《【書籍化】男不信の元令嬢は、好殿下を助けることにした。(本編完結・番外編更新中)》〈番外編〉騎士カーティスの波萬丈な一日②
(……ええっと、俺、なんでこんな所にいるんだっけ?)
魔ジュレミが、一階に飛び込んできた、十分後。
カーティスは、二階の住居スペースにある居間でお茶を飲んでいた。
丸テーブルを挾んで座っているのは、揺した様子の魔ジュレミと、変わらず無表なノア。
ジュレミが「あー!」と、頭を描きむしりながら機に突っ伏した。
「もう! 何てことなの! あの子の置いて行った荷の中に、私が作った箱があるのを見つけて開いてみたら、こんなものが出てくるなんて!」
テーブルの中央に置かれているのは、従魔の証によく似たブレスレット。
ノアが首を傾げた。
「ん。それが<変化の腕>? ないと困る?」
「困るなんてもんじゃないわよ! これなしで長時間姿を変えたら、元の姿に戻れなくなってしまうのよ!」
「! それは大変。クレアはそれ知らない?」
「置いていったところを見ると、多分知らないんでしょうね……。ラーム経由で渡したから、彼から説明してると思ったら、全然説明してなかったんだわ! あの魔め! 今度會ったら絶対にとっちめてやるんだから!」
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二人の會話を聞きながら、カーティスは遠い目をした。
(これって、多分、てか、絶対、俺が聞いちゃいけないやつだよな?)
「あんたも來て頂戴!」と言われて、何が何だか分からないまま來てしまったが、どう考えても自分が聞いて良い話ではない。
しかも、魔ラームとか、今隣國で指名手配中の魔な気がする。
とりあえず何も聞かなかったことにしよう、と、心を無にしてお茶をすするカーティス。
そんな彼を他所に、話を進める二人。
ノアが心配そうな顔をした。
「それで、これがないとクレアはどうなるの?」
「……姿を変えて一日経ったら元に戻りにくくなるでしょうね。そこで気が付けば良いけど、気づかずそのままでいたら、三日後には本當に戻れなくなってしまうわ。もしもそれがケットッシーだったら、クレアは一生ケットッシーのままね」
「……!」
目を見開くノア。
ジュレミが自分を落ち著かせるように息を吐いた。
「……でも、幸いなことに、クレアが出発してまだ一日。すぐに変したとしても、あと二日猶予があるわ。それまでに腕を屆ければ大丈夫よ」
「本當?」
「ええ。本當よ。個人差はあるにしても、三日は確実に猶予があるはずだから」
ホッとしたような顔をするノア。
話を聞きながら、スゲー嫌な予がする、と、目をそらすカーティス。
そして、その嫌な予は的中。
ジュレミが満面の笑みを浮かべながら、懸命に空気を出している彼を見た。
「それで、あなたにお願いなんだけど。ちょっと頼まれごとしてくれない?」
やっぱそうくるよな、と、軽く目をつぶるカーティス。
しかし、魔の頼みは基本的に斷れない。
彼は軽く咳払いすると、禮儀正しく尋ねた。
「……一応、容を聞いても宜しいですか?」
「今聞いた通り、私の友人が忘れをして旅に出ちゃったのよ。だから、追いかけてしいの。あ、もちろんにね」
「……に、ですか」
「ええ。によ。前の騎士のランドルフは頭が固そうだったから無理だろうと思うけど、あんた適當そうだし、何とでも出來るでしょ」
「……ええ、まあ、ランドルフよりはに対応できるとは思いますが……」
そう答えながら、カーティスは迷っていた。
魔の頼みは基本引きけるように言われているが、容を報告することが義務付けられている。にというのは規約違反だ。
いくら自分が適當な格をしていても、それはちょっと……。
難しい顔をして黙り込むカーティス。
――と、その時。
ノアがカーティスの目を見た。
「お願い。カーマイン。私、馬に乗れない。一緒に來て」
彼は「カーマインじゃなくてカーティスです」と言うのも忘れて、目を見張った。
「え。もしかして、ノアさんも一緒に來るのですか?」
「ん。馬に乗せてもらって道案する」
軽く固まりながら、カーティスは心の中で絶した。
(ノ、ノアちゃんと一緒に馬に乗って旅!! マジか! マジなのか! もう規約とかどーでもいい!)
何も言わずに固まっているカーティスを見て、「どうしたの?」と首を傾げるノア。
カーティスは、はっと我に返ると、禮儀正しく微笑んだ。
「分かりました。では、素材の採取に付き合ったということにしてお供しましょう」
ジュレミがホッとしたような顔をした。
「恩に著るわ! じゃあ、とってきてもらう素材はこっちで考えておくわ」
「お願いします。それでは、すぐに旅の準備をしてまいりますので、三時間ほどお待ち頂けますか」
「ええ。分かったわ。こっちもノアの旅の準備を済ませておくわ」
では後ほど、と、立ち上がるカーティス。
ノアが謝の目でカーティスを見上げた。
「ありがとう。カーニバル。よろしくね」
「いえいえ。こちらこそ」
カーニバルじゃなくてカーティスだけどな、と、思いながらも、紳士然と微笑むカーティス。
そして、心の中で固く誓った。
「必ずやこのミッションを功させて、ノアちゃんに名前を覚えてもらうぞ!」と。
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