《【書籍化】男不信の元令嬢は、好殿下を助けることにした。(本編完結・番外編更新中)》13.毒と呪い
それから二回の著を経て、クレアは一つの結論を出した。
「毒混は、間違いなくお茶の時間。カップの全てに毒が付いていて、毒見のメイドを毎日変えることで、毒が混されていないように見せかけている」
全てのティーカップに毒が塗られていれば、ジルベルトが、どのカップを選んでも毒が混することになる。
つまり、毒見のメイドも毒を飲んでいることになるが…。
(うまいこと考えたわね)
ポイントは、この毒が蓄積型であるということ。
三日に一回程度の摂取であれば無害。
メイドも毒を飲んでいるが、メイド三人を代で毒見させれば、毒は作用しない。
作用するのは、毎日飲んでいるジルベルトだけである。
(これは、思った以上に厄介だわ…)
実行犯を見つければ解決の糸口が見えると思っていたが、どうやらその考えは間違いだったらしい。
この方法であれば、どんな人間でも簡単に実行犯に仕立て上げることが出來る。
慎重に対応して、真犯人を見つけないと、メイドがいなくなったら、次は食堂が狙われるなど、周囲の人間がどんどん巻き込まれていくことになるだろう。
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(さて、どうしよう)
夜。ジルベルトが寢靜まった後。
すっかり定位置になったソファの上で、丸くなりながら思案にくれるクレア。
(一番確実なのは、ジルベルト様自に知らせることよね)
ここ一カ月見ている限り、彼はとても優秀だ。
メイドが毒を盛っているという事実さえ分かれば、きっと適切に処理をするだろう。
(でも、問題は、どうやってそれを伝えるかだわ)
ケットッシーの姿でしゃべっても良いが、「お前誰だ」という話になる。
名前と事を明かそうかとも考えるが、部屋に忍び込んだり、餌付けされたり、これまでの言を考えると、とても「私クレアです」なんて言えない。
かといって、匿名の手紙を書いても、信じてもらえない気がする。
(何か決定的な証拠があれば良いのだけれど…)
ふかふかの布地の中にもぐりこみながら、悩むクレア。
そして、だんだん眠くなり…
「……ハッ」
気が付くと、部屋の中が明るくなっていた!
(あ、朝!? し、しまったわ! 寢過ごしたわ!)
慌てて飛び起きるクレア。
夜帰ろうと思っていたのに、あまりに心地よくて朝まで寢てしまったようだ。
(な、なんだか、すごく恥ずかしいわ!)
バスルームからジルベルトが出てきて、クレアに聲をかけた。
「おはよう。よく眠れたか?」
バツが悪そうに眼をそらすクレア。
その、悪いことをして見つかった貓のような態度に、おかしそうに軽く口の端を緩めるジルベルト。
テーブルの上においてある皿の上に、パンとマフィンを出すと、クレアを手招きした。
「おいで。朝食にしよう」
パンとマフィンに釣られ、テーブルの上に飛び乗るクレア。
きちんとお座りをすると、マフィンを切り分けてくれているジルベルトをながめた。
いつもの騎士服ではなく、ラフな普段著を著ている。
(今日はお休みかしら。休みなら、毒の混もないだろうから、帰っても大丈夫よね)
切り分けられたマフィンを、味しくもぐもぐしながら、考えるクレア。
そして、約十分後。
クレアがマフィンを食べ終わると、お茶を飲んでいたジルベルトが立ち上がった。
「今日は、これから外出しようと思うのだが、一緒に行くか?」
(あら、外出するのね。どこにいくのかしら)
邪魔をしてはいけないと思いつつも、好奇心が勝ち、こくりと首を縦に振るクレア。
ジルベルトは上著を著ると、クレアをひょいと肩に乗せて、部屋を出た。
階段を降りて、り口に立っている兵士に、「出かけてくる」と、聲を掛けると、塔の前に停まっていた黒塗りの立派な馬車に乗り込んだ。
「出てくれ」
「かしこまりました」
靜かに走り出す馬車。
ジルベルトは、腕を馬車の窓にかけると、その上にクレアを乗せた。
「外が見えるぞ」
どうやら、彼が暇をしないように外を見せてくれるらしい。
「本當に優しいわね」と、ジルベルトの腕に乗って、窓の外をながめるクレア。
(ふうん。王都を離れるのね。どこに行くのかしら)
