《【書籍化】男不信の元令嬢は、好殿下を助けることにした。(本編完結・番外編更新中)》30.エピローグ:旅立ち

黒髪に悍な顔立ち。アメジストのような紫の瞳と、青紺のマント。

緑の木々の間に靜かに立つ、絶対にそこにいるはずのない人の姿に、クレアは天を仰いだ。

(なんてことなの! 最後の最後にやられたわ!)

犯人は分かっている。

ジュレミとノアだ。

あの二人が、何らかの方法でジルベルトに出発日時を教えたに違いない。

道理で二人とも妙にニコニコしていたわけよね、と、遠い目をするクレア。

そんな彼を、紫の瞳で穏やかに見つめるジルベルト。

見慣れた黒ではなく、青紺のマントを羽織っているせいか、いつもよりし若く見える。

気まずいことこの上ないものの、見ないふりをする訳にもいかず。

は軽く深呼吸すると、何とか笑顔を浮かべた。

「ええっと、おはようございます。ジルベルト様。――なぜ、ここに?」

「隣國の魔の店に行って、魔ジュレミに頼み込んだんだ。どうかクレアと連絡を取らせてしいと。それで、出発日時を教えてもらった」

かばうような言い方をしているが、ジュレミのことだ。自分から喜んで教えたに違いない。

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友人のニヤニヤ顔が目に浮かび、はあっ、と、片手を額に當てるクレア。

ジルベルトが、どこか楽しそうに微笑んだ。

「それで、今日ここにいる理由だが、実は、三つほど報告があるんだ」

「報告? 三つ?」

クレアは首を傾げた。

報告されるようなことが、何一つ思い當たらない。

敢えて挙げれば、コンスタンスとの婚約だが、ジルベルトの格からいって、いちいち報告するとは思えない。

(何なの? 全く想像がつかないわ)

いぶかしげな顔をするクレアに、ジルベルトが微笑んだ。

「まず一つ目は、この森の所有者が、俺になったことだ」

「……え?」

予想外過ぎる容に、きょとんとした顔をするクレア。

勲の褒としてもらったんだ。王妃の実家が取り潰されて宙に浮いた土地だったし、暗殺されそうになっていた件もあったから、特に文句も出なかった」

「……もしかして、この森は殘るの?」

「ああ。燃やすべきだという意見もあったが、次の領主に委ねようという話になった。そして、俺は燃やすつもりはない」

目を丸くしてジルベルトを見上げるクレア。

彼は軽く微笑むと、ゆっくりと口を開いた。

「二つ目の報告は、俺が長期休暇を取ったことだ」

これまた予想外、と、クレアは目をぱちくりさせた。

「長期休暇? ……二週間とか?」

「いや。三カ月だ」

「え! 三カ月!」

驚くクレアに、ジルベルトが楽しそうに微笑んだ。

「実は、とある無謀なが一人旅に出るらしくてな」

「ふ、ふうん」

「彼は、いつも北と南が分からなくなるのに、迷わず旅ができると信じているらしい」

「……」

それって完全に私のことじゃない! と、黙り込むクレア。

そんなクレアを見ながら、「心配だから一緒に行こうと思って、休みを取った」と、いたずらっぽく笑うジルベルト。

クレアは、片手を額に當てながら、もう片方の手で「待って」と、ジルベルトを止めた。

「でも、騎士団長業務がなくても、王太子業務があるわよね?」

父親である辺境伯の手紙には、ジルベルトが王太子でほぼ決まりだと書いてあった。

さすがのジルベルトでも、王太子になってすぐに休むのは、さすがに無理だろう。

そんなクレアの考えをよそに、ジルベルトがあっさり言った。

「王位継承権なら、放棄した」

「え!」

「もともと國王になるつもりはなかったが、母上の事件を追うために王位継承権を放棄しなかっただけだ。だから、事件が解決すれば放棄するのは決めていたことだ」

「え、じゃあ、誰が?」

「オリバーの一つ下の妹ローズだ。彼はとても優秀でね。もともと二人でそう決めていたんだ」

「コンスタンスさんは? 婚約者候補じゃないの?」

「コンスタンスは単なる馴染だし、彼は近々フィリップと婚約を発表する予定だ」

「え! そうなの?」

「ああ。苦楽を共にして、が芽生えたそうだ」

驚きすぎて、口をぱくぱくさせるクレア。

そして、ジルベルトが「三つ目は……」と、言うのを聞いて、思わず構えた。

一つ目でも十分驚いたが、それをさらに上回る二つ目。

三つ目は、更にとんでもない容に違いない。

がくるくる変わるクレアを見ながら、し気に目を細めるジルベルト。

そして、彼は跪くと、驚く彼の手を取った。

溫かい大きな手が、彼し冷えた手を優しく包み込む。

「三つ目は……」

ジルベルトのアメジストのような瞳が、クレアを抜いた。

「君に求しにきた」

「……っ」

思わず息を呑むクレア。

まるで世界から音が消えたような覚に包まれる。

自分を真っすぐ見つめる澄んだ瞳に吸い込まれそうになりながらじるのは、全が震えるほどの喜び。

しかし、彼は辛そうにジルベルトから視線を外した。

「嬉しいわ。とても嬉しい。…でも、私は魔なの」

ジルベルトが微笑んだ。

「もちろん知っている。自由が似合うことも、魔であることも、全部含めて、君をしている」

「…でも、一緒にいたら、々言われるわ」

「黙らせればいいだけだ。それに、言われないようにする方法はいくらでもある」

真摯な瞳が、クレアの心を揺さぶる。

ジルベルトは、クレアの手にそっと口づけると、強い目で彼をとらえた。

「全部ひっくるめて君をしている。君と君の自由を守らせてくれ」

クレアのが喜びで震える。

自分の心を包んでいた氷が解けて芽吹くのをじながら、彼はくすりと笑った。

「ふふ。一人でいるより、二人でいた方が自由だなんて、不思議ね」

そうだな。と、目を細めるジルベルト。

そして、再びクレアの手に口づけると、頬を染めるクレアに、楽し気に微笑みかけた。

「では、まず、手始めに、旅の護衛役を務めたいと思いますが、よろしいでしょうか、魔殿」

「はい。北がどちらかも分からない方向音癡ですが、よろしくお願いします」

「では、お手を。馬がいるところまでお連れします」

地面に置いてあった荷を手に取り、もう片方の手をクレアに差し出すジルベルト。

その大きな手につかまりながら、クレアは幸せそうに微笑んだ。

「はい。不束者ですが、末永くよろしくお願いします」

穏やかな春風に吹かれながら、手をつないで歩き出す二人。

會えなかった日々を埋めるように、話し合い、笑い合いながら、森の中を歩いていく。

しい木れ日が祝福するように、彼らの後姿を照らしていた。

おしまい

長い間お付き合い頂きましてありがとうございました。

祝、異世界ジャンル、初完結!

コメント、ブックマーク、評価、誤字字報告。

本當にありがとうございました。

楽しく投稿できたのは、皆様のおです。(*’▽’)

それでは、また機會がありましたら、お會いしましょう。

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ご意見ご想お待ちしております!

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