《ハッピーエンド以外は認めないっ!! ~死に戻り姫と最強王子は極甘溺ルートをご所です~》暴かれる

あまりの圧力に冷や汗が流れる。

私とカーネリアンの前に突如として現れたのは、當時、十八歳だった私を城から攫っていった男だった。

魔王ヘリオトロープ。

二メートルをこえる長とこちらを威圧するような逞しい軀。

ではなく真っ白で、歯は尖っている。頭からびている二本の角は長く捻れていた。全黒の、まるで高位貴族のような格好をした魔王は沢のある黒いマントを羽織り、堂々と、私たちの前に立っていた。

「っ……」

久しぶりに見た魔王の姿に、恐怖で全が震える。

強くなったと思っていたのに、まだまだだったのだと、その姿を見ただけで思い知らされた心地だった。

――勝てない。勝てる気がしない。

魔王を見れば分かる。どこにも勝てる道筋が見つからない。

どう攻撃しても次の瞬間には躱され、囚われる。その図しか思い浮かばないのだ。

死に戻ってきてから約八年。必死に努力してきたというのに、その努力を嘲笑われている心地だった。

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「……大丈夫? フローライト」

全くけない私を、カーネリアンがまるで守るように抱き寄せてくる。そのきにハッとした。

――駄目、何してるの、私!

恐怖に怖じ気づいている場合ではない。

私はカーネリアンを死なせないために今まで頑張ってきたのではなかったか。

それなのにこのたらくぶり。これまでの自分を否定するような行に、己を毆りつけたくなった。

必死に気合いをれ、彼に応えた。

「大丈夫よ。全然、大丈夫」

「そう? それならいいけど」

心配そうに私を見つめてくるカーネリアンのどこにも怯えのようなものは見あたらない。

だが、それを不審に思う余裕もなかった。

とにかく予想よりも早く現れた魔王をどうにかしなければと必死で、そんなところまで考えられなかったのだ。

「フローライト、こいつは……」

「……五百年前に封じられた魔王だと思うわ。文獻に書かれてあった特徴と一致するし」

「魔王ヘリオトロープか」

私の言葉で、カーネリアンは目の前に立つ異様な男が誰なのか理解したようだ。さっと表を引き締める。

逆に魔王は興味深そうな顔になった。

「ほう? この時代にも吾輩を知る者がいるか。それに吾輩の気に當てられても気絶せず、立っているとはな。見事」

にやりと笑う。尖った歯がギラリとり、背筋に表現しようのない怖気が走った。

彼に囚われていた時のことを嫌でも思い出す。

石造りの古城。そのどこかの一室に閉じ込められ、時が來るまで大人しくしていろと、部下の魔から食事だけを與えられた日々。

どうやら彼には目的があるようで、暴されたりはしなかったが、いつ殺されるかと毎日不安で、カーネリアンが助けに來てくれるまで泣き暮らしていたことを覚えている。

「お前たちも知っているようだが、改めて名乗ろう。吾輩は魔王ヘリオトロープ。つい先ほど、五百年の長きにわたる眠りから目覚めたところだ。――娘、お前を貰いけるぞ。お前の中に眠るその特殊すぎる魔力。それを吾輩の宿願を果たすために使うのだ」

「っ」

魔王が話すだけでビリビリと空気が震えるような気がする。それをを噛みしめて、耐えきった。

今は放課後。教師の誰かがこの狀況に気がついて助けに來てはくれないだろうか。

そう考え、すぐに駄目だと思い直した。

だって以前もこの男は、リリステリアの王城にひとり乗り込み、私を攫い、リリステリアの王立騎士団を笑いながら全滅させていったのだ。

そのことを思い出せば、教師が來てくれたところで助けになるはずもなく、むしろ犠牲者が増えるだけだと気がついてしまった。

――駄目、教師は呼べない。

となると、殘された手段はやはり私自らの手で、魔王から逃れる。これしかない。

正直、今の私で勝てる気は全くしないが、抵抗しないという選択肢はないのでやるしかなかった。

だって私が攫われたら、前回と同様にカーネリアンが助けに來る。

必要のなかった剣を取り、最強への道を突き進んでしまうのだ。

そうして、また同じように心を壊して死んでしまう。

――ああ、駄目、そんなの認められない。

二度もあの結末を見たくない。

そのためなら、絶的な戦いだろうと、立ち向かわなければならないのだ。

気持ちを必死にい立たせる。だが、まるで空気を読んでいないかのように、カーネリアンが口を開いた。

「――へえ、黙って聞いていれば、ずいぶんと面白いことを言うね。先ほどの彼以上の面白さだよ。で、一誰が、誰を貰いけに來たって? 聞き間違いでなければ、私のフローライトを貰いけるなんて聞こえたんだけど」

「カ、カーネリアン……」

まるで煽るような言い方にギョッとする。

彼の服を摑み、必死に言った。

「だ、黙ってて、カーネリアン。あれは魔王よ。怒らせては駄目。なんとか隙を窺って――」

「隙を窺ってどうするの。だってこいつは君を狙っているんだよ? 叩きのめさないと意味はないだろう」

「えっ……」

「下がってて、フローライト。大丈夫。今すぐあの大馬鹿者を片付けてあげるから」

「えっ、えっ、えっ……」

カーネリアンが私のを押し、自らの背中に庇う。

白い制服が風に揺れていた。

彼は今も吐きそうになるほどの重圧を向けてくる魔王に平然と向き合っているどころか、薄く笑みを浮かべている。

――なんで? どうして?

訳が分からない。どうしてカーネリアンは平気でいられるのか。

彼は戦えない人で、魔王と対峙なんてできるはずがないのに――。

――って、今はそんな場合じゃない! カーネリアンを止めないと。

我に返る。私は恐怖に怖じ気づきそうになる己の心を無理やりい立たせ、慌ててカーネリアンの腕を引いた。

「待って、待って、カーネリアン。駄目よ、駄目。あなたに戦わせられない。それは私の役目だから」

「フローライト」

「カーネリアンは戦っちゃ駄目。駄目なの。私、あなたの心が傷つくところを見たくない。だから――」

必死に告げる。カーネリアンが私の頬に手を當てた。その手が優しく頬をでていく。

まるで宥めるような手つきだ。

彼は優しく微笑み、口を開いた。

「もう、良いんだよ」

「えっ……」

――何が?

彼が何を言っているのか、分からない。

呆然とカーネリアンを見つめる。彼は優しく微笑んでいた。

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