《【書籍化】男不信の元令嬢は、好殿下を助けることにした。(本編完結・番外編更新中)》21.製薬

「で、できたわ!」

クレアは、作業臺に並べられた親指大の三角錐(さんかくすい)の練りの前で、思わずガッツポーズを決めた。

出來上がったのは、解呪の薬。

尖った部分に火をつけると、薬効のある煙が出る仕組みだ。

「しかし、本當に、運が良かったわ。師匠様様ね」

クレアが夢のような旅から帰ってきた、翌日。

ノアが魔の家にやってきた。

「これ」

差し出されたのは、師匠であるラームからの手紙と荷

手紙の中は、近況の報告とクレアへの気遣い。

そして、荷の中には、「珍しい素材をいっぱい手にれたから送るよ。自由に使いな」というメモと共に、素材がいっぱい詰まっていた。

そして、その中に、解呪の薬に必要な最後の素材、『瑠璃の鱗』があった、という訳だ。

クレアは、出來上がった薬に布を被せると、考え込んだ。

(さて、これをどうやって渡すか、よね)

本音を言えば、ジルベルトに會って渡したい。

渡して、ついでにお茶を飲んで、旅は楽しかったね、と、笑い合いたい。

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「……でも、さすがにもう、會わない方がいいわよね」

クレアは魔で、ジルベルトは王族。

どうにかなる関係ではないし、関係があると分かればジルベルトの立場が危うくなる。

「……辛いけど、最後に良い思い出も出來たし、このままお別れしないとね」

覚悟していたことだ。

最後に彼の役に立てたのだ。

後悔はない。

(それに、あの花畑で、確かに自分の気持ちが通じた気がしたわ。だから、きっとここが時よ)

靜かな気持ちで、解呪の薬を見つめるクレア。

そして、々考えた末に、決めた。

例の方法で渡そう。

と。

その日の夕方前。

ケットッシーに姿を変えたクレアは、誰もいないジルベルトの部屋を訪れた。

従魔専用出口からり、ドアの鍵がきちんと閉まっていることを確認。

誰もいないことを再三確認すると、クレアは小さく呟いた。

「<変解除>」

黒い魔力に包まれ、ケットッシーから、人間の姿に戻るクレア。

(急がないと)

あせた青いワンピースのポケットから、布袋を取り出すクレア。

箱と手紙がっていることを確認すると、そっとテーブルの上に置いた。

(これで、帰ってきたらすぐに見つけられるわね)

ちなみに、手紙の中は下記である。

「親なるジルベルト様

探していたものが偶然手にりましたので、作ってみました。

三角の先に火をつけて置き、煙が出なくなるまで放置すると、良い香りが部屋に充満します。

目安は1日1つ。

部屋を閉め切って使うことをお勧めします。

普通の人間は眠くなる程度なので、そのまま部屋にいても大丈夫です。

使用1日目で起きている時間が長くなり、1週間も続ければ、ほぼ良くなると思います。

予斷を許さない狀況と思います。一刻でも早く使って下さい。 あなたの友人より」

容は象的だが、ジルベルトであれば大丈夫だろう。

「<変化>」

呪文を唱え、再びケットッシーの姿になるクレア。

そして、窓際のカーテンのに隠れると、ジルベルトが帰ってくるのを待つことにした。

(森に帰ってもいいけど、萬が一誰かがってきて、持っていったら困るしね)

これは薬を守るためであって、決して最後にジルベルトを一目見たいなどと思っている訳ではない。

そう自分に言い聞かせながら待つこと、十數分。

扉が開いて、ジルベルトが帰ってきた。

(思ったより早かったわね。……ふふ。やっぱり騎士服姿はかっこいいわ)

目を細めるクレア。

そして、最後に一目見れたことだし、さあ、森に帰ろう。と、走り出そうとした――。

その時。

予想外のことが起こった。

手紙を読んだジルベルトが、こう呟いたのだ。

「これは、今すぐに行くべきだな」

そして、箱を鍵のかかる引き出しにしまうと、手紙をポケットにれて、外に飛び出してしまった。

(え!? 今すぐ!?)

ポカンとするクレア。

そして慌てた。

(ちょ、ちょっと待って! もう使うの!?)

実はクレアには、し引っかかるところがあった。

それは、『乾燥』。

の本には、「一晩以上乾燥させて」、と書いてあり、その通りにしたものの……。

(昨日から雨が降っていたのよね)

多分大丈夫だとは思うが、魔の薬は繊細だ。

乾ききっていない場合は、萬が一のことがあるかもしれない。

(ど、どうしよう!)

うろたえて右往左往するクレア。

そうこうしているうちに、ジルベルトが帰宅。

バタバタと出かける準備を始めてしまった。

は覚悟を決めた。

萬が一、何かあったらマズイ。

これは、もう付いていくしかない。

意を決して、ちょろちょろと部屋の中にっていくクレア。

上著を著ていたジルベルトが驚いた顔をした。

「お前、無事だったのか!」

思わずといった風に、クレアを手ですくい上げるジルベルト。

久し振りに溫かい手ででられ、その気持ち良さに思わず目をつぶるクレア。

ジルベルトが尋ねた。

「済まないが、これから出かけるんだ。前に行った侯爵家に行くのだが、一緒に行くか?」

こくこく、と、頷くクレア。

では、一緒に行こう。と、クレアを肩に乗せるジルベルト。

――こうして、クレアは、最後に一目見て終わるつもりが、一転。

再びジルベルトと行を共にすることになってしまったのであった。

誤字字ありがとうございました。

いつもめっちゃ早い……。帽。

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