだろう瞳のさえ確認できない。

そしてもう1人。

先の人が小さいなら、こちらは圧倒的なまでに大きい。巨石――そんな言葉が脳裏に浮かんでしまうほど。全はある意味太い。これは脂肪が付いているという意味ではない。

Advertisement

丸太を思わせる太い腕。頭を支えるための太い首は、やせぎすのの両太ももを合わせたぐらいはあるのではないか。そんな首の上に載った頭は四角い。力をれるためにしっかりと噛み締める顎は橫に広がり、周囲の様子を伺うための瞳は食獣のようだった。金の髪は短く刈り上げられており、機能のみを重視している。

服によって隔されている板はこれ見よがしに盛り上がっている。鍛えに鍛えきった筋が即座にイメージされた。はっきり言えばとしてのではもはや無い。

A+冒険者パーティー――蒼の薔薇。

のみで構された有名な冒険者パーティーの一員であるの2名。

魔法使い――イビルアイ、戦士――ガガーラン。その2人だ。

クライムはそちらに向かって歩き出す。ってきた時から注意は払っていたのだろうが、自分達に向かって歩き出したため、確認が取れたのだろう。目的の人が1つ頷くと、ハスキーな大聲を上げた。

「よう、貞」

店の人間から一斉に視線がクライムに集まる。しかし、揶揄の聲は上がらない。それどころか、即座に興味がなくなったように視線が離れていく。一握りの哀れみにも似たものをえて。

周囲にいる冒険者達のさっぱりとした対応は、ガガーランという人へのお客さんに、なんらかの態度を取るのは勇気ではなく蠻勇だとこの場にいる全ての者が知っているからだ。そう。Aクラス、Bクラスの冒険者であってもだ。

ある意味恥ずかしい呼ばれ方をしながらも、クライム自、平然としたもの態度で歩き続ける。

ガガーランがクライムのことをそう呼ぶが、どれだけ言っても変わることをしない。ならばもはや諦めるのが最も有効な手なのだから。

「お久しぶりです、ガガーラン様――さん。それにイビルアイ様」

イビルアイ、ガガーランの元まで到著すると、ぺこりと頭を下げる。

「おう、久しぶりだな。なんだ? 俺に抱かれたくて來たのか?」

イスに座りなと顎でしゃくりながらも、ニヤニヤとその四角い顔に食獣の笑みを浮かべ、ガガーランはクライムに尋ねる。クライムは無表に橫に振る。

Advertisement

これもガガーランのいつもの挨拶といえば挨拶だ。しかしながら別に冗談というわけでもない。もしクライムが冗談でもそうだと答えれば、即座にガガーランに二階の個室に連れ込まれるだろう。

食いが好きと公言して止まない、ガガーランはそういう人でもある

そんなガガーランに対し、イビルアイは正面を向いたまま、一切顔をかしていない。仮面の下で視線だけ向けてきているのかもしれないが、クライム程度ではイビルアイほどの人の視線まではつかめない。

「いえ、違います。アインドラ様に頼まれまして」

「ん? リーダーに?」

「はい。伝言です。本日はラナー様の元に泊まるとのことです」

「おいよ。それで?」

「いえ、それだけです」

「ふーん、それっぽちのためにご苦労なことだな?」

ご苦労様という笑いをその太い顔に浮かべたガガーランにまだ言うべきことがあると、クライムは思い出す。

「今日、ガゼフ様に剣の修行に付き合ってもらうという幸運に恵まれたのですが、教えていただいた自信を持って放てる一撃――大上段からの一撃でしたが、ガゼフ様に褒められました」

「おう、あれか!」この宿屋の庭で軽く修行をつけてやった剣を思い出し、ガガーランは破顔する。「ふーん、やるじゃねぇか。でもよ……」

「はい、満足することなく、より鍛錬に勵みたいと思います」

「それもそうだけどな。その技は破られると思って次に繋げる技もそろそろ作っておけよ」

返答をせず、自らの言った言葉の真意を理解しようとしているクライムに、ガガーランは笑う。それほど深く考える必要は無いのだが、と。

「本當は無數の手からその場その場に適した、剣を振るうのが正解なんだ。でもよ、おめぇにはそれができねぇ」暗に才能が無いからとガガーランは言う「だから3連続ぐらいは自分で自信を持てる剣を作れ。相手が攻撃に転じれないような3連撃だ」

