《【書籍化】男不信の元令嬢は、好殿下を助けることにした。(本編完結・番外編更新中)》01.プロローグ:王子は空気が読めません
本日1話目です。
「クレア・ラディシュ! 貴様のような魔法一つ満足に使えないような無能は、王子たる私の婚約者として相応しくない! 今日この時をもって、婚約を破棄する!!」
花やリボンでしく飾り付けられた、天井の高い白壁の會場に、突然響き渡る場違いな怒聲。
ドレスや禮服姿の生徒達が、ビクリとして聲の方向に目をやると、會場中央に三人の人が立っていた。
薄いピンクの禮服を著て仁王立ちしているのは、金髪緑眼、いかにもにモテそうな甘いマスクの、この國の第二王子オリバー。
「オリバーさまぁ。そんな風に言ったらクレア様が可哀そうですぅ」
その王子に腕を絡めているのは、金のひらひらドレスに、ピンクのふわふわ髪。
オリバーと只ならぬ仲と噂の、キャロル・マグライア男爵令嬢。
「……」
そして、扇を口元に當てて、青い瞳で正面に並ぶ2人を冷たく見據えているのが、クレア・ラディシュ辺境伯令嬢。
黒紺の飾り気のないドレスに、銀髪をきっちりまとめ髪にした、オリバー王子の婚約者だ。
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會場にいる生徒達は、眉をひそめた。
今日は、王立學園の伝統行事、『卒業生謝恩パーティ』。
在校生を中心に企畫開催され、準備期間は約六カ月。
招待狀の作や、料理や記念品の手配、當日の講堂の飾りつけまで、全て在校生の手で行われる、心のこもった手作りパーティだ。
例年であれば
「先輩、お世話になりました」
「いやいや、こちらこそ、こんな素敵なパーティに招いてくれてありがとう」
「今年の會場の飾りつけは実に素晴らしい」
「このお料理も本當に味しいわ」
など、和気あいあいと食事と會話を楽しむ場になるのだが、今年は開始早々の怒號。
しかも、怒鳴っている容が、どう聞いても個室で話すべき容。
場を弁えない王子のおで、在校生の半年間の努力が水の泡。
生徒達の王子を見る目はとても冷たい。
そんな生徒たちの様子など意にも介さず、クレアが如何に王妃に相応しくないかを、得々と並べ立てるオリバー。
魔力だけ高くて魔法が使えず無能な上に、婚約者の権力を笠に著てキャロル男爵令嬢をいじめた、等々、一方的にクレアを罵倒する。
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三人からし離れたところに立っていた令嬢が、扇で口元を隠しながら他の令嬢に囁いた。
「オリバー様は一何をおっしゃっているのかしら。無能だなんて的外れもいいところですわ」
「ええ、私もそう思いますわ。ご覧になって。クレア様のあの落ち著いた様子」
「この狀況であの落ち著き。さすがですわ」
同じような呟きが會場のあちこちで起こる。
さすがはクレア様、こんな時でも落ち著いていらっしゃるなんて、と。
しかし、當のクレアは、
(またやらかしてくれましたわねー! このお馬鹿王子ー!)
と、心の中で大絶。
全く落ち著いていなかった。
一歳下のオリバー王子が、王立學園に學して以來。
クレアは、常に彼の拭いに追われていた。
學式では、下級貴族を無視して問題になり。
武大會では、王族の権力を使って八百長しようとして問題になり。
文化祭では、國王の名前を使って強引な客引きをして問題になり。
それはまあ、々とやらかしてくれた。
それに対し、相手を宥めすかしたり、金貨を積んだり、時には権力を持ち出したりと、あらゆる手段でその拭いをしてきたのは、婚約者であるクレアだ。
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今回の騒ぎも當然もみ消さなければならないのだが…。
(こんなの無理―!)
有能なクレアをもってしても、事態は今までの比ではないほど絶的だった。
まず、容が最悪。
政治的利用価値のない男爵令嬢にほれ込んで、公衆の面前で辺境伯令嬢(公爵と同列)との婚約を破棄するなど、自分が馬鹿だと大聲で証明しているようなものだ。
しかも、目撃者が多過ぎる。
今日のパーティの出席者は、生徒全員。
無かったことにするなど不可能だ。
(そもそも、何故こんなことになってるんですの?!)
側近の男は何をしているのか、と、周囲を見回すクレア。
そして、側近達が、オリバーと一緒になって、まるで親の仇でも見るような目で自分を睨みつけているのを発見。
「なんなのよー!」と、髪のを掻きむしりたくなった。
(ちょっと! 何をしてるのよっ! あなた達まで馬鹿になってどうするのよ!)
