《げられた奴隷、敵地の天使なお嬢様に拾われる ~奴隷として命令に従っていただけなのに、知らないうちに最強の魔師になっていたようです~【書籍化決定】》―01― プロローグ
「アメツ、すごいわね。もう魔を覚えたの。將來、あなたはきっとすごい魔師になるわね!」
い頃、魔導書を読んで母親の前で魔を実踐した。
水を出すという簡単な魔だったけど、お母さんが心の底から褒めてくれた。
僕が母親に関して覚えている記憶はたったこれだけ。
他にも母親とたくさんの時間を過ごしたはずなんだろうが、いつの間にか忘れてしまった。
この記憶があるおかげだろう。
魔だけは嫌いになれなかった。
「アメツ、また命令が聞けなかったのか」
その言葉を聞くだけで、恐怖が心の底から湧いてくる。
「も、申し訳ありません、ご主人様……っ。どうか、どうか、お許しをっ」
歯がカチカチと震えているせいで、うまく言葉を紡ぐことが出來ない。
「駄目だ。お前には罰を與える」
あぁ、まただ。
また、痛いのがくるのか。
「――契約に基づき命ずる。この者に激痛を」
ご主人様がそう言った瞬間だった。
のうちから言葉で言い表せないような激痛が発生した。
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「あがぁあああああああああああああっっっ!!!」
たまらず悲鳴をあげる。
痛いっ。
痛い、痛い、痛い……っ!!
あまりの痛さに爪を立てて、毟るように全をひっかくが、痛みがとまらない。
結局、僕はその場でのたうちまわっていた。
「ふはっはっはっ! いい気味だ! 俺の命令を聞けなかった罰だ。肝に銘じろ!」
ご主人様の笑い聲が聞こえる。
「ゆ、許してください……っ。ご主人様……っ」
「駄目だ。反省するまで激痛だ」
それからの記憶は曖昧だ。
ひたすら苦痛の時間が続いたのは確かだ。
六歳のとき。
住んでいた村が戦爭によって侵略された。
家には火がつけられ、悲鳴があちこちから聞こえる。
そのときに、両親は殺された。
僕だけは運よく生き殘った。
そして、僕は戦爭孤児となり奴隷として売買され、今のご主人様に買われた。
クラビル伯爵家の主人、ガディバ・クラビル。
それが、僕のご主人様の名前だ。
僕は屋敷にいる間は地下にある座敷牢の中にいれられて過ごすことになった。食事は、一日一回。パンと水だけだ。
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奴隷は主人に逆らうことができない。
なぜなら、奴隷は契約魔によって縛られているから。
命令を無視すれば、即座に契約魔によって激痛を與えられる。
ご主人様はいつも無理難題のような命令を與える。
「3日後の朝までに、ここに書かれている魔導書を一字一句全部覚えろ」
一番最初に出されたお題はこんなのだった覚えがする。
必死に頭に叩き込んで、覚えようとした。
けれど、完璧に覚えるのは難しかった。
結局、激痛を與えられた。
そうやって、ご主人様は僕にあらゆる魔導書を頭の中に叩き込んだ。
どうやらご主人様は僕を魔師にしたがっているらしい。
「一週間後までに、全系統の第一位階の魔をれるようになれ」
ある日、初めて実踐的なお題を出された。
あらゆる魔導書を頭の中に叩き込まされた。だから、頭の中にある理論通りに実踐すれば決して不可能ではないはず。
魔の系統は全部で8種類存在する。
まず、大きく分けると自然魔、神聖魔、古代魔の三つ。
さらに自然魔の中に、火、風、水、土の四つの系統。
神聖魔の中には、治癒、結界、契約の三つの系統。
古代魔は強化の一つのみ。
これら、全てを數えると8種類になるというわけだ。
そして、第一位階というのは、それぞれの系統の魔の中で最も易しい難易度の魔のこと。
難易度があがるにつれて、第二位階、第三位階と數字があがっていく。
僕は必死な思いで、全部で8つある第一位階の魔を覚えようとした。
「できた……っ!」
一週間で、僕は全系統の第一位階の魔をものにした。
初めて、ご主人様の言いつけを守ることができた……!
そのことに対する純粋なうれしさとあの激痛を味わわないで済むという安堵の気持ちが芽生えた。
「ご主人様、見てください……! できました!」
そう言って僕はご主人様に覚えた魔を披した。
このとき、僕は期待していたのかもしれない。初めて、命令を達したのだ。
これで、ご主人様は僕のことをしは認めてくれるんじゃないだろうか?
