《オーバーロード:前編》會談-6

半球狀の大きなドーム型の部屋に到著したジルクニフの前には、巨大な扉が鎮座していた。3メートル以上はあるだろう巨大な扉の右の側には神が、左の側には悪魔が異様な細かさで彫刻が施されている。そして周囲を見渡せば、禍々しい像が無數に置かれている。

タイトルをつけるなら『審判の門』とかどうだろう。ジルクニフは門を眺めながらそんなことを考えてしまう。

大きな室は沈黙が支配し、靜寂が音として聞こえてくるぐらいだ。

そう。ここまで連れてこられた誰もが何も言葉を発さない。時折きに合わせて起こる鎧の金屬音ぐらいが唯一の音だ。

騒がしくしないのが禮儀だとかの以前に、ここに來るまでに目の前に広がってきたあまりにもしすぎる景に、全員が魂を引き釣り出されていたのだ。

まるで神話の世界、神々の居城。

そんな言葉が相応しい景を前に、飲み込まれないようにしろと言う方が酷だ。実際、ジルクニフですら、きょろきょろと歩きながら周囲を見渡してしまう衝は抑えられなかった。

それほどの世界が広がっていたのだ。

ジルクニフは肩越しに後ろ――ここまで付いてきた自らの配下の者を見る。

バジウッドら4騎士、それに選ばれた鋭騎士10名。フールーダに高弟4名。であるロウネに、その部下2名。計22名。

その誰もが肩を狹くしている。

自らの矮小さを強く実させられる、帝國の贅を集めたとしても作り出せない通路を通ってきた結果がこれだ。

もはやナザリック大地下墳墓という場所、そしてアインズ・ウール・ゴウンという人に対して浮かぶイメージは巨大すぎて、形容しがたいものとなっていた。

それも仕方ないことだろう。

ジルクニフは自嘲げに笑みを浮かべる。優れたものに頭を下げるのは人間として當たり前の行為だ。これほどの建築――華な調度品を前に、敬意を示さない人間のほうがどうかしている。

「困ったものだ」

ジルクニフは呟く。

この扉を奧に待ち構えるアインズ・ウール・ゴウン。

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フールーダをしのぐ強大な魔法使いであり、おそらくは歴史上においても類を見ない存在。居を構えた場所の華さは人間の想像を超え、付き従う者も強大な力を持つ。

いうならありとあらゆる力を持つ存在だ。

王國が引き込む前に、自らの陣営にれたい。そう考えていたころの自分を嘲り飛ばしたいものだ。

金銭で引き込むのは無理。

力でも無理。

でも――ユリらメイドを頭に浮かべて――無理だろう。まぁ男と仮定してだが。

地位や権力などをこれほどの居住區を持つ者が必要とするはずが無い。

ならば何をするか。

ジルクニフには想像も付かない。人がイメージできるでは、アインズ・ウール・ゴウンをかすにたるものになるのか。これほどのものを持っていて、ジルクニフが提示できる程度のもので心を揺らがせられるのか。

「……難しいかもしれんな」

ジルクニフはアインズ・ウール・ゴウンという人に対して取るべき手段を頭の中で無數に考える。結論は処置なし。敵対的な狀況下に持っていかないようにするのが、最も賢いという答えに行き著く。

そんな思いを含んだ聲は、ぼそりと発せられる。ジルクニフが思ったよりも大きく響く。

しかしそれに反応するものはいない。それほど皆、周囲の世界に引き込まれているのだ。

「ではこの奧が玉座の間となります。アインズ様はそちらでお待ちです」

ユリがこれで自分の仕事は終わりだと、深い一禮をジルクニフたち一行に向けた。

その言葉を待っていたのか、その扉はゆっくりと開いていく。誰が押し開けているのでもない、重厚な扉に相応しいだけの遅さで開いていく。

幾人かが息を呑む。それも數人単位ではない、おおよそ十數人以上。この場に來た人間の大半が行う。それは覚悟を決めてなかったための揺の現れ。逃げたいという気持ちの結。この扉が開かないことをんでいた者が多くいたということだ。

だからこそ、扉が自的に開いていったことを謝するべきだろう。もし覚悟を待っていたら、いつまでも開くことが出來なかっただろうから。

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そこは広く、高い部屋だった。壁の基調は白。そこに金を基本とした細工が施されている。

天井から吊り下げられた複數の豪華なシャンデリラは7の寶石で作り出され、幻想的な輝きを放っていた。壁にはいくつもの大きな旗が天井から床まで垂れ下がっている

玉座の間という言葉が最も正しく、それ以外の言葉は浮かばない部屋だ。

そしてそこから吹き付けてくる気配に、ジルクニフたち一行は顔を一瞬で青よりも白に染め上げる。

中央に敷かれた真紅の絨毯。その左右に並んでいるのは形容しがたいほどの力をじさせる存在たちだ。

悪魔、ドラゴン、奇妙な人型生、鎧騎士、二足歩行の昆蟲、霊。大きさも姿もまちまちな、ただ、その包した力だけは桁が違う存在。そういったものが左右に無數に並んでいたのだ。數にしておおよそ、100は超えるだろうか。

