《【書籍化】男不信の元令嬢は、好殿下を助けることにした。(本編完結・番外編更新中)》〈番外編〉騎士カーティスの波萬丈な一日①
番外編です。
クレア達のその後をちょっとだけ追いかけます。
クレアとジルベルトが旅立った翌日の早朝。
隣國アレクドラの王都。
繁華街からし離れた高級住宅街にある、衛兵詰め所にて。
り口に立っていた若い騎士が、石畳の敷き詰められた通りの向こうから、一人のが歩いてくるのを見つけた。
(あ、ノアちゃんだ!)
歩いてくるのは、緑のローブを羽織った小柄な。
フードをかぶっていて見えないが、貓耳と黒髪のおかっぱ頭が特徴的な、貓の獣人だ。
買い帰りらしく、前が見えているか怪しいほど大きな荷を抱えている。
彼は足早に近づくと、禮儀正しくに微笑みかけた。
「おはようございます。ノアさん。大変そうですね。お荷お持ちしましょうか」
ノアは騎士を見上げると、首を傾げた。
「ん。……マーチン?」
「いえ、カーティスです」
「ん。カーティス。お願い」
「はい。お任せください」
ノアから荷をけ取る青年騎士。
それをひょいと片手で持つと、彼と並んで歩き出した。
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「買いに行かれていたのですか?」
「ん。朝市行った」
「そうでしたか。今日は休日ですし、人が多かったのではないですか」
「ん。いっぱいだった」
當たり障りのない會話をしながら、紳士的な微笑を浮かべるカーティス。
しかし、彼は心の中で悶えまくっていた。
(うおおお。今日のノアちゃんも可い! ヤバすぎる!)
(朝からノアちゃんと會話できるとか、今日は最高にツイてるぞ、俺!)
この、心の中が殘念過ぎる青年の名前は、カーティス・ルワドラ。
長に明るい茶い髪、楽し気な青い瞳。
甘いマスクと明るい雰囲気が町娘たちに大人気の、ルワドラ侯爵家の三男。
3カ月前にこの詰め所に配屬された19歳だ。
ちなみに、彼の所屬する詰め所は、ただの詰め所ではない。
もちろん詰め所の機能も持っているが、最大の目的は「魔ジュレミとその店を守ること」。
普通、魔と言えば忌み嫌われるもの。
住居は人里離れた森や砂漠が一般的で、流浪する者も多い。
しかし、魔ジュレミは王都に住んで30年以上。
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店まで構えている。
なぜ彼にそんなことが出來るのか。
それは、彼が「魔道が作れる」魔だからだ。
特に、2か所を繋ぐことのできる転移魔法陣の能力は凄まじく、30年前、他國にその技が流れることを恐れた國王が、王都に店を構えることを許したのだ。
そして、店の斜め向かいに衛兵詰め所を設置。
腕の立つ衛兵の他に、事を知る貴族騎士を配屬し、魔と魔の店を他國の間者等から守ることになった。
そんな訳で、事を知る貴族騎士として配屬されてきたカーティス。
前評判では、魔ジュレミはとんでもないではあるものの、し難しいところがあるとの話だった。
(魔と上手くやっていけるだろうか)
心配する彼の前に、天使が舞い降りた。
「ノア。よろしく」
魔の弟子だという、貓耳にしっぽの獣人の。
小柄で可らしいその姿を一目見た瞬間、彼は彼の虜になった。
(なんだ! この可い生きは!)
(可い! 可すぎるだろ!)
よろしくと差し出された小さな手。
にっこりと笑って「こちらこそよろしくお願いします」と、その手をそっと握り返しながら、カーティスは心の中で絶した。
(くー! らかくて小さい! やばい! 俺もう手を洗いたくない!)
その日から、彼の生活はノア中心に回り始めた。
常に外に気を配り、會えば笑顔で挨拶。買いの荷が重そうであれば手助けをし、雨が降れば傘を貸す。
全てはノアとしでも仲良くなるため。
その果もあり、最初は警戒し、他人行儀だったノアも、今では自分から挨拶してくれるまでになった。
最初に「おはよ」と言ってくれた時のことを、彼は一生忘れないだろう。
まあ、その後に、「ポール」という、全然違う名前で呼ばれたのだが、それも含めて良い思い出だ。
――とまあ、そんな訳で。
見た目は平靜、中ウキウキで、ノアと會話をしながら魔の店の前に到著するカーティス。
ノアは、首にぶら下げていた鍵でドアを開けると、し後ろに立っていた彼を振り返った。
「って」
「……!」
カーティスは心の中で息を飲んだ。
(おおお! やった!! 中にれてくれるなんて、超信頼の証じゃん! やった! やったぞ! 俺!)
