《【書籍化】男不信の元令嬢は、好殿下を助けることにした。(本編完結・番外編更新中)》23.爽やかな朝

空がぼうっと銀に染まり始めた早朝。

クレアは、聞きなれた鳥の鳴き聲で目が覚めた。

「う、うーん…。今何時かしら…」

寢ぼけまなこで起き上がると、そこは師匠であるラームの部屋であった。

「…あれ? 私、部屋間違えた?」

疲れていたのかな、と、ぐぐー、っと、びをするクレア。

そして、思い出した!

(ち、違う! 私、倒れたんだったわ!)

しかも、ケットッシーの姿で!

がばっとベッドから起き上がって、つんのめるように姿見の前に立つクレア。

姿は人間。著古してあせた青いワンピースを著ている。

(え? 何これ? 意味が分からない。何があったの?)

のあまり、頭をぐしゃぐしゃと搔きむしるクレア。

――と、その時。

トントントン

下から、音が聞こえてきた。

同時に漂ってくる、味しそうなにおい。

(! ま、まさか、まさか、まさかー!!!!)

部屋を飛び出て、転がるように階段をかけ降りるクレア。

その視界に飛び込んできたのは、荒れた臺所に立っている、腕まくりをしたジルベルト。

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(ぎゃ―――!!!!)

心の中で絶するクレア。

振り返ってクレアを見たジルベルトが、ホッとしたような顔をした。

「おはよう。クレア。気が付いたか」

散らかった部屋に立っていてもなお、キラキラしているジルベルト。

著古してあせたワンピースを著て、髪のをふりしている自分。

クレアが、絶のあまり両手で顔を覆ったのは言うまでもない。

――十分後。

クレアは、新しい赤いワンピースに著替え、ジルベルトと向かい合わせに座っていた。

朝食のメニューは、畑から取ってきたと思われる野菜と干しのスープ、剝いたりんご。

どうぞ、と、言われ、いただきます、と、食べ始めるクレア。

本來ならば、おいしいと言って食べるところだろうが、彼にはその余裕がない。

(これは現実? 夢? あー! もう訳が分からない!)

昨日から々なことが起こり過ぎて、頭がぐるぐる。

ここが現実かどうかすら定かではない。

黙って黙々とスープをすするクレア。

そんなクレアを気遣うように見ながら、ジルベルトが、昨夜一何があったかを話してくれた。

「ケットッシーが急に寢始めて、外の空気を吸わせようと玄関を出た瞬間、クレアが現れたんだ」

何と言って良いか分からず、しゃりしゃりと黙ってりんごを食べるクレア。

突然現れた挙句、ピクリともかないクレアを心配してフィリップに見てもらったところ、寢ているだけだと分かったらしい。

「俺の部屋に連れ帰ろうかとも思ったが、王宮が近い。それで、自分の家の方が良いだろうと、森のり口の転移魔法陣を使わせてもらって、ここに連れてきた」

クレアは、両手で顔を覆った。

ケットッシーになって部屋にり浸っていたことがバレ、著古した青いワンピースを見られ、挙句の果てに汚い家を見られた。

があったらりたいとは正にこのこと。

なんと言ったら良いかも、どんな顔をしたら良いかも分からない。

いっそ死んでしまいたいとすら思う。

クレアの切羽詰まった顔に、ジルベルトが深刻な面持ちで頭を下げた。

「非常時とはいえ、勝手なことをして、本當に申し訳なかった」

「…いえ、こちらこそご迷をお掛けしてすみません」

これ以上彼に気を遣わせてはいけないと、なんとかお禮を言うクレア。

そして、「ん?」と、気が付いた。

「……そういえば、ジルベルト様は、どうしてあれが私の部屋だって思ったの?」

「一番片付いていたからだ。もう一つベッドの置いてある部屋があったんだが、散らかり合から、君の師匠の部屋なのかと思った」

クレアは気が付いた。

もしかして、「クレアは片付け上手だが、師匠の方が片付け下手」だと思われてるんじゃないだろうか。

事実は逆だが、ジルベルトにバレたくない一心で、クレアはこの流れに乗った。

「そ、そうなのよ。師匠はちょっと片付けが下手で」

不在の師匠に全ての罪を著せるクレア。

「そのようだな。った時、し驚いた」

あっさり信じるジルベルト。

そ、そうよね、ふふふ、と、乾いた笑い聲を立てるクレア。

助かった、と、心汗をぬぐう。

そして、食事が終わり、ジルベルトと一緒に食を片付けながら、クレアは思った。

(さあ、次はいよいよケットッシーのことを聞かれるわね)

