《【書籍化】勝手に勇者パーティの暗部を擔っていたけど不要だと追放されたので、本當に不要だったのか見極めます》19 プロポーズ

このくらい人を好きになりたい。

ルナが泣きやむのを待ち、真っ赤になった彼がもう大丈夫だというのを聞き屆けてから、二人は宴席を離れ、王宮の庭園を訪れていた。

「いやー、あれだ……わりぃ、我ながら取りしすぎた……」

ドレスが汚れるのもいとわず、芝の上に座り込んだルナは、地面をクルクルと指でなぞっている。

普段からおどけ、飄々とし、怒りをあらわにすることはあっても、もっぱら部下を叱責するときだけという彼だ。

激しいの発は、自をコントロールできていないという認識なのか、本気で自分を恥じているように思える。

それがヒドゥンにとって、どれほどうれしかったことか、彼は気づいていないのだろう。

否、ヒドゥンが伝えきれていなかったのだ。

「ルナ……聞いてほしいことがある」

「だ、だから~、ありゃほんとにオレが悪かったって――」

「違う」

芝をでていた彼の手を取り、引き寄せる。

ほのかな月影にさえ明るく照らしだされる白は、ほんのりと朱に染まり、瞳には星海のようなきらめきが浮かんでいた。

「やだ……いやだ、ヒドゥン……離れないでっ……」

「なにを言って――」

きらめいた星々が潤み、ポタリと冷たい雫が落ちる。

「ヒドゥンは……オレがいなくても、平気だろうけどっ……オレはもうっ、ヒドゥンがいなきゃ、だめなんだ……見捨てないで、ヒドゥン……」

涙をこぼし、表を歪めながらも、彼は懸命に笑おうとしていた。

ヒドゥンが頼ったときも、部屋で語らったときも、を重ねたときも、彼は同じように必死だった。

ヒドゥンを依存させてでも、自分の傍に縛りつけたかったのだろう。

それだけの想いに、ヒドゥンはただ、甘えていただけだ。

與えられるものをするだけで、なにも返せていなかった。

が本當にしい言葉を、一度でも口にしていたのか――。

順序を置いて説明しようとしていたが、それすら不要なのだとわかる。

「ルナ……俺も、している」

「――――――えっ」

見開かれた瞳からこぼれる涙を、指でやさしく拭い取る。

「俺に生きる力を與えて、俺の言葉を代弁してくれて、俺の居場所を……帰る場所を作ってくれて、本當にうれしかったんだ」

パーティを追いだされ、なにも思わなかったはずがない。

恨み、憎しみ、怒り、悲しみ――それらをなんとか呑み込んだところで、ヒドゥンに殘ったのは虛無だった。

その虛無を抱えたまま、惰で生きていくしかない――そんな風に思っていたヒドゥンの、その欠けた心を補ってくれたのはルナだ。

「自分でも蟲のいい話だと言ったが、斷られてもおかしくないと思っていた。それをれてくれて、俺がどれだけ救われたか……」

もっとはっきりと、早くに伝えるべきだった。

「ヒドゥン……」

「ルナがいてくれてよかった。何度でも言う……ルナは俺のすべてだ、誰よりもしている。俺だって、お前がいなければ耐えられない……傍を離れるなんて、あり得ない話だ」

拭っても拭っても、キリがないほどに彼の涙が溢れていた。

重なった手にこぼれるそれは、なによりも熱く心を濡らす。

「どうか、俺と結婚してくれ――一生、隣にいさせてほしい」

「っ……は、いっ……」

くしゃりと歪んだその笑顔は、ヒドゥンが見たどの笑顔よりもらしく、まばゆい輝きを放っていた。

「ありがとう、ヒドゥンッ……」

その日、二人はようやく――本當の意味で、結ばれたのかもしれない。

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