《オーバーロード:前編》外伝:登場『パンドラズ・アクター』

メイド――ユリ・アルファは嘆のため息を思わずこぼしてしまった。

転移した彼を最初に出迎えたのは、天空に浮かぶ全ての星々を集めました、といわんばかりの輝きだ。

広いなんていう言葉では表せないぐらい巨大な部屋の中央には金貨、寶石がとにかく山のように積み重なっているのだ。その山の高さは半端じゃない。10メートル以上の高さの山が山脈のように連なっている。枚數にして、數十億枚ぐらいだろうか。それとももっとあるのだろうか。

しかも、その山に埋もれるように超一級の工蕓品らしきものもある。

ぱっと見ただけでも黃金で出來たマグカップ、様々な種類の寶石をはめ込んだ王勺、白銀に輝く獣の皮、金糸をふんだんに使った巧なタペストリー、真珠に輝く角笛、七に輝く羽製の扇、クリスタル製の水差し、かすかなを放つ巧すぎる指、黒と白の寶石をはめ込んだ何らかのの皮で出來た仮面が目に飛び込んできた。

無論、こんなものはほんの一握りだ。

この巨大な寶の山の中にはこの程度の蕓品なら、恐らくは數百、いや數千個はあるだろう。

傷つきやすい蕓品にはすべて保護の魔法が掛かっているというのだから恐れる。それぐらいなら別のところに飾っておけばいいのにとユリは思わなくも無いが、周囲を見渡したところで、こうせざるを得なかった理由を理解できた。

それは――周囲の壁には同程度かそれ以上の寶が置かれているのだ。

壁には無數の棚が備え付けられており、そこには黃金の山以上の輝きがあった。

ブラッドストーンをはめ込んだロッド、ルビーをはめ込んだアダマンティン製の小手、小さな銀のにはめ込まれたルビー製のレンズ、まるで生きてるかのようなオブシダンで出來た犬の像、パープルアメジストから削りだしたダガー、ホワイトパールを無數に埋め込んだ小型の祭壇、七に輝くガラスのような材質で出來たユリの花、ルビーを削りだした見事な薔薇の造花、ブラックドラゴンが飛翔するさまを描いたタペストリー、巨大なダイアモンドが飾られた白金の王冠、寶石をちりばめた黃金の香爐、サファイヤとルビーで作られた雄と雌のライオンの像、ファイヤーオパールをはめ込んだ炎を思わせるカフス、巧な彫刻の施された紫壇の煙草れ、黃金の獣の皮から作り出したマント、ミスラル製の12枚セットの皿、4の寶石を埋め込んだ銀製のアンクレット、アダマンティン製の外表紙を持つ魔道書、黃金で出來た等大のの像、大粒のガーネットをいこんだベルト、全て違う寶石を頭に埋め込んだチェスのセット、一塊のエメラルドから削りだされたピクシー像、無數の小さな寶石をいこんだ黒いクローク、ユニコーンの角から削りだした杯、水晶球を埋め込んだ臺座などなど。

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こんなものはほんの一部ですらも無い。

そのほかにもエメラルドをふんだんに使った金縁の姿見、人間大の赤水晶、人間なんかよりも巨大な白銀に輝く巧な作りの戦士像、何だかよく分からない文字を刻み込んだ石柱、一抱えもあるようなサファイヤなんかも鎮座している。

あまりの輝きに驚くユリに、平然とした聲が掛かる。

「行くぞ」

「はい」

「…………」

ユリと頭を振ることで了解を意を示した。

アインズはその財寶の山に一瞥もすることなく、全飛行の魔法を発させると、3人揃って中空に舞い上がる。

飛び上がってみると理解できるのだが、空気が紫のようなを僅かに湛えている。何かの源によるものかと周囲を見渡しても、紫を発しているものは無い。

そんなきょろきょろと周りを見渡すユリに靜かな聲が掛かった。

「…………ユリ姉。空気が魔法系の猛毒を含んでる」

「え?」

「ん?」

「…………ブラッド・オブ・ヨルムンガンド?」

ユリの視線の先にはもう1人のメイドがアインズの魔法によって浮かんでいた。

もう1人のメイド――シーゼットニイイチニイハチ・デルタ。略してシズは、元々発する言葉は非常に小さい。

不思議そうなユリの視線を、極寒の視線が迎撃する。それの発生源はじとっとした黒の瞳だ。そこに悪意等のは無い。というよりもまるでじさせない目だ。シズの顔立ちは非常に整ってはいるが、悪くいえば能面のような表の無さだ。