「はい」

「まぁ、モンスター相手とかになるとそういう奴は通じねぇ。でも人間相手なら通じるはずだ」

「はい」

「パターンって奴は覚えられると終わりだが、初見の奴なら結構効果的だからな。押して押して押しまくれるの作れよ」

「分かりました」

クライムは大きく頷く。

今朝、ガゼフという人にあそこまで攻め込めたのはあの1回だけだった。それ以外は即座に見切られ、反撃をけるだけだった。

ではそれで、自信を喪失した? 否。

ではそれで、絶した? 否。

逆だ。

逆なのである。

凡人が王國――いや周辺國家最強の戦士にあれだけ迫ることが出來たのだ。本気を出していなかったというのは當然あるだろう。しかし、あれは明かりのまるで無い、漆黒の道を進むクライムを充分に勵ましてくれたのだ。

お前の努力は完全には無駄ではないと。

それを思い出せばガガーランの言いたいことは分かる。

その連続攻撃がうまく作れる自信は無いが、それでも生み出して見せるという熱い思いが心の底から湧き上がっていた。次にガゼフと戦うときには、もうし本気を出してもらえるような強さを手にしておくと。

「……そーいや、イビルアイにも何か頼んでいたよな。魔法の修行を付けてくれだっけか?」

「はい」

ちらりとクライムはイビルアイに視線を送る。その時は嘲笑をけて、終わりになった話だ。何も変わってない狀況下で同じ話をしたとしても、同じ結果しか殘らないだろう。

しかし――

「小僧」

聞き取りづらい聲がした。

仮面を被っているためにしては、非常に不可思議な聲だ。例え仮面を被っていようと、それほどの厚さではない以上、聲ぐらいはある程度分かるはず。しかし、イビルアイの聲はだろうという以上、年齢やといったものを読み取らせない。年寄りのようでもあり、のようでもある。そしての無い平坦な聲として聞こえるのだ。

イビルアイが付けている仮面が、恐らくは魔法のものなのだろうと予測は立つ。しかしながらそこまでして何故聲を隠すのか。それはクライムの知らないことだ。

「お前に才は無い。別の努力をしろ」

用事はそれだけだと言わんばかりの、切り捨てるような発言。

それはクライムも承知のことだ。

クライムに魔法の才能は無い。いや、魔法の才能だけではない。

どれだけ剣を振るって、が滲み、豆が潰れて手がくなっても、む領域には到達できなかった。才能ある人間であれば容易く越えられるだろう壁。それすらもクライムでは踏破不可能な絶壁なのだ。

ただ、そうだからといってその壁を越える努力を怠ることは出來ない。才能が無い以上、努力してほんの1歩でも進めると信じておこなっていくしかないのだから。

「ですが、13英雄の伝説では……」

13英雄のリーダー、彼こそ単なる凡人だったという伝説だ。皆よりも弱く、だが、傷つきながら剣を振るい続け、誰よりも強くなったという英雄。

それに対してイビルアイは口ごもる。まるでそんな伝説が真実であるかのように。

しかし、イビルアイは否定の言葉を紡いだ。

「後天才能なんか噓みたいなものだ。才能を持つ者は最初っから保有している。……才能とは開花する前の蕾であり、誰もが持つものだというものがいる……。フン、私からするとそれは願でしかない。劣った者が己をめるための言葉だ。かの13英雄のリーダーもそうだろう。持っていながら開花してなかっただけだ。それはお前とは違う。努力してそれなんだからな。……そう。才能は歴然として存在する。持つ者と持たざる者は存在するのだ。だから……諦めろとは言わんが、それでも分を知れ」

イビルアイの厳しい臺詞に一瞬だけ沈黙が降りる。そしてその沈黙を破ったのもやはりイビルアイだ。

「ガゼフ・ストロノーフ……奴こそ良い例だ。ああいう奴こそ才能を持つ人間というのだ。クライム……お前はああいう奴を目指しているのだろうが、努力して屆く差なのか?」

クライムに言葉は無い。今日の訓練で屆く距離ではないのを実したからだ。

「まぁ、ガゼフは例えとして悪いかも知れなんがな。……あれに匹敵する剣の才能の持ち主は、かの13英雄にしか私は知らん。そこのガガーランもかなりの腕を持つがガゼフには勝てんしな」

