《【書籍化】生贄になった俺が、なぜか邪神を滅ぼしてしまった件【コミカライズ】》打ち上げ

「新たな冒険者仲間の初依頼達にカンパーイ」

「「「「カンパーイ」」」」

ラッセルさんの音頭に全員が盃をぶつける。

テーブルの上にはこれでもかというぐらいに豪華な料理が並んでいて、俺たちの今日の稼ぎでは完全に赤字だろう。

「今日は俺の奢りだ。エルトもセレナの嬢ちゃんも遠慮なく食え!」

「でもそんな、悪いですよ。無償で指導をしてもらった上に飯まで奢ってもらうなんて」

「そうよ。せめて割り勘にしないと……」

ラッセルさんたちは俺たちの依頼を見屆けていただけなので今日の稼ぎがない。

本來なら仕事を教わった俺たちが金を出してしかるべきなのだが……。

「気にすんなよ。俺たちも初心者に教えることで得るものはある」

「せめて今日の稼ぎの分ぐらい出させてください」

俺がそう言うとラッセルさんは酒をあおると。

「プハッー! 新人から金なんて取れるかよ」

「で、でも……」

「そうだな。その金はお前が一人前になって新人冒険者を指導するときにとっとけ。俺も昔先輩にそうやって奢ってもらったんだからな」

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どうやらラッセルさんも昔、偉大な先輩に冒険者としてやっていくためのコツを教わったらしい。

「わかりました。この金はその時までとっておきます」

こうして代々冒険者たちは新人の育を行っているのだろう。俺は段々とこの街の冒険者の人たちが好きになってきた。

料理を食べ酒を飲みながらもラッセルさんたちの指導は続く。

自分たちがこれまでの冒険でどのような失敗をしてきたのか語ってくれたのだ。

酔っぱらっていることもあってか、面白おかしく話して見せるのだが、実際に危険を伴ったり冒険者を続けられない程の怪我をした人間もいるらしい。

「冒険を続けられなくなった冒険者はどうするんですか?」

俺がそんな疑問を口にすると……。

「大抵は故郷の村や街に帰ってそこで警備をしたり、この街に留まって結婚して新しい仕事を見つけた奴もいるな。いずれにせよ冒険者なんて長く続けねえほうが良いんだよ」

冒険者はリスクのある仕事だ。街中と違って外には兇暴なモンスターもいるし、ダンジョンには兇悪なトラップがある。

死と隣り合わせのこの仕事は長く続ければ続けるほど死ぬ可能が高くなる。

「ラッセルさんは冒険者になったことを後悔したことはあるんですか?」

「俺は不用な人間だからな。顔も怖いし、笑って見せると子供が大泣きするんだ」

「そうそう、村や街での依頼だとラッセルを代表にすると村人が怯えるんだよな」

「やかましいっ!」

そういって茶化してくる仲間を笑顔で一喝する。彼らの間には長年過ごしてきた信頼関係があるのだろう。

「だから働くとなった時に選択肢は冒険者ぐらいしか思いつかなかった。正直なところ、他の仕事をやってみたいと思ったこともあるが……後悔はしてねえな」

「どうしてですか?」

「それはなエルト」

ラッセルさんはコップを見つめるとふと優しい表を浮かべた。

「冒険者になったおかげでこうして最高の仲間と巡り合うことができたからさ」

その場にしんみりとした雰囲気が流れる。誰もがラッセルさんの言葉に聞きっては嬉しそうな顔をしているのだった。

「良いパーティーだったわね」

宿に帰るとセレナが薄著になりベッドへと腰掛ける。先程のラッセルさんたちの姿を思い浮かべているのだろう。

「ああ、俺たちはついているな。冒険者になりたてであんな素晴らしい人たちに指導してもらえるなんて」

最初は俺たちを利用するつもりかと疑っていたが、思っていた以上に人の良い人たちだった。

「ねぇエルト」

「ん?」

「エルトの目的は故郷に帰ること。そのために冒険者の資格が必要だっただけなのよね?」

「……そうだな」

國外を出るための分証がしかったから俺たちは冒険者になったのだ。

冷めた考えだと思う。とてもではないがラッセルさんたちの時間を使ってまで指導してもらうような立場ではない。

「エルトは故郷に戻ったらどうするの?」

ベッドに橫たわったセレナは覗き込むように俺と目を合わせてくる。

「特に……考えてはいない」

元々は店で下働きをしていた程度だ。今更生きて戻ったところで代わりの人間が勤めていることだろう。俺は戻ることばかり考えていて、戻ってからどうするかについては何一つ考えていなかったことに気付かされる。

「だ、だったらさ……私と……しない?」

「うん? 今何て?」

途中から小聲だったのでよく聞き取れなかった。セレナは顔を赤くしている。

「だからっ! もしエルトがその気なら故郷に戻ってからも私と一緒に冒険者をしないかって聞いてるのっ!」

そのいに俺ははっとすると……。

「それも……悪くないかもしれないな」

セレナと一緒に冒険者を続ける。その傍らにはマリーがいて、皆で笑いあっている。そんな未來を想像した。

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