《オーバーロード:前編》會談-7

會談が終わり、アインズの自室には守護者たちとセバスの姿があった。

アインズを含め、総數6人。

この場に集まったのは、ナザリックはついに後ろ盾を得たということから、大きくいていく時期を迎え、細かなことを決めていく必要があるとアインズが判斷したためだ。

今後の行方針をより固める目的である。

自らの機の向こうに座ったアインズが語りだすよりも早く、アウラが最初に疑問を投げかける。

「何故、アインズ様は國を作るということに反対し、人間の下に付くことをお決めになったのですか?」

この場にいる殆どの者がじた疑問だ。自らの主人であるアインズの決定に逆らう気はこれっぽちもないし、それが最も正しいとは思っていても、疑問というのはどうしても起こる。それにアインズが何故そういう選択肢を選んだかという真意を知ることは、よりアインズの役に立てるという考えている。

理解できなかったら、アインズのまぬ行を取ってしまう可能だってのだから。その辺りが顕著なのはすでに失敗を犯しているシャルティアとセバスだ。両者とも非常に真剣な顔で、アインズの言葉をそしてその真意を僅かとも逃がさないような気配を漂わせている。

アインズは全員の視線が集められるプレッシャーに押されながらも、己のあの時抱いた考えを述べた。

「國を作ったとしてそれを上手く管理できるかという問題がある。廃墟となった國を持っては、アインズ・ウール・ゴウンの名が泣こう」

確かに納得のいく答えである。

しかし守護者達の目が、それを聞いて薄い笑いを浮かべているデミウルゴスに向かう。ナザリック最高の知能を持つ、守護者のまとめ役であるデミウルゴスであれば、その辺りの問題はどうにかなるのではないかという疑問が浮かぶためだ。

一歩踏み込んで考えれば、デミウルゴスの能力にアインズが疑いを持っているということだろうか?

そんな疑問の視線が向けられたデミウルゴスの行は、他の守護者からすると混に匹敵する行だった。

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「――くくくく」

デミウルゴスの笑いが響く。そう――デミウルゴスは笑ったのだ。全員から能力を疑われているのにも係わらず。しかし、その場にいた全員が次の瞬間、驚きの聲を上げた。

「……君たちは本當にアインズ様の計畫がそれだけだと思っているのかね?」

「え?」

「何?」

「ナンダト?」

「ほう」

「……ぇ?」

「皆、しは考えるべきだ。我らの主人にして、至高の41人のまとめ役であったアインズ様がその程度の思考しかされてない筈が無いだろ?」

アインズがごくりと出もしない唾を飲み込む中、守護者達は『確かに』と互い互い同意の頷きを行う。ジルクニフの対応を思い出してみれば、それ以外にも何かがあったのは確実。