ケットッシーの姿でジルベルトの部屋にり浸っていたことを思い出し、赤くなるクレア。

(ああ、もうちょっとお菓子を食べるのを控えれば良かった)

今更なことを心の底から後悔する。

しかし、ジルベルトは片付けが終わると、椅子にかけてあった上著を羽織り、気遣うようにクレアを振り返った。

「そろそろ行かなくてはならない。無理せず、よく休んでくれ」

クレアは目をぱちくりさせた。

「……ええっと、あの、聞かないの?」

「何をだ?」

「……」

黙り込むクレアに、ジルベルトは小さく微笑んだ。

「何か心配しているようだから、一応言っておくが、俺は、昨日、突然現れたクレアをここに連れてきただけだ。聞くようなことは何もない」

何も心配はいらないから、とりあえずゆっくり休んでくれ、また夜に様子を見に來る。

そう言い殘し、王都に戻っていくジルベルト。

そのどこまでもイケメンな後姿を見送りながら、クレアは心の中でぽつりと呟いた。

「どれだけ好きにさせれば気が済むのよ。本當にひどい人だわ」

夕方過ぎ。

紙袋を持ったジルベルトが再び魔の家を訪れた。

「隨分と片付いたな。休まなかったのか?」

家にるなり、し驚いたような顔をするジルベルト。

「……なんだか落ち著かなかったし、そのままにしておくのもどうかと思って」

曖昧に答えるクレア。

実のところ、本を本棚に戻して、あとは全部納戸に放り込んだだけだが、朝よりは大分マシに見える。

納戸は酷いことになっているが。

ジルベルトが、紙袋から食料を出して、テーブルの上に置いた。

「適當に買ってきた」

出てきたのは、こんがりと焼いたと野菜にソースをかけたものと、パンケーキと丸パン、クロノスのマカロン。

「……あ、ありがとう」

私の好みを完全に把握しているわね、と、やや複雑な気持ちになるクレア。

二人は向かい合わせに座ると、「いただきます」と、食べ始めた。

クレアは一口食べて目を丸くした。

「お、おいしい…」

「それは良かった」

クレアがぱくぱく食べるのを嬉しそうに見ながら、今日あった出來事を話し始めるジルベルト。

相槌を打って聞きながら、クレアは心の中で思った。

(なんだか、不思議な気分だわ。離れよう、忘れようと決心したのに、また一緒にご飯を食べている)

これは、コンスタンスが完全に回復するまで見守れ、ということなのかしら、と、考えるクレア。

そして、しばらく世間話をした後。

ジルベルトが、おもむろに口を開いた。

「実は、夕方フィリップから連絡があった。コンスタンスは五時間ほど起きれるようになったらしい」

「そう。薬が効いたのね。良かったわ」

ホッとで下ろすクレア。

どうやら薬の乾燥時間が短くても問題なかったようだ。

ジルベルトが、じっとクレアの顔を見ながら言った。

「フィリップの話では、顔も隨分良くなって、食事も前よりは摂れるようになったらしいが、一つ気になることがあるらしい」

「気になること?」

「コンスタンスのが、のように赤いそうだ」

ああ、と、クレアは頷いた。

「それは、解呪が進んでいる証拠だと本に書いてあったわ。解呪が終わってしばらくしたら、普通の顔に戻ると思うわ」

そうか、と、無言になるジルベルト。

クレアが首を傾げた。

「どうしたの?」

「……気づいていないのか?」

「え? 何を?」

きょとんとするクレア。

ジルベルトが覚悟を決めたような顔をすると、ゆっくりと口を開いた。

「君のも、まるでのように真っ赤だ」

誤字字ありがとうございました。

「今回は大丈夫!」と、いきっていた自分が(*ノωノ)

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