その者たちがジルクニフたちを無言で見つめてくる。ある種の階級や権力を持つ人間はその瞳に力があるとされるが、理的な力を持って押し寄せてくる気がするのは、ジルクニフをして初めてだった。

ジルクニフの後ろから聞こえてくるのは、掠れたような悲鳴。小刻みに揺れる金屬音。

それは部下たちが恐怖をじていることを示す印。

しかしながら、正直に言おう。

ジルクニフは自分の部下が恐怖を顕わにすることを叱咤する気は無く、逆に誰一人として逃げないその心を褒めてやりたい気持ちで一杯だった。これほどの存在――人間として潛在的な恐怖を抱いてしまう上位存在を前に、逃げ出さないということを。

ジルクニフはアインズ・ウール・ゴウンに対して考えていたレベルを十數段階上昇させる。今まで警戒し、上方修正してなお甘かったと知ったために。もはやアインズ・ウール・ゴウンという存在に対しては帝國存続とか言うレベルではなく、種――人間のみならず亜人などの種族存続規模の存在だと判斷している。

ジルクニフの視線は絨毯の先へとく。

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そこは階段があり、左右に幾人かが並んでジルクニフたちを眺めている。ナザリック大地下墳墓の、アインズ・ウール・ゴウンの側近だろう。それはダークエルフ、銀髪の、白銀の直立する昆蟲、そして悪魔。

そして――

「あれが……」

水晶で出來た玉座に座り、異様な杖を持ったおぞましい死の現。

骸骨の頭部を曬しだした化け

まるで闇が一點に集中し、凝結したような存在。

――あれがアインズ・ウール・ゴウン。

頭部には見事な王冠のようなものを被り、豪華な漆黒なローブを纏っている。指では無數の指が煌く。これだけの距離があってなお、を飾る裝飾品の値段は、帝國の一年間の國家予算をして足りないだろうと、ジルクニフは悟る。

アインズ・ウール・ゴウンの頭蓋骨の頭部には、流れ出したようなにも似たが空虛な眼窟の中に燈っている。そのの燈火がジルクニフたち一行を舐めるように見渡しているのがじ取れた。

人でないという事実に驚きはこれっぽちも無い。逆に人間でなくて良かったという思いが湧き上がる。

人間でない化けだからこそ、桁外れの超越者だと強く実できるのだ。

「ふぅ」

ジルクニフは薄く息を吐き出す。それは覚悟の吐息。

ここまでで扉が開いてさほど、時間がたっているわけでは無い。何もおかしくない程度の時間だろう。しかし、いつまでもり口に突っ立ているわけにはいかない。だから――踏み出す。

「行くぞ」

後ろの者のみに聞こえるような小さい聲を発する。見ている者はジルクニフの口がいてないのに、言葉が出たことに驚くだろうか。これは魔法とかではなく、ある種の単なる特技である。こういった場においては重寶する特技でもあった。

ただ、ジルクニフの言葉に反応し、き出そうとする気配はじ取れない。

仕方ないか。

ジルクニフは考える。アインズ・ウール・ゴウンの前まで行くということは、左右を並ぶ異形の者たちの前を通るということ。恐らくは襲われないと知っていても、あれほどのモノの前を歩くのは勇気が要るだろう。

襲われないというのは楽観的な判斷ではない。

今回のように玉座の間が使われるというのは、大抵が儀式的な面を持ち、國威を示すという理由であるというのは誰もが知る事実だ。そういったときでない場合は、もっと小さい場所を使うのが一般的である。つまりこの場所を選んだということ自、ナザリックの力を見せ付けるという狙いがあり、本気でこの場で殺すつもりは無いということの証明になる。

そしてその異形を抜けた先にいる者たち。その者たちの包する力は桁が狂った領域。

最後、玉座に腰掛ける――アインズ・ウール・ゴウン。

ようやく悟る。

ジルクニフは心の底から悟る。あれが『神』とか言われる力の存在なんだろうと。神防のアイテムをしてなお、じ取れるプレッシャーの桁は違う。油斷すればこの鮮帝と言われた男ですら膝を折ってしまうだろう。

だから行かねばならない。

ジルクニフがアインズ・ウール・ゴウンを観察したように、あちらもジルクニフを観察しているのだ。ここで評価が失格であれば、今後帝國の運命はどうなるか。最低でも多の価値はあると知ってもらい、帝國の存続に繋げなくてはならない。

厭世気味であり、自分の命すらチップに出來ると思っていた男が、このざまとは笑えてくる。

ジルクニフは嘲笑する。今まで自分は圧倒的な強者を知らないがゆえに、上から見下ろすように行していただけ。子供のさで斜に構えていただけと悟り。

「行くぞ!」

ジルクニフは歩を進めだす。後ろの気配が追従するのをじ取る。

らかな絨毯だが、今のジルクニフの気分からすればあまりにもふわふわしすぎている。

無數の吹き付けてくる気配をけ流し、ジルクニフは前のみ――アインズ・ウール・ゴウンから目を離さずに歩き続ける。もし目的の人から目を離したら、足運びが止まってしまうだろうと直しているためだ。

