《【書籍化】男不信の元令嬢は、好殿下を助けることにした。(本編完結・番外編更新中)》〈番外編〉騎士カーティスの波萬丈な二日間③
お待たせしました。番外編の投稿を再開します。
【前回までのお話】
カーティスは、ジュレミとノアの友人に<変化の腕>を渡すため、ノアと旅に出ることになった。
アレクドラ王國の王城にある騎士団本部にて。
まるでこれから合戦に挑むが如く険しい顔をした男が、速足で廊下を歩いていた。
たまたま廊下にいた文が、隣の同僚に耳打ちした。
「……なあ。あれ、カーティス様じゃないか?」
「え! あれ、カーティス様なのか?! いつもと隨分雰囲気が違うな」
彼を見た者は皆ひそひそと囁きあった。
人當たりが良く想の良いカーティスがあんな形相をするなんて、どう考えても只事じゃない。
一何が起きたのだろうか。と。
しかし、當のカーティスは、
(ノアちゃんと旅! めっちゃ楽しみ!)
これから始まるノアとの旅のことで頭がいっぱいだった。
(依頼を全うするのはもちろんだけど、絶対に、絶対! 楽しい旅にするぞ!)
実は、彼。
魔の店を出る時、ジュレミからこんなことを囁かれていた。
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「ノアは旅をしたことがないのよ。だから、々迷をかけることもあるとは思うけど、大目に見てあげてね」
初めての旅と聞いてカーティスが思い出したのは、自のことだ。
彼の初旅は、五歳の家族旅行。
湖畔のほとりの別荘で味しいを食べたり、兄弟たちとボール遊びをしたり、それはとても楽しい旅で、おで、彼は旅行が大好きになった。
この経験が彼の旅に対する印象を決めたと言っても過言ではない。
だから、カーティスは思った。
人探しがメインではあるが、ノアにとってこれは立派な初旅。
是非とも思い出に殘る楽しいものになってしい。と。
(ノアちゃんのためだ! とびきり良い旅にできるように、がんばるぞ!)
使命に燃えるカーティス。
楽しい旅にするには、それ相応の準備が必要だ。
本當であれば一年か二年くらいかけて念に準備したいところだが、殘念ながら今回は時間がない。
(ベストを盡くすためにも、効率的にかないとな)
頭をフル回転させながら、聞こえてくるヒソヒソ話など意にも介さず、廊下をずんずん進んでいく。
そして、建の奧にある立派なドアの前に立つと、軽く深呼吸した。
(よし。まずは、第一関門だ)
軽くドアをノックして、中にるカーティス。
そのいつになく深刻な表の彼を見て、執務機で仕事をしていた髭の副騎士団長が、慌てたようにガタンと立ち上がった。
「ど、どうした! カーティス! 魔に何かあったのか?!」
「はい。実は頼まれごとをしまして」
「……頼まれごと?」
副団長が警戒するように目を細める。
ここが正念場だと、カーティスは真面目な顔で答えた。
「はい。弟子と一緒に、回復薬の調合に使う珍しい薬草を取ってきてしい、と頼まれました」
副団長がポカンとした顔をした。
「珍しい薬草? ……依頼ってそれだけか?」
「はい。それだけです」
「……本當か?」
「はい。本當です」
疑われる余地がないように、カーティスが力強く頷く。
副団長がホッとしたような顔で笑い出した。
「なんだ。見たことないくらい深刻な顔で部屋にってきたから、大事があったのかと思ったぞ。弟子と一緒って、もしかして、あの貓耳のピノっていう……」
「ノ(・)ア(・)、さ(・)ん(・)、です。副団長」
食い気味に訂正するカーティス。
その只ならぬ圧に、「あ、ああ。そうだ。ノ、ノアさんだったな」と、副団長が慌てて言い直す。
「そ、それで、どこまで行くんだ?」
「北の國境近くと聞いております」
「なるほど。頼むだけあって、かなり遠いんだな」
「はい。つきましては馬の使用と外泊任務の許可をお願いしたいと」
分かった。と、副団長が隣の部屋から文を呼んで何か指示をする。
「馬は手配した。代わりの者を詰め所に派遣する。戻ったら報告書を出すように」
(よし、上手く誤魔化せた)
カーティスは、ホッとしながら、一歩下がって頭を下げた。
「了解致しました。それでは、行ってまいります」
*
副団長の執務室から出たカーティスは、再び速足で廊下を歩き始めた。
(さて、次だ!)
走るように建から出ると、たくさんの馬が並んでいる廄に飛び込む。
並ぶ馬の中から最も並みと格の良い鹿の馬を選定すると、そばにいた若い馬丁に鞍を見せるようにと頼んだ。
「二人乗りできる鞍でしたら、この三つになります」
出された鞍三つを、カーティスは鋭い目でチェックした。
「……汚れているな。クッションも弱そうだし、デザインも垢抜けない。もっと良いものはないのか」
「申し訳ございません。これ以上良いものとなると、王族のご子息向けのものになってしまうかと……」
馬丁がを小さくしながら言うと、カーティスは懐から懐中時計を取り出した。
「これを預ける。これを見せて、その王族子息向けの鞍を借りてきてくれ」
馬丁が目を丸くした。
「え! これって侯爵家の印じゃないですか! マジですか!?」
「ああ。マジだ。ここで手を抜いたら、俺が一生後悔する」
謎の迫力に押され、「わ、分かりました」と馬丁が懐中時計をけ取って頷く。
(よし、次だ!)
廄を出て、走るように食堂に向かうカーティス。
甘いが好きなノアのために、料理長に甘いスイーツのようなサンドイッチを作ってしいと依頼する。
そして、早足で食堂を出ると、騎士団施設すぐそばの宿舎にある自分の部屋に飛び込んだ。
(今度は俺の準備だ!)
クローゼットから遠征用の革鞄を引っ張り出すと、荷を詰め始める。
(煙草は……、止めよう。ノアちゃんが嫌いだと困る。あとは著替えだな……)
遠征に行くよりもずっと手際良くテキパキと準備を進める。
一緒に馬に乗るのだからと、シャワーを浴びて全を清めることも忘れない。
そして、太が天頂に差し掛かる頃。
コンコンコン
旅人風の服に深緑の外套を羽織ったカーティスが、ドキドキしながらジュレミの店の裏庭に通じる木戸を叩いていた。
し間が空いたりするかもしれませんが、番外編を最後まで更新していこうと思います。
クレアやジルベルト、コンスタンスとフィリップなど、登場人達のその後が出てくる予定です。
全12~14話。
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