守護者達はそれが何かが分からず、悔しさを微かに顔に浮かばせる。

このような頭で、アインズの役に立てるのかという不安が過ぎるためだ。

「やれやれ……アインズ様。私の仲間達にもアインズ様の真の狙いを告げておいたほうが良いかと思われます。今後の方針にも係わってくるのではと思われますが?」

全員の視線がアインズの元に集まった。それは愚鈍なる自らに教えてしいという、哀願の思いを込めた視線だ。

全員の顔を見渡し、アインズは一息、いや數度呼吸を繰り返す。

それからゆっくりとイスから立ち上がった。そして守護者全員に背を向けと、デミウルゴスに肩越しに賞賛の言葉を送った。

「……流石はデミウルゴス。私の全てを見切るとは……な」

「いえ。アインズ様の深謀遠慮。私の並び立てるところにはございません。さらには理解できたのは一部だけではないかと思っております」

賞賛に対して、敬意の一禮でデミウルゴスは答える。

そんな2人だけの――自らが崇拝する主人と同じ世界に踏み込んでいるデミウルゴスに、シャルティアは嫉妬の問いかけを行う。

「どういうことなんでありんすか?」

それに答えず微笑を浮かべるデミウルゴスに、アウラも不満げに頬を膨らませる。

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「アインズ様。あたし達にも教えてください」

「本來デアレバ、ゴ説明ヲケズトモ気付カナクテハナラナイノデショウガ……コノ愚カナルヲオ許シクダサイ」

背を向けたままのアインズの行は、愚鈍なシモベに対する不快を意味しているのではと、アインズの狙いが読めなかった者たちは怯える。

至高の41人――その最後に殘った慈悲深き者、アインズの役に立てないのでは、それは生まれてきた意味が無いのだから。

そんな守護者たちの哀願にアインズは答える。

振り返ると、ギルド長の印たるスタッフをデミウルゴスに突きつけたのだ。

「そうか。ならばデミウルゴス。お前が理解したことを他の者たちに説明することを許す」

「畏まりました」

デミウルゴスは頷くと、仲間たちに話し始めた。

行きと構造は何も変わってないのにも係わらず、馬車が走るたびに起こる振が大きくじられるのは、馬車の空気が重いためか。それとも乗っているメンバーが変わったことか。

行きが一軍のみで構だとするなら、帰りは二軍を含めた構だ。

フールーダの代わりには高弟の1人。ロウネの代わりには部下の。変わってないのは殘る2人、ジルクニフとバジウッドだ。

そんな中、ジルクニフを除いた3者は滅多に見られないものを目に、言葉無く固まったまま座席に座り込んでいた。3人はチラチラと時折同じ方向に目をやる。

そこでは皇帝であるジルクニフが眉を顰めて、思いにふけっていたのだ。ジルクニフはいつでも薄い笑いを浮かべている男と認識を強く持たれている。実際、3者の中では最も面識のあるバジウッドでさえ、ジルクニフのそんな表は見たことが無かった。

ジルクニフのい表は、ナザリックを出立してからずっとだ。時折、苦蟲を噛み潰したような顔をしたりするが、決して余裕ある表はつくろうとはしない。

その理由は問いかけるまでも無く、即座に浮かぶ。

かのナザリック大地下墳墓。そこで行われた一連の出來事の所為だ。

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あの恐ろしい者たちの群れ。そしてその先にいる存在。最後には玉座に座った『死』。

また、恐怖だけでもない。

贅を凝らした輝かしい建築、調度品の數々。それは畏敬の念をも引き起こす。

軍事力や経済力などの包する力の桁が違う存在を前に、帝國がこれから向かえる難の日々は、政治には疎いバジウッドですら充分に理解できる。帝國は貴族たちの力をそぎ落とし、皇帝が絶対的権力を得ようと行してきた。それが今、一気に覆されるのだから。

たとえこの馬車がさまざまな探知魔法によって警戒され、周囲を騎士たちが守っているとはいえ思い出すだけで震いするような恐怖がこみ上げてくる。

ナザリックと言う場所で見た恐怖を追い払おうとしていると、ジルクニフが見慣れた皮げな笑みを3人に向けた。

「そうチラチラこちらを見るな。注意力が散漫になるだろ?」

「陛下」

3人の聲が重なる。その聲には安堵のがあった。我らの皇帝が戻ってきたという思い、そしてある一定は行方針が決まったことだろうという予からだ。

「……しかしやることが山積みだな。まずはフールーダの後継を早急に決めなくてはならないだろう。誰か良いやつはいるか?」

問いかけられた高弟の目にが浮かぶ。フールーダの後継、帝國主席魔法使いという地位はから手が出るほど魅力的な地位だ。魔法使いを組織的に運営管理している帝國の最高位の席だから。

いままでは大英雄とも言える存在が座っていたために、決して手の屆くところではなかった。野を抱くにはあまりも相手が悪すぎた。そんな絶対の諦めが支配する席が、いま目の前にあるのだ。

高弟は自らがこの馬車に呼ばれたことを謝するとともに、最大のチャンスだと考える。

しかし続くジルクニフの言葉に、そのは容易く壊された。

「今度の主席魔法使いには場合によって、アインズと魔法的に戦ってもらう可能があるからな」

まさに一瞬で鎮火だ。もはやこれっぽちもじない。それどころか、この世界で最も就きたくない席となった。あんな化けと魔法を競い合うなんて、荒れ狂う海目掛けて500メートル近い崖を飛び降りた方が生き殘るチャンスがあるというもの。