「そうか、つまらんな」
「……え?」
ただ、それだけだった。
ご主人様は冷たくそう言い放つと、部屋から出て行った。
僕に激痛を與える理由を失ったことを殘念がっているようにしかみえなかった。
激痛を與えられなかった代わりに、僕は大事ななにかを失った気がした。
「アメツ、一週間後までに、全系統の第二位階の魔を覚えろ」
翌日、ご主人様はまた新しい命令をくだした。
第一位階を覚えたら、次は第二位階の魔を覚えさせられるであろうことは予想できた。
だから、僕は必死に練習した。
結果――僕は第二位階の魔を覚えることができなかった。
というのも僕には圧倒的に魔力容量が足りなかった。
魔力容量とは、その人が潛在的に保有している魔力の量のことである。
もう一つ大事なのが、その人が一度にどれだけの魔力を使えるか言い表す瞬間魔力量。
瞬間魔力量が多いほど、強力な魔を使えるようになるわけだが、瞬間魔力量はその人の魔力容量に比例するように増えていく。
つまり、魔力容量がない僕は瞬間魔力量もないというわけだ。
魔師の実力はその人の魔力容量に依存する。
魔力容量がない僕では、第二位階の魔を扱うことができなかった。
たくさんの魔導書を読んできたからだろう、それが揺るぎない事実だとどうしてもわかってしまう。
「も、申し訳ありません……っ、ご主人様!」
一週間後、命令通り覚えることができなかった僕はご主人様に土下座していた。
また激痛を與えられるんだとわかると、全が恐怖でガタガタと震えてしまう。
「なんだ、期待外れだったな」
ご主人様は冷たい視線で、そう言葉を吐くと、いつもにのように、
「この者に激痛を與えろ」
契約魔を使って、僕に激痛を與えた。
「うがぁああああああああああああ!!」
たまらず僕はうめき聲をあげる。
「ふっはっはっはっ、愉快だな。お前がそうやって、苦しんでいる姿を見るのが一番楽しいぞ!!」
ご主人様の笑い聲が聞こえる。
けれど、痛みでそれどころじゃなかった。
この日、いつもより、長い時間、激痛を與えられた。
それからの記憶はどうにも曖昧だ。
ご主人様の命令をなんとしてでも完遂しなくていけない。
激痛による恐怖が、僕の思考をそう染めていたのは事実だった。
「おい、アメツ。今日の夜明けまでに、人狼(ウェアウルフ)を狩ってこい」
魔が使えるようになると、ご主人様は僕に対して魔を狩るよう命じるようになった。
まず、人狼(ウェアウルフ)が生息している山にいくまで馬車を使って3日もかかる。
だというのに、夜明けまでに狩って戻る必要があった。
「もし、できなかったらいつもの激痛だ」
激痛は嫌だ。
だから死ぬ思いで、人狼(ウェアウルフ)のいる山まで行って討伐しては屋敷に戻った。
けれど、著いたときにはすでに夜明けをとっくに過ぎて朝になっていた。
「なんだ、約束の時間までに戻ることができなかったのか。なら激痛だな」
そして、激痛を與えられた。
それから、あらゆる魔を狩るように命令された。
失敗すれば、激痛。
「人喰鬼(オーク)を討伐して、明日の朝まで屋敷まで戻ってこい」
ご主人様は毎回、僕がギリギリ達できない命令をくだす。
明日の晝までなら、まだ間に合うかもしれない。けれど、明日の朝まで戻るのはどうしたって無理だ。
結局、その日も戻ってこれたのは翌日の晝過ぎだった。
そして、激痛を與えられた。
そんな生活が六年近く続いた。
毎日毎日、ご主人様の激痛に怯えながら命令をこなすことばかりを考えていた。
「アメツ、新しい命令だ」
「はい」
今日も今日とて、新しい命令を出される。
「隣國のこの貴族を殺してこい」
そう言って、特徴が書かれたメモ用紙を僕に手渡す。
「リグルット侯爵家の第一長。ティルミ・リグルット。こいつは將來、我がクラビル家の脅威になる可能がある。だから、そうなる前にこいつを暗殺してこい」
「暗殺ですか……」
今まで魔を討伐する命令は多かったが、人を殺す命令を出されたのは初めてだ。
「できるよな?」
「はい」
「できません」なんて言えるわけがないのに、なんでそんなことをわざわざ聞くんだろう。
そんなことを僕は思った。
◆
それから僕は屋敷を靜かにでた。
ある人を暗殺するために。
このときの僕は知らなかった。
この暗殺を契機に、僕の人生が大きく変わることを。
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