《【書籍化】男不信の元令嬢は、好殿下を助けることにした。(本編完結・番外編更新中)》18.【Another side】オリバーとキャロル
時はし遡って。
クレアが王都から消えて、七カ月後。
王立學園の生徒會室にて。
革張りの立派な會長席に座ったオリバー王子が、眉を顰めた。
「それは、どういうことだ?」
「だからですね、年間計畫の作り直しが発生したので、早急に対応する必要があるのです」
眼鏡をくいっと上げる副會長の公爵令息。
「殿下もご存じの通り、今年は想定外の事件が二件発生しています。一つは東の國境の魔大発生。もう一つは、南方での大規模土砂崩れ。我が王立學園への影響も大きく、見舞金やイベントの延期などが発生しています」
「そんなことは言われずとも分かっている」
「では、それを踏まえて年間計畫を作り直してください。今作ったものは、クレア様が約半年前に作ったもの。想定外を組みれたものに直して頂かなければ、來季の生徒會運営は立ちゆきません」
オリバーは、鼻を、ふん、と鳴らした。
「では、命令する。副會長であるお前がやれ」
「お斷りします」
冷たく言い放つ公爵令息。
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オリバーは怒りで顔を染めた。
「なっ! 王族の命令だぞ!」
「では、殿下は、先月私に押し付けた會長業務を替わりにやってくれるのですか?」
「そ、それは…。適當にちゃちゃっと済ませれば良いではないか」
「――本気で言ってらっしゃるのですか?」
ギロリとオリバーを睨む公爵令息。
「で、では、他の者にやらせろ! とにかく、お前が責任を持って全てやれ! 分かったな!」
切れて席を立つオリバー。
このまま立ち去って有耶無耶にして、副會長に全てやらせようという魂膽だ。
しかし、そうは問屋が卸さない。
公爵令息が、冷靜な口調で言った。
「いつものように、このままお席をお立ちになって逃げても宜しいですが、そうすると、我が公爵家から王妃様に抗議させて頂くことになります」
「は?」
「他の者も、自分の仕事に加え、殿下に押し付けられた仕事でいっぱいです。これ以上の仕事は學業に支障が出ます。どうしてもとおっしゃるならば、それぞれの実家から正式に抗議させて頂くことになりますが」
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「…っ」
オリバーは顔を歪めた。
生徒會の面々の家は、公爵家を筆頭に力のある貴族ばかりだ。
そこからの抗議は流石にまずい。
勢いを失って再び席に座るオリバーを見て、公爵令息が口の端を上げた。
「そこまで難しいことではございませんから、どうぞ、ちゃちゃっと適當に済ませて下さい。クレア様なら三日もあれば十分だとおっしゃるところです。まあ、クレア様であれば、私が言い出す前に終わらせていらっしゃると思いますが」
「…っ」
怒りでわなわなと震えるオリバーを目に、口元に冷笑を浮かべながら、優雅にお辭儀をして部屋を出る公爵令息。
そのドアに向かって、オリバーは力任せに椅子に置いてあったクッションを投げつけた。
「くそっ! 私を誰だと思っているんだっ!」
生徒會の面々は、オリバーに対し、丁寧ではあったが冷たかった。
オリバーと新生以外のメンバーはほぼ持ち上がり。
クレアと苦楽を共にした者達で、謂れのない罪でクレアを斷罪したオリバーを敵視していた。
頼みの綱のオリバーの側近達も、あの件を境にいなくなった。
クレアの腕を暴に摑んだ第二騎士団長の息子ダニエルは、辺境伯からの厳しい糾弾をけ、學校を退學。
騎士団で一から鍛え直されることになった。
宰相の息子も、生徒會を辭めさせられ、オリバーとの接を止された。
「くそっ! なんでこんなに上手くいかないんだ!」
機をこぶしで力任せに叩きながら、唸り聲を上げるオリバー。
そして、ポケットからキャロルが刺繍したハンカチを取り出すと、溜息をついた。
「ああ、君だけだよ、キャロル」
その聲は、誰もいない生徒會室に小さく響いた。
*
「失敗したわ……」
同じ頃。
王宮にある豪華な部屋で、一人呟くのは、マグライア男爵令嬢キャロル。
クレアを斷罪するオリバーの橫にいた、ピンクのふわふわ髪とつぶらな瞳が特徴のだ。
彼は、王都から遠く離れた地方を治める男爵の娘である。
可らしい顔立ちの彼は、皆にチヤホヤされて育った。
また、貴族がほとんどいない地域だったこともあり、彼は子供の頃から絶大な権力を持っていた。