いや死んだ方がマシな可能だってある。

だからこそ高弟は自分以外の人間に押し付けることを即座に考えた。

「それでしたら第4位階魔法まで使える者がおりますので、その中から決められたらどうでしょうか? 私は殘念ながらそこまで使えませんが」

「今回連れて來た中にいるのか?」

「いえ。帝都において重要な実験を任されておりますので。今回は選ばれてはおりません」

可哀想に、と高弟は心の中で呟く。ここに來ていれば、これから與えられる帝國主席魔法使いという地位がどれだけ危険なものか分かるだろうに。知らないために先ほどの自分と同じくに目を眩ませて、その地位をするだろう。

審問椅子と知らないで。

「……なるほど。ではその者たちの詳細な報を集めてから、面接と行こう。しかし、何故フールーダは即座にアインズに弟子りをしたのだ? 確かに強大な力は持つだろうが、それでも魔法の力に長けるかどうかは不明だろ? あのデスナイトが全ての答えなのか?」

「それ以外にもあるかと思います。実のところ、師は相手の使える位階を正確に見抜くという特殊な力を持っておりました」

「ほう」

「それでア……ゴウン辺境伯……違いました。辺境候の能力を見抜かれたのだと思います」

「なるほど」

ジルクニフは頷く。彼もそういう存在がいる事は知っていたからだ。

生まれながらにして特殊な力を持つ者、それは小さい特殊能力から強大なものまで多種多様だ。

ジルクニフが知る中で伝説級の特殊能力を持つ者としては、ある小國の王だろう。その王はドラゴンの失われた奧とされるものから來る特殊能力を持つという。

「つまりはアインズは強大な魔法使いであるというのは完璧に確定か」

が一瞬靜まり返る。

空白が生まれたと知ったは自らの疑問を口に出す。

「……ところでロウネさまはどうされますか?」

それに対する皇帝の答えは簡潔明瞭だった。

「あれはもはや信用できん。帰ってきたとしても閑職に回せ。ナザリックでなにかされている可能がある」

腐っているかもしれない林檎を、他の林檎と混ぜることは出來ない。そういう決定だ。

維持されている魔法なら知魔法で調べることも出來るが、高弟は何も言わない。あのアインズという存在の魔法を知できる自信が無いのだ。いや、人間の魔法が通じる気がこれっぽちも沸いてこない。

最高の師であり、これ以上の存在はないと思っていたフールーダのあの姿を目にしてしまっては。

「しかし陛下。ゴウンという人……人じゃないからなんと言えばいいのか。辺境候はどのようにご覧になられました? 強大な力を持った化けとはわかったのですが」

バジウッドの質問はやはり4騎士だけあって戦闘に関連したものだった。それに対してはジルクニフは冷笑を浮かべる。

「あのアインズという化けが恐ろしいのは力ではない。その英知だ。それは自ら、私の下に降りたことが充分に語っているだろ?」

「……帝國の下に付いたのは中からむさぼる気でしょうか?」

「確実にな」

簡単に肯定しないでしい。そんな思いを3人は同時に抱く。あんな化けに腹の中にられるというのはあまりにも恐ろしい事態だ。

だからこそ問いかける。どうにかする手段を聞くことで自らの神を安定させようと。

「どうするのですか? 法で縛るのですか?」

の問いも當然のことであり、アインズに対する切り札になるのでいうが見え隠れした。

というのも現在、帝國では貴族たちを締め上げるのに、法を使ってゆっくりと締め付けている。アインズが帝國の貴族となるなら、法律で締め上げることは出來るだろう。

「……なんだ? お前が首に鈴でも付けてくれるのか?」

「…………っ」

「まぁ悪い手ではないが、アインズを怒らせるのは愚策だろ? だが、幾人か送ってナザリックなどの報は集めたいものだ。法を盾に怒らない程度にく必要はあるな」

「では、辺境侯に対して帝國はどのような手を?」

「ん? ああ、決まっている。アインズというおぞましき化けは帝國の中に潛り込んだ。このままにしておけば帝國というを食い散らかすだろう。だから餌を與える」

「餌ですか?」

「人を食う獣でも、餌を與えられていれば――腹を満たされ続ければ、即座に襲い掛かったりはしないだろう。共存するのが正解だと知らせるんだ。金の卵を産む鶏を殺す愚を教えてやる。アインズという化けが満たされるような餌を」