(早くどうにかしないと、謝恩パーティが臺無しになってしまうわ)
(なにより、王妃様に叱られる!)
扇で口元を隠しながら、何とか誤魔化す手はないかと、必死に頭を働かせるクレア。
彼が目を伏せて黙り込むのを見て、王子が止めとばかりんだ。
「母上も、貴様は私の婚約者に相応しくないと言っている! なにせお前は魔力ばかりで魔法がほとんど使えないのだからな!」
その聞き捨てならない言葉に、クレアは目を上げた。
「…それは、本當ですか? 王妃様が確かにそうおっしゃられたのですか?」
「そうだ! 加えて、魔法が使えないくせに、王族の婚約者の席にしがみついてみっともない、とも言っていた!」
「…本當の本當ですか?」
「しつこいぞ! 當たり前だ!」
勝ち誇ったようにぶオリバー。
青い目でジッと見據えるクレア。
そして、王子の瞳に噓がないことを認めると、彼は小さく溜息をついた。
(なるほど。妙に強気だと思ったら、王妃様が賛同していらっしゃったのね。であれば、婚約破棄は決定事項。私はもう用済みということなのでしょうね)
王妃が公衆の面前で婚約破棄しろと言ったかは怪しいが、婚約解消は間違いないのだろうと思うクレア。
謝恩パーティを臺無しにしないためにも、ここは「分かりました」くらい言って、場を丸く収めるべきなのかもしれない。
(……でも、このまま婚約破棄をけれてしまっては、『魔法が使えないクセに婚約者の椅子にしがみついたとんでもない強令嬢』との噂が流れて、お父様(ラディシュ家)に迷がかかるでしょうね)
(ここはきちんと間違いを正すべきだわ。容がちょっとアレだけど、最後だし、もうかまうものですか)
クレアは、ちょっと、というか、大分怒っていた。
彼は、扇をパタンと閉じると、オリバーに向かって三本の指を突き出した。
「――オリバー様。これが何だかお分かりになりますか?」
「突然なんだ! 指が三本、だろう? それがどうした」
ムッとしながら答える王子。
クレアは、頷いた。
「はい。おっしゃる通り、三(さん)。これは、今までラディツ辺境伯家から王家に対して正式に婚約解消を申しれた回數ですわ」
「…は?」
ポカンと口を開けるオリバー。
(その間抜け顔、王族らしくありませんわよ)と、思いながら、目を細めるクレア。
指を一本ずつ折りながら、大きな聲でゆっくりと話し始めた。
「一回目は、二年前。私が十五歳の年ですわ。魔法が上手く使えない私には王族の伴は務まらないと、婚約解消を申し出ました。その時は、『十六歳で魔法が使え始めた例もあるから、もう一年様子を見たい』と返答がありました。
二回目は、その一年後。私が十六歳を過ぎても魔法が上手く使えるようにならなかったため、再度申し出た形ですわ。その時も、『もうし様子が見たい』との回答で、婚約解消には至りませんでした」
クレアの衝撃の告白に、目を見開くオリバー。
周囲の生徒もざわめきだした。
「聞いた話と全然違うわ」、「婚約者の椅子にしがみついてなんかいないじゃないか」という聲が聞こえてくる。
クレアは軽く息を吐くと、オリバーを見據えていった。
「そして、三回目は三カ月ほど前ですわ。魔法が使えないことに加え、オリバー様に想い人が出來たようだから、婚約を解消させてしい、と、申しれました」
「う、噓を言うなっ!」
真っ赤になって怒鳴るオリバー。
クレアはのこもらない目でオリバーを見た。
「本當ですわ。何なら、記録院をお調べ下さい。王家と辺境伯家の公文書でのやり取りですので、全て記録として殘っております」
「…っ」
口をパクパクさせるオリバー。
クレアはオリバーを見據えながら言った。
「そして、三カ月前の婚約解消の申し出に、王家からは、『魔法が使えないことについては不問とする。キャロル男爵令嬢については、側妃候補の一人に過ぎない』と、回答がありました」
クレアは、片手で扇を開くと、口元を隠しながら、目を伏せた。
「辺境伯家はそれを信じました。私もそれを信じて、この一か月というもの、『來年の生徒會の仕事を全て終わらせろ』というオリバー様の命令に従うべく、寢る間を惜しんで仕事をしてまいりました。そして、ようやく仕事が終わって、會場に來てみれば、用済みとばかりに、婚約破棄。…隨分な扱いですわね」
なんて酷い話だ、と、ざわめく生徒達。
「お、おい!」