ジルクニフは別に戦士として優れているわけではない。騎士たちが怯えるこの中を歩けるのは、単に慣れであり、皇帝としての行き方で培った神力だ。

やがて階段の下まで到著する。

本來であればこちらの分を名乗るであろう者がいるのが基本だが――。

「アインズ様。バハルス帝國皇帝、ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス。お目通りをしたいとのことです」

玉座に最も近い位置に立つ悪魔の言葉に、死をモチーフに神々が作り上げたような者は口を開く。

「良くぞ來られた、皇帝よ。私がナザリック大地下墳墓主人、アインズ・ウール・ゴウンだ」

思ったよりもまともな――人間に近い聲だ。ジルクニフの心にしばかりの安堵が生まれる。

例え、伝わると言っても蟲のキチキチ鳴くような聲だった場合、その中に含まれるを理解するのは難しい。確かに抑揚の無い聲ではあるが、これなら人間の常識で含まれた思考を読める可能があることを知って。

「歓迎を心より謝する。アインズ・ウール・ゴウン殿」

骸骨の顔であるために表はさっぱり分からない。どういった口火の切り方がもっともこの場には相応しいのか、ジルクニフは考え込む。そんな空白の時間を切り裂いたのはジルクニフでもアインズでもない。

「アインズ様。下等なる種である人ごときが、アインズ様と対等に話そうというのは不敬かと思われます」悪魔の言葉は続く。「『ひれ伏したまえ』」

ガシャンという金屬音がジルクニフの背後から無數に聞こえる。確認せずとも想像は付く。自らの臣下が悪魔の言葉に従ってひれ伏しているのだろう。必死に立とうとしているのかうめき聲のようなものが聞こえる。

おそらくは強力な神攻撃による強制効果。

ジルクニフのに付くように首から下げられているネックレスが無ければ、自らもひれ伏していたことが予測できる。

たった1人ひれ伏さないジルクニフに無數の視線が集まる。実験を観察するような、そんな冷たい目だ。

「――よせ、デミウルゴス」

「はっ」

デミウルゴスという名の悪魔が頭を下げる。

「……ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクス殿。遠方より來られた君に対して、部下が大変に失禮な行いをとった。勝手な行いとはいえ、部下をせなかった私の不徳、許していただけると嬉しいのだが?」

ジルクニフの心に警戒と安堵が同時に吹き荒れる。警戒はアインズ・ウール・ゴウンが力のみで行するタイプの存在で無いと知って。安堵はアインズ・ウール・ゴウンが力のみで行するタイプの存在で無いと知って。

「無論。主人の意を勘違いし、部下が暴走するのは良くあること。もしかすると、私――帝國の人間も同じようなことをやっている可能がある。その時はアインズ・ウール・ゴウン殿の寛大なお心に慈悲をお願いしたもの」

「おお。了解した。この私の名で寛大な処置を行おう」

謝する」

まずはここでワーカーが侵したというカードを1枚切ってくるとは。やはりこの化けは頭も切れる。だが、すべてはここからが勝負だ。

ジルクニフは決意を固める。おそらくは今まで行ってきたどんなことよりも危険で、そして――楽しい渉の始まりだ。強さでは勝てない。しかし、人の知恵を思い知らせてやる。

その覚悟が正面から、強くアインズ・ウール・ゴウンを直視する力へと変わる。

アインズ・ウール・ゴウンが僅かに驚いたような行を取ったのは、人の勇気を知ったからか。そうジルクニフは考える。

両者の視線がわる。

そしてジルクニフは今まで浮かべていた堅い表を壊し、朗らかな――親しみを込めた笑顔を見せた。

「アインズ・ウール・ゴウン殿。貴方に會えた事を……神に謝してもよろしいかな?」

アインズ・ウール・ゴウンが息を吐き出す。まるでここからが本番だと活をれるように。

「……隨意に。私個人は神なぞは信じないが、だからと言って君の信仰の邪魔をしようという気持ちも無い」

「……神は信仰しないのか?」スレイン法國に伝わる神とは関係が無いのかとジルクニフは考える。「……それならば勝手に謝させてもらうよ。さて、話をする前に私の名前は々長いので、そうだな……親しみでも込めてジルクニフと呼んでもらえれば幸いなんだが?」