ジルクニフの言う餌というものがどんなものを指すのか。それは誰にも分からなかった。しかし聞く勇気はどこにも存在しない。なぜなら、お前が餌だとか言われたらどうすれば良いのか。

「……何故、建國には反対したんでしょうか? 帝國を乗っ取るのが簡単だと言う考えでしょうか?」

「違うな。俺の策を読んでいたんだ」3人の顔に浮かんだ疑問にジルクニフは丁寧に答える。「この地は帝國、王國、法國の3カ國の利益がぶつかる地だ。もしここに建國した場合はどうなったか。必然、アインズという化けは注意の的となり、潛在的な敵となっただろう。そうなれば3カ國による対アインズ同盟が裏に組まれた。しかし、アインズは帝國にもぐりこんだ。つまり周辺國家が警戒するのは、アインズという恐ろしい武を持った帝國だ」

ふんとジルクニフは自嘲げに笑う。

「危険な武を持った奴が、この武に対する同盟を組みましょうと言って信じてもらえると思うか? 周辺國家はアインズという存在に注意を払うだろうが、それ以上に帝國の向に注意するだけだろうさ」

「では斷ればよろしかったんじゃないですか?」

ジルクニフはバジウッドを馬鹿かという眼で見た。

「お前……もしアインズが王國側に回ったらどうする気なんだ? 責任を取って倒してくれるのか?」

バジウッドは恥ずかしそうに俯いた。

考えれば即座に分かることだ。ジルクニフは最悪よりは悪い狀況を選んだということだ。

「……つまりは同盟を最初から潰したいという狙いがあったということでしょうか?」

「そこだ」

ジルクニフは疑問を提示したを指差す。

「そこが疑問なんだ。つまり絶対の力を持っていたら同盟なんか無視して潰せばいいんだ。そうできなかった理由があると考えても良いだろう。もしかしたら、ゆっくりと人を殺すのが好きだとかそんなおぞましい理由かもしれないがな。まず我々がすべき手は、アインズが餌を食らっている間に報を集めることだ。それもアインズを倒せるような存在の報を」

「いるのでしょうか?」

言ってはみたものの、いるとは思えない。あんな存在を、桁の違う存在を倒せる存在など。世界最強種のドラゴンでも無理なのではないか、そんな思いを抱いてしまうほどの相手を。

それに対するジルクニフの答えは自信に溢れたものだ。

「いるさ」

「そんな者が?!」

「いただろ? あの玉座の間に」

そこまで言われれば分かる。

アインズに並ぶようにいた4の化けたち。ダークエルフ、銀髪の、銀の昆蟲、悪魔の4者を指しているのだと。

「……離反させるのですか?」

「そこまで行けるとは思えないが、無駄かもしれないが手は打っておく必要がある。金や地位、異を與える準備をして離反させるんだ」

「危険ではないのでしょうか?」

「確実に危険だ。だが、アインズの保有する戦力は推定だが桁が違う。下手すればこれは周辺國家などではなく、種族存続規模の問題となるかもしれない。俺が死んだ後ならどうでもいいのだが、死ぬ前に大戦爭を起こされるのは迷なんだ。だからこそ危険は承知で行すべきなんだ」

