《ハッピーエンド以外は認めないっ!! ~死に戻り姫と最強王子は極甘溺ルートをご所です~》2
「もう、良いんだ。守ってくれなくて。君があの時、私の心を守ってくれようと立ち上がってくれたから、私は今ここにいる。今の私は、剣を振るうことに怯え、怖がるだけの子供じゃない。君を――する人を守る為に戦いたいと思っているひとりの男だよ」
「っ……」
熱い眼差しに貫かれ、聲が出ない。
々言いたいことがあるのに、に詰まって何も言えないのだ。
ただ、どうしようもなく込み上げてくるものがあって、それが涙となり、瞳に溜まっていく。
溜まった涙をカーネリアンが困ったように指で掬い取る。
「……泣かないでよ。君を泣かせたくなんてないんだ。ね、フローライト。お願いだよ。私を信じて。君をする男の言葉を信じてくれないかな」
「……」
何も言えないまま、頷いた。
どうして私ではなくカーネリアンが魔王と戦う展開になっているのかさっぱり分からない。
私が、戦わなければならないはずだ。
私が、カーネリアンを守らなければならないはずなのに。
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だけど、なぜだか今の彼の言葉を否定してはいけないような気がしたから、首を縦に振ることしかできなかったのだ。
「カー……ネリアン」
「大丈夫。大丈夫だからね。君は何も心配しなくていいから」
キッパリと告げる。
カーネリアンは改めて魔王と向き合った。魔王は面白そうな顔で、私たちを見ている。
「なんだ。もう良いのか」
「待たせたね。でも、大丈夫だ。すぐに決著は付くから」
「そうだな。吾輩がお前を殺し――!?」
魔王の言葉は最後まで紡がれることはなかった。目の前にいたカーネリアンの姿がかき消えたからだ。次の瞬間には、彼はいつの間に握っていた細いレイピアで、魔王のを切り裂いていた。
「えっ……」
何かの間違いかと思った。
だって、全くカーネリアンのきが見えなかったのだ。
これでも私は自分が強いという自負がある。同じ魔科の生徒には私より強い者はいないし、上級生にも教師にだって勝てる。
魔科で一番強いのは誰かと言われれば、間違いなく私だと自信を持って言えるのだ。
その私が、今のカーネリアンのきを全く追うことができなかった。
――え、何、今の。
現実とも思えない景が目の前では広がっている。
カーネリアンが目にも留まらぬ早さで細いレイピアをっている。魔王も対抗しているが、相手になっていない。
まるで大人と子供ほどの技量の差がそこにはあった。
「……」
魔王の恐ろしい重圧は消えてなんていない。今見ても、彼に勝てるとは到底思えない。
それなのに目の前に広がっている景は、その魔王をカーネリアンが笑いながら追い詰めているというもので。
「なんだ。魔王なんていうからどれほどのものかと思ったけど、大したことないね」
「くそっ、この……化けめ!」
「化けって……魔王に言われる筋合いはないけど」
らかな言葉とは裏腹に、その剣筋は鋭く正確で容赦なかった。繰り出される攻撃を魔王は必死に凌いでいたが、表には紛れもなく焦りが滲んでいる。
対するカーネリアンは余裕だ。ひょいひょいと剣を振るっているだけなのに、その早さは人が繰り出したものとも思えないし、確実に魔王を追い込んでいる。
「くそっ!」
魔王が魔力の弾丸を放つ。凄まじい威力のそれを、カーネリアンは小さな蟲でも払いのけるかのように、片手で打ち消した。
「……噓、でしょ」
驚愕のあまり目を見開く。
前回、リリステリアの王城に魔王が來た時のことを思い出す。私を攫って行く魔王に、騎士団の皆が対抗してくれたが、相手にすらならなかった。
魔王の手のひらから軽く打ち出された魔法で半數が倒れ、もう半數も呆気なくやられた。
魔王にはどうやっても勝てないのだというあの絶を、今も私は覚えている。
だから魔王に攫われたあと、カーネリアンが來てくれた時、嬉しかったのと同時に、どうやってあの魔王を倒したのだろうとずっと不思議だったのだけれど。
あれだけ強かった魔王をカーネリアンは倒したと言った。だけど私の目に映るカーネリアンは今までと何も変わっていなくて、どこか別の世界の言葉を聞いたような気持ちになっていた。
彼が魔王を倒したというのは本當なのだろう。だけどこの細腕でどうやって。
その疑問が、今になって解消された心地だった。
――強い。
強いという言葉がチープにじるほどカーネリアンは強かった。
あのどうしようも遠く思えていたはずの魔王が手も足も出ない。打ち出す魔法全てをかき消され、大剣で攻撃すれば軽くいなされ、まるで大人と子供の喧嘩かと思うほどの実力差を見せつけられている。
どう考えたって、あり得ない景だ。魔王が軽くあしらわれているなんて。
だが、目の前に繰り広げられているのは、そのあり得ない景で。
「――うん。そろそろおしまいにしようか」
魔王からし距離を取ったカーネリアンが、ゆっくりとレイピアを構える。
慌てて魔王も己の武を構えたが、その行は無意味だった。
何故なら彼にはカーネリアンのきが全く見えていないから。の如き速度でカーネリアンが魔王に向かっていく。
私にも見えなかったが、その剣は確実に魔王の心臓を捕らえていたようだ。
「がはっ……!」
気づいた時にはカーネリアンの持つレイピアが魔王の心臓を貫いていた。
魔王が黒いを口から吐き出す。
カーネリアンがレイピアを引き抜くと、からも大量のが噴き出した。
「がっ……あっ……あっ……」
魔王がよろけながら地面に膝をつく。大剣を放り出し、何度もを吐き出した。すでにそのからは脅威をじない。今の私でも倒せる程度の力しか殘っていないようだ。
「――これで、終わりかな」
カーネリアンがレイピアを振り、刃についたを払う。
白い制服を著た彼に、細のレイピアはよく似合っており、こんな時だというのに格好良いなと思ってしまった。
レイピアが消える。
どうやら彼の武も私の氷弓と同じで、自己の魔力で生するタイプのもののようだ。
「フローライト!」
カーネリアンが振り向き、私の方へと駆けてくる。そうしてその場で立ち盡くすことしかできない私を抱きしめた。
「大丈夫? 怖くなかった? もう魔王は倒したからね」
すりすりと頬をりつけてくるいつもと全く同じ調子の彼に、どうしようもなく戸ってしまう。
「えっ、あの……カーネリアン……」
「何? もう、私のフローライトを狙おうだなんて言語道斷だよね」
ギュウギュウに抱きしめられる。その力の強さに、ようやくまともな思考回路が戻ってきた私は慌てて彼の腕から抜け出した。今度は逆に、彼の肩を思いきり両手で揺さぶる。
「ち、ちが、そうじゃないくて! カーネリアン!! 大丈夫なの!?」
「? 大丈夫って? ……うーん、怪我はしてないけど」
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