《【書籍化】男不信の元令嬢は、好殿下を助けることにした。(本編完結・番外編更新中)》07.暗殺計畫
本日2話目です。
クレアが魔の森に來て、七ヶ月。
夏が去り、乾いたき通った風が吹く、初秋の午後。
カツ、カツ、カツ
ノアが爪で玄関のドアを叩く獨特な音に、クレアは數時間ぶりに顔を上げた。
「あら、ジュレミとノアね。もうそんな時間?」
どうやら作業に集中し過ぎていたらしい。
慌てて作業場を出るクレア。
急いで玄関のドアを開けると、そこには笑顔のジュレミと、エプロン姿のノアが立っていた。
「こんにちは。クレア。ちょっと早いけど大丈夫かしら」
「大丈夫です。どうぞってください」
家の中にるジュレミ。
その笑顔が一気に引きつった。
「…あ、相変わらず、なんていうか、すごい狀態ね」
「ん。汚い。三カ月前と同じ家とは思えない」
玄関の橫には箱と本が地層のように積み重ねられ、その上に無造作にカゴが置いてある。
玄関以外も同じような狀況で、人が住んでいるとは思えない、まるで置のような狀態だ。
二人の指摘に、クレアは気まずく目をそらした。
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「…汚くはないです。ちゃんとゴミは燃やしています」
「そういう問題じゃないと思うんだけど…。まあ、いいわ。お土産に茶葉を持ってきたんだけど、お茶をするスペースはあるのかしら」
「あ、居間はまだ大丈夫です!」
クレアがを張ると、ジュレミは、はあ、と、溜息をついた。
「とりあえず、私は居間に行っておくから、先にノアに薬を渡してくれるかしら」
はい、と、返事をして、作業場に向かうノアとクレア。
クレアはノアに1枚の紙を手渡した。
「はい。これが薬の種類と數量よ。確認して」
ノアが耳をぴくぴくさせた。
「ん。助かる」
紙を片手に箱の中の薬瓶を數えていくノア。
そのゆらゆらと揺れる黒いしっぽをながめながら、箱を次々と並べていくクレア。
一通り數え終わると、ノアが頷いた。
「ん。ばっちり。何の問題もない。でも、どうして製薬とかは得意なのに、整理整頓がダメなのかが分からない」
ばつが悪そうに眼をそらすクレア。
彼本人もなぜ片付かないのかさっぱり分からないのだ。
置から収納に使える箱を持ち出して來ては、床に落ちているものを詰めるのだが、いつの間にか溢れ出てしまうのだ。
「と、とりあえず、運んじゃおうよ?」
誤魔化すように薬の箱を持ち上げるクレア。
ノアと一緒に、次々と臺車に箱を積んでいく。
そして、他の部屋よりやや片付いている居間に移すると、ジュレミが、積まれていた本の1冊を読みながら待っていた。
「お疲れ様。どうだった? ノア」
「ん。前回と同じ量あった」
「あら、そんなにいっぱいあったの。クレアちゃん、無理してない?」
「大丈夫です。――あ、お茶淹れてきますね」
ジュレミから茶葉をけ取って、臺所に向かうクレア。
竈からガラクタをどけて、古い真鍮の鍋でお湯を沸かしながら、彼は溜息をついた。
(はあ。師匠がこの狀況を見たらびっくりするだろうな)
三カ月前。ラームは旅に出た。
どうしても必要な薬草が遠く離れた國にあるらしい。
「教えられることは全て教えたから大丈夫だと思うけど、魔の本を殘していくから、適當に読みな」
留守番とジュレミの店向けの製薬を頼まれたクレアは、とても張り切った。
彼は一人で生きていくつもりだったから、良い予行練習になると思ったからだ。
いざ一人で暮らせば、整理整頓くらい出來るようになるだろう、と。
しかし、事はそう上手くはいかなかった。
結局、二人暮らしで出來ないものは、一人暮らししたところで出來るはずもなく。
日を追うごとに荒れていく家。
料理も下手だったことから、クレアは、「散らかった部屋で、生野菜ばかりを食べる生活」を送ることになってしまった。
(師匠が見たら卒倒しそうだわ)
苦笑いしながら、沸いたお湯で淹れたお茶を居間に運ぶクレア。
テーブルの上に、ティーカップとトマトのったカゴを置くと、ジュレミが引きつった笑みを浮かべた。
「…まさかとは思うけど、このトマトって、お茶菓子的なじかしら?」
「はい。一応。何もないのは寂しいかなと思って」
ジュレミが深いため息をついた。
「ラームが、『ちょくちょく様子を見に行ってやってくれ』って言っていた理由がよく分かるわ。ついでに干しも持ってきたから、たまにはも食べなさい」
「…すみません。お手數おかけしてしまって」
恥ずかしくなって俯くクレア。
ジュレミが微笑んだ。
「いいのよ。得意不得意はそれぞれだもの」
その後、互いの近況を報告し合う二人。
ジュレミが思い出したように言った。
「そうそう。忘れるところだったわ。今日は注意しておくことがあったのよ」
「注意、ですか」
クレアは首を傾げた。
彼がこんなことを言うのは初めてだ。
一何なのだろうか?
ジュレミが聲を潛めた。
「割と確かな筋からの報なんだけど、近々王都がし騒になると思うから、行くときは気を付けなさい」
意外な話に、クレアは思わず眉をひそめた。
王都といえば、治安が良いことで有名だ。
その王都が騒とは、どういう意味なのだろうか。
「あの、王都が騒って、どうしてですか?」
ジュレミが聲を落とした。
「……ここだけの話、重要人の暗殺計畫があるみたいなのよ」
「え!」
驚いて、思わず大聲を上げるクレア。
(もしかして、知っている人かもしれない。まさかお父様!?)
心配のあまり、誰ですか、と、を乗り出すと、ジュレミは聲を潛めた。
「絶対に緒よ。――どうやら、ターゲットは、第一王子のジルベルト、らしいのよ」
「……っ!」
ガチャン
クレアの持っていたティーカップがり落ち、床で割れた。
事件発生。
今日はここまでです。
また明日投稿します。
誤字字ありがとうございました。
助かりました(*'▽')
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「わたしと隣の和菓子さま」は、アルファポリスさま主催、第三回青春小説大賞の読者賞受賞作品「和菓子さま 剣士さま」を改題した作品です。 2022年6月15日(偶然にも6/16の「和菓子の日」の前日)に、KADOKAWA富士見L文庫さまより刊行されました。書籍版は、戀愛風味を足して大幅に加筆修正を行いました。 書籍発行記念で番外編を2本掲載します。 1本目「青い柿、青い心」(3話完結) 2本目「嵐を呼ぶ水無月」(全7話完結) ♢♢♢ 高三でようやく青春することができた慶子さんと和菓子屋の若旦那(?)との未知との遭遇な物語。 物語は三月から始まり、ひと月ごとの読み切りで進んで行きます。 和菓子に魅せられた女の子の目を通して、季節の和菓子(上生菓子)も出てきます。 また、剣道部での様子や、そこでの仲間とのあれこれも展開していきます。 番外編の主人公は、慶子とその周りの人たちです。 ※2021年4月 「前に進む、鈴木學君の三月」(鈴木學) ※2021年5月 「ハザクラ、ハザクラ、桜餅」(柏木伸二郎 慶子父) ※2021年5月 「餡子嫌いの若鮎」(田中那美 學の実母) ※2021年6月 「青い柿 青い心」(呉田充 學と因縁のある剣道部の先輩) ※2021年6月「嵐を呼ぶ水無月」(慶子の大學生編& 學のミニミニ京都レポート)
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