學校では、生徒達は皆、競うようにキャロルの機嫌を取った。
彼が一言「あの子嫌い」と言えば、皆、その子をいじめ。
「気持ち悪い」と言えば、皆「お前気持ち悪いぞ」と、いじめる。
績も良く、常に先生に褒められる優等生。
何もかもが思い通りの生活に、キャロルは思った。
私は選ばれた人間なんだわ、と。
しかし、十五歳になり、キャロルの人生は上手くいかなくなった。
王都にある王立學園に進學したからだ。
王立學園の中で、地方男爵の地位は最下層。
相手にすらされなかった。
男子生徒も、キャロルの外見で近寄ってきても、地方男爵の娘と分かると離れていく。
績も、上位ではあったが、一位には遠く及ばない。
キャロルは、心の中で地団駄を踏んだ。
こんなはずじゃない。私は選ばれた人間なのに、と。
そんな時、転機が訪れた。
オリバー第二王子が、キャロルに一目惚れ。言い寄ってきたのだ。
オリバーと話すようになって、周囲の態度が変わり始めた。
馬鹿にしたような態度を取っていた生徒達が、にこにこ笑いかけ、お世辭を言うようになった。
そして、キャロルがオリバーの側妃候補だという噂が流れ始め、この狀況が加速。
ついに、彼は自分の派閥を持つまでになった。
派閥の令嬢たちと、気の弱い令嬢に嫌がらせをしたり、自分を見下した令嬢を無視したり。
思い描いていた學園生活が送れるようになり、満足を覚えるキャロル。
やはり自分は選ばれた人間なのだわ、と、確信する。
しかし、彼はすぐに不満を持ち始めた。
原因は、クレア辺境伯令嬢。
オリバーの婚約者であるクレアは、ことあるごとにキャロルに注意してきた。
「制服をそのように著崩すのはおやめなさい」
「特定の令嬢を集団で無視するなど、褒められた行為ではありませんよ」
キャロルは、苛立った。
生まれが良いだけの、痩せて顔の悪い地味な。
婚約者にとも見られていない、として終わった。
そんなが、選ばれた存在である自分に対して意見してくるなど、許せない。
「何とかして、あのに吠え面をかかせてやりたい」
だから、オリバーがクレアを捨てるように導した。
妃教育は気になったが、自分は績も良い。
魔法も使えないあのが出來るなら、問題ないだろう。
「あのを追い出して、私が頂點に立ってやる」
斷罪の場所を、謝恩パーティに導したのもキャロルだ。
彼はとても楽しみにしていた。
クレアが大勢の前で醜態をさらし、泣き崩れることを。
しかし、クレアは冷靜だった。
理路整然とした話で生徒達を全員味方につけ、逃亡。
おで、派閥以外の生徒から白い目で見られるようになってしまった。
「最後の最後にやられたわ」
一番の誤算は、妃教育。
厳しい教師に難癖をつけ、何とか甘い教師に変えさせたが、それでも覚える容は膨大。
しかも、オリバーが何かにつけて仕事をやらせようとしてくる。
反を持たれない程度には引きけているが、面倒なことこの上ない。
以前はどうやっていたのだと聞くと、クレアが全部やっていたとの回答。
失敗した、と、キャロルは思った。
そんなに便利ななら、追い出さずに適當に飼い殺ししておけば良かった、と。
「――それに、私、運命の人と出會っちゃったのよね……」
數日前、遠征から帰ってきた騎士団のパレードを見たキャロルは、一人の男に目を奪われた。
黒髪に紫の瞳、悍な顔立ち。
聞けば、第一王子のジルベルトだという。
キャロルは思った。
間違いない。彼も私と同じで選ばれた人間だ、と。
「彼も、きっとそう思ったに違いないわ」
パレードの最中、ジルベルトと目が合った。
きっと、私と同じで、運命の人を見つけたと思ったんだわ、と、うっとり呟くキャロル。
家庭教師の口ぶりからすると、次期國王はオリバー。
王兄の妻にはなるが、権力もあるし、王妃よりずっと気楽だ。
幸いなことに、王妃が必死にクレアを探しているらしい。
似た人間を王都で見たという報もあるらしく、オリバー曰く、見つかるのは時間の問題らしい。
「見つかった時に、彼に言えば良いわ。『あなたが正妃にふさわしいです』って」
貴族としての責任が強く、お人好しの彼のことだ。
きっと正妃になってくれるだろう。
その隙に、泣く泣くを引いたフリをして、ジルベルトと結ばれればいい。
薔薇の未來を想像して、キャロルは可らしく微笑んだ。
「ふふ。楽しみ。早く見つかってね、クレア様」
誤字字報告、ありがとうございました!
毎回助かってます。(*'▽')
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