《【書籍化】勝手に勇者パーティの暗部を擔っていたけど不要だと追放されたので、本當に不要だったのか見極めます》20 なにも、知らなかった

ここは二番目くらいに書きたかった。

王都にて、世界一幸せだと自負する花嫁が誕生した、その日――。

花嫁の姿を見屆けることなく、遠く離れた山村に、彼は帰りついていた。

「おお……おかえり、ティアナ。よく帰ってきてくれたね」

「無事でよかったわ……さぁ、家におり」

「ただいま……お父さん、お母さん」

失意のまま、故郷に戻ったティアナを、両親は溫かく迎えてくれる。

使っていた部屋はきちんと掃除され、懐かしい家の裝とともに、ティアナのりきれた心を癒やしてくれた。

「ごめんなさい。長いこと連絡もしなかったのに、急に帰ってきたりして」

「いや、無事に帰ってきてくれた、それだけでなによりだ」

無事――と言えるかはわからないが、父の言葉にティアナは安堵する。

けれど、続く母の言葉には、困せざるを得なかった。

「こまめに屆いていた手紙が、この半年ほどは止まっていたようだからね……それはもう、私もお父さんも心配していたのよ」

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「え……手紙が、こまめに……それに、半年って――」

ティアナが両親に、毎月のように手紙を送っていたのは、王都についてから、おそらく一年間ほどのことだっただろう。

慣れない王都暮らしもあり、家のしさがそうさせていた。

けれど、その生活に慣れたことや、冒険者暮らしの多忙などを理由に、筆不になっていたことは否めない。

年に數度の連絡は、やがて一度になり、旅に出る前年くらいには、すでに手紙を送っていなかったように思う。

旅の道中など、言わずもがなだ。

(誰かが、私を騙って? でも、そんなことをする理由なんて――)

どう返していいかわからず窮していると、數年ぶりの親子の會話で、話題にできると思ったのか。

父親が、屆けられたという手紙を取りだしてくる。

「ほら、大事に殘してあるんだ。仕送りの件も、本當に助かったよ」

「し……仕送り?」

手紙だけでなく、資金まで送っていたというのは、ますますわからない。

本當に誰が――もしかして、王家が気遣ってくれたのだろうか。

「私たちもそうだけど、村の備えの足しにって、村長さんにも送ってくれていたのよね? みんな、謝しているわよ」

「そうだな。ティアナが帰ってきたと知れば、お禮にくるかもしれないな」

「そ、そんな……そんなことをされても、困るわ」

照れなくてもいいと両親は笑うが、覚えのない善行に謝をされても、心苦しいばかりか怖さをじるほどだ。

いったい誰がそんなことをしたのか――。

ティアナは過去の文面を確認するふりをし、覚えのない時期の手紙を開く。

そうして――椅子から崩れ落ちそうになるほどに、ショックをけた。

「こ、れ……この字は――」

「ああ――そのころは確か、ティアナがケガをしたという話だったな」

手紙にも間違いなく、そう書かれていた。

手をひどくケガしてしまい、ティアナはしばらく、筆を取れそうにないこと。

そして『自分』は、その代筆を頼まれた――と。

「まったく……ケガが治っても、そのほうが楽だからって任せるなんて。あなたはもっと、ヒドゥンに謝しないといけないわよ」

母が笑うように、その手紙の文字は――間違いなく、ヒドゥンの筆跡だ。

(ヒドゥン……ヒドゥンッ、ヒドゥンッッ! あ、あなたは……そんな――)

手紙の容からして、ティアナが手紙しか送っていなかったころから、それとタイミングを合わせ、村や実家に仕送りしていたらしい。

そしてそれは、ティアナが連絡を途絶えさせてからも同じ――。

彼は村のことを忘れず、けしてなくはない資金を、ティアナからだと手紙に添え、送っていたのだ。

追放を告げられ、ティアナと別れる直前まで、ずっと――。

(どうしてっ……どうして、そんなっ……なぜ言ってくれなかったの!)

糾弾するような思いが込み上げるが、そんなこと聞くまでもない。

彼がそんな、恩著せがましいことを、口にするわけがないのだから。

ヒドゥンには両親がおらず、村では農作業を手伝い、個人的に森や山で狩りをして生計を立てていた。

とはいえ、い子供がそれだけで生活できるわけもなく、ティアナの両親からの助けも、彼の自立の支援となったことだろう。

ティアナが人になったこともあり、その両親に恩を返すため、多額の援助を決めたことは言うまでもない。

そして、そのことで村の面々が、かになるティアナの実家に嫉妬することも、危懼していたのだろう。

村長を介して村に寄付を送ったのも、それが理由だ。

(ぁ――あぁっ、あぁぁぁぁ……ヒドゥンッ……)

自分のためにそこまでしてくれた彼に、自分はなにをした――。

その後悔の重みが、祝宴の席でじたそれ以上となってのしかかり、も心も罪悪りつぶされそうになる。

こらえきれるわけもなく、ティアナはボロボロと大粒の涙をこぼし、握りつぶした手紙で顔を覆った。

(ご、め……ごめん、なさいっ……ごめんなさいっ、ヒドゥンッ……)

「ど、どうしたんだ、ティアナッ!」

「なにが――まさか、ヒドゥンになにかあったのっ!?」

一緒に帰ってこなかったこともあってか、両親が相を変えて問い詰めるが、ティアナは否定するように首を振る。

「ち――違う、のっ……彼はっ……彼はっ、元気にっ……元気に、して……るっ……ぅっ……あぁっ、あぁぁぁっっ――」

號泣するティアナの言葉を、両親は信じてよいものかもわからず、ただ懸命に彼をなだめ、勵ますことしかできない。

そのめも耳に屆かず、ティアナは深い後悔に苛まれ、ひたすら悲嘆に暮れるほかなかった――。

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