《【書籍化】勝手に勇者パーティの暗部を擔っていたけど不要だと追放されたので、本當に不要だったのか見極めます》05 勇者一行、辺境の町で困窮する

崩壊の序章? そんなことないよ、崩壊なんてしないよ()

勇者アシュラムたちは、完全に困窮していた。

新たなスカウトを加え、次の町に到著した、その翌日のことである。

「そんな、馬鹿な……」

アシュラムはそう聲をかすれさせたが、人々が見れば、當然のことだとあきれるはずだ。

雇ったばかりの人間に全財産を預け、管理まで任せるなど、盜んでくれと言っているようなもの。

もし――彼らがこれまでに人を、スカウトをどこかで雇っていれば、こういった事態は防げたかもしれない。

しかし運の悪いことに、アシュラムたちがこれまでともに行していたのはヒドゥンという、絶対に裏切ることのないスカウトだった。

そのことが警戒心を緩めさせ、スカウトへの信用を増幅させ、無警戒に資金を渡すという、最悪の行を招いたのだろう。

「ど――どうしますの、アシュラム?」

をどのように追うか、という話ですらない。

いま滯在している宿は前払いなため、連泊するなら、さらにいくらかの対価を支払う必要がある。

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だが、いまはそれがない。

前の町へ引き返そうにも、糧食などの資を用意する資金がなく、完全に足止めをくらっている狀態だ。

「……ギルドで話を聞いてみよう。なにか知っているかもしれない」

アシュラムの提案にうなずき、一行は荷を抱え、ギルドへ向かう。

しかしスタッフにしても、他の冒険者にしても、反応はかんばしくなかった。

「ああ、あいつか……そりゃ無理だな、もう戻ってこないだろうよ」

聞くところによると彼は、いくつものパーティで同じことを繰り返している、かなり悪名高いスカウトだったらしい。

そのたびに遠方へ逃げ、ほとぼりが冷めたころに舞い戻るという、渡り鳥のような活をしているのだとか。

「前の町に戻っても無駄だと思うぜ、とっくに高飛びしてるはずさ」

資金があれば馬車も使えるのだから、もっともな話だ。

「まさか、こんなことをする人がいるなんて……」

「信じられません……アシュラム様の庇護下にありながら……」

これまでの旅路では、ヒドゥンがそうした犯罪から守っていたこともあり、四人は他者の悪意に関してまるで無頓著だった。

「本當に、これだから冒険者という連中はっ……」

ここが冒険者ギルドだということも忘れ、周囲から悪けるような発言を平気でもらし、憤るリネア。

剣呑な視線をじ、慌てたティアナは取り繕うように聲を上げる。

「と、とにかく、どうにか工面しないと! アシュラムは気が引けるかもしれないけど、王家に追加の援助をお願いするしか……」

「……そうだね。こうなってしまっては、それしか手がない」

これまでけ取っていたのが最低限の援助だったとはいえ、追加の要求には、王家もいい顔はしないだろう。

あくまで急的な措置だと理解を求めつつ、別の手段も考えなければならない。

「リネア……申し訳ないんだけど、あなたの実家にもお願いできない?」

「かまいませんわ。そもそも、これまで銅貨一枚すらださなかったお父様ですもの。こういうときくらい、協力していただきませんと」

それぞれに手紙を送り、援助を求めることにし――そこで、はたと気づく。

ギルドを通じ、定期的に移する冒険者グループに手紙を屆けてもらう制度は整っているが、もちろんタダではない。

その費用すらないことに気づき、ティアナはさらに頭が痛くなった。

「……使っていない道でも売って、工面するしかありませんね」

背に腹は代えられない。

ミラの提案に従い、資を売卻することで、郵便費用をまかなう。

だが、手紙が王都に屆くのも、そこから資金が屆けられるのも、數日から十數日、下手をすればひと月ほどもかかりかねない。

その間、この町に滯在するとしても、當座のまとまった資金は必要だった。

(どうしたらいいの……ギルドで仕事をけるにしても、ライセンスは私しか持っていないのよね……それに――)

冒険者としての実績がなければ、実りのいい仕事はけられない。

それができるのはティアナだけということもあるが、そもそもの問題として、契約金を支払う余裕がないのだ。

もちろん、枯渇した冒険者や駆けだしのために、常駐依頼の薬草摘みなど、契約金不要の仕事もあるが、対価は雀の涙ほどである。

(……ううん、贅沢は言ってられないわ)

常駐の仕事、あるいは日雇いのアルバイトをしてでも稼がなければ、そもそもの生活がり立たない。

一日や二日程度なら野営でしのげたとしても、ひと月もそんな生活では衛生上の問題が出てくるし、どのみち食費が必要ではある。

宿代を稼ぐことは急務だ。

「――みんな、よく聞いてちょうだい」

そうしてティアナは、しばらくの滯在計畫を仲間に語っていく。

本來なら、こういうときリーダーシップを取るべきなのはアシュラムだが、苦労を知らずに育った彼は、生活力という點においてまるで頼れなかった。

やむなく、冒険者経験のあるティアナが仕切りはするものの、資金繰りについては人に任せきりだったため、彼もそれほど詳しくはない。

それでも、やるしかないのだ。

(ヒドゥン……あなたがいれば、こんなことには……いいえ――)

そんな考えが頭をよぎるが、それを振り払う。

彼は許されないことをした、だから追放するしかなかったのだ。

そこに後悔などない、あってはならない。

(私たちだって、これまで旅してきたんだもの……できるはずよ)

そうして――世間知らずな勇者一行の、慣れないアルバイト生活は始まったが、その暮らし向きは、けして楽なものではない。

ギリギリの収で宿泊できるのは、これまで泊まっていた宿とは比べにならないほどボロボロの、埃まみれの安宿だった。

お湯など用意してもらえるわけもなく、その費用もない。

汗や汚れを流すには、公共浴場に通うしかないのだが、それさえもせいぜい、二日に一度という過酷な生活。

まっさきに音を上げたのは當然、貴族令嬢のリネアだった。

(どうしてわたくしが、このような屈辱をっ……)

まとわりつくの不快に、苛立ちをあらわにしながら、それでも彼は森にり、いつものようにブチブチと薬草を摘む。

父親から資金が屆けば、こんな生活とはおさらばだ――そう考えながら。

しかし、悪いことは重なる。逃れられないほどに積み重なっていく。

それからひと月近くが経過した、ある日のこと。

王家からの手紙と資金をけ取ったパーティが安堵したのも束の間、同時に屆けられた悲報に、リネアは表を失くして膝をつく。

の父であるリンゴット伯爵が死に、さらにはその不正が明らかとなって、伯爵家自が取りつぶされたというものだった。

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