「……無茶言うなよ。ガゼフのおっさんはありゃ人間というか英雄に片足突っ込みそうな存在だぜ?」

「フン。お前も巷では英雄と言われる……疑問詞が付くが……だろうが」

一瞬だけ言葉を濁したイビルアイにガガーランは笑って答える。

「おいおい、イビルアイ。俺は思うんだがな、英雄って奴は人間の領域を超えた存在――桁外れの才能を持った化けじゃねぇのか?」

「……否定はせん」

「俺は人間だよ。英雄に足を踏み込むことの出來ないな」

「……それでもお前は才能を持つタイプの人間。クライムのような才能を持たない人間とは違う。クライム、お前がするべきことは星に手をばし走り続けることではない」

自分に才能が無いというのはクライムが重々承知していることだ。だが、ここまで才能が無いと連呼されるとがっくり來るのも事実だ。しかし、だからといってクライムに今の行き方を変える意志はない。

――このは、王のために。その思いのために――。

まるで表の変わらない、無表の中に殉教者のような何かをじ取ったイビルアイは仮面の後ろから舌打ちを飛ばす。

「……これだけ言っても止めないのだろうな」

「はい」

「愚かだな。実に愚かだ」ブンブンと頭を振り、理解できんと言う。「適わぬ願いを持って進むものは、確実にを滅ぼすぞ? 己の分を弁えろというのだ」

「……理解しています」

「即答とはな。それに理解しているが弁える気はないということか。愚かという言葉を通り越したところにいる男だ」

「なんでぇ、イビルアイ。クライムが心配だから苛めていたのかよ」

ガガーランの言葉にイビルアイががっくりと肩を落とす。それからガガーランに向き直ると、倉を摑むように手袋をした手をばし、怒鳴る。

「脳筋。し黙れ!」

「でもそういうことだろう?」

倉を捕まれてなお、平然としているガガーランの言葉をけ、イビルアイがぐっと詰まった。それから席にを沈めると、話題を変えるように、クライムに矛先を変える。

「ならばまずは知識を増やすんだな。魔法の知識を増やせば相手が何をしてこようとしているのか理解できるだろう。そうすればより的確な行も取れるだろう」

「無數にある魔法を全部覚えたり知ったりするのは酷じゃねぇか?」

「そんなことは無い。魔法使いが重點的に使ってくる魔法というのはさほど多くは無い。その辺りから覚えていけばいいんだ」

その程度出來ないなら諦めろと、吐き捨てるようにイビルアイは呟く。

「それにせいぜい3位階まで覚えればとりあえずは問題が無いだろうしな」

「それで思うんだけどよぉ。帝國の主席魔法使いが6位階まで使えるとか言うけど、10位階までの魔法もかなり知られているんだろ? 何でなんだ?」

「ふむ……」

まるで教師が生徒に教えるかのような気配を漂わせつつ、イビルアイはローブの下で何かを行う。すると周囲の音の聞こえ方が遠くなったような気がクライムはした。なんというか、テーブル周囲が薄いに覆われたようなじなのだ。

「慌てるな。つまらん魔法を発させただけだ」

魔法使いではないクライムにとって、魔法を発させるということがどれほど警戒しての行為なのかは分からない。ただ、そうまでしなくてはならない重要な話として、ガガーランの質問に答えるつもりなのだという思いが、クライムの姿勢を正す。

「かつての神話――語とされるものの1つに8王といわれる存在がいる。神とも言われ、その絶大なる力でこの世界を支配したとも言われるものたちだ」

8王の語はクライムだって知っている。伽噺としての人気は非常に無いため聞かれることは殆ど無いが、ある程度の知識ある人間なら知っている語だ。

要約してしまうと500年前、8王という存在が現れた。空よりも高い長を持つとも、ドラゴンのようだとも言われる8王は瞬く間に國を滅ぼし、圧倒的な力を背景に世界を支配していく。だが、彼らは深く、互いのものをして爭いあい、最後は皆死んでしまったという語だ。

人気が無いのも當然の語だが、この話が本當に伽噺かどうかに関しては、意見の分かれるところだ。クライム自からすればかなり誇張された語だと思っている。ただ、それでも冒険者の中では、実在した存在――力も現代のどんなものよりも持った――だと思っている者がちらほらいる。

