《【書籍化】男不信の元令嬢は、好殿下を助けることにした。(本編完結・番外編更新中)》06.魔仲間とけもみみメイド

本日1話目です。

王都から離れて約二か月。

クレアは穏やかで充実した日々を過ごしていた。

勤勉で真面目な彼は、熱心に勉強。

製薬も魔法もめきめきと上達し、ラームに様々な仕事を任せてもらえるようになった。

――が。

「あ! あー!!!」

ガラガラガラガラッ

殘念ながら、片付けだけは上手くならなかった。

の部屋で、崩れ落ちたガラクタに埋もれるクレア。

何事かと階段を上がってきたラームが、呆れた顔をした。

「あんた、製薬や魔はあんなに上手いのに、なんで片付けだけは、こんなに壊滅的なのかねえ。呪いでもかかっているんじゃないかね」

「そんな呪いあるんですか?」

「あるさ。の機能を活化させたり停止させたりするのは、闇魔法の得意分野だからね。魔力量の多い大人を呪うのは難しいが、や子供くらいなら簡単だ。――まあ、あんたのそれは呪いじゃないと思うけどね」

しょんぼりと下を向くクレア。

その辺に置いておけば勝手にメイドが片付けてくれる環境にいた彼には、そもそも片付けという概念も勘もなかった。

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まずは、箒(ほうき)の持ち方の練習から始めたものの、なぜか上手くならず。

部屋の中は、どこから沸いたか分からないガラクタや本でいっぱいだ。

ラームが、仕方ないね、と、溜息をついた。

「とりあえず、片付けは後にして、先に薬草の収穫をしてきておくれ」

「…はい」

落ち込みながら玄関に向かうクレア。

部屋の片付け一つできなくて、一人で生きていけるのだろうか、と、不安になりながら、カゴを持って外に出る。

そして、畑にしゃがみ込んで薬草の収穫を始めようとした、――その時。

「あらあ。可らしいお嬢さんね」

後ろから突然聲を掛けられた。

「えっ!」

驚きのあまり、飛び上がって聲の方向を振り返るクレア。

そこには、スラリとしたが立っていた。

艶のある茶の髪に、緑の瞳の、20代半ばくらいであろう、たおやかな人。

は、申し訳なさそうな表で、「ごめんなさいね、驚かせちゃって」と、詫びると、にっこり笑った。

「私はジュレミ。魔よ。今日は薬を取りに來たの。そして、こっちが弟子のノアよ」

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ジュレミの後ろから、ひょこっと黒髪おかっぱの小さなの子が顔を覗かせる。

「…っ」

クレアは息を飲んだ。

その子の頭に、黒い貓のような耳が付いていたからだ。

ジュレミが微笑んだ。

「ああ。この子は貓の獣人なの。この國では獣人は珍しいものね」

「はい。初めてお會いしました。…なんていうか、その、すごく可いですわ!」

「ふふ。可いし、よく働くし、自慢の弟子なのよ」

褒められて嬉しいのか、ぴくぴくく頭の上の黒い耳。

クレアは心の中で悶えた。

(なんてことなの! 可過ぎるわ!)

黒くて大きな貓のような瞳も可いし、後ろでぴょこぴょこいている黒くて長い尾も可い。

黒いワンピースと白いエプロンも、これ以上ないほど似合っているし、白いハイソックスなんて暴力的だ。

思わず飛びついてでたいのを堪えるクレア。

二人を家に案すると、ラームが玄関まで出てきた。

「隨分振りだね、ジュレミ。おで薬が溜まっちまったよ」

「ごめんなさいね。魔道の設置に意外と手間取っちゃって。でも、もうしばらくは大丈夫よ」

仲が良さそうにしゃべり始める二人。

「詳しい話は後で聞くとして、先にやることをやってしまおうかね」

「そうね。じゃあ、薬を見せて頂戴」

作業部屋に移する四人。

ジュレミは、箱に詰められた薬を何本かチェックすると、満足そうに頷いた。

「良い出來ね。思った以上に大量だけど、クレアちゃんも作ったの?」

「半分くらい作ってくれたよ。あんまり熱心に作るから、途中で止めたくらいさ」

「それは心強いわね。闇屬の魔が作る薬は大人気だから、置いてもすぐなくなっちゃうのよ。――じゃあ、ノア、數えて運んでくれる?」

こくりと頷くノア。

ラームがクレアを見た。

「ノアを手伝ってやっておくれ」

「はい!」

ノアとお近づきになれるわ! と、弾んだ聲で返事をするクレア。

師匠二人が出て行った後、クレアとノアは作業を開始した。

ノアは、箱を指さしながら尋ねた。

「この箱、なに?」

「ええっと、上級の外傷薬ね。こっちの箱が、中級外傷薬。一応ビンの裏にラベルをってあるわ」

「ふむふむ」

エプロンのポケットから取り出したメモ帳に、熱心に何かを書き込んでいくノア。

しっぽと耳がぴょこぴょことく様子に、クレアは昇天寸前だ。

(キャー! もう! なんて可いの!)