オートマトンであるシズは基本的にを表に出さないから。

日本人を髣髴と――しかも高貴な筋、姫とも呼ばれるような大和子を思わせる顔立ちをしているシズは、艶やかな黒髪を上で持ち上げ、落とすというポニーテールと呼ばれる髪形にしている。

著ているメイド服はユリと同様の戦闘用のメイド服だ

――肘上までを覆う、ガントレット、クーター、ヴァンブレイス、そしてリアブレイスの中程までを合わせた様な、黒の材質に金で縁取りし、紫の文様が刻み込まれた腕部鎧。ハイヒールにも似たソルレット、リーブ、ポレインを融合させたような腳部鎧も腕部鎧と同じような作りだ。

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メイド服のスカート部分も、布の上に魔法金屬を使用した黒の金屬板を使い防力を増している。それも魔化したメテル鋼、ミスラルとベリアットを混ぜこんだアダマス鋼、魔法金屬ガルヴォルンの三重合金板だ。部裝甲も同じ金屬を使っている。

勿論、込められた魔法も一級品だ。ユグドラシルでも90レベル以上のプレイヤーしか手にらないようなデータクリスタルの中でもレアデータを使用している。

その防能力の高さを考えるなら、戦闘用メイド服というよりはフルプレートメイルを魔改造しましたという方が正しいだろう。

さらには首元に巻いた大粒の寶石が輝くチョーカー、腕部鎧の下で見えないが指、ポニーテールを結ぶためのリボン、下著に至るまで一級品のマジックアイテムである。

そして腰に下げた白のステアーAUGにもうし丸みを持たせ、銃床部分にもう2つのマガジンを差し込んだ奇妙な銃を、まるで剣のように下げている。ちなみにこの銃も、オートマトンもシズのクラスであるガンナーも、超大型アップデート『ヴァルキュリアの失墜』以降の存在である。

そんなシズが猛毒の効果をもたらすものとしては、最大の効果を発揮するアイテムの名前を挙げる。

「ああ、正解だ。そうだったな。お前達には言ってなかったな。寶殿のこの辺りは猛毒の空気によって汚染されている。毒無効系のアイテムや能力を持たない奴の場合は、3歩行かないうちに死ぬな」

「ですからボク――私たちな訳なんですね?」

アンデッドのデュラハンたるユリと、オートマトンなシズの両者は共に毒無効能力を保有している。

アインズはにやりと笑うと軽く頭を肯定の意味で振る。それから続けて言葉を紡いだ。

「シズをつれてきた理由はそれだけでなく、確認のためもあるんだがな」

アインズたち一行はそのまま飛行の魔法によって黃金の山を踏み越えることなく、向かいにある扉まで到著する。いや、それを扉と形容してよいものだろうか。そこには扉の形をした、底なしの闇を思わせるものが壁に張り付いていたのだ。

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「ここは武庫だな。パスワードはなんだったか……」

「アインズ様、武庫ということはそれ以外も?」

「ああ、ある。整頓好きな奴がかつての仲間にいてな。各用途ごとに分けられているはずだ。防系、スタッフ系、裝系、その他アイテム系、製作系等に別けられているはずだ。ああ、あとはデータの狀態のクリスタルを並べた部屋もあったな」

アインズが指差す方角、壁沿いに視線を逸らしていくとやはり同じような黒いものが壁に張り付いているのがユリも見えた。

「奧で1つになっているから、何処からろうが大した違いは無い」

アインズはそれだけ言うと、真正面の闇の扉に向き直る。

特定キーワードに反応して開くタイプの扉だ。魔法や盜賊系のキャラなら無理矢理に扉を開ける方法があるが、アインズはその魔法は習得してないし、その技も無い。そのためにキーワードを言わなくてはならないのだが――