心の中がカーニバル狀態になるカーティス。
しかし、そんなことはおくびにも出さず、彼は禮儀正しく微笑んだ。
「では、お邪魔致します」
ノアの案で店の中にるカーティス。
重そうな中扉を開けて中にると、そこは薬屋のような様相をした店舗スペースが広がっていた。
薬瓶のった棚に、木のカウンター。
カウンターの奧には棚が広がっている。
初顔合わせ振りにったな、と思いつつ、カーティスが尋ねた。
「荷、どこに置きましょうか」
「ん。じゃあ、カウンターの上に置いて」
言われた通り、カウンターの上に荷をそっと降ろすカーティス。
そして周囲を見回して、とあることに気が付いた。
(あれ、こんなに木箱が積んであったっけ)
店の壁際に無造作に積まれた大量の木箱。
チラリと中を見ると、小さな薬瓶が並んでいる。
カーティスが、これは仕れた薬ですか? と、尋ねると、ノアがげんなりした顔で頷いた。
「ん……。昨日、二か月分くらいの量が一気に來た」
「二ヶ月分ですか。道理で……。もしかして、今からこれを全部片づけるんですか?」
驚いた顔をするカーティスに、ノアが力なく頷いた。
「ん……。そうなる」
「それは……、大変そうですね」
「ん……。大変。でも、がんばらないと」
覚悟を決めたような顔をするノア。
カーティスはたまらない気持ちになった。
(ダメだ! かわいいノアちゃん一人にそんな苦労はさせられない!)
彼は、なるべく控えめに見えるように穏やかに口を開いた。
「……あの、私で良ければ、お手伝いしましょうか」
突然の申し出に、ノアが目を丸くした。
「本當?」
「はい。本當です。もちろん、差し支えなければですが」
禮儀正しく右手をに當てるカーティス。
ノアは、しっぽをぱたぱたさせながら、嬉しそうに頷いた。
「ん! もちろん差し支えない! 手伝って!」
*
――およそ一時間後。
騎士服をいでシャツの袖をまくったカーティスが、箱を奧の棚スペースに運んでいた。
「この箱はどこに置きましょうか」
箱の中をせっせと棚に並べていたノアが、し離れた棚を指さした。
「ん。そこの棚の下。――ん。違う。橫向き」
「はい」と、真面目な顔で箱の向きを変えるカーティス。
箱を全て運び終えた後は、ノアの指示に従って、中のビンを棚に並べていく。
この微妙に人使いが荒いところもノアちゃんらしくてイイなと思いつつ、カーティスが口を開いた。
「運んでいる時も相當な量あると思っていましたが、隨分と多いですね」
「ん。製薬擔當の魔が旅に出るから、まとめて作っていった」
「この量を一人でですか。凄いですね」
「ん。彼は凄い」
まるで自分が褒められたかのように、嬉しそうに耳をぴくぴくとかすノア。
その姿を見て、カーティスは心の中で悶絶した。
(くうっ、やばい! 可い過ぎるだろ! 水なしで固パン10個はいける!)
そして、全ての薬をしまい終わり、箱を中庭に運びだした後。
ハンカチで汗を拭うカーティスに、ノアがぺこりと頭を下げた。
「ありがと。カルルス。助かった」
わあい! 超絶可らしくお禮を言われちゃったよ! まあ、カルルスじゃなくてカーティスだけどな!
と、思いながらも、「いえいえ。お役に立てて栄です」と、紳士然と微笑むカーティス。
(それに、お禮を言いたいのは俺の方だよ。ノアちゃんと共同作業だなんて、夢みたいな時間だった!)
しかし、その幸せな時間ももう終わり。
名殘惜しいが、長居して迷はかけれない。もう帰るべきだろう。
ノロノロと椅子にかけておいた騎士服を手に取るカーティス。
そして、「私はこれで」と帰ろうとした――
その時。
バタバタバタッ
突然。
階段を駆け下りる音が聞こえてきた。
バーン!
勢いよく開くドア。
何ごとかと慌てて振り向くカーティスの目に、相を変えた魔ジュレミの姿が飛び込んできた。
手に握られているのは、青白くる従魔の証。
彼は、呆気にとられるカーティスに目もくれず、大聲でんだ。
「大変よ! ノア! クレアったら、<変化の腕>を忘れて行ったわ!」
カーティスの波萬丈な一日が始まった。
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