《ハッピーエンド以外は認めないっ!! ~死に戻り姫と最強王子は極甘溺ルートをご所です~》やり直せるのなら
「えっ……」
後悔ばかりの苦い記憶が唐突に蘇る。
突然を直させた私に、正面の席でお茶を飲んでいたカーネリアンが心配そうに名前を呼んだ。
「どうしたの? フローライト」
「う、ううん。なんでもないの」
急いで首を橫に振る。
今、自分の中に流れ込んできた記憶が信じられなかった。
私はリリステリア王國の王、フローライト。
今年十歳になる私は、半年程前婚約者に決まったスターライト王國の第二王子カーネリアンと一緒に、うちの城の中庭でお茶を楽しんでいた……のだけれど。
――何、今の。
突如として頭の中に流れてきた――いや、思い出したのは、今から未來の景だ。
十八歳になった私が魔王に攫われ、それを助けてくれたカーネリアンが心を壊し、二年後には死んでしまう。そしてその後を私が追う……というもの。
「……」
心臓がバクバクと痛いくらいに鼓を打っていた。
気持ちを落ち著かせるように小さく息を吐く。
突然の出來事に驚きはしたものの、白晝夢を見たとか、気のせいとかは思わなかった。
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何故なら、記憶を思い出すと同時に、その時にじていた心の痛みも思い出してしまったから。
あんなに辛い出來事が、夢であるはずがない。
あれは現実に起こったことなのだ。
――じゃあ、だとしたら、これは何?
困し、己を見る。子供らしい小さな手に目がいった。
私は死んだはずなのに。だって毒を飲んだし、死にゆく覚だって得ていた。
カーネリアンのいない世界に未練などないと、世界に別れを告げ、彼の後を追ったはずなのに。
気づけば私は子供に戻っていて、目の前には同じく子供のカーネリアンが笑っている。
今の今まで、ふたりで楽しくお茶をしていたことも覚えているし、これまでの記憶だってちゃんと持っている。
十歳児としての記憶を保持した狀態で、二十歳時の記憶が蘇るとか、一、自分に何が起こっているのかさっぱり分からなかったが、ひとつだけ理解していることがあった。
それはカーネリアンが生きているということ。
今、私の目の前に座り、心配そうに私を見る彼は死んでいない。生きているのだ。
「……」
に込み上げるものがあった。
喜びのあまり、涙が溢れそうになってしまう。おかしいと思われると分かっていても、彼に泣いて取りすがりたくなった。
生きているカーネリアン。彼を目にできただけで、私には全部が全部どうでも良くなってくる。
どうして死んだはずの私たちが子供に戻っているのかとか、今のこれは死後に見ている夢なのかとか、そういう當たり前に気になるはずのことを全部全部放り投げた。
だって彼が生きている以上に大切なことなどないからだ。
カーネリアンが生きているのなら、ここがどんな世界でも構わない。そう言い切れるほどに私は彼をしている。
いや、それほどに彼をしていたのだと知ってしまった。
「カーネリアン……」
これが夢や幻ではないことを確認したくて、彼の名前を呼びかける。
カーネリアンは不思議そうな顔をしつつも返事をしてくれた。
「なあに、フローライト。ねえ、さっきから挙不審だけど……本當にどうしたの? もしかして合でも悪い? お茶は止めにして室に戻ろうか?」
心配してくれる彼は、記憶にあるままの姿だ。
私たちが出會った直後の、まだ子供のカーネリアン。その頃から彼はとても優しくて、私は親に決められた婚約者であるにも関わらず、カーネリアンのことが大好きで堪らなかった。
それは彼も同じ。
カーネリアンも私のことを初めて會った時からおしんでくれた。私たちは穏やかに、だけども確実にを深め合い、將來は結婚するのだと信じて疑っていなかったのに。
――このままだと、間違いなくカーネリアンは死んでしまう。
魔王に攫われた私を助けて、心を病んで、衰弱し、最後には亡くなってしまうのだ。
その未來を知っているからこそ、今、目の前にいる彼がおしく、同時に絶対に失いたくないという気持ちになった。
「……」
優しい彼を見つめながら、これからのことを考える。
