《【書籍化】勝手に勇者パーティの暗部を擔っていたけど不要だと追放されたので、本當に不要だったのか見極めます》14 祝宴前夜

ヒドゥンは本気です。

和平の祝宴――とはいうものの、招かれる人選には偏りがあった。

平たくいえば、王派の人間ばかりが招かれている。

もちろんそれだけでなく、確かな実績を殘す、人の厚い國士たちも大勢招かれたのだが、多忙な彼らは祝辭だけを送り、欠席を表明していた。

そんな中、表立って分は明かせないものの、王の最大の協力者にもお呼びの聲がかかる。

誰あろう、ギフティアの長であるルナだ。

「――ってことで、オレと一緒に出席してもらうからな~」

祝宴を明日に控え、フォーマルな深青のドレスをあてがって姿見を確認しながら、ルナはこともなげにヒドゥンに告げた。

「まったく気が進まないんだが」

「オレだって進まねーっての。けど、しばらくは利害が一致する関係だしな。ここで斷って角を立てるより、王の顔を立てたほうがいいだろ」

言葉遊びをしながら笑うルナの隣で、ヒドゥンは用意された禮服を睨み、疲れたように息をもらす。

「ルナが出る理由はわかるが、オレは行かないほうがいいんじゃないか?」

アシュラムたちがどう報告したかは知らないが、立場的にヒドゥンは、王の命令を途中で放棄した落者だ。

しかも來賓として出席する魔王國にとっては、すべての刺客を返り討ちにした仇敵でもある。

元仲間たちを含め、誰にも合わせる顔がないというものだ。

「そりゃあいつらが無能なだけだったって、もう証明されてんじゃん。それに勇者が魔王と面通ししてんのに、ヒドゥンだけ恨まれるってのもおかしーだろ」

「それは……まぁ、そうなんだけどな」

そもそもの話として、そういうフォーマルな場が苦手というのもある。

辺境出の平民で、冒険者で、裏組織の構員なんて人間が、王宮の式典だか祝宴だかに出席するなど、気後れするばかりだ。

「オレが気後れしてねーと思うか?」

「……してないだろうな」

「いや、そりゃしてねーけどさ……」

そう返されると思っていなかったのか、彼はバツが悪そうに頬を掻く。

「むー……あー、もうっ! だとしてもだよっ!」

ドレスを投げだし、ヒドゥンの座るベッドにボスンと腰を下ろしたルナは、その腰に甘えるように抱きついた。

「……たぶんだけどな。オレが呼ばれてんのは、てきとーな貴族のボンボンでもあてがって、そっからギフティアを掌握するためだ」

「なんだと?」

「いわゆる政略結婚ってやつだな」

要するに――自分の息がかかった家の子息と、ルナを結婚させてその縁戚とし、家ぐるみで王家に仕えさせようということだ。

王がそこまでギフティアに執心しているのは驚きだが、若い王が武力も含めた手駒をするなら、そのくらいはするのかもしれない。

「別になびくつもりはねーし、ヒドゥン以外の男にゃ興味もねーけど、飯の最中にずーっと隣でベッタベタされんのは気にくわねぇ」

「……わかった、そういうことなら話は別だ」

宴席にて、華やかで大膽なドレス姿の彼に、なんの苦労もしらないような貴族の男がれる――それを想像するだけで、殺意が湧いた。

「近づくやつは、全員殺していいんだな?」

「そこまでは言ってねーよ! いや、めっちゃうれしーけどさぁ!」

ニヤニヤを隠しきれない表で、ルナがこちらを見上げてくる。

「……婚約者だって紹介すっから、オレから離れんなよ?」

「ああ――わかってる」

離れるつもりも、放すつもりもない――そう伝えるように、ヒドゥンはいつもより強く、彼の肩を抱き寄せた。

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