「忘れた」

當たり前だ。こういうギミックはナザリックに結構な量がある。よく來る場所なら問題なく覚えているが、寶殿はあまり來ない場所だ。そんな場所の扉の1つなんかいちいち覚えているわけが無い。

そのため直ぐに思い出せなかった、アインズはほぼ全てに通じるキーワードを発聲する。

「『アインズ・ウール・ゴウン』」

その言葉に反応し、湖面に何かが浮かぶように、漆黒の扉の上に文字のようなものが浮かんだ。そこには『Ascendit a terra in coelum、iterumque descendit in terram、et recipit vim superiorum et inferiorum』と書かれていた。

「まったく、タブラさんは凝りだからな」

アインズは、『アインズ・ウール・ゴウン』のギミック擔當の片割れ、そして真面目な方。そう評価されている人のことを頭に思い浮かべる。

ナザリック大地下墳墓の細かなギミックの4割は、彼の手がったものだ。々悪乗りしてるのではというほどの作りこみは、何だかんだと結構なフリーのデータ量を食いつぶしている。そのために彼自が責任を取って課金アイテムを買い集めたほど。

アインズは表面に浮かんだ文字を真剣に眺める。これがヒントであり答えなのは間違いが無いのだが、さてどういった意味だったか。

時間を掛けながら、自らの記憶のどこかに沈んだ答えを探すアインズ。

やがて、ため息をらしつつ、アインズは記憶の中にある、この扉を開けるためのキーワードを思い出す。

「確か――かくて汝、全世界の栄を我がものとし、暗きものは全て汝より離れ去るだろう――だったか?」

そう言いながらシズに確認を取るように視線を向ける。シズはそれに対して頭を縦に振った。

ギミック擔當の片割れである、この扉を作った人によって作り出されたシズは、ナザリック全域の詳細なデータと、ありとあらゆるギミックを知しているというキャラ設定である。先ほどのパスワードもシズであれば簡単に解くこともできただろう。それを任せなかったのは、単にアインズが自分で開けたいという我が儘を起こしたにしか過ぎない。

突如、闇がある一點に吸い込まれるように集まりだす。直ぐに先ほどの闇は跡形も無くなり、空中にこぶし大の黒い球が殘るだけだ。

今まで蓋となっていた闇が消えたことによって、ぽっかりと開いたから奧の景が覗ける。そこには今までの寶が置かれていた場所とは違う、管理の行き屆いた世界が広がっていた。

そこを表現するなら、博館の展示室という言葉以上に相応しいものは無い。

源が押さえられた部屋は長く、ずっと奧まで進んでいる。天井は高く5メートルはあるだろうか。人以外のものがり込むことを前提に考えられたような高さだ。左右はもっとあって10メートルほどだろう。

床は黒の艶やかな石が隙間も無いほど並べられており、まるで一枚の巨大な石のようだった。そして天井から降りてくる微かなを照り返し、靜寂さと荘厳さをじさせた。

部屋の左右には無數の武が綺麗に整頓された上で、見事に並べられていた。

「行くぞ」

アインズは左右に控えた2人の返事を待たずに歩き始める。

そこはまさに武庫だった。

――ブロードソード、グレートソード、エストック、フランベルジュ、シミター、パタ、ショーテル、ククリ、クレイモア、ショートソード、ソードブレイカー、etc、etc。

そこに飾られているのは無論、剣だけではない。

片手用の斧、両手用の斧、片手用の毆打武、片手用の槍、弓、クロスボウetc、etc。

大きな分類だけでも言い切れないほどだ。

そのほかにも武といって良いのか分からないような、ごてごてとした武も無數にある。一言で現すなら絶対に鞘に納まらないよという、外見のみを重視したような武だ。もしかするとそういう武の方が多いかもしれない。