そんなクレアの面をよそに、熱心にメモ帳に書き込みをしていくノア。

そして、ビンの數を數え終わると。

ノアはメモ用紙を1枚ビリっと破いて、クレアに差し出した。

「これ」

その紙を見たクレアは、嘆の聲を上げた。

「まあ、とても分かりやすいわ!」

それは、幾帳面な字で書かれた薬の種類と數、取引金額だった。

字が綺麗なのね、と、褒めるクレア。

ノアの耳がぴこぴこといた。

「…ん。師匠に習って勉強した」

耳と一緒にしっぽが、ゆらゆらと揺れる。

本人はあまり表を変えないが、しっぽと耳の表現はとてもかだ。

いつか絶対にモフモフさせてもらうわ!、と、心に決めながら、クレアはしかがむと、ノアに視線を合わせた。

「私、これからしばらくここでお世話になる予定なの。よろしくね」

にっこりと笑いかけると、ノアはしっぽをパタパタしながら頷いた。

「ん。よろしく」

ノアが持ってきた臺車に、薬の詰まった箱を積んだ後。

家に戻ると、居間でジュレミとラームが向かい合ってお茶を飲んでいた。

クレアに向かって、ちょいちょい、と、笑顔で手招きをするジュレミ。

クレアが勧められるまま椅子に座ると、ジュレミが尋ねた。

「お疲れ様。ノアはどうだった?」

「すっごく可いです! しかも字も綺麗で働き者で、力も強くて。とにかく、すごく可いです!」

のあまり、ノアが如何に可くて優秀かを力説するクレア。

そうでしょう、そうでしょう、と、ジュレミは嬉しそうに微笑んだ。

「飲み込みも早いし、教えれば何でも出來るから、お店周りのことはほとんどノアに任せているの。

仲良くしてもらえると嬉しいわ」

「お店?」

首を傾げるクレア。

の薬が売っている店など聞いたことがない。

クレアの疑問を察したのか、ラームが口を開いた。

「ジュレミの店は、隣の國にあるのさ。まあ、知る人ぞ知る、だから、そこまで有名でもないがね」

「來るのは、有名な冒険者か、ギルド関係者か、國のお偉いさんってとこね」

ラームによると、ジュレミは、「魔であることを隠さずに街で暮らしている」、珍しいタイプの魔らしい。

「私の専門が魔道制作なのよ。魔が契約に使う、『契約玉』(※1)も、今は私が作っているわ」

「もしかして、この森に設置されている『転移魔法陣』も、ジュレミさんが作ったんですか?」

「そうよ。よく出來てるでしょ。実は、うちの店ともつながってるのよ」

ジュレミ曰く、この魔道のおで、隣國で店を開く許可が取れたらしい。

しかも、ジュレミに何かあってはいけないと、店をかに騎士が守ってくれているらしい。

「だから、安心してノアに店番を任せられるってわけ」

と、ジュレミ。

そして、クレアを見て目を細めた。

「ふふ。貴族のお嬢さんって聞いたから、どんな子かと思っていたけど、気取らない良い子じゃない」

にこにこ笑うジュレミに、何となく恥ずかしくなって顔を伏せるクレア。

ラームが溜息をついた。

「まだまだ若いんだから、細かいことは置いといて、街に遊びに行けばいいのに、ずっと籠って勉強ばかりしているんだよ。私がこのくらいの年には、ボーイフレンドの二人や三人はいたもんだけどね」

「あら、そういう人いないの?」

そう言われて、クレアの頭に浮かぶのは、助けてくれたジルベルト。

しかし、彼はすぐに、ぶんぶん、と、頭を振って、それを打ち消した。

(あんな風に助けられて気になっているだけ。さすがにありえないわ)

(……それに、私。しばらく男のことを信じられる気がしないのよね)

婚約者のオリバーの仕打ちは、クレアの心を深く傷つけた。

日向なく盡くしてきたクレアより、あんなぽっと出の男爵令嬢を信じた挙句、大勢の前で婚約破棄をするという愚行。

彼の側近も同じで、在學中にあれだけクレアが手助けしてやったにも関わらず、平気でクレアを裏切り、オリバーの愚行を止めようともしなかった。

騎士団長の息子ダニエルに至っては、跡が付くほど強く腕を摑んでくる始末。

助けてくれようという素振りを見せたのは、生徒だけ。

これで男不信にならない方がおかしい。

複雑な表を浮かべるクレアを見て、ジュレミが、ふうむ、という顔をした。

「何だか訳アリっぽいわね。でも、大丈夫よ。クレアちゃんはまだまだ若いんだから、幾らでもやり直せるわ」

私も若い頃は々あったわ、と、遠い目をするジュレミ。

クレアは首を傾げた。

(ジュレミさんも十分若い気がするけど、もしかして、見かけよりも上なのかしら)

ラームが溜息をついた。

「一応教えとくけど、ジュレミはあんたの三倍は生きてるからね」

えええええ!

令嬢らしからぬ聲が、森の奧に響き渡った。

クレアに、「かわいい貓耳」と「やたら若く見える先輩魔」という仲間ができた!

(※1)契約玉

が契約するとき使う、映像が録畫できる玉。

扱いは契約書と同様。

契約容を録畫し、契約者全員が一つずつ手元で保管する。

説明する場所がなかったため、補足として書かせて頂きました。

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