結論はすぐに出た。
どうして死んだはずの私が今、ここに子供としているのかなんて分からない。先ほどし考えた通り、これは死後に見ている夢なのかもしれない。
だけど、間違いなくやり直しのチャンスでもあるのだ。
あの、どうしようもなく何もできなかった自分をやり直すことのできる機會。
夢でも良い。夢でも良いから、幸せな未來を摑めるのなら――。
「ねえ、カーネリアン」
心配そうに私を見ているカーネリアンの名前を呼ぶ。彼は優しく「ん?」と返事をしてくれた。
まだ子供だというのに、昔から彼は大人びたところがあり、私は彼のそういうところも好きだった。
その印象は、記憶を思い出した今も変わらない。十歳とは思えない大人びた表をする彼を見つめ、私は聞かなければならないことを聞いた。
「カーネリアンって戦うことが好きではないのよね?」
カーネリアンが自ら武を取り、戦うことを厭っていることは、すでに彼から直接聞いて知っていた。
あれは婚約してすぐのことだった。
仲良く庭の散歩をしている時、彼が寂しげな顔をして言ったのだ。
「……私はね、人を傷つけるのが嫌なんだ。王族として強くあらねばならない。そのことは分かっているけれども、自分の手で人を傷つけることがどうしても恐ろしく思えてしまう。こんな私を君は軽蔑する?」
と。
それを聞いた當時の私は「私も戦いは怖いし、優しいカーネリアンが好きだから」と思ったままを伝えた。
どの國もわりとその傾向はあるが、スターライト王國は特に強者を好む傾向にある。
そんな中での彼の発言はかなり勇気がいるものだったのだろう。
私にを打ち明けたカーネリアンはホッとしたような顔をして、私の手を握ってくれたのだけれど、私は手を握られたことが嬉しくて、それ以上突っ込んだ話を聞くことはできなかった。
そのまま彼は長し、優しい王子のまま、私のせいで最終的に剣を取ることになるのだけれど――いや、未來の話はいい。
私が聞きたいのは未來のことではなく、今の彼の考えなのだから。
じっとカーネリアンを見つめる。彼は怪訝な顔をしつつも私の問いかけに答えてくれた。
「またいきなりなんなの? いや、別に構わないけど。……うん。前にも言った通り、私は人を傷つける行為が好きじゃない。今も父上たちは私に剣や魔法で戦うための指南を付けようとしてくるけどね、どうしても嫌で、逃げ回っているんだ」
「……そう」
彼の言葉に相槌を返す。カーネリアンはやるせなさそうに息を吐いた。
「それでは駄目だと分かっているんだけどね。私は將來君の國に婿りするわけだし。國王となる私が、戦えない男では君の國の人たちにだって認めて貰えない。それは十分過ぎるほど分かってるんだけど……」
「カーネリアン……」
やはり、今、目の前にいる彼も、私の知っているカーネリアンと同じで戦いを厭っているようだ。
それを確認し、頷いていると、カーネリアンが辛そうに言った。
「……ねえ、フローライト。前にも言ったことを聞き返すってことは……君も私が男らしくない、戦えない臆病者だって思ったのかな。やっぱり弱い男に用はない? 婚約破棄したいって思っちゃった?」
「違うわ!」
考える前に言葉が出た。カーネリアンに辛い思いをさせるつもりなんてほどもなかったのだ。ただ、今の彼の考えを知りたかっただけでそれ以上の意味はない。
私は茶席から立ち上がると、彼に訴えた。
「そんなこと思うわけないじゃない。私は優しいあなたが好き。あなたと結婚したいって思ってる。私、あなたが戦いたくないのは、人を傷つけたくないからだと知ってるわ。あなたが繊細で傷つきやすい人だって分かっているし、私はそんなあなたを好ましく思っているの。臆病者なんて、一度だって思ったことない!」
叩きつけるように言う。
カーネリアンは心の優しい王子だ。
まだ子供ながらも、皆の心に寄り添ってくれる、懐の大きな人。
花をし、をし、全てが平和であるようにと本心から祈ることのできる、心の綺麗な得難い人だと知っている。
「フローライト……」
私が大きな聲で否定したことに驚いたのか、カーネリアンが目を丸くしている。
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