王都を出た馬車は、森と反対方向にある広大な田園地帯を進んでいく。
のどかな風景と暖かなのに、眠くなるクレア。
そして、さざ波のように揺れる金の麥畑の間を進むこと數刻。
「著いたぞ」
頬を突(つつ)かれて目を開けると、そこは立派な屋敷の前だった。
(ここはどこかしら)
目をぱちくりさせるクレアを肩に乗せて、馬車から降りるジルベルト。
降りた先、玄関先には、使用人らしき數名が並んで立っていた。
「ようこそお越しくださいました。ジルベルト様」
丁寧に頭を下げる、執事らしき初老の男。
案されて、屋敷の中にると、ってすぐの立派なエントランスに、栗の髪をした眼鏡男が立っていた。
男は、ニヤッと笑うと、丁寧にお辭儀をした。
「お久し振りでございます。ジルベルト様。ご機嫌いかがですか」
「ああ。久し振りだな、フィリップ。…それと、そのわざとらしい敬語は止めにしないか。鳥が立ってくる」
「それはいけませんね。では、改めさせて頂きます」
くだけた様子で話す二人。
クレアは、フィリップと呼ばれた人の顔をまじまじと見た。
ちょっとくるくるした栗の髪に、気そうな茶の瞳。
眼鏡をかけているせいもあり、とても頭が良さそうに見える。
(この人、どこかで見たことがある気がするわ)
クレアに気付いたフィリップが尋ねた。
「ところで、肩に居るものは何だい? 従魔を飼い始めたのかい?」
「いや、俺のじゃない。よく部屋に來るケットッシーだ。恐らく、俺の部屋に前に住んでいた魔法士のものじゃないかと思って、何となく世話をしている」
「お前は相変わらずが好きだな。メアリー様(亡くなったジルベルトの母親)の従魔も、ほとんどお前が世話をしていたものな」
そんな話をしながら、階段を上がって二階の廊下を歩く二人。
クレアは、はたと思い出した。
(そうだ。この人、たまに王立學院に臨時講師として來ている研究員だ。確か、醫療研究で有名な伯爵家出だった気がする)
ということは、ジルベルトは伯爵家に遊びに來たということだろうか。
クレアが首を捻っていると、
二人は立派なドアの前で止まった。
ノックをして、慎重にドアを開けるフィリップ。
小さく開いたドアのすき間から見えるのは、立派な部屋とベッド。
何気なくそのベッドの上を見て、クレアはを逆立てた。
(え!)
それは、真っ白な顔のであった。
ベッドの上に寢かされており、顔は見るのも辛いほど痩せこけ、腕は枯れ木のように細い。
その異常な様子にクレアが絶句していると、ジルベルトが痛ましそうに呟いた。
「…また、痩せたな」
「ああ。最近は、一日一時間程度しか目を覚ましていられないんだ。その間に、何とか栄養のあるものを食べさせようとするのだが、本人があまり食べたがらなくてね。野菜と果のジュースを飲むのがやっとなんだ」
辛そうに顔を歪めるフィリップ。
ジルベルトは、枕元の椅子に座ると、両手での痩せた手を握った。
「コンスタンス、俺だ、ジルベルトだ。見舞いに來たぞ」
ただ目を閉じて眠り続ける――コンスタンス。
ジルベルトは顔を橫に向けると、傍に立っているフィリップに尋ねた。
「病の原因の調査はどうだ?」
「これまでとは別の方法で調べてみたが、さっぱりだ」
悔しそうに答えるフィリップ。
クレアはジルベルトの肩から飛び降りた。
二人の會話を聞く限り、このは二人の友人らしい。
何とか治療したいが、原因が分からずに困っているというところだろう。
(もしかすると、闇魔法であれば病気が特定できるかもしれないわ)
そっと彼の腕にれ、靜かに魔力を流すクレア。
そして、
(えっ!)
クレアは、思わずびそうになって、慌てて両手で口元を押さえた。
何かの間違いじゃないかと、再度腕にれ、魔力を流す。
そして、それが間違いではないと分かり、彼は心の中で呆然と呟いた。
(…これは、きっと闇屬の『呪い』だわ)
この魔法が使えるのは、クレアの知る限り、師匠(ラーム)のみ。
とてつもなく嫌な予が、クレアを襲った。
忙しくて1日2話ならず……。
とりあえず、1話を続けます。
誤字字、(人''▽`)ありがとうございました☆
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