《【書籍化】勝手に勇者パーティの暗部を擔っていたけど不要だと追放されたので、本當に不要だったのか見極めます》04 ヒドゥン、尋問する

ちょっと短めです、仕事は手短にね

その夜は、新月だった。

月明かりのない夜に出歩く者はほとんどおらず、二人は夜闇にまぎれ、目的の屋敷にたどりつく。

そこは王城近くに置かれる、リンゴット伯のタウンハウスだ。

もとは力のない子爵に過ぎなかったリンゴットが、多額の寄付を王家に納め、伯爵位を與えられたのが數年前のこと。

以降も彼は寄付を絶やさず、自が王家にとって利のある人間であることを示し、王権に取りろうと躍起になっていた。

そのためなら、剣の才覚に溢れた娘――リネア=リンゴットを騎士として育て、名譽ある戦いとして、魔王討伐に赴かせることもいとわない。

そんな権力に憑りつかれた男は現在、凄慘な拷問に曬されていた。

「さて――最後の確認だ。認めるなら首を縦に、否認するなら橫に振れ」

判事も弁護人もいない、検察による一方的な糾弾の場。

恐怖に引きつった表のリンゴット伯は、涙と涎でぐちゃぐちゃの顔を揺らし、何度も頭を縦に振る。

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拘束された當初は気丈な態度を見せ、すぐに解放せねば痛い目を見せるなどと、脅迫めいた発言を繰り返していたものだ。

しかし軽く指を三本ほど折られ、數枚の爪を剝がされれば、痛みに慣れないり上がり貴族などが耐えられるわけもない。

ついでに、頬から口の中へ數本の針が貫通していることも、この泣き濡れた顔の原因として數えられそうだ。

「いいだろう……では最初の質問。お前に資金提供し、將來的な見返りを要求していた商人は、奴隷商のエブラムだな?」

口枷で聲をだせない伯爵は、勢いよく首を縦に振る。

奴隷商の、とはっきりと伝えたにもかかわらずの反応だ。

知っていたのは間違いない、と見ていいだろう。

「その奴隷商が、お前に資金を提供するため、どれほどの犯罪行為に手を染めていたか、それは理解しているな?」

言いながらヒドゥンは、商人の行為をつらつらと読み上げていく。

売買に始まり、違法薬の取引き、多方面への賄賂。

捜査の手がれば、真実に迫った騎士を數の暴力で制圧し、あるいは家族を拐しての脅迫で無力化した。

表向きの商売においても、邪魔になる善良な商人がいれば、ならず者を使って営業妨害し、脅迫を繰り返して、廃業に追い込んだ。

王都にいる多數の路上生活者は、その大半がエブラムのせいで生まれた、といっても差し支えない。

もっとも――そのエブラムのほうはすでに、ヒドゥンが手を下すまでもなく、組織の手で拷問し盡くされ、殺されたそうだが。

そのせいか、伯爵の資金繰りはこのところ、非常に悪化していたという。

「お前はそれを知っていながら、淺ましい権力のためにやつを重用し、便宜をはかり続けた……そうだな?」

ためらいもなく首を振るリンゴットは、なにを思っているのだろう。

この自白が終われば助かると、あり得ない希を抱いているのか。

ヒドゥンは益もなく考えながら、鈍く輝く刃を引き抜いた。

「調査どおりだな。そういうわけで、お前を厄介に思っている人間は非常に多い――大勢の恨みということで、あきらめて死んでくれ」

やはり希を抱いていたのか、ヒドゥンの言葉を聞いた伯爵の目が、恐怖と懇願に大きく見開かれる。

恐怖にこわばった顔はそのまま、彼の死に顔となり果てた。

「ひとまず、これで終わりだな?」

「お~、上出來だぜい♪」

なぜかついてきた組織のトップに稱賛され、ヒドゥンは肩をすくめる。

「そりゃどうも……で、あとは証拠だったな」

「あ、そうそう。そっちはどーすんだ? こいつ、もう死んじゃってるけど?」

「そこで心配するなら、殺す前に止めてくれ……」

ため息とともに返し、ヒドゥンは伯爵を拷問していた室の、ベッド寄りの壁に近づいた。

一見するとただの壁だが、その一部をナイフで切り開くと、くぼみに埋め込まれた金庫が現れる。

それをピンポイントで見抜けたのは、これまで數多の探索をしてきた経験と、音の微妙な反響のおかげだ。

ひとまず金庫の周辺を、そして金庫自を調べるが罠はない。

鍵はクラシックな鍵タイプではなく、流行りのダイヤル式ロック。

中の音を拾いながら、音の変化に合わせてダイヤルを回せば、數十秒ほどであっさりと開いた。

中には複數の紙束がっているが、目當てはおそらく、二人の――伯爵と商人のつながりを示す、互いの署名がった契約書だろう。

「あったぞ、ほら」

その他のこまかな悪事の証拠とともに、紙束をひとつ、ルナに投げ渡す。

容を確認した彼はニヤリと笑い、勢いよくヒドゥンに飛びついた。

「ほんっと助かった……これがなかったら、オレらの苦労も水の泡だったぜ」

「エブラムのほうからは、見つからなかったのか?」

互いが書類を押さえているとなれば、商人のほうを暗殺したとき、そちらからも見つかったはずなのでは。

そんなヒドゥンの疑問に、ルナは苦々しい顔を見せる。

「それがよ~、聞きだす前に殺しちまいやがって……依頼主も相當おかんむりで、危うく全面戦爭になるとこだったぜ」

今回の仕事はそのフォローで、期間の短さもそれが原因らしい。

「それでよく、俺があいつを殺すのを止めなかったな」

「ヒドゥンなら大丈夫だって、信じてたからな♪」

信頼が重い――けれど、その無條件の信用は、ヒドゥンの心に強く響いた。

「ふふ~、キュンときただろ~」

「まぁな――で、そいつは依頼人が使うってことか」

「ああ、依頼人に渡しとく。それでうまいこと、始末つけてくれると思うぜ」

始末というのはもちろん、伯爵家の取りつぶしについてだ。

それをむとすれば、伯爵家と敵対する貴族か、あるいは――。

「――なぁ。依頼人が誰か、知りたくねーか?」

「いや、いい」

「聞いて驚け――なんと、王陛下だ♪」

だから聞きたくないと言ったのに――思わず頭を抱えそうになるヒドゥンを、ルナのうれしそうな表が見上げた。

「……要するに、うちは國のお抱えってことか?」

「いや、そういうわけでもねーよ。獨立はしてるからな」

いわば持ちつ持たれつ、その依頼が苦難にぐ人たちを助けるものなら、組織として引きける――と、ルナは語る。

あくまで利害が一致した際の協力関係に過ぎず、切り捨てられても活はやめないし、國が敵対してくるなら反撃も辭さない。

先ほどの全面戦爭というのは、そういった事態を指していたようだ。

「……まぁ、最悪の事態は避けたいな、想定しておくとしても」

「いざってときは頼りにしてるぜ、ダーリン♪」

そのいざがこないことを祈りつつも、ヒドゥンは自分たちの立場を常に自覚しておくよう、心にメモを殘しておいた。

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