しかも殆どの武が単なる金屬で出來たものではない。

が青水晶みたいなもので出來ているものから、純白の刀に金の文様を宿したもの、黒い刀に紫のでルーンが刻まれたものまである。弦がのみで構されているようにも見える弓だってある。そんなものが無數にあるのだ。

他に一瞥するだけ理解できる、危険そうなものもあった。

から新鮮そうながにじみ出てる両手用の斧とか、黒い金屬部分に苦悶の表が浮かんだり消えたりする巨大なメイス、人の手のようなものが絡み合ってできている槍、などこれまた數え切れないほどだ。

恐らくは殆どが魔法の武なんだろうなと予測は立つが、どんな魔法の効果を持ってるのかは見當もつかない。

が炎のように揺らめく武はまだなんとなく予測が立つのだが、たとえば、見ているとギチギチと昆蟲の足のようにく節足の腹のような剣に、どんな魔法の効果があるかなんて分かるはずも無い。

コツコツと遠ざかっていくアインズの足音を我に返り、ユリは先行したアインズに遅れんとばかりに付き従う。

ユリにほんのし遅れて、シズ。歩きながらもきょろきょろと展示されている中を覗き込んでいる。能面のような顔に僅かな赤みがかかっていた。

靜寂の中、200メートルほど――陳列されている武の數は數千ぐらいだろうか――歩いた辺りで、終著點となる。長方形の部屋だ。そこには何も置かれて無くガラッとしている。左右を見渡すと同じような通路の出口らしきものがあった。

先には――突然雰囲気が変わる。

先ほどまでが博館なら、そこは古墳だ。そこには明かりの落とされた暗い空間が広がっていた。幅や高さは同じようなぐらいだ。そしてその部屋の左右の窪みには玉座のようなものがあり、ほとんどに何かが置かれているように見える。

、この場所は何処なのか。

その位置から目を細めて中を伺おうとしたユリに、ちょうど良いタイミングでアインズの聲が屆く。

「この先は霊廟だな」

不思議そうな顔をしたユリといまだ無表のシズを眺めると、アインズは周囲を見渡す。

「この辺りにいるはずなんだが……」

誰がいるというのか。ユリが不思議そうに顔をゆがめたとき――その聲に反応したわけではないだろうが、別の通路から、今アインズたちがいる場所に姿を見せたものがいた。

それは異様な外見をもった存在だった。

人のに、歪んだ蛸にも似た生きに酷似した頭部を持つ者だ。頭部の右半分を覆うほど、刺青で何らかの文字が崩されながら刻み込まれている。それは扉に浮かんだ文字にも似ていた。

は死のごとき白に紫が僅かに混ざっており、粘に覆われているような異様な沢を持つ。指はほっそりとしたものが4本生えており、水かきが互いの指との間についていた。

そんな異様な存在は、太ももの辺りまでありそうな6本の長い手がうねらせながら、瞳の無い青白く濁った眼をユリたち一行に向けた。

著ている服は黒一に銀の裝飾が施されたにぴったりと合うような革の沢を持つ服だ。それと黒いマントを羽織るかのように前で僅かに合わせている。

ユリはその人を知っている。

驚愕がびとなってユリの口から放たれた。

「タブラ・スマラグディナ様!」

その人こそ至高の41人の1人――単純な火力であればアインズすらも上回るスペルキャスターだ。

「…………違う」

シズの呟き。そして腰から、銃を抜き放つと、ストックを肩にあて、銃口を今姿を見せた者に向ける。

自らの創造者に対する暴言。及び武を向けるその姿勢、許しがたい大罪である。もしそれを黙認するようなら、ユリもまた同じだけの罪を犯したこととなる。だが――

「了解。シズを信じる」

ユリは呟くと、の前で両の拳を叩きつける。ガントレットがぶつかり合い、ゴングの鐘のように質な金屬音を上げる。

ユリのガントレットはシズのものに比べて分厚い。シズは銃を取り扱う関係上、指の部分の金屬は薄くなっているが、ユリはこのガントレットが武でもあるからだ。

そしてユリはるようなきで、アインズとシズの前に立つ。スペルキャスターであるアインズも、ガンナーであるシズも近接戦闘ではユリに劣る。ならば両者の盾となって接近戦を挑むのはユリの役目である。

