《【書籍化】男不信の元令嬢は、好殿下を助けることにした。(本編完結・番外編更新中)》28.オリバーとキャロル

國王が退出した後。

慌てた様子の宰相が現れて、出席者全員に箝口令が敷かれた。

「全員しばらく、この場に殘るように」と、指示されたものの、亡くなった騎士の関係者と思われる何人かのご婦人が、ハンカチで顔を隠しながら、たまらず退出。

殘った者達は、食事をつまみながら、思い思いの話に沒頭した。

これだけの大事件だ、大きな変化が起こるに違いない。と。

クレアは、諸手続きを済ませた後、知り合いの令嬢達としばし歓談。

その後、父親に「し風にあたってきます」と言い殘し、一人バルコニーに出た。

(はあ。久々の社は疲れるわ)

大理石の手すりに寄りかかって、とりどりの春の花が咲く庭園をながめるクレア。

考えるのは、師匠である赤髪の魔ラームのこと。

(『あんたには借りがある』とは言っていたけど、まさかこんなこととは、夢にも思わなかったわ)

思い返してみれば、ラームはよく「呪い」という言葉を口にしていた。

送ってきたレア素材の中に、解呪薬の材料が全て含まれていた。

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(もしかして、急に素材集めの旅に出たのは、私に呪いを解かせるためだったのかしら)

そんなことを、つらつらと考えていると、

「クレア」

突然、後ろから聲をかけられた。

振り向くと、バルコニーのり口に立っていたのは、ジルベルト、フィリップ、コンスタンスの三人。

バルコニーにってきたコンスタンスが、ぺこりと頭を下げた。

「二人から聞きました。助けて頂いてありがとうございました」

その可らしい仕草に、クレアは微笑んだ。

「いえいえ。とんでもないですわ。おで私も自分が呪われていることに気が付けましたし」

「そうなのですね…。お互い辛い思いをしましたわね…」

「そうですわね…」

ほうっ、と、同時に溜息をついて、つい笑いだす二人。

私、この人のこと好きだわ、と、思いながら、クレアが尋ねた。

「七年ぶりに目を覚ましたら、々変わっていたのではありませんか?」

「そうなんです! お父様がすっかり老けていて、びっくりしました! でも、お母様は変わらず綺麗でした」

容への意識の違いが出たのですね」

「ふふふ。本當にそうですわね」

楽しそうに笑い合う二人と、それを見て微笑む男二人。

――しかし、この平穏と平和は、一瞬で崩れ去ることになる。

「まあ! ジルベルト様! こんなところにいらっしゃいましたのね! 探しましたわ!」

と、甘ったるい聲を出すがテラスにってきたからだ。

クレアは思わず咳き込みそうになった。

(え!? キャロル嬢?)