「……そうかね? ではジルクニフと呼ばせてもらおう。私はアインズでかまわないとも」

謝するよ。アインズ」

親しみを込めたジルクニフに対して、アインズは観察するように會話を続ける。

「アインズと言う絶対的支配者に會えたことは、私にとって本當に謝すべきことだよ。私も皇帝として、上に立つ者として々な重圧をじるときがある。貴方はどうかな?」

「確かにじるときがあるな」

「……そうか。では同じような……當然貴方の方が上だとは思うが、同じような重圧を持つ者として友好を深めたいのだが?」

「……それは?」

「友となろうじゃないか」

ある意味傲慢な言葉に、玉座の間の空気が重くなったようだった。しかしジルクニフはその表を変えることなく、ただアインズを見つめる。

それをけて、玉座に腰掛けたアインズはゆっくりと姿勢を変える。その骨の指を頬に當て、しげしげとジルクニフを眺め返す。

ボールは放った。次はそのボールをアインズがどのように扱うかだ。

「……友か」

アインズの聲にあるのは僅かな笑い。それをけてその橫に立つ者たちも微妙な表を浮かべた。圧倒的弱者が圧倒的強者に対しての言葉ではないから。

「従屬の間違いじゃありんせんの?」

鈴を転がすような音が響き、そのあとミシリという音がした。銀髪のが微妙に表を歪め、その橫に立つダークエルフのが呆れたような顔をしていた。ジルクニフの視力では何が起こったか理解はできなかったが、まるでダークエルフが銀髪のに蹴りをれたようだった。

そんなことを視界に留めながらも、アインズは無視を決め込み、それから口を開く。

「友か……良いじゃないか。友となろう」

かすかな揺をジルクニフはじる。ナザリックの者たち、そして自らが引き連れて來た部下達のものだ。それは劣等な存在に対して、アインズが友と認めたことに対するの吐であろう。

それと同時にジルクニフはアインズという存在に対して、底知れない恐怖をじた。アインズの返答はジルクニフにしても意外過ぎたのだ。

何故、友となる。

何故、従屬を要求しない。

絶対的強者――圧倒的立場な者が、何故れる。

従屬を要求すれば、そこから無數の手段を取れるよう思案していた。友となるという返答は、ジルクニフのそれらの予測の範疇には無い。

何故、友となることをれたのか。まさか本気で友達になろうとれたはずが無い。では何が狙いか。

ジルクニフにはアインズの思考を読みきることは出來ない。

ただ強者と戦う際、足を払う方法を考えるのが弱者の戦い方である。それは強者の驕りを利用しての戦い方ともいえる。しかし、強者が決して驕らない存在だとしたら、その戦い方は出來ない。

弱者唯一の戦い方は意味をなくすのだ。

アインズはまさにそれだ。強者としての驕りをじさせる行を取らない。

そこまでを考えて、ジルクニフのきを牽制する意味での行だろうという可能が浮かぶ。

強さだけでは無い。

ジルクニフはアインズという存在が恐ろしいのは、その包したであろう力のみならず、その叡智だと強く認識する。

謝するよ、私の新たな友アインズよ」

「よいと言うことだ。私の新たな友ジルクニフよ。それよりは本題にろうじゃないか。私の壽命は長いが、君たち人間の壽命は泡沫の夢のようなものだろう? あまりくだらない話で時間をつぶす必要も無かろう。さて、ここには何用で來たのかね?」

ここからが本番だ。

ジルクニフは今までの短い時間で無數に立てた計畫のうち、最善と思われるものを用意する。

「君が素晴らしい力を持った人であり、本當は私の部下にならないかと聲をかけに來たつもりだったんだが、その考えは破棄させてもらうよ。その代わり……ここに國を作らないか?」

「……ほう?」

「この地に君の國を作り、君が王となって支配する。とても素晴らしいことだと思うし、君に相応しい地位だと思うんだ。そして私達帝國は君を最大限バックアップして、この地に建國する手伝いをしたいと思う。どうだろう?」

アインズの橫に立つ者たち――コキュートスを除いて――の顔に心の表が浮かんだ。己の主人に相応しい地位だという判斷からだろう。

そんな者たちを視界に捉え、ジルクニフは大したことが無いと考える。やはり警戒すべきはアインズただ、1人。

返答をせずにジルクニフを黙って眺めるアインズがやがて口を開いた。

「……ジルクニフよ。君にメリットがあるようには思えないのだが?」

予測された答え。だからこそ、ジルクニフは心の底からという演技で答える。

「帝國は君がこの辺りに國を作ることを支援する。そうすれば君たちも謝してくれるだろ? 君たち――アインズの支配する國と私の帝國、友好的な同盟國となりたいのだ。將來を見越してね」

納得のいく答えのはずだ。返答はいかに。

ジルクニフはアインズという存在が罠に嵌ることを祈る。

そして――

「いやそれには及ばない。それより私は、ジルクニフ――君の下に跪こう」

言葉にならないどよめきが起こった。ナザリックに屬するものたちから吹き上がったのは揺であり、驚愕であり、自らの主人が下につくということに対する憤怒だ。ジルクニフが何からの魔法的手段を用いたのではと、勘ぐる者たちもいた。