「何者だ!」

ユリの誰何に、タブラ・スマラグディナに似たものは軽く小首を傾げるだけで答えようとはしない。あるかないかの薄笑いがユリを不快にさせる。

だが、そんな彼の正を曬したのはアインズの言葉だ。

「――パンドラズ・アクター。元に戻れ」

不快そうなアインズの言葉をけ、タブラ・スマラグディナの姿がぐにゃりと歪む。それはユリも、そしてシズもある人を思い出させるそんな変化の仕方だ。2人が思い出したのは、自らの同僚であるナーベラル・ガンマである。

深みのある落ち著いた男の聲がした。

「お久しぶりです、モモンガ様」

タブラ・スマラグディナに似たものがいた場所に立っていたのは、1人の異形だ。

その姿形は先ほどのものから完全に変わっている。

服裝は非常に整ったものだ。黒の2つボタンのダークスーツでそのすらっとびた肢を包んでいる。シングルカフス、純白のシャツ、シルバーグレーのストライプネクタイ、黒の革靴。そして異様に長い4本指の白の手袋。

ただ、顔は鼻等の隆起を完全にり下ろした、のっぺりとしたものだ。目に當たるところと、口に該當するところにぽっかりとしたが開いている。眼球もも歯も舌も何も無い。子供がペンで塗りつぶしたような黒々としたのみだ。

ピンクの卵を髣髴とさせる頭部はつるりと輝いており、産の一本も生えていない。

外見も異様だが、それに似合わないものが顔についていた。眼鏡である。鼻も耳も無いのにどうやってか、しっかりと顔に固定されているのだ。

そんな奇怪な存在――ナーベラルと同じドッペルゲンガー。

これこそパンドラズ・アクター。アインズが設定を作った100レベルNPCであり、この寶殿を管理している存在である。そして45の外裝をコピーし、その能力を3/4程と多落ちるが、使いこなせる存在でもある。

「……お前も元気そうだな」

「はい。元気にやらせていただいています。ところで今回は何をされに來られたので、モモンガ様? メイドのお嬢様方まで連れて」

ナーベラルに比べれば非常に聞き取りやすい喋り方で、パンドラズ・アクターは答える。お嬢様と言われ、戦闘メイドとしての誇りがあるユリは心むっとするが、アインズに親しい人ともなればそれを表に出すことは出來ない。

ただ、この人が一どんな存在なのか、二者の會話から割り出そうと神経を研ぎ澄ますばかりだ。

シズも自らを創造した方の似姿を取っていたという事で、その能面ごとき顔に僅かばかりの怒りのを出す。それはシズを知る者からすると、大激怒というレベルだ。ではあるが、パンドラズ・アクターにその能力を與えたいのが、同じ至高の存在ということも考えれば、怒るに怒れない。

そんなユリとシズの心中を完全に気にせずに、アインズはパンドラズ・アクターと會話を続ける

「マジックアイテムの発実験のためにいくつか使おうと思ってな」

「ほう。ついにあれらが出るのですか?」

パンドラズ・アクターの顔が霊廟に向かう。さりげなく眼鏡を指でくぃっと、上に持ち上げる。鼻も耳も無く固定されているのに、ずり落ちはするというのだろうか。

「……ワールド・アイテムは使わないし、仲間たちの裝備も使ったりはしない。あれはあのままとっておけば良い」

「ならば最高でもアーティファクトですか。々殘念ですね。個人的には世界を切り裂くとされるワールドアイテムの力を見てみたかったりもするのですが。いや、いや見てよいというのならたっち・みー様の武、ワールドチャンピン・オブ・アルフヘイムもいいですな。あ、それともヒュギエイアの杯も……」