「――つまりはそういうことだ」

「何、デミウルゴス。わたし達がアインズ様を裏切るとあの皇帝は思ってありんす。そう、あなたは考えてありんすと、おっしゃるの?」

「うーん、意外にあの人馬鹿なんだね」

「忠義トイウ言葉ヲ知ラナイト思ワレル」

守護者達がジルクニフを笑う。

アインズ、そして至高の41人に創造された自分達が裏切ると思っているのかと。

無論これはデミウルゴスの考えであり、ジルクニフは本當に考えているかは不明だ。しかしそんな話でも、非常に不愉快なのも事実だった。

「ぶっ殺しちゃおうか?」

危険な発言を行うアウラに、シャルティアは笑いかける。

「ヴァンパイア化が一番よ。優秀ならナザリックで働いてもらえば良い」

その言葉がいつもの変な口調でないのが、激怒の強さを思わせる。コキュートスは何も発しないが、大顎がガチガチという警告音を発し始めている。

「アインズ様の前ですよ?」

セバスの冷靜な聲によって、瞬時にシャルティア、アウラ、コキュートスの憤怒が薄れる。そのあとを引継ぎ、デミウルゴスが再び話し始める。

「……さて、以上のことからアインズ様が注意をして集めている強者の報。それはこれからは帝國が我々に代わって集めてくれると言うこと。周囲に報を収集する者を放たなくても、皇帝の周辺に注意すれば良いということだ」

そのデミウルゴスの説明をけ、守護者達そしてセバスの目に理解のが浮かんだ。それだけではない。それだけのことをあの短い時間で瞬時に判斷してのけた、アインズに対する尊敬の念は天元突破してなお足りない。

「なるほど!」

「さすがはアインズ様!」

服いたしました。そこまでお考えだとは」

「素晴ラシイ……」

「私も驚きました。あの短い時間であそこまでお考えだとは。このデミウルゴス、心底心しました」

アインズはその頃になってようやく振り返る。その顔には照れたようなものがあった。それも當然だろう。アインズを見る全ての眼には敬意と尊敬、崇拝といった恭しいがあったのだから。

「そうか。しかしデミウルゴスにはすべて読まれてしまっていたな」

「いえ。アインズ様があのような対応を取らねば、そこまで読みきることはできませんでした」

全員が頷き、デミウルゴスを同意する。

「しかし流石はアインズ様。ナザリック最高の頭脳を持つデミウルゴスよりも優れてありんすとは」

「ホントだよね! 凄いよね、アインズ様!」

「アインズ様ガ優レタ才ヲ持ツノハ知ッテイマシタガコレホドトハ……。流石ハ至高ノ方々ヲ纏メ上ゲラレタ方」

「全くです。慈悲深く、英知に優れる。アインズ様に勝る主人はいないでしょう」

アインズは賞賛を一けながら、照れたように敬意の聲を手振りで抑える。

「それぐらいで一先ずは充分だ。それよりもこれからのことを考えなくてはならないだろう。帝國との渉はデミウルゴスに任せても良いか?」

「はい。お任せください」

「そうか。々と厄介な仕事を押し付けて悪いな。ではロウネとか言うから話を聞いて、それを書にまとめてくれ。それを図書館のリッチたちに覚えさせよう。いや、私が作ったリッチで良いな」

「畏まりました」

「シャルティアはフールーダ、そしての部屋も一緒に頼む。コキュートスはナザリックの指揮となってしっかりと警戒しておけ。アウラは森の隠れ場の完全なる完を急ぐのだ。セバスはこれまで以上にナザリック9階層、10階層を綺麗にし、客がいつ來ても良いようにしておけ」

全員が一斉に頭を下げる。

「よし! 恐らくは王國と帝國の戦いの際に、ナザリックの偉大さを見せ付ける時が來るだろう。準備を怠らず進めよ」

「はっ!」

唱和の取れた聲がアインズの自室に響き渡った。

この數日後。

帝國はアインズ・ウール・ゴウンという魔法使いを臣下にしたことを発表。次にアインズ・ウール・ゴウンを辺境侯という地位に據えることを公表した。

そして與えられるべき領地は王國、エ・ランテル近郊である。

王國の領土を與えるということに対して、帝國は『元々アインズ・ウール・ゴウンはその辺り一帯を支配していた存在であり、王國は現在、不當に占拠しているだけである。そのため、本來の主人に返す必要がある』と宣言した。