デミウルゴスですら、驚愕に目を見開き、アインズの顔を眺めたほどだ。

この中にあって、アインズの言葉に驚愕とは違う反応を示したのはたったの1人――遅れてもう1人の2人だった。

1人はジルクニフ。遅れて別の反応をしたのはデミウルゴスだ。

両者とも表には何も出てはいない。すべては瞳の奧、ほんのしだけのの発にしかその変化を映し出さない。しかし、その2人に浮かんでいるのはまったく違ったもの。

ジルクニフは策を見破られたことに対する憤怒。

そしてデミウルゴスは驚愕のあとは心であり、尊敬だ。

「……何を言う、アインズ。君は誰かの臣下になるような男ではない。それよりは上に立つべき人だよ」

「……謝するよジルクニフ、そう言ってくれて。では君の下に跪いたことにしてくれないか。実際は友人だし対等ということでね」

「…………っ!」

友人という関係をここで利用するかと、ジルクニフは舌打ちをしたい気持ちを押さえ込む。

アインズは今までの渉の流れで、友人というものは地位を越えたものだと提示してきている。実際、これだけの力の差がありながら、対等の渉をしているのは友人だからだと言われてしまえば、確かに反論のしようが無い。

そうやって來ているのに、今更こちらから先ほどの話とは別に、主従関係はしっかりやろうなんて言えるはずが無い。第一友人としての関係をんだのはジルクニフなのだから。

この化け

ジルクニフは親しみを込めた笑みの下で、アインズに対する無數の呪詛を吐き出す。

初めてナザリックの者たちにあった揺が和らいだ。そんなジルクニフの僅かな変化を悟って。

「――し、しかし」

「――私はね、ジルクニフ。君たちの力を借りるだけ借りて作られた國に価値は無いと思うのだよ。それに君に悪いではないか。帝國という力を借りるだけ借りて、メリットがそちらにあまりに無いのでは。君は友人と言ってくれたね? 私に國を――領土をくれるというのならば、代価として君の下につこう。それなりの地位があればその辺にでも據えてくれると嬉しいのだがね? 帝國の傘下ということになっている私に」

黙ったのはジルクニフだ。圧倒的に有利な言葉を引き出したにも係わらず、何も言うことができないという狀況下だ。その異様さはその場にいるすべてのものに伝わる。

、何があったのか。

アインズの言葉にはどういった意味があったのか。

領土をくれるなら配下として従う。極當たり前のことであり、そこに変な部分は一切無い。確かにアインズという力ある存在が、人ごときの下に付くというのは違和があるが。

ジルクニフの沈黙をアインズはどうけ止めたか。じれたように再び口を開く。

「私が君の下につくといっているのに、何か問題でもあるのかね? 私の友よ」

その言葉にジルクニフは覚悟を決め、同意する。

ジルクニフにとっては脅しにしか聞こえない言葉を前に、抗う手段を持たなかったのだ。

「……いや、何も問題は無いとも。君という人が帝國の中にってくれことほど嬉しいことは無いよ、友よ。では地位の件だが、辺境伯ということでどうだろう?」

皇帝のを引く分家筋が公爵となり、その下が侯爵、伯爵、子爵、男爵と次ぐ。辺境伯は帝國では侯爵に順ずる地位を持つ。いうなら皇帝のを引かない――婚姻関係によって流れている場合は多いが――貴族階級での最上位だ。

獨自の軍事力と、広大な領地、ある範囲においては帝國の定める法律以外の法を定める権利を有している貴族。そう考えるとアインズには相応しい地位だ。

「……辺境伯は何人帝國に何人かはいるのかな?」

「今では2人だね」

辺境伯は鮮帝の時代になってから、その保有する力のために解されてきた貴族の位階でもある。ジルクニフが皇帝になった時には5人。帝國の周囲を守るようにいたのだが。

「ならば私が3人目の辺境伯になるわけだ? そんなにいるものなのか……」

「……そうだが?」

なぜそのようなことを言うのか。言葉にするまでも無く、當たり前のことを。

そこまで考えたジルクニフはアインズの狙いを読み取る。先ほどの『対等』という言葉をここで示せということだろう。

「……確かに辺境伯はほかにもいる。それでは君に送る地位としては確かに不足だね。私のもっとも親しい友人である君には……新しい地位である辺境侯を作って送ろう。それではどうだろう?」

辺境伯自が侯爵と目されるので、それを考えれば呼び名が変わっただけにしか過ぎない。しかし、その呼び名と言うのは重要な意味を持つ。つまりはジルクニフはアインズという人が特別な地位を作って送るだけの存在と、高く評価しているということを外に示す働きを持つからだ。

順位的に考え辺境伯が侯爵に順ずるなら、辺境侯は公爵に順ずると考えても、多は屁理屈がるがおかしくは無いだろうし、それを聞いた貴族たちはそう思うだろう。

皇帝の族たる公爵と同格。そして保有する戦力を考えればそれ以上の存在。つまりは皇帝に限りなく近い地位と帝國の貴族であれば思っておかしくは無い。

それはアインズが暗に要求していただろう地位に相応しい、とジルクニフは考える。

アインズは沈黙する。

その特別に作った地位でも満足できないのかとジルクニフが思い出したとき、アインズは口を開いた。

「そうか……新しい地位か。……誰をお手本にして良いやら」

支配者の貫祿を持つアインズが今更とジルクニフは考え、その言葉が臣下としてという意味を含んでいると言うことに気づき、苦笑いを浮かべる。

「はっはっは。厳しい冗談が上手いな。普通に辺境伯と同じようにしてくれれば良いよ。それにある程度は私と同等ということを匂わせよう」

「……ああ。……了解した。君の臣下として最低限の忠誠を周囲には知らしめるつもりだが、ジルクニフがそうしてくれると厄介ごとに巻き込まれないですむ。……頭を下げたことが無いので、上手く臣下としての禮儀を盡くせる自信が無いのでね」