パンドラズ・アクターはぶつぶつと呟きながら、眼鏡のブリッジの部分に指をかけたまま怪しく笑う。メガネのレンズの部分がの反け、きらっと輝くのが不気味だ。

パンドラズ・アクターはマジック・アイテム・フェチであり、それだけでご飯を食べられるという設定である。それがここまで気持ち悪いとは。

アインズは自らの作った設定を思い出し、非常に居心地の悪い気分で微かにきする。正直、皆で作っていた時は、悪乗りという言葉が許された。だが、こうして1人で冷靜に対峙してみると、子供の頃書いた文集を読まされている気がするのだ。

そう黒歴史という奴である。

現在のナザリックに他のギルドメンバーがもしいたら、悶絶して転がっている者も中にいるだろう。そんな気がする。特に誰とはいわないが……。

「では勝手に持っていくぞ」

「私に斷る必要はありません。ここにあるものは全てモモンガ様たちのものなのですから」

芝居がった口調と振りで、周囲を指し示す。

「しかしながら々殘念ですな。モモンガ様がいらっしゃったのは、私の力を使うときがきたのか、と思っておりました」

アインズはきを止め、眼鏡をかき上げる異形を観察するように視線を送る。

確かにそれはアインズも考えていたことだ。パンドラズ・アクターは設定上、ナザリック最高峰の頭脳と知略の持ち主である。平時では使用する方向が変な方に突っ走っているが、それでも非常時にはその頭脳は捨てがたいものがある。

さらにはパンドラズ・アクターの能力も、応用に富むものだ。下手すれば守護者全員分の働きが出來るほど。

しかしながら、アインズが作った理由は戦闘や組織運営のためではない。この『アインズ・ウール・ゴウン』の形を殘すためだ。

「……お前は切り札的な存在だ。単なる雑務で出す気はしない」

「……それはありがとうございます」何か言いたげな顔をしてから、パンドラズ・アクターは仰々しく頭を下げる「畏まりました。では今後もこの中の管理に勤しみたいと思います」

「よろしく頼む。それと今後、私の名はアインズと呼ぶように。アインズ・ウール・ゴウンだ」

「ほう……承りました。アインズ様」

話は終わりだという態度で、踵を返そうとしたアインズにパンドラズ・アクターの聲が飛ぶ。

「しかし、アインズ様。マジック・アイテムの実験とあらば私の力を使用すべきでは無いでしょうか?」

「…………」

「それにアインズ様の姿をとれば睡眠不要で行もできます。時間の大幅な短に繋がるとは思いますが……どうでしょう?」

パンドラズ・アクターは片手をに當て、自らをアピールする。僅か後ろに立つ、シズが小さくうわぁ、と聲を上げるのがアインズにも聞こえる。なんというか……オーバーアクション過ぎるのだ。ぶっちゃけ、わざとらし過ぎる。

特に行や姿勢を端々に、俺ってカッコイイよね、というけて見える。

これが確かにかっこいい男とかなら、似合うのかもしれないが、相手は卵頭だ。浮きまくっており、見ているこっちが恥ずかしくなってしまうほどだ。

アインズは暫し、黙ってパンドラズ・アクターを眺める。やがて決定したのか。アインズは懐から1つの指を取り出し、パンドラズ・アクターに投げる。投げられた指は弧を描き、パンドラズ・アクターの手の中に見事に納まった。

「これは……リング・オブ・アインズ・ウール・ゴウン。所持する能力は――」

語りだそうとするパンドラズ・アクターを片手を上げることで黙らせる。非常に殘念そうなのはこの際置いておく。

「予備だがな。數日にコキュートスを中心とした部下にお前のことを話しておく。そうしたら來い」

「畏まりました」

指の先までピンとびたような非常に丁寧な、悪く言えば演技がかった禮をするパンドラズ・アクターの卵頭を眺め、アインズは軽く頭を振る。

悪い奴ではない。そして能力的な面での能も悪くは無い。しかしながら――

「うわー……」

なんでこんな格にしたんだろうか。昔の自分はアレがかっこよいと思っていたんだろうか。

もしアインズの顔が赤面するなら、今完全に赤くなっていただろう。

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