彼らが拠とするのは、遙か南方にある1つの都市だ。それは8王が大陸を支配した際、首都という名目で作られたとされる都市の存在だ。

クライムが自らの考えに浸っている間にも、イビルアイの話は続く。

「8王は無數の持ちを持っていたとされるのだが、その中、最も力を持つアイテムにネームレス・スペルブック……そんな名で呼ばれる魔法書が存在する。これが全ての答えだ」

「あん? つまりはその本に載っているということか?」

「そうだ。8王といわれる伝説の存在が殘した想像を絶するマジックアイテムたる書には、全ての魔法が記載されているとされているんだ。如何なる魔法の働きか、新たに生み出された魔法も自的に書き込まれるという」

8王の神話は知っていても、そんな書の話はまるで聞いたことも無い。それがどれほどの希を持つか薄々と気付いたクライムは何も言わず、そのまま耳を傾ける。

「ガガーランの予測したとおり、それを元にしているからこそ、最高で6位階までしか使える人がいないはずなのに、さらにその上位の魔法の存在を我々は知っているのだ。無論、ここまでのこと――ネームレス・スペルブックという存在までを知る人間はそうはいないがな」

「ああ……俺も知らなかったしな」

そうそうとイビルアイは話を続ける。

「その書には10位階までの魔法の記録があるんだが……実のところ全部で11位階まで記載されているらしいぞ。11位階の魔法はたった1つしか記載されてなかったみたいだがな。私もこの話は伝え聞いただけなので、本當に1つしか載ってないのか。はたまたはその他の11位階の魔法を見逃したのかまでは知らん」

クライムのがごくりと鳴る。

恐らくは今の話は知る人ぞ知るというレベルのものだ。下手すればそれだけで破格の報料が発生しかねないほどの。冒険者という報の大切さを知る者がこんな重要な話を只でらしていいのだろうか。そんな心配さえクライムには生まれてしまう。

そんな不安にも似たを誤魔化すように、クライムはイビルアイに問いかけた。

「そのネームレス・スペルブックを求めたりはしないのですか?」

それがどれほどの寶か漠然とだが理解できるからの、そして最強クラスの冒険者である彼達なら屆くだろう寶だと思っての質問だ。

それに対してイビルアイは馬鹿をいうなといわんばかりに、鼻で笑う。

「ふん。それを見た奴の話では、強固な魔法の守りがあるため、正統な所有者以外はれることすら出來ないという話だ。流石にそれほどのアイテムをするほど、私は愚かではない。8王のような愚かな死はゴメンだしな」

「13英雄の武を持つことで知られる人がリーダーを務めるパーティーですらそうなんですか?」

「……桁が違うそうだぞ、あれは。古今東西、全てのマジックアイテムを束ねたに等しい力を有しているとか」

まぁ見た人間からの話なので、私は詳しくは知らないがな。そういって話を終えるイビルアイ。

「そんなわけで、魔法の勉強をしっかりと収めるんだな」

「分かりました」

クライムの返事を聞き、イビルアイが珍しいことにしだけ迷ったような素振りをしてから、口を開いた。

「力をしてるからといって、人間をやめるような方法を取るのはよせよ」

「人間を辭めるですか……語にあるような悪魔との融合とかですか?」

「それもあるし、アンデッド化や魔法生化といったものもそうだな。特にアンデッド化が最も有名か」

「そんなこと普通の人間にはできませんよ」

「そうなんだがな。……アンデッドへと変化すると、心も歪む場合が多い。理想に燃え、それを適えるための手段であったはずが……の変化に心が引っ張られおぞましいものへと変わるんだ」

仮面の下の聲がはっきりと分かる1つのに彩られた。それは憐憫である。

誰かを思い出しながらのイビルアイの言葉には非常に重いものがあった。それをガガーランが眺め、やけに明るい聲を出す。

「朝起きたらクライムがオーガになってたら、姫さんが驚愕すんだろうなぁ」

そのガガーランの発言に、イビルアイは裏を意味をちゃんとけ取ったのだろう。再びの読めない聲へと調子を戻す。

「……確かにそれも1つの手だな。変化系の魔法を使えば一時的な変化ですむ。はっきり言うがそれも1つの手だぞ。能力の向上という意味では」

「それはちょっと勘弁してしいです」

「強くなるという意味では純粋に効果的だ。人間という生きは、さほど能力的に高いわけではないからな。同じだけの才能を持つなら基礎となる能力が高い方が有利だ」

それは當然だ。技量が同じなら能力の高い方が有利なのだから。

「実際、かの英雄である13英雄は人間以外の種族が多かった。例えば旋風の斧を振るいし戦士はエアジャイアントの戦士長だし、祖たるエルフの特徴を持ったエルフ王家の者がいれば、我らのリーダーの持つ魔剣キリネイラムの元々の持ち主――4大暗黒剣の所持者であった暗黒騎士は悪魔との混児だ」