ようやく周囲の批判的な反応に気が付き、慌ててクレアを制止しようとするオリバー。
そんなオリバーを無視して、クレアはキャロルを冷たく見た。
「私には、護衛という名の監視が四六時中ついていますわ。人にぶつかっただけでも王家と辺境伯に報告がいくほど厳しい監視の目をすり抜けて、どうやってあなたの私を壊したり、いじめたりできるのかしらね」
真っ白になるキャロル。
クレアは周囲の反応を窺った。
ほとんどの生徒が、オリバーとキャロルに非難の目を、クレアに同の目を向けている。
(これで、なくとも家族に悪評が及ぶことはないわね)
クレアは、パチンと扇を畳むと、オリバーに丁寧なカーテシーをした。
「婚約破棄、承りました」
そして、會場の生徒たちの方を向くと、深々と頭を下げた。
「私は報告がありますので、一足先に辺境伯領に帰らせて頂きますわ。今日は本當に申し訳ありませんでした」
深い同のを浮かべて頷く生徒達。
そして、クレアが踵を返して會場を出ていこうとした、その時。
「ま、待て! 誰か! クレアを取り押さえろ」
後ろから焦ったようなオリバーの聲。
側近の一人である第二騎士団長の息子ダニエルが、荒っぽくクレアの腕を摑んだ。
そのに、心の底から強い嫌悪を覚えたクレアは、大聲でんだ。
「嫌っ! 離してっ!」
その暴極まりない仕打ちに、生徒たちから強い非難の聲が上がる。
一瞬怯むダニエル。
その隙に、力まかせに振り切ろうとするクレア。
「暴れるな!」
慌てて、更に強く取り押さえようとするダニエル。
――と、次の瞬間。
クレアは、ぶわっ、という未知の覚をじた。
の中からじたこともないような膨大な魔力があふれ出る。
「…っ!」
突然、目の前が真っ暗になり、ダニエルに押さえられたまま、膝を突くクレア。
そして、
キャー!
という、誰かの悲鳴を聞きながら。
彼は気を失った。
本日中に、2話目、3話目を投稿します。
じょっぱれアオモリの星 ~「何喋ってらんだがわがんねぇんだよ!」どギルドをぼんだされだ青森出身の魔導士、通訳兼相棒の新米回復術士と一緒ずてツートな無詠唱魔術で最強ば目指す~【角川S文庫より書籍化】
【2022年6月1日 本作が角川スニーカー文庫様より冬頃発売決定です!!】 「オーリン・ジョナゴールド君。悪いんだけど、今日づけでギルドを辭めてほしいの」 「わ――わのどごばまねんだすか!?」 巨大冒険者ギルド『イーストウィンド』の新米お茶汲み冒険者レジーナ・マイルズは、先輩であった中堅魔導士オーリン・ジョナゴールドがクビを言い渡される現場に遭遇する。 原因はオーリンの酷い訛り――何年経っても取れない訛り言葉では他の冒険者と意思疎通が取れず、パーティを危険に曬しかねないとのギルドマスター判斷だった。追放されることとなったオーリンは絶望し、意気消沈してイーストウィンドを出ていく。だがこの突然の追放劇の裏には、美貌のギルドマスター・マティルダの、なにか深い目論見があるようだった。 その後、ギルマス直々にオーリンへの隨行を命じられたレジーナは、クズスキルと言われていた【通訳】のスキルで、王都で唯一オーリンと意思疎通のできる人間となる。追放されたことを恨みに思い、腐って捨て鉢になるオーリンを必死になだめて勵ましているうちに、レジーナたちは同じイーストウィンドに所屬する評判の悪いS級冒険者・ヴァロンに絡まれてしまう。 小競り合いから激昂したヴァロンがレジーナを毆りつけようとした、その瞬間。 「【拒絶(マネ)】――」 オーリンの魔法が発動し、S級冒険者であるヴァロンを圧倒し始める。それは凄まじい研鑽を積んだ大魔導士でなければ扱うことの出來ない絶技・無詠唱魔法だった。何が起こっているの? この人は一體――!? 驚いているレジーナの前で、オーリンの非常識的かつ超人的な魔法が次々と炸裂し始めて――。 「アオモリの星コさなる」と心に決めて仮想世界アオモリから都會に出てきた、ズーズー弁丸出しで何言ってるかわからない田舎者青年魔導士と、クズスキル【通訳】で彼のパートナー兼通訳を務める都會系新米回復術士の、ギルドを追い出されてから始まるノレソレ痛快なみちのく冒険ファンタジー。
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