そこには、なぜか紫のドレスを著たキャロルが立っていた。

黙って眉をひそめるジルベルト。

突然の珍客に、フィリップとコンスタンスが驚いたような顔をする。

キャロルは、両手をの前で祈るように組むと、目を潤ませてジルベルトを見上げた。

「王妃様があんなことをされるだなんて、私、悲しくて……。ジルベルト様もお辛かったでしょう?」

鋭い目でキャロルを睨むジルベルト。

そんな視線などともせず、キャロルはにっこり微笑むと、今度はクレアの方を向いた。

「クレア様。オリバー様とのことはごめんなさい。お二人のご結婚、祝福しますわ」

クレアは目をぱちくりさせた。

「……ええっと、よく分からないのだけど。あなた、オリバー様と結婚するんじゃなかったの?」

「クレア様じゃなきゃ正妃は務まらないって気が付いたんです。本當にごめんなさい。正妃、がんばって下さいね」

申し訳なさそうな顔を作って、ぺこりと頭を下げるキャロル。

クレアは溜息をついた。

「何か勘違いしているようですが、オリバー様との婚約は、先ほど解消してまいりました」

「は?」

ぎょっとしたような顔をするキャロル。

クレアは溜息をついた。

「さっき、書類に署名してきたのです。オリバー様は先に署名されていたので、婚約解消立ですわ。オリバー様と私は、もう何の関係もありません」

キャロルが目を三角にしてクレアを睨みつけた。

「あなた! また私に嫌がらせしようとしているのね! なんて格がひねくれているのかしら! ――ジルベルト様なら分かって下さいますよね!?」

ジルベルトに抱き著こうとするキャロル。

ジルベルトは無言でを斜めにしてそれをよけると、クレアを抱き寄せた。

「キャロルといったな。お前は、クレアのドレスと寶飾品を見て、何か気が付かないのか?」

初めて見るような顔で、クレアを上から下までながめるキャロル。

そして、その紫のドレスと、ジルベルトの瞳のであるアメジストをあしらった寶飾品を見て、般若のように顔を歪めた。

「ジ、ジルベルト様は間違っています! 私の方が、こんなよりずっと優れています!」

ジルベルトの目が剣呑にった。

「…お前のどこがクレアより優れている? 容姿でも能力でも心でも、クレアに敵うところがあるなら言ってみろ」

面白そうに、ひゅう、と、口笛を吹くフィリップ。

クレアは目を見開いた。

抱き寄せられたのも驚いたが、まさかジルベルトがこんな風に庇ってくれるとは夢にも思わなかったからだ。

キャロルがめげずにんだ。

「私の方が、ずっと心がかですわ!」

「心がかな者が、人をいじめるのか?」

「なっ!」

「派閥を作って気にらない令嬢を退學寸前まで追い込んだそうだな。俺が知らないと思ったら大間違いだ」

話にならない、とばかりに、切り捨てるジルベルト。

ジルベルトは、驚きすぎて固まっているクレアの腰を強く抱くと、キャロルを見據えた。

「クレアは、俺が會った中で最も素晴らしいだ。お前などとは比較にもならない。彼を侮辱することは、俺を侮辱することと同じだ。たとえ相手がでも容赦するつもりはない」

「でもっ! 私もジルベルト様も、同じ選ばれた人間なんですっ!」

しながら、青筋を立ててクレアを睨みつけるキャロル。

「いやあ、同じ人間とは思えないほど言葉が通じないねえ」と、おかしそうに呟くフィリップ。

――と、その時。

「失禮する」

オリバーが、バルコニーにってきた。

彼は、ジルベルトを見ると、を噛んで頭を下げた。

「…母が、本當にすまなかった」

「いや。気にするな。お前は関係ない。それに、謝るならクレアにだろう」

「そうだな……。クレア、済まなかった」

再度頭を下げるオリバー。

クレアは驚愕した。

あの傲慢なオリバーが、まさか自分に頭を下げるとは!

(……でも、なんだか雰囲気が異様だわ。こんなオリバー様見たことがない)

気味の悪いものをじて、思わず震いするクレア。

無表に顔を上げるオリバー。

そして、キャロルを見て目を細めると、口の端を釣り上げた。

「今、話をしてきたんだが、母は東方の修道院にることになるそうだ。父は、私にその修道院がある村の統括を任せてくれてね。すぐにでも行こうかと思っているんだ。君も一緒に來てくれるね?」

いつもと違うオリバーの雰囲気に、キャロルが怯えたように後ずさりした。

「何を言っているの? そんな田舎に行くわけないじゃない。それに、私とあなたはもう無関係よ」

オリバーが、王妃によく似た顔でにっこり笑った。

「いや。行くよ。君と僕は婚約したからね。父から許しが出たんだ。君の父親も喜んでサインしてくれたよ」

「え? 一何を…」

うキャロルに、オリバーが微笑みかけた。

「君は僕をしてるんだろう? 來てくれるね」

オリバーの異様な表に、キャロルが怯えてんだ。

「い、嫌よ! ジルベルト様! 助けて! クレア! あんたが行きなさいよ!」

クレアを庇うように、背中に隠すジルベルト。

半狂になるキャロルの腕を、オリバーが笑顔で摑んだ。

「さあ、行こう。向こうに行ったら、誰にも邪魔されない二人だけの生活だ。今から楽しみだよ」

「いやよ! いや! 助けて! 誰か! ジルベルト様!」

泣きびながら、笑顔のオリバーに庭園側に引きずられていくキャロル。

その後。

王都で二人を見た者は誰もいない。

そして、ほどなくして。

王妃の療養が発表され、魔ラームが指名手配された。

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