「理解したとも。その辺りは私からもサポートする者を送ろう」

「……そうしてくれると嬉しいな。さて話は変わるが、私の知っている辺境伯……辺境侯と帝國の定める辺境侯が同じものなのか、その辺りの相違が無いか確認が必要だと思うが、どうだろう」

「その通りだとも。領土を得た際の稅など、帝國の定める法律は知ってもらわなくてはならない。その辺りの詳しい説明は必要だと思うね」

辺境伯と言うのは他の國にもいるが、當然微妙な違いは存在する。下手すると國によっては獨立國と同じ扱いになる場合もある。それに辺境侯という地位を作るなら、帝國貴族階級に組み込んで々と細かな調節を定める必要がある。

「なるほど。ではその辺りは私の側近――デミウルゴス辺りに任せよう」

「了解した。彼だな」ジルクニフが視線を送ると、デミウルゴスはやわらかい笑顔を見せる。「その辺りは細かく決めるとしよう。私はすぐに帝國に戻り、君という新たな貴族の誕生と、この地を占領するための宣戦布告を王國に対して行うつもりだ。それでアインズ・ウール・ゴウン辺境侯でゴウン辺境領だね。帝國の領土としての準備を整えておこう」

「いや、アインズ・ウール・ゴウン辺境侯にアインズ・ウール・ゴウン辺境領で頼む」

ジルクニフは微妙な表を浮かべた。

「ゴウン辺境領では駄目なのかね?」

「駄目だな。正式な名稱はアインズ・ウール・ゴウン辺境領だ」

ぶっちゃけ変な名前だ。どこに自分のフルネームを領土に付ける者がいると言うのか。しかし、そこにこだわるところを考えると、譲れない線なのだろうと判斷は付く。

「……まぁ一度もないと言う事は無いから、それでいこうか」

狂人とかの類がそういった行為に出たことはある。それと勘違いされないよう、貴族にはに知らしめておく必要があるだろう。

下手な噂――侮辱する類のものでもされて、アインズの耳に飛び込んだりしたら厄介だから。

「納得してくれて嬉しいよ。それではよろしく頼むよ。何か協力できることがあれば、言ってくれると嬉しいのだが?」

「……即座には浮かばないな。ただ、こちらの使者を置かせてもらえる場所など、君と直ぐに連絡を取れる手段の確立したいのだが?」

「……了解した。その辺りは検討しておこう」

「ならば私のを置いておくので、その辺りのすり合わせをお願いしても良いかな?」

「ああ。構わないとも」

「では……ロウネ・ヴァミリネン!」

「――はい!」

デミウルゴスの支配の呪言によって、いまだ床に平伏していたロウネが聲を上げる。

「私の新たな友であり、帝國の新たなる辺境侯に詳しい帝國の法律などを教えてさしあげろ。今日から殘ってな」

「…………ぁ」

「どうした? ロウネ」

「い、いえ、何も私でなくてもと思いまして。後日他の者を――」

「ロウネ。お前の仕事だ」

ジルクニフの拒絶を許さぬ言葉に、ロウネが絶に満ちた顔をしてから、力なく返答をする。

「……畏まりました」

「ではアインズ。彼が教えてくれるはずだ」

「そうかね? では先ほども言ったようにデミウルゴスだ。彼に教えてやってくれ。それとデミウルゴス?」

「はい。『自由にしたまえ』」

支配の呪言の消失に伴い、今まで襲っていた重圧が解かれたことに対して、安堵の息がジルクニフにも聞こえてくる。

「さて、友よ。帝國まで戻るということだが、もし良ければ私が――いや私の手の者が送っても構わないが?」

アインズの提案にしばかりの好奇心が湧き上がる。しかしジルクニフはそれを振り払った。それだけのはずが無いのだから。

「好意、謝するよ。しかし、一応馬車で來ただ。最後まで馬車で行するとしよう」

「アンデッドの首なし馬などなら休み無く……」

「……すまない、友よ。ほんと気持ちだけで謝するよ」

「そうか?」

わずかばかりの殘念さは演技なのか、本心なのか。ジルクニフには検討もつかない。まぁ、演技の可能は濃厚だ。アインズという存在が帝國にった、皇帝の近くにいるということを帝國に宣伝する目的だと考えるのが妥當だろうから。

