《【書籍化】勝手に勇者パーティの暗部を擔っていたけど不要だと追放されたので、本當に不要だったのか見極めます》16 祝宴にて、その2

イメージ的には姫様拷問の魔王をもちょっと人っぽくしたような魔王。

「魔王――陛下、だな」

「ふはは、そのとおりだ。とりあえず、座ってもよいかな?」

首肯すると、小さな椅子を押しつぶさんばかりの圧で、彼は腰を下ろす。

「本來なら、ほかの者も連れてきたかったのだがな。殘念なことに、まだそなたをこころよく思っておらぬ者も多い。余、ひとりの挨拶で許されよ」

「當然のことだろ、気にしなくていい」

「そーそー、ヒドゥンってば容赦ねーからな~、いひひひ♪」

こちらは狙われたことを気にしていないが、それを返り討ちにされたということは、親しい顔見知りが亡くなるということだ。

起こり得る帰著だったとはいえ、心の整理がついていなくとも仕方がない。

「話のわかる男で助かる、お嬢さんもな」

「んまー、お花畑の連中とは違うわなぁ、そりゃ~」

酔ってないように見えて、実は顔に出ないだけで酔っているのだろうか。

魔王相手にいつもの調子を曬すルナに、水のグラスを押しつけておく。

「で――わざわざこんな末席にきて、なにか話でも?」

「話が早いというのも、ありがたいことだ」

テーブルに手を組み、魔王の巨がグッと乗りだしてきた。

「実はだな……魔王國で働く気はないかと、そなたに聲をかけにきたのだ」

「おほぉ~、スカウトかよ~? さっすがヒドゥン、モテモテ~♪」

やはり酔っているらしい。

バシバシと上機嫌で肩を叩いてくる彼は放っておき、ヒドゥンは答える。

「話はありがたいが、さっき言ってたことがあるだろ」

ヒドゥンをよく思わない連中はまだ多く、しかもそれが、和平調印に連れてくるような重鎮たちにもいるのだ。

わかりましたと答えたところで、安心して働ける環境とは思えない。

そんなヒドゥンの指摘に、魔王はニヤリと笑う。

「ふむ、まぁな! とはいえ、近い將來にそうはせぬかと、挨拶くらいはしておきたかったのよ……もちろんお嬢さんも、ともにきてくれればよい」

「へぇ~、オレもかよぉ~、太っ腹ぁ~♪」

妙にテンションの高いルナの反応、その理由に気づいて苦笑しつつ、ヒドゥンは小さく首を振った。

「魅力的な話だが、すぐには答えられない。もしかすると、もっとそっちの役に立てる方法が、あるかもしれないからな」

「ふむ……であれば、そちらにも期待しておこうか」

一応は納得したようにうなずき、魔王は席を立ち上がる。

勢が落ち著けば、いずれまた話そう……ではな!」

そうしてのっしのっしと大で歩き去る姿を見送り、ルナはふぅとため息をもらした。

「いやー、すげー迫力だったな~」

「そうだな。あのテンションじゃなけりゃ、気圧されてても仕方ない」

酔った演技というより、無理に気を張った結果が、あの反応ということだ。

「ま、恐してこまるよか、オレらしくてよかったろ?」

確かに、そのおかげでヒドゥン自も平靜でいられた、というのはある。

「んで――どーすんだ? オレはとーぜん、ヒドゥンについてくけど♪」

なにをと問い返すまでもない、スカウトの話だ。

「悪くない話だとは思う――が、その仕事はわざわざ、魔王國に抱えてもらってやることでもないだろ」

「あん? それってどういう――あ、なるほど♪」

頭の回転が速いルナの反応は、本當に助かる。

「支部を置くなりなんなりして、あっちでもギフティアとして、仕事をけりゃあいい――ってことだな?」

「そういうことだ。時期や人員の問題はあるが、なんなら支部の設立は俺たちがやってもいい」

組織の稼ぎは増えるし、あちらの問題を解決することは王國のためにもなるのだから、まさに一挙両得、三方得というところ。

「いいね~、魔王國支部♪ 新婚旅行ついでに、現場視察といくか~」

そんな気の早いことをのたまいながら、またもグラスを空にするルナ。

けれど――そのグラスを、新たなワインと換しようとしたところで、彼の目はピクリと揺れ、鋭く細められた。

その原因は、わざわざ確認するまでもない。

「――久しぶりだな」

「ああ……元気にしていたかい、ヒドゥン」

テーブルを挾んで向かい立つのは、旅先で別れた元仲間たちだった。

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