「4大暗黒剣ですか……」

子供が13英雄ごっこをするとなると、2、3番目の人気者となる暗黒騎士は4本の剣を持っていたとされる。それは邪剣・ヒューミリス、魔剣・キリネイラム、腐剣・コロクダバール、闇剣・月喰い、である。13英雄という存在は伽噺の領域の存在だが、暗黒騎士はその中で最も現実味に溢れた存在なのだが、それは4大暗黒剣のの1本をもっている者が、王國最高の冒険者チームのリーダーであることに起因する。

そしてその言葉にガガーランが反応した。

「無限の闇を凝し生み出された最強の暗黒剣、魔剣キリネイラムか……あのよぉ、全力で力を解放すると、1つの國を飲み込む漆黒のエネルギーが放されるってマジなのか?」

「なんだそれは?」

したようにイビルアイ。

「うちのリーダーがこの前、1人の時に言ってたんだよ。パワーを全力で抑えるのは自らのような神に仕えし、で無いとうんぬんかんぬんって」

「そんな話は聞いたことが無いが……」不思議そうに首を傾げるイビルアイ「持ち主が言ってるのだから真実かもしれんな」

「なら暗黒の神によって生まれた、闇のラキュースもマジもんなのか?」

「何?」

「いや、この前、1人でぶつくさ言っていてよぉ。なんか気付いてないみたいだからどうしたのかと盜み聞きしていたら、そんなこと言っていてな。油斷すれば闇のラキュースがを支配し、闇の魔剣の力を解放してやるとかやばいこと言ってんだよ」

「……可能はないとは言えないな。一部の呪われたアイテムが所有者の神を奪うというのはありえる話だ。……ラキュースが支配されたら厄介ごとではすまんぞ。それで……何を話していたのか尋ねたか?」

「ああ。直ぐに尋ねたさ。そしたら顔を真っ赤にして、心配するなって」

「ふむ。呪いを払うべき神が、呪いのアイテムに支配されるなんて恥ずかしいだろうな」

クライムは無表ではいられなくなり、眉を顰める。

今の話を聞く限り、ラキュースが邪悪なアイテムに支配されつつあるかもしれないということだ。先ほどまでいた場所のことを考えれば、焦燥は強くなる。

「……ラナー様が危ない?」

今すぐに飛び出そうとするクライムをイビルアイが抑える。

「慌てるな。今すぐどうにかなるという問題ではないだろう。例え闇の力に支配されそうになっても、我らのリーダーが知られないうちに支配されるはずが無い。私達に何も言わないということは恐らく支配しきれると踏んでいるからなのだろう。しかし……あの剣にそんな能力があったとは……私も知らなかったぞ?」

イビルアイは自らの蓄えた叡智にわずかな自信の喪失をじる。そして満足するのではなく、より知識を集めるべきかと兜の緒を締める。

「一応、念をれてアズスさんに伝えておくか?」

「ライバルの手を借りなくてはならないというのは々口惜しいが……姪のことだ、伝えておいた方がいいだろうな」

「うんじゃ、さっそくいておくか?」

「うむ。ラキュースをいつでも支援できる準備は整えておくべきだ」

ガガーランとイビルアイが立ち上がる。それにあわせてクライムも立ち上がった。

「わりぃな、クライム。々とヤリあいたいんだけどよ、そんなことを言ってる余裕がなくなっちまったぜ」

「いえ、気にしないでください。ガガーラン様」

ガガーランがじっとクライムを見つめ、疲れたような笑いを上げる。

「まぁいいか。うんじゃ、帰るんだろうからよ、うちのリーダー頼むわ。よろしくな、貞」

    人が読んでいる<オーバーロード:前編>
      クローズメッセージ
      あなたも好きかも
      以下のインストール済みアプリから「楽しむ小説」にアクセスできます
      サインアップのための5800コイン、毎日580コイン。
      最もホットな小説を時間内に更新してください! プッシュして読むために購読してください! 大規模な図書館からの正確な推薦!
      2 次にタップします【ホーム画面に追加】
      1クリックしてください