《【書籍化】勝手に勇者パーティの暗部を擔っていたけど不要だと追放されたので、本當に不要だったのか見極めます》18 ルナの激

これが書きたかった。

「ティアナは……王都に殘るなら、冒険者を続けるのか?」

「そのことなんだけど……私は、村に帰ろうかと思ってるわ」

その言葉は、ヒドゥンにとっては予想外だった。

「アシュラムは、それでいいのか?」

「……彼にも事があってね。僕には止められないさ」

それは、アシュラムとの関係が終わったということだろうか。

早い破局だとは思うが、よくよく考えればあれだけの事件のあとだ。

男の近くにいたくないと思うのは、當然だろう。

故郷に戻るというのも、そうした背景があってのことか。

(男にはわからないつらさもあるだろう……立ち直れるといいが)

アシュラムが止めないなら、自分が口だすことでもない。

ヒドゥンは帰郷の無事を祈り、グラスを掲げる。

「寂しくなるな……おじさんたちにも、よろしく伝えておいてくれ」

「あの……それで、なんだけど――」

なにやら逡巡していた様子だが、やがてティアナは、決意をめた目でヒドゥンを見つめた。

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「もしよかったら……ヒドゥンも、一緒に帰らない?」

「――あぁ?」

地の底よりも深くから響くような聲に、ヒドゥンは思わず戦慄する。

その聲の主、隣のルナを見やると、その表は完全に凍りついていた。

「てめぇ、この期におよんでなにぬかしてやがるっ……」

「あ、あなたには関係――」

「オレの婚約者だって言ってんだろうがっっ!」

大勢の喧噪の中で目立つことはなかったが、なくともこのテーブルにおいては、鋭く、大きく響くびだった。

「レイプされて勇者に振られて、仕方ないから元カレとヨリ戻そうってか? どんだけ軽ビッチなんだ、てめーはよぉ……恥を知りやがれ、なぁ?」

「おい、ルナ――」

ルナの怒りはわかる――だが、當人にとっては大きな傷だ。

案の定、ティアナは顔を蒼白にし、全を小さく震わせている。

「ヒ……ヒドゥンも、知っていたの……?」

「……彼のもとには、あらゆる報が集まるからな」

言外に肯定すると、彼は小さく、そう――とつぶやいた。

そんなティアナを庇うように、橫からアシュラムが口を挾む。

「以前も言ったけど、それは誤解だ。今回の件も、彼が自分を見つめ直すために、帰りたいと言ったわけで……振った振られた以前に、そんな関係じゃない」

その言葉に、し意気を取り戻したティアナも追従する。

「そ、そうよ……ヒドゥンがパーティから離れて、そのことで支えてもらいはしたけど……彼とは、なにもなかったわ……なにも……」

なにも――というのは、関係のことだけなのか。

まで出かかった言葉をヒドゥンは呑み込むが、ルナは容赦がない。

「ハッ、面の皮の厚さだけはさすがだぜ。オレのとこには、あらゆる報が集まってんだって、言わなかったか?」

言いながら彼は自らの口元を指し、を歪める。

アシュラムとの口づけを揶揄する仕草に、ティアナはサッと頬を赤くし、ルナを睨みつけた。

「それはっ……そっちこそ! こんな短期間で、婚約までしているなんてっ……もっと前から、そういう関係だったんじゃ――きゃっ!?」

恥と怒りに我を忘れ、思わず語気を荒らげた彼のローブに、真っ赤なアルコールの染みが広がる。

「てめぇ――てめぇみてーなクソビッチに、オレのなにがわかるっっ!」

とっさにヒドゥンが止めていなければ、間違いなくグラス自がぶつけられていただろう。

テーブルを越えて飛びかかろうとするルナを懸命に押さえつけるが、いまの彼は、こらえきれない激に支配されていた。

「てめーさえいなきゃ、とっくにオレのものだったんだっっ! どんだけ口説いても、っても、迫ってもっ……てめーがっ……ティアナがいるからって、オレが何回斷られたと思うっっ! その気持ちが、てめーにわかんのかよっっ!」

「ルナッ……」

さすがに周囲のテーブルには騒ぎが伝わっているようだが、ヒドゥンにもルナにも、それをどうにかする余裕はなかった。

もちろんティアナも、初めてける同からの激しい憤怒、嫉妬を前に、呆然とした様子で震えている。

「二度とふざけたことぬかすんじゃねぇっ! てめーがそうやって、オレのヒドゥンを軽んじるたびにっ……勢い余って、殺したくなるっっ……」

慟哭するようなびを終え、荒い息を吐く彼を、ヒドゥンはただひたすら、優しく抱きしめるしかなかった。

「ルナ、すまない……すまなかった……」

「っ……なんでっ……ヒドゥンが、謝んだよぉっ……こんな、クソのためにっ……」

「違う――俺はルナが大事なだけだ、ティアナは関係ない」

いまさらながらにヒドゥンは、自分の愚かさに気づいていた。

あれだけルナをおしく思いながら、なぜ彼の不安に気づけなかったのか。

なぜ自分は、なにも伝えてやれなかったのか――。

(馬鹿だ、俺は……お前がいないと、生きていけないくらいなのに……)

すがりつき、むせび泣く彼を懸命になだめながら、視線だけを四人に向ける。

「……席をはずしてもらえるか。いまは、ルナのことだけ考えたい」

その瞬間、わずかにルナのから力が抜けた、そんな気がした。

いたたまれなさもあったのだろうが、四人は黙って立ち上がり、テーブルを離れようとする――が。

「もし――」

ティアナがすがるような目で、かすれた聲を震わせる。

「もし……私が、あんな目に遭ってなかったら……私と――」

「それはない」

の言いたいことを察し、先んじて返す。

「お前に見放されたとき、俺の心はそこから消えた。その時點でとっくに、お前とは終わっていた……なにがあろうとなかろうと、関係なくな」

言いながらルナを抱きしめ、頭をかき抱く。

「殘ったものはすべて、ルナに捧げた。なにもなくなり、ボロボロになり、それでも虛勢だけで戻ってきた俺を、救ってくれた――ルナは、俺のすべてだ」

「っ……ぅっ……あぁっ、うぅぅっ……ヒドゥンッ……」

ルナが自分の名前を呼んでくれる、それだけでが熱くなった。

「ルナ……本當にすまなかった。言いたいことは、山ほどあるんだ……ゆっくりでいいから、聞いてほしい」

「んぅっ、ぐっ、うぅぅ……う、んっ……うぅっ……」

まずは泣きやんでもらおうと、震えるを抱きしめ、何度も頭をで、彼の嗚咽をけ止める。

見えない位置では、仲間たちの気配がゆっくりと遠のいていった。

その去り際――最後のひとりが、震える聲で言い殘す。

「……お幸せに」

それは――本來ならば得られたはずの、失われた幸せの大きさに気づいたに殘された、最後の矜持だったのかもしれない。

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