これに従わない場合は帝國は侵攻すら辭さない、と。

無論、そのような暴論を王國はれられるはずが無い。即座に『アインズ・ウール・ゴウンなる人に王國の領土を支配していた歴史は無く、正統も無い』と反論。『帝國が侵略行為を行おうとするなら、王國は斷固たる処置を行うだろう』と宣言した。

王國の大半の貴族は帝國の侵攻は毎年起こる行為であり、これもその一環であろうという認識を持っていた。そのため深く考えることなく、アインズ・ウール・ゴウンというどこの馬の骨とも知れない魔法使いを駒とした、帝國の侵略の正當とする行為を嘲笑った。

特に一介の――取り立てて名の知られていない魔法使いに、わざわざ高い地位を作ってまで與えたことを。これは侵略行為に良くある、正統な王族を立てて、相手國家への揺さぶりとする行為と思われたのだ。

この頃にはカーミラというヴァンパイアの報やアインズ・ウール・ゴウンという人の能力の高さは貴族に伝わってはいたのだが、さしてそれを重要視する人間はなかった。

まず理由の1つ目は王國において魔法使いというのは、さほど高い地位を占めている者ではないということ。理由の2つ目は帝國との戦いで魔法使いが大きく戦場を左右したことが無いこと。理由の3つ目は王國で魔法使いが何かの偉業を果たしたことが無い、つまりは実績が無いことだ。

これらの理由から強い力を持つといわれても、軽視していたのだ。

が、幾人かは別の想を抱いていた。

その拠となるのは、帝國の今回の戦いに向けて員しはじめている數である。

今回の侵攻には帝國8軍のうち、7軍が員されつつあるというのが知らせであった。これは今までの侵攻で、帝國4軍までしか員されてないことを考えると破格の數だ。

次にスレイン法國の宣言である。

エ・ランテル周辺は三カ國の利害に係わってくる場所であり、帝國と王國が小競り合いをする時は必ず法國も宣言を出していた。両者からすればを突っ込んでくるなというものではあったが。

大抵の宣言は、エ・ランテル周辺は法國のものであるというじのものである。

しかしながら今回は趣が大きく異なっていた。

『法國には記録が無いために判斷することが出來ないが、もしアインズ・ウール・ゴウンが本當にその地をかつて支配していたものだとするなら、その正統を認めるものである』という旨を公表したのだ。

王國の貴族達からすれば何を馬鹿なという憤怒の宣言だ。橫からしゃしゃり出て、適當なことを言うなという者が王國では殆どであった。しかし、その中に含まれた真意を理解するものも當然いる。黃金と稱される、6大貴族の1人、戦士長などだ。

彼らは充分に理解したのだ。

スレイン法國の宣言に含まれている『我々はアインズ・ウール・ゴウンと敵対する意志は無い』という國家の判斷を。周辺國家最大の國力を持つスレイン法國が、たった1人の魔法使いを相手にするのを避けたという事実を。

今度の帝國と王國の戦い。

これは中に含まれているものは、今までとは大きく異なったものである。そういう理解――一部の人間ではあったが――とともに王國と帝國の軍はき出すのであった。

そして悲劇が起こる。

――哄笑が響き渡った。

一杯に響き渡る。それは何かからの解放のようであり、鎖が解かれた獣の雄たけびようにも聞こえた。

そんな笑い聲を上げる、自らの師をフールーダは嬉しそうに眺めていた。

師の喜びはフールーダにとっても喜びなのだから。

「素晴らしい、素晴らしい。フールーダ、最高だぞ」

「ありがとうございます。師に喜んでいただき、私も嬉しく思います」

「周辺國家に所屬する強き者の話は充分だ。次は冒険者の強さに関して教えてくれ。とりあえずはA+冒険者。蒼の薔薇の構メンバーの推定される強さだ」

「かしこまりました」

フールーダは帝國で得た報を話し始める。メンバーの能力を話すたびにアインズは笑みを浮かべるのだった。

本當にアインズは楽しそうに笑った。

それは――それは本當に楽しそうに。

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