「ではこれで帰らせてもらおう」

「折角だから一晩ぐらい泊まっていかないか? 々歓迎しよう」

「いや、それには及ばないとも。即座に帰って々と行に移さないとね」

「そうか? 本當に殘念だ。デミウルゴス……お客様を外まで送って差し上げなさい」

軽い口調でアインズはデミウルゴスに命令を飛ばす。本當に友達を外に見送るようにという軽いもの。しかし、それは2人からすればその中に含まれた本當の意味を直するには充分だ。

デミウルゴスが本心から微笑を浮かべる。想像も付かないような邪悪を浮かべて。

ジルクニフはが泡立つのを押さえ込めなかった。

自らには効果は無くても、デミウルゴスの言葉には強制効果がある。それを使って連れて來た臣下に何かを仕掛けるつもりだろう。宿泊を勧めたこともその一環。

友となり、辺境侯の地位を得、帝國にり込んだ直後から蠢するという気を骨にこちらに叩きつけるとは。

無論、あくまでもこれは誇示に過ぎないのだろうが。

「いや、結構だよ。即座に々と行するから」

アインズは不思議そうに頭を傾げた。

――わざとらしい真似を。ジルクニフは微笑を浮かべた顔の下で、憤懣を必死に抑える。

「そうかね? まぁそれならば良いのだが。では外で待機ししているだろうメイドに言うと良い」

「ありがとう、友よ」

「気にするな、友よ」

ジルクニフがアインズに背を向けた瞬間、いままで平伏していた1人の男が立ち上がった。

「アインズ・ウール・ゴウン様! 1つ、お願いが!」

を吐きそうな真剣なびを上げたのは、フールーダである。誰もがいきなりの展開に驚く中、再び聲を張り上げた。

「何卒! 私のあなた様の弟子にしてください!」

玉座の間が靜まりかえる。

初めて困したようにアインズがジルクニフを眺めた。

流石にこの展開は予測していなかったのだろう。ジルクニフはわずかばかりにがすく思いだった。

「すまないが、彼は何者かな?」

「ああ、帝國の主席魔法使いを任じられているフールーダという」

「フールーダ・パラダインと申します。アインズ・ウール・ゴウン様」

深々とフールーダは一禮をする。それはジルクニフにすら見せたことの無い、真摯で忠誠心に溢れたものだった。

「私はゴウン様の偉大な魔法の力に魅せられ、その強大な力を一端でもするものです。この全てを捧げる代わりに、ゴウン様の叡智、そして魔法の技を伝授していただければと思います! 何卒、お許しくださいますよう、お願いいたします」

フールーダはそこまで言い切ると、跪き、頭を垂れる。床の赤い絨毯に額が沈んでいる。

アインズは困したように、杖を數度でると、ジルクニフに問いかける。

「……どうすれば良いかな、ジルクニフ。私は問題ないのだが、彼は君の國でも指折りの存在だろ? それを勝手に弟子にするわけにはな」

アインズからボールを放り投げられたジルクニフは跪いたフールーダを眺め、即座に判斷する。

フールーダという人を失うのは惜しい。フールーダを有効に活用すれば一軍に匹敵する戦力になるし、その叡智は帝國隨一だ。しかしこの場で拒否すれば、フールーダは絶対に恨みに思うだろう。

下手したら潛在的な敵を作り、アインズの弟子となるために帝國を売り渡すような行為に出る可能だってある。

出來ればフールーダなみに――後継者が生まれるまで待てと言いたいところだが、それがいつになるか不明瞭だ。そこまで考えれば即座に決斷することで度量の広さを見せて、フールーダに対する貸しとすべきだ。

「いや、構わないとも。フールーダ。お前の主席魔法使いの任を解く。つまりはもはや帝國の臣下ではないと知れ」

「おお、陛下。謝します」

「え? そんなんでいいの?」ポツリとアインズの呟き。しかしそれは誰の耳にもらずに、中空に消えていった。「……デミウルゴス」

アインズの呼び聲にデミウルゴスは一禮で答える。

「……どう思う?」

「……と言いますのは?」

「うむ……なんというか……」

アインズは言葉を濁す。その姿に僅かにジルクニフは安堵する。先ほどまでの謀略家としての姿は無く、困した1人の人間のようだったために。

「そうだな……。単なる人間ごときに私の叡智をけ止められると思うか?」

「問題ございません!」んだのはフールーダだ。「確かにゴウン様の深淵なる叡智をすべて納められるとは思ってもおりません。ですが、その欠片でも得ることができれば、この、それ以上の喜びはありません!」

「……弟子となるからには、私の命をき――」

「はい! ゴウン様に全てを捧げて、教えを請いたいと思っております」

「うむ……」

アインズはまるで反対意見を探すように周囲を見渡す。

シャルティアは何でか優越に満ちた顔をしている。

アウラは當然だよね、と今にも言いそうな顔だ。

コキュートスは――蟲で微妙にわからない。

デミウルゴスは無表だが、先ほどの答えを考えればアインズに任せると言うところだろう。

結局反対意見っぽいものはなさそうだ。そう判斷したアインズは1つ頷いた。

「良かろう。お前を私の弟子としよう」

「ありがとうございます!」

歓喜に満ち満ちた聲は、人生の絶頂期に達した人間が上げるものだ。いや、フールーダの絶頂期はもしかすると今この瞬間から始まるのかもしれない。

「さて」アインズは何処からとも無く、一冊の本を取り出す「デミウルゴス。渡して來い」

黒皮の表紙の本を丁寧にけ取ったデミウルゴスは、その本を持って階段を降り、フールーダに手渡す。神より賜ったような恭しさでそれを擁いたフールーダにアインズは聲をかける。

「開け、我が弟子よ」

「はい!」

弟子という言葉に強い歓喜のを発散し、フールーダは跪いた狀態で恭しく頭を下げる。

それからフールーダはゆっくりと注意深く書を広げる。古臭くかび臭い香りが立ちこめ、それとともに魔力が周囲に広がっていくのがじ取れた。周囲の溫度が下がるような濃厚な魔力だ。フールーダのに鳥が立つ。

これほど強大な魔力は――そこまで考えたフールーダは自らの師を盜み見る。玉座の間にって、最初にアインズを目にしたときの衝撃を思い出す。あの吐き気をもよおすような魔力の奔流を。

フールーダはそこで今はそんなことを考えるべきでは無いと、自らの立場を思い出す。自分の弟子が他の事を考えていたら容赦なく叱り飛ばすだろうから。

フールーダは開いたページに目を落とす。その中は薄い紙にびっしりと文字が書き込まれていた。

「読めるか?」

フールーダは文字読解の魔法をかける。そして驚愕に目を見開いた。

それは叡智の塊だ。死者に関する様々な知識や魔法儀式が無數に、これでもかといわんばかりに記載されていた。フールーダのいままでの人生で手にした何よりもより凄い魔法書だ。

あまりの張に手が震える。

それがどれだけの価値があるかは計り知れない。近隣諸國にあるどんな本よりも貴重品だ。魔法使いであれば所有者を殺すことすら考えるほどの書。それをフールーダは今、手にしているのだ。

「理解できるか?」

ゆっくりと、それでいて丁寧にページをめくる。

両眼は走り、書かれている魔法の深淵を理解しようと努める。しかし、その知識はあまりに深く、あまりに難解だ。フールーダの長い人生で得てきた全ての記憶を員しても、その一部にしかたどり著けない。

「理解できるか?」

再び自らの師から聲が掛かる。

「理解……できません。いえ、一部は理解できるのですが、全としてのことになると……」

「ならば私の知識を伝授するにはまだまだ足りないようだな」

「……申し訳ありません」

師を失させたかと、フールーダは小さくなりながら謝罪する。

先ほどの幸福が一気に失われ、目の前が真っ暗になるような絶が怒濤のごとき押し寄せてくる。しかし、その絶を與えたのがアインズの聲なら、救いあげてくれるのもまたアインズの聲だった。

「良い。フールーダよ」

その崇拝すべき師の優しげな聲にフールーダは顔を上げ、アインズの顔を凝視する。

「我が弟子よ急ぐ必要は無い。ゆっくりと學んでいけばよかろう。まずは師としての命はその本を理解することだ。その次に別の本を理解してもらう。それまでは私の持つ叡智を與えることはよしておこう。下積みが無い者に魔法の深淵をれさせることは危険だからな。とりあえず、私の所持する図書館を開放しよう。何か調べたいことがあればそこで調べると良い。デミウルゴスは別件があるから……シャルティア」

「はい」

「後で司書長であるティティスとフールーダの顔を合わせておけ。それとフールーダが私の弟子になったということをナザリックに伝えておくのだ。後ほどフールーダの部屋の準備やその他諸々の件でペストーニャとも相談しておけ」

「畏まりました」

「それと我が弟子よ。私を呼ぶ時はアインズで構わない」

「畏まりました、我が師――アインズ様」

フールーダは與えられた本を書き擁き、深々と頭を下げる。その表には歓喜を浮かばせて。

「さて、ジルクニフ。つまらないものを見せた」

「いや、興味深い景だったよ」

いままで黙ってアインズの対応を観察していたジルクニフは、いまだ頭を下げるフールーダを見下ろしながら答える。

フールーダは完全に忠誠心をアインズに捧げている。恐らくはアインズの命令であれば、どのようなことも平然と行うだろう。それが帝國に被害を出すことであっても。

帝國主席魔法使いが死に、アインズ・ウール・ゴウンの熱狂的な弟子が生まれた。

アインズが人の扱い方も長けるという実例を見せてもらえたことは、ジルクニフのアインズという存在に対する警戒心をより一層強める働きがあった。

「とりあえずは私はこれでお暇させてもらうよ。直ぐに々と連絡を取ったりするつもりだ、友よ」

「うむ、我々ナザリックは君のためであれば直ぐに門を開くと知っておいてもらおう」

「それは心強いよ、我が辺境候」

「ああ。我が皇帝よ、また會うとしよう」

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