《【書籍化】勝手に勇者パーティの暗部を擔っていたけど不要だと追放されたので、本當に不要だったのか見極めます》15 祝宴にて、その1

王、がっかり。

祝宴の席には、予想より大勢の人々が集まっていた。

両國の王と、その側近たち。

そしてもう一方の主役である勇者と仲間たち。

加えて王派の貴族たちに、僚のトップ、重要機関の長など――これからの王國の中樞といっていい人員が揃っている。

それぞれの席は定められており、給仕もいるものの、立食スペースも広く用意され、顔つなぎの場として利用されていた。

二人の王から挨拶を賜ったあとは、無禮講というほどではないが、自由な宴となっている。

その中でヒドゥンとルナは、もとの席に著席したまま適當に飲食し、早々に宴が終わるのを期待していた。

もちろん、それらしいそぶりは見せないまま、會場中の會話に耳を澄ませ、報収集にをだしてはいるのだが。

「まー、さすがにこんな席じゃ、重要な話はしねーよなぁ」

「上下関係と相関図がわかるだけでも十分だ」

それぞれがこれまで集めていた報と、ここで得られる新たな報を合わせ、補完し、より明確な王宮や貴族間の関係を明らかにしていく。

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持ち帰って書面にまとめるつもりではいるが、なくとも把握できるよう、二人はそれらを頭に詰め込んでいた。

頭の中では常に報整理をしている二人だが、その一方で、他のない會話に花を咲かせるなど、造作もないことだ。

傍目には仲のよい歓談にしか見えないためか、そこに加わろうとするように、ある人が足を運んでくる。

「先日はお世話になりましたね――ルナさん」

「んぁ? おっと、これはこれは――」

背後に數名をともない、歩み寄ってきたのは、優雅かつシンプルなデザインのドレスをまとう、しいだった。

その顔にも姿にも、頭上の冠にも、二人は當然のように見覚えがある。

「こんな末席にまで、直々のお越しとは……栄のいたりで、王陛下」

「うふふ、また心にもないことを……ところで、そちらの方は――」

慇懃無禮なルナに、乾いた笑いで答えた王はヒドゥンに目を向け、思わず言葉を詰まらせていた。

「お役目を果たせなかったこと、お詫び申し上げます……王陛下」

がどうあろうと、命令に背く形になったのは事実である。

ヒドゥンのそんな謝罪に――というより、思いもよらない形での再會に、王はやや困してたようだが、やがて取り繕うように口元を緩めた。

「アシュラムたちと別れたとは聞いていました。あなたとはぜひ、話をしたいと思っていましたので、壯健であったことは僥倖です」

「ありがたき幸せに存じます」

それなりに言葉を選んでの返答をしているつもりだが、そのたびにルナが聲を押し殺して笑っているのが聞こえる。

「おい」

「いやー、わりぃ……んふっ、くくくくっ……ふぅっ、はぁぁぁ……」

「……お二人はずいぶんと、気の置けない関係なのですね」

はあまり変わらないが、王は打とうとした手のどちらもが、遅きに失したのだと理解していた。

「ヒドゥンとは、こいつが王都にきてからの仲でね。その縁で、勇者たちに追放されたあとも、オレを頼ってきてくれたってことですよ」

やはり――ぜひ手元に置きたかった人材は、すでにギフティアのもとに渡っていたのだと、王は落膽する。

「あと結婚の予定もありますんで~。よかったら祝辭なり祝儀なり、送ってもらえるとうれしーですね」

「……それは、まことにおめでとうございます」

予想したとおりの言葉に、そう返すほかない。

せっかく用意してきた縁談も、もはや不要になってしまった。

「では、私はこれで……本日は、ゆっくりと楽しんでいってください」

ここで無理を通そうとしては、ギフティアとの関係も悪化するだろう。

そう判斷した王は口惜しさを殘しつつも、引き際を見極め、何事もなかったかのように去っていった。

別の席へ向かう王と、その背後でこちらを振り返る若い男らにヒラヒラと手を振り、ルナはグラスを傾ける。

「ふー……すげーとこ持ってくんなぁ、侯爵家の三男じゃん」

連れていたひとりはその父親である侯爵、殘りは護衛といったところか。

「侯爵家にしたって、三男ならまだ使い道はあんだろーに……わざわざオレに使うなんて、そんだけ王とのつながりを守りてーのかねぇ?」

それはもちろん、當然のことだろう。

王としてはギフティアと支援者をつなげておきたい、侯爵家としては王家と月でありたい。

その時點で、利害は完全に一致している。

そして、現在の公爵家のひとつが、王と反目していることも見逃せない。

枠が空くなら、距離の近い當家がその後釜に――と、期待もするはずだ。

「ま――あの坊ちゃんにとってはラッキーだったな。いまごろ助かったって思ってんだろ」

「……それは、逆だろうな」

「んー?」

「いや、なんでもない」

グラスを傾けて誤魔化し、ヒドゥンは王一行に目をやった。

侯爵家の子息は、いまだにこちらを振り返り、ルナに視線を注いでいる。

その目は誰が見ても、の熱に冒されていた。

(ルナは……自分の魅力に、無頓著すぎるな)

平民、それもスラム育ちだというのに、彼しい。

髪は艶やかで絹糸のごとく、はなめらかで陶磁のごとし。

かなり瘦せ型ではあるが、けして貧相というわけではない。

なにより――彼力的な瞳は、エネルギーの枯れた者を惹きつける。

人に捨てられたヒドゥンしかり、侯爵家の三男しかり――。

彼のような役割の薄い立場では、生きがいなども見いだせず、どこか遠慮がちに生きていたはずだ。

そんな中で強烈な生命の輝きを見れば、ひと目で溺れてしまっても仕方ない。

まして今夜は、これまで以上にしく整えられた髪をセットし、白に映える深青のドレスをまとっているのだ。

その食事風景を除けば、どこかの令嬢と言われても疑わないだろう。

「……ーい、聞いてっかー、ヒドゥン~?」

ハッと我に返り、ヒドゥンはルナをじっと見つめていたことに気づく。

「んだよー、そんな酒に弱かったか~?」

「お前よりはな」

弱いとは思っていないが、ルナの酒の強さは別格だ。

いまもワイングラスをカパカパと空けているが、白はまるで赤みを帯びず、きとおるようなしさを保っている。

「ははっ、さすが王宮のワインだよなー、レベルが違うわ♪」

言いながらクイッとグラスを傾け、瞬く間に飲み干してしまう。

そんな彼おしげに眺めていると、不意に、大きな影が二人を覆うように正面から広がった。

「――お初にお目にかかるな、ヒドゥン殿」

影の正は、それほどに大きな巨の主だ。

耳は尖り、褐には筋が隆起し、全から並々ならぬ覇気が溢れ、威圧するように押し寄せてくる。

聲に反応し、そちらを見上げたヒドゥンは、ひと目で誰かを察した。

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