《【書籍化】生贄になった俺が、なぜか邪神を滅ぼしてしまった件【コミカライズ】》アリシアの想い

「ふぅ……生き返るな」

両手でお湯を掬うと顔にかける。俺は現在、エルフが保有している溫泉というものに浸かっている。

溫泉の周りは巖で囲まれており、巖の間から流れ落ちる水音のみが辺りに響く。

周囲は高い木々に囲まれているお蔭か、特に誰の視線をきにすることなく俺は1人でくつろいでいた。

「それにしても不思議なものだ」

ほんの何日か前は邪神の前に立っていたのに今はこうしてエルフの村で世話になっている。

イルクーツ王國でアリシアと共に過ごしていた時には想像もつかなかった。

「アリシアは大丈夫だろうか?」

別れ際の彼の表を思い出す。

アリシアは優しいの子だ。自分の代わりに誰かが犠牲になるのをよしとしない。恐らく落ち込んでいるに違いない。

「何とか俺が無事だと知らせることができればな……」

それにはまず人族の村か街にたどり著かなければならないのだが……。

「とりあえずどうやってこの森を抜けるかだな」

俺は頭を悩ませるのだった。

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そこら中からは笑い聲が聞こえてきて、周囲にはの玉が浮かんでいる。

霊が生み出す量は優しく周囲を照らしており、そこに浮かぶエルフはとても幻想的に見えた。

俺はコップにった酒をちびちびと飲みながらその景を見ていた。

味しいな」

花から作られた酒は清涼が溢れていて飲みやすく、上品なの味が口いっぱいに広がる。

エルフ蔵の酒らしく、街ではこのような酒は飲んだことがない。

この一杯を呑めるだけでもここにいる価値はあったなと思っていると。

「エルト。今日の主役がなんで端っこにいるのよ」

そこにはセレナが立っていた。

先程の森で活する恰好とは違い、布地が薄い白のワンピースにサンダルと花飾り。溫泉にったのか頬はほてっており良い香りが漂ってくる。

手には俺と同様に酒を持っているようで上機嫌な様子だ。

「皆嬉しそうだなと思って見ていたんだよ」

俺が何となくセレナから視線を逸らしてそちらを見ると。

「それはそうよ。私達はこれまでブラッディオーガに酷い目にあわされてきたの。その心配がなくなったのだから浮かれもするわよ」

セレナはそう言うと俺の隣に腰かけた。じっと見つめているとふとセレナと目が合う。

「ねえ、あなたのこと教えてくれないかしら?」

「俺のこと?」

「よく考えたら私たちまだお互いの名前ぐらいしか知らないでしょう?」

ドタバタしていたからそれ以上の會話をする時間がなかったからな。

「それもそうだな。長い話になるけど構わないか?」

「ええもちろん。時間はたっぷりあるものね」

酒を呑んで気分も良かった俺はその後ずっとセレナと談笑をするのだった。

「エルト、どうして……」

暗闇の中、アリシアは呟いた。涙は枯れ果てておりもはや流れることもない。

生贄の儀式から數日が経過した。

最初は混していた儀式場だったが、邪神の元へと召喚される転移魔法陣にエルトが消えたことが伝わるとざわめきは収まった。

大半の人間はエルトの行を稱賛し、その自己犠牲にたいして涙を流した。

だが、誰もが心の底では考えていたに違いない。

『これでアリシアが犠牲にならずに済んだ』

――と。

「私、そんなの嬉しくない。エルトがいなくなるなんて……」

これまでエルトと過ごしてきた記憶がアリシアの脳裏に蘇る。それと同時に失われた喪失のようなものが押し寄せた。

「私が弱音を吐いたから、だからエルトは……」

儀式前夜を思い出す。アリシアはエルトを呼び出していた。

翌日になれば自分は邪神にこのを捧げなければならない。せめてその前に想いを打ち明けたいと。

だが、エルトの顔を見たアリシアはその想いを口にすることが出來なかった。

目の前の馴染みは生まれてからずっと一緒だった。ここで想いを打ち明けてしまえば彼の一生を縛ってしまうかもしれない。そう考えると言葉が出なくなったのだ。

代わりに口にしてしまったのは「死にたくない」という弱音だった。

國から生贄に選ばれ、気丈に振舞っていたがエルトの前では年相応のなのだ。本音がれてしまう。

エルトはアリシアの言葉を聞くとそっと背中をでた。

「あの時、私が泣かなければエルトは代わりになろうなんて考えなかったもしれない」

彼が吸い込まれた魔法陣を見る。

「いえ、きっと最初からこうするつもりだったのね。エルトは優しいから」

アリシアは微かに笑って見せる。そして魔法陣にれると…………。

「えっ!」

魔法陣が輝きを増した。

「これ、まだ繋がってるの? 噓……だってこのは生贄になった人間が死んだら消滅するはずなのに」

邪神の魔法陣は年に1度城の儀式場に現れる。そこを誰かが通らない限りは収まらず、生贄が死ぬとを失う。アリシアは事前にそう説明をけていた。

「もしかして、エルトは生きている?」

それは願にも近い言葉だ。なんらかの原因で魔法陣が誤作を起こしている可能もある。言い伝えが間違っていただけの可能もある。だが……。

魔法陣は輝くばかりで答えてはくれなかった。例えアリシアが乗っても魔法陣は起しない。1人の生贄を運ぶ機能しかないからだ。

「もし本當に生きているなら……」

アリシアの瞳にが燈る。それは先程までの絶に嘆いていたものではなく、決意を帯びた……。

「私はエルトに會いたい」

は願いを口にした。

「會って伝えなければいけないの。だって、この想いだけはずっと……」

アリシアはに手をやるとトクンと鼓が激